クレッセントノア、アルカディア、ガンブレイク、ウォーレティス――――2つの水属性のレジェンドアームと2つの武器のレジェンドアーム。
 これらの武器と魔法が火龍に攻撃をかける中でカインはただ一人、レジェンドアームとは異なる1本の鋼の剣を持って火龍の懐へと飛び込む。

「おおおぉぉぉぉっっっっ!!!!!」

 カインが狙うのはアルカディアが傷付けた胸元のみ。
 大きく削がれた胸元の傷から見えるのは火龍の心臓とも呼ぶべき器官。
 そこに向かってカインは躊躇いなく、剣を突き立て――――自分の持つ闘気を注ぎ込んだ。



















龍殺光記レジェンドアーム
















 ――――グァォォォォォォォォォォォォッッッ!

 カインの闘気を心蔵にあたる部分に直接流し込まれ、火龍が大きく呻く。
 如何に龍の化身とはいえども、直に急所へと攻撃を受ければ唯ではすまない。
 カインが流し込む闘気は龍の闘気を上書きするかのようにじわじわと内部を侵食していく。

「くっ……おおおぉぉぉぉっっっっ!!!!!」

 だが、一瞬でも気を緩めれば逆に此方の方が侵食されてしまう。
 カインは時折、身体を駆け抜ける激痛と闘気の流れを感じながらも踏ん張り続ける。
 ここで闘気のせめぎ合いに負けてしまえば、火龍を追い詰めた意味がなくなってしまうからだ。
 レジェンドアームで力を削ぎ落とし、心臓を破壊する事で火龍を打倒するというカインの立てた筋書きは最後の段階を迎えている。
 もし、闘気で心臓を破壊出来なければ、火龍は闘気を全身に行き渡らせる事で傷を修復してしまう。
 闘気の流れを完全に止めるためには身体の核である心臓を潰すしか手段はない。

「あぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」

 カインは火龍から溢れる火の闘気に構わず、闘気を流し続ける。
 本来ならば人間であるカインと神話の龍の化身である火龍には絶対的な力の差がある。
 ましてや、レジェンドアームを持っておらず、選ばれた存在ではないカインには力の差を縮める手段はない。
 カインの持つ、無銘の業物である鋼の剣ではどうあがいても龍という存在に対しては力不足なのだ。

(負ける……かよっっっっ!)

 レジェンドアームを使わずに龍に挑むという行為が無謀である事はカイン本人が一番良く理解している。
 だが、退くという選択肢はない。
 この場にいるレジェンドアームを持つ人間で火龍の持つ力と同質である闘気を使えるのはカインだけなのだ。
 銃では決定的なダメージは通らないし、斧でも身体の中にまでは届かず、魔法に至っては龍の持つ耐魔力により軽減される。
 レジェンドアームであるガンブレイク、ウォーレティス、クレッセントノア、アルカディアの何れも僅かに力を殺がれているのだ。
 本来ならば僅かに力が削がれたとしても大した影響がないはずだが、龍の化身という超常的な存在相手ではそれは大きく響いてくる。
 僅かに殺がれた分の力が影響し、どれだけ足掻いても火龍の心臓にまで直接レジェンドアームの力が届かないのだ。
 それに龍の弱点を的確に突ける人間もこの場ではカインしかいない。
 闘気に対して、闘気で侵食するという強引な手段を使えるのもカインだけだ。
 だからこそ、カインはこの場で一番力が劣るのにも関わらず、懐に飛び込み、止めの役を担当したのであった。
















「カインさんっ……!」

 クレッセントノアの力を解放し終え、目の前の光景を見たフィーナが悲痛の表情で声をあげる。
 気付かないうちにカインは火龍の懐へと潜り込み、剣を突き立てていた。
 しかも、自らの闘気を火龍へ直接流し込むという荒業ともいうべき事を行なっているのだ。
 距離は遠くに離れているはずなのに時折、聞こえてくるカインの苦悶の声が危険な行為である事を象徴している。

「しっかりと見届けてやんな、嬢ちゃん。カインは無茶を承知で止めの役を請け負ったんだ」

「……カイン君は自分でなければ最後の詰めが届かない事を知っていた。私達に出来る事は彼を信じる事だけだ」

「コウイチさん、ウォーティス……」

 ガンブレイクとウォーレティスによる攻撃を終え、フィーナの傍まで戻ってきた晃一とウォーティスの言葉にフィーナは俯く。
 2人の言いたい事は良く解る。
 ディオンのアルカディアを含め、レジェンドアームの全てを火龍に叩き込んだ今、もう出来る事は何もない。
 後は一人だけ特異な術を持っているカインだけしか、龍にはダメージを与えられない。

「ですが、カインさんはレジェンドアームの使い手ではないんですよ……? 龍の化身に一人で立ち向かうのは……」

「無謀だってんだろ? それくらいは俺達だって解ってる。けどな、この場にあるレジェンドアームの全てを以ってしても奴は倒れなかった。
 もう、俺のガンブレイクも弾のストックがねぇからガンブレイカーを撃てねぇし、ウォーレティスの魔法は龍に対しては効果が薄い。
 それに嬢ちゃんの魔力もからっぽだ。もう、俺達に奴を討つ術は残っちゃいねぇよ。後は他の術を持ってるカインに任せるしかねぇ」

「コウイチ君の言う通りだ。見たところ、ディオン王子も一撃に全てを懸けて攻撃している。最早、レジェンドアームの使い手で戦える者はいない」

「そんな……」

 何事にも変えられない事実を突きつけられ、フィーナは愕然とする。
 レジェンドアームの使い手が4人もこの場にいながら、全員が火龍にはその力を振るう事が出来ない。
 しかも、4つのレジェンドアームの全てを以ってしても火龍は未だに健在だ。
 それも水属性で最高位に位置するクレッセントノアをぶつけたにも関わらずに。
 流石に神話の時代における龍の化身と言われるだけはあるのだろう。
 複数のレジェンドアームを以ってしても倒すには至らなかった。
 龍に対して相性が悪いレジェンドアームしかなかったとはいえ、これでは本当にカインに任せるしか手がない。
 フィーナは悲痛な想いでカインと火龍の戦いを見つめる事しか出来なかった。
















 レジェンドアームの使い手達が力を出し尽くした最中でカインと火龍の闘気による戦いは続けられる。
 カインの放つ闘気と火龍の発する闘気が混ざり合い、互いに侵食し合う光景はある意味で幻想的でもあった。
 だが、レジェンドアームを持たない身であるカインが劣勢なのは見るよりも明らかだ。
 神話の存在である龍の化身である火龍を一個人で打ち倒そうなどとは無理な話である。
 だが、カインは4つのレジェンドアームの力が火龍に大きなダメージを与えられる事を踏まえて挑んでいる。
 無策のようで、決して無策ではない。
 その上で龍を確実に殺す事が出来る唯一の部位である心臓部に持てる力の全てを懸けて一撃を叩き込んでいるのだ。
 迷いなく懐に飛び込み、龍の急所に剣を突き立てるという一連の動きはまるで、本当に龍と戦った事があるかのようである。
 レジェンドアームの使い手の誰もが知り得ない龍の弱点を知り、迷いなくその一点だけを突くという戦い方は不可能だ。
 魔法を使えず、闘気によって属性の力を振るう事といい、カインは何処までも異端的であるともいえるだろう。
 だからこそ、龍に対して止めという役割を任されたのかもしれない。
 あくまで自分自身の持つ力だけで神話の存在の化身に挑むその姿は正に異端そのもの。
 レジェンドアームに選ばれず、魔力もないカインは自らの闘気と一本の無銘の鋼の剣のみで火龍に挑む。
 その姿は無謀と見えるか、はたまた勇気あるものと見えるか。
 何れにせよ、カインはレジェンドアームの使い手ですら届かなかった龍の心臓部にまで剣を届かせる事に成功した。
 そして、今は火龍の闘気を侵食せんと自らの闘気をぶつけている。
 レジェンドアームの力を得ていない身であるカインは劣勢である事をものともせずに侵食せんと火龍の心臓部に闘気を注ぎ込む。
 自分の持っている唯一つの武器である闘気――――それ以外に龍に挑む武器はない。
 だが、神の力を受け継いだとされる崩界のレジェンドアームに頼らずに挑むその姿は一人の人間というには余りにも強大な存在に見える。
 一人で最後の戦いを挑むカインに応えるかのように――――





 ――――ウィルヴェントよ





 カインの頭の中に人ならざる者の声が響き渡った。






























 From FIN  2012/5/26



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