「そうか……この場にいる全員の中で龍に最も詳しい君が言うんだから間違いはないだろうね。だったら、僕も気張るとしようか」

 カインの考えは道理に叶っていると判断したディオンは頷く。
 4つのレジェンドアーム全ての力を結集すれば龍に対抗出来ない道理はない。
 クレッセントノアを始めとしたレジェンドアームが如何に神話の時代の3つの武器に劣るとはいってもだ。
 B級以上のレジェンドアームの持つ力は人間が持つには大き過ぎるほどの力を持っている。
 相手が龍の化身である以上はカインの言葉通りだろう。

「……頼む。僕もディオンに合わせて斬り込むから。必ず、龍を――――」

「うん、やろう。僕達で必ず龍を倒すんだ――――!」

 だから、ディオンはカインに応じる。
 付き合いは決して長くはないが、深い付き合いをしてきた友人の言葉は信じるに値する。
 カインは決して嘘をつくような人間ではないからだ。
 友人として、同志として――――火龍と戦う。
 それが、カイン=ウィルヴェントとディオン=アルカディアの共通の意思であった。


















龍殺光記レジェンドアーム
















「カイン!」

「ああっ!」

 カインとディオンは開口一番に同じタイミングで駆け出す。
 晃一とウォーティスとは違い、接近しなくては武器が届かない2人にはこの手しかない。
 剣と斧――――どちらも相手に接近してこそ初めて真価を発揮する。
 自らの得物を理解している2人は火龍の正面を迷わずに進んでいく。

「いくぜ、ウォーティス!」

「解った、コウイチ君」

 カインとディオンが切り込んで行くのに合わせて晃一とウォーティスも動き始める。
 2人が近接戦闘に挑むのであれば此方は射撃や援護に徹する。
 それが晃一とウォーティスの共通の意思だ。
 尤も、接近戦を前提とした武器である剣と斧の使い手であるカインとディオンがいる時点で遠距離戦を中心とする選択肢しかないのだが。

「ガンブレイク装弾!」

「ウォーレティス……!」

 カイン達が龍へと間合いを詰める間に2人はレジェンドアームに命じる。
 援護に適する、銃弾と魔法を使うために。

「ショットシェル……連発でいく!」

「レイ! ソング……!」

 龍へと向かっていくカインとディオンの動きに合わせ、晃一とウォーティスが互いのレジェンドアームの力を解放する。
 晃一がショットシェルを弾幕とし、ウォーティスが動きを妨害させるための魔法で足止めを行う。
 あくまで牽制としての攻撃ではあるが、レジェンドアームによる攻撃であるため、その威力は飛竜ですら葬るほどだ。

 ――――グォォォン!

 ショットシェルの銃弾が命中する度に火龍は短く呻き、動きを止める。
 また、ウォーティスが唱えたレイ・ソングという魔法は水属性のエネルギーを振動波として対象の動きを止めつつ、ダメージを与える魔法。
 本来は人間や魔物を対象として使用する魔法だが、レジェンドアームであるウォーレティスを媒介とすれば、その効果は図りきれないものとなる。
 火龍ならば属性の関係もあって水属性の魔法であるレイ・ソングの効果はある程度であるが期待出来る。
 晃一とウォーティスは互いに足止めという役割に適した方法でカインとディオンを援護する。
 2人が龍に対して、接近する僅かな時間を稼ぐために。
 そして、フィーナがクレッセントノアの詠唱を完了させるまでの時間を稼ぐために。
 2つのレジェンドアームは火龍に対してその力を振るい続ける。
















「ディオン! 接近したら龍の胸元を狙ってくれ!」

 晃一とウォーティスの援護を受けつつ、火龍に接近するカインとディオン。
 接近していくに従ってカインはディオンに狙うべき箇所を告げる。
 カインが指示をするのは龍の急所とも言うべき心臓の部分。
 神話の存在の化身である火龍が最も多くの力を蓄えている箇所。
 それを正確に理解しているカインは迷わずにそこを狙うべきだと言う。

「解った!」

 カインの言葉に疑いもなくディオンは頷く。
 友人の指示は的確だと確信出来るからだ。
 この場にいる誰よりも龍の事に精通し、龍と戦うための立ち回りを極めている――――。
 幼い頃よりそのように鍛えられたカインはアルカディアに滞在していた時も龍との戦いを踏まえた修行を行なっていた。
 ディオンも時折、その修行を見学させて貰った事があるため、カインの龍に対する知識の多さは良く知っている。
 それに龍に対する立ち回り方も。

「晃一とウォーティスさんのレジェンドアームがダメージを蓄積させている今なら、隙は充分にある。

 黄金戦斧アルカディアなら龍の堅い鱗も斬り裂けるはずだ。後は僕がディオンの斬った箇所に剣を突き刺し、闘気を流し込む。

 僕の持つ闘気は元々、神話の存在と戦うための術として存在するものだ。だから、心臓部に直接流し込めば――――」

「龍にも大きな効果が期待出来るって事だね」

「……ああ。それにもうすぐ、フィーナのクレッセントノアが完成する。僕の闘気とフィーナのレジェンドアーム……これで止めを刺すしかないと思う」

「解った、全部君の言う通りにする」

 カインの意見は間違いなく、活路を見い出せる一手。
 レジェンドアームと龍に対しても効果を発揮する闘気による攻撃。
 通常の武器では歯が立たない相手に対して、現状で可能な攻撃方法はこれだけだ。
 しかし、相手が龍である以上は完全に討つ事が出来るかまでは解らない。

「すまない、無理をさせてしまうな」

 ディオンが頭の隅で考えている事を読み取ったのか、カインが謝罪する。
 カインも確実に討てるかまでは流石に自信を持てない。
 戦う方法はあっても火龍の力の全容がどれほどのものであるかまでは完全に見極められたとは思わないからだ。

「いや、気にしなくて良いよ。多分、君の言う通り以外の戦い方じゃ僕達に有効な手段は取れそうもない。

 それに龍との戦い方を知っている、君が言うんだから、僕はそれを信じるだけさ。後は全力を尽くすのみだ」

「……有り難う」

 自分を信じてくれるディオンには頭が上がらない。
 確実に討てるかの保証もないのに力を尽くしてくれると言うのだ。
 火龍に対して挑むのは正に命を賭けた対価。
 それに付き合わせてしまう事が申し訳なく思う。
 だが、ディオンの目は迷う事なく、カインを信じると言っている。
 友人が見込んでくれているのだ。
 ならば、カインに出来る事はその期待に応えるだけである。
 御互いに信じ合う事を再確認し、闘気による身体能力強化と魔法による身体能力強化を施した2人は更に加速していく。
 龍に肉薄するまで後、僅か。
 もう、後戻りは出来ないところにまで来ているのだから――――。
















(ディオン様……)

 クレッセントノアの準備を進めていく最中で、フィーナは最も会いたかった人間の気配を感じる。
 将来の夫となる人間で、フィーナがこの世界の誰よりも愛する人――――ディオン=アルカディア。
 死地である火龍との戦場に躊躇う事なく来てくれた事を心の底から感謝する。

(申し訳ありませんが、少しだけ待ってて下さい……私はまだ、貴方の顔を見るわけにはいきませんから)

 ディオンの姿がいる事を確かめつつフィーナは更に準備を進めていく。
 カイン達が火龍と戦っている間に周囲の属性の法則を全て書き換えるために。

(後、少し……。ウォーティスのレイ・ソングによる水属性の力が詠唱の手助けをしてくれている……)

 目を閉じて魔法の準備に専念していても水属性の力の流れであれば手に取るように解る。
 フィーナはウォーティスが水属性の魔法であるレイ・ソングを使った事を察し、その時に発生した水属性の力もクレッセントノアに取り込む。
 戦いの場の属性の力を書き換えるには他者の使う魔法の属性の力も自分の力にする方が効率が良い。

「流れる水の名の下に……クレセントの血を受け継ぐ水の巫女、フィーナ=クレセントがレジェンドアームに命ず――――!」

 自分の書き換えた水属性の力とウォーティスの水属性の力を合わせてフィーナはクレッセントノアを発動させるための準備の仕上げを行う。
 魔法を発動させるためのキーとなるワードを唱えるために。
 レジェンドアームであるクレッセントノアは自然四属性の魔法でありながら、上位の神素四属性の魔法に匹敵する力を秘めるほどの強大な魔法。
 多くの水の属性の力が要求されるため、火の属性が力を増す場所であるローエン山脈の法則を書き換えなくては準備を終わらせる事は出来なかった。
 だが、長い時間を準備に費やした甲斐もあり、魔法を唱える条件の全てが整う。
 崩界に存在する全ての水の魔法の中で最上位に位置する唯一無二の極大魔法の準備が。
 後はその魔法の名を唱えるだけだ。















「クレッセントノア――――!」















 フィーナの呼びかけに応え、遂に水の属性の極大魔法であるクレッセントノアが解き放たれた――――。






























 From FIN  2012/3/24



 前へ  次へ  戻る