(ですが……私だって水の属性の祝福を得た巫女です。このくらいで完全に飲まれたりはしません――――!)

 だが、フィーナは諦めない。
 龍によって場が支配されていても。
 如何にこの場所が自分の身を拒絶しているのだとしても。
 レジェンドアームを使うのに必要なのは折れない心の強さだ。
 フィーナは更に意識を集中させる。
 龍に対し、決定打に成り得るであろう唯一の魔法。
 水のレジェンドアーム、クレッセントノアを使えるのはフィーナだけなのだ。
 そのためにこの場の自然四属性の法則を書き換え、水のレジェンドアームを発動させる。
 とにかく、”魔力を集める事だけ”に集中しなくてはならない。
 だからフィーナは気付かなかった。
 火の属性で支配しているはずの場が揺らぎ始めている事に気付いた龍が狙いをフィーナに絞っていた事は――――。


















龍殺光記レジェンドアーム
















「不味いっ……!」

 交戦中に明らかに龍の動きが変わった事に気付いたウォーティスが声を張り上げる。

「コウイチ君、龍がフィーナに気付いた!」

「ああっ!」

 ウォーティスの言葉に晃一も頷く。
 距離を取ってガンブレイクで牽制しつつ立ち回っていた晃一には龍の狙いがウォーティス以上に良く解る。
 接近戦で戦っているウォーティスと違って龍の様子を広く見渡せるからだ。

(ちっ……流石にあんなでけぇ魔法じゃ、こっちがどんなに牽制してもバレちまうか)

 龍は本能的に脅威と成り得る存在がフィーナである事を感じ取ったのだろう。
 水は火龍に対し、優位となる属性。
 しかも、今からフィーナが使おうとしている魔法は周囲の自然法則を塗り替えてしまうほど強大なもの。Mbr<  ローエン山脈……いや、アルカディアを中心とした火の属性の力の全てに影響力を持つ火龍からすればそれは根底を覆されるのと同じ事だ。
 何しろ、火の属性の満ちる場所を水の属性の満ちる場所へと上書きされてしまうのだから。

『グオォォォォォッッッッ!!!!!』

 火龍が激昂する。
 水の極大魔法の発動を妨害するため、吐息<ブレス>の準備をしているのだ。
 龍の吐く吐息は対魔力の特性を持っており、レジェンドアームを除く如何な防御手段であっても完全に防ぐ事は敵わず容易く貫通する。
 フィーナは水のレジェンドアームの使い手であり、水の属性に守られているが現在は防御に魔力を使う余裕がない。
 それでも、多少の魔法や攻撃ではびくともしないはずだが――――龍の吐息となれば話は別だ。
 神話の存在である龍の吐息はレジェンドアームの力に匹敵するのだから。

「ウォーティス、こっちもでけぇのをぶっ放す! 少し、射線上から離れてくれ!」

「了解した!」

 火龍の動きを止めるため、晃一はウォーティスに距離を取るようにと伝える。
 現状では吐息を防ぐ手段は存在しないし、止める手段も存在しない。
 だが、晃一には吐息に対抗出来るだけの手段がある。
 如何なる魔法であっても対抗出来ない吐息であっても、”銃”のレジェンドアームであるガンブレイクならば可能なのだ――――。
















「ガンブレイク、装弾っ!」

 晃一がガンブレイクに込められている弾を変更する。
 牽制、広範囲といった用途を前提とした弾であるショットシェルでは龍の吐息に対抗出来ない。
 純粋な力比べとなれば如何あっても負けてしまう。
 だが、ガンブレイクには用途に応じた弾が存在する。
 散弾に似た特性を持つ、ショットシェル。
 徹甲弾に似た特性を持つ、ラインバースト。
 他にも幾つかの種類の弾があり、ガンブレイクは多種多様な用途合わせて使用する事が出来る。
 その中で晃一が選択したのは切り札ともいうべき弾であるガンブレイカーと呼ばれる弾。
 弾を込めるという行程を持っているにも関わらず、エネルギーによる波動を発射するという実弾を発射するという銃の概念を覆すともいうべき切り札。
 魔法ではなく、純粋なエネルギーによる攻撃であるガンブレイカーならば対魔力を持つ龍の吐息に対しても威力を殺される事はない。
 そういった意味でもガンブレイカーはガンブレイク専用の弾の中でも群を抜いた威力を持っている。
 この弾の力はそれほどまでに大きく、伝承のある武器がB級レジェンドアームという概念を担う一因であるといっても良い。
 まさに現在において龍の吐息に真っ向から対抗出来る唯一の手段である。

「頼むぜ、ガンブレイカーっっっっっ!!!」

 龍に照準を向け、ガンブレイクのトリガーを引く。
 晃一の意思に応えるかのようにガンブレイクが起動し、銃口から光が溢れ――――エネルギーの波動が解き放たれる。
 その波動は太い帯を描くような大きさで全長は晃一の3倍以上にも及ぶ。
 巨大な波動が真っ直ぐに火龍へと向かう。
 20メートル以上に及ぶ体躯を持ち、動きも遅い火龍には決して避ける事は叶わない。
 如何に距離が離れていようと、火龍ほどの大きさを持つ的ならば晃一は外さない。
 寸分の狂いもなく、狙いを定められたエネルギーの波動は火龍の吐息の起点となる口元へと突き進む。
 だが、火龍も然る者である。
 巨大なエネルギーの波動を感じ取ったのか、フィーナへと定めていた狙いを変えてガンブレイカーの射線上に顔を向けた。
 そして、火龍は吐息でガンブレイカーを正面から迎撃するという行動に出たのである――――。
















 ガンブレイクから放たれたエネルギーの波動と火龍の吐息がぶつかりあう。
 強大な力のぶつかりあいが空気を震わせる。
 ガンブレイカーと吐息のぶつかりあう凄まじい衝撃。
 レジェンドアームと龍の化身が戦うという神話の時代でしか考えられなかった光景が晃一の目の前で繰り広げられる。

「おおおぉぉぉぉぉっっっ!!!!!」

 だが、晃一はそのような光景の中でも一歩も退かない。
 ここで退いてしまえば、後ろにいるフィーナも共に戦っているウォーティスの身も危険なのだ。
 それにこの場においては晃一の持つガンブレイクとその弾であるガンブレイカー以外に龍の吐息と真っ向から戦えるものは存在しない。
 恐らく、ウォーレティスも吐息に迫る力を発揮する事が出来るであろうが、魔法剣であるため多少の不利は否めない。
 そのため、確実とは言い切れず、龍の持つ魔力、耐魔力は厄介なものである事が窺える。
 何しろ、A級のレジェンドアームは全て魔法を宿す武器の類か魔法の類なのだから。
 A級のレジェンドアームは龍に対しては事実上、本来の力を発揮する事は叶わない。
 魔法で龍の力を上回るのはS級のレジェンドアームだけである。
 だからこそ、威力だけにおいてはS級レジェンドアームに匹敵する力を持つ、フィーナのクレッセントノアでなければ龍にダメージを与えられない。
 如何にガンブレイクが龍の吐息に劣らないとはいえ、S級レジェンドアームにまでは届かない。
 龍に確実なダメージを与えられるレジェンドアームはS級レジェンドアームと全ての頂点に位置する武器である3つの武器だけなのだ。
 そのため、ガンブレイクが威力を殺される事がないとはいえ、確実に龍に効くとは限らなかった。

「ガンブレイク! 出力全開だっ! 一気に相殺する!」

 晃一がガンブレイクの出力を更に上げる。
 その意思に応え、ガンブレイクの銃口から溢れる光が更に輝きを増す。
 晃一の3倍以上の大きさにも及ぶエネルギーの波動は更に巨大なものとなり、5倍以上の大きさとなる。
 ガンブレイクの更なる起動により威力を増したガンブレイカーは龍の吐息を飲み込むように伸びていき――――相殺した。

「やったか……?」

 龍の吐息を相殺し、晃一は安堵の言葉を漏らす。
 ガンブレイカーは弾数が少なく、連続使用が出来ない。
 初弾のみで龍の吐息を相殺出来たのは大きかった。
 だが――――化身とはいえど、龍という存在はそれほど甘くはない。
 吐息が相殺されたと見るや火龍はすぐに狙いを変更し、本来の目標へと顔を向ける。

「しまった――――!?」

 その動きに晃一は目を見開く。
 火龍の方も吐息でレジェンドアームを迎撃したために力を大きく消費しているはずだったからだ。
 普通ならばガンブレイクによるガンブレイカーの一撃を受け止めて唯で済むはずがない。
 ガンブレイカーの威力の高さは晃一自身が尤も良く理解している。
 しかし、火龍は意に返す事なく、吐息の狙いを定め――――一気にフィーナへと放射する。
 ウォーティスもそれに気付いたが、ガンブレイカーの射線上から離れるために距離を取っていたために間に合わない。
 最早、万事休すか――――と思われたその瞬間。
















 1人の人間がフィーナとの間に割って入り、龍の吐息を闘気で僅かに威力を殺し――――同時に何処から飛来した戦斧が龍の吐息を両断した。






























 From FIN  2012/1/15



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