「大丈夫です。コウイチさん、ウォーティス。暫くの時間稼ぎをお願いします。この魔法を発動させるには時間がかかりますから」
「了解だ」
「……解った」
しかし、現状ではフィーナしか龍に対して有効なダメージを与える事が出来ない。
晃一とウォーティスはそれを理解し、フィーナの言葉に頷く。
最早、A級のレジェンドアームですら力が及ばない。
ならば、それよりも上の力をぶつけなくてはならない。
フィーナの持つ水の極大魔法――――属性の都合でA級に甘んじていながらもS級のレジェンドアームに匹敵するほどの魔法。
謂わば、切り札とも言うべき手段を使うしか事態の好転は望めない。
レジェンドアームの使い手である3人と古の火龍との戦いは新たな局面を迎えようとしていた。
龍殺光記レジェンドアーム
「私の名はフィーナ=クレセント。水のレジェンドアームを受け継ぎし、クレセントの巫女――――」
強大な敵を前にして、フィーナは魔法の発動準備に取りかかる。
崩界の魔法は基本的に魔法名とその魔法に必要な魔力の保有量さえあれば発動出来る。
だが、フィーナが現在使おうとしている魔法は水の属性を持つものでも最上級の魔法。
魔法名と必要な魔力の保有量だけでは到底、まかなえない。
それが、水の自然四属性と契約している巫女であるフィーナであっても例外ではない。
フィーナが使おうとしている魔法はそれほどまでに強大で凄まじい力を持つ魔法なのだ。
A級レジェンドアームでありながらも、力の大きさだけならばS級レジェンドアームにも匹敵するという極大の魔法。
その名は決して伊達ではない。
「始まったか。コウイチ君、フィーナの魔法の準備が終わるまで一歩も後ろにいかせるな」
フィーナが魔法の準備に入ったところでウォーティスが前に進み出ながら晃一に指示を伝える。
今から、行おうとしている手段は唯一、決定打と成り得る手段だ。
ガンブレイクでは龍とは相性が良いとは言い難いし、ウォーレティスでは力の大きさが足りない。
フィーナの持つレジェンドアームと同じくA級のレジェンドアームに分類されるウォーレティスだが、その真価は魔物に対して発揮される。
相手が龍と言うことを前提にされていないため、龍と戦う上では本来の力を発揮出来るとは言い難い。
水のレジェンドアームとは言えども、あくまで魔法剣に分類されるため巨大な体躯を持つ相手には優位とは言えない。
そのため、ウォーティスは足止めの役として名乗りをあげたのである。
「解ってる」
晃一もフィーナの使おうとしている魔法が普通のものではないと言うことを理解している。
A級の分類にあるレジェンドアームの魔法は全て極大の魔法であり、自然四属性を持つ魔法の最高峰。
その強大な力は他の自然四属性のものとは比べ物にならない。
晃一自身もレジェンドアームを使う身であるため、尚更それを理解出来る。
「では……いくぞっ!」
「ああっ!」
互いに成すべき事を理解し、頷きあった2人は勢い良く前へと飛び出す。
火龍の気を引き、フィーナに魔法を使わせる時間を稼ぐために。
それが現状においての唯一の勝機を見い出す方法であるのだから――――。
(くっ……やはり、ウォーレティスでは龍と相性が悪い!)
フィーナから意識を反らさせるため、龍との接近戦に持ち込んだウォーティスは内心で悪態を吐く。
20メートルを超える体躯を持つ龍は足も尾も長く、人間とは間合いが桁違いに広い。
また、龍の身体は鋼よりも堅く、魔法金属すらも比較にならないほどの堅牢さを誇る。
それでいて、龍は対魔力の塊とも言っても過言ではないほどの魔法の耐性をも兼ね備えている。
水の魔法剣であるウォーレティスにとっては属性の優位という点以外においては有利な部分は存在しない。
(魔法も軽減され、剣としては対龍ではない事も踏まえれば、まともに戦う方が馬鹿らしいかもしれない。普通の性根の持ち主ならば逃げ出すだろう)
それ故にウォーティスは囮という役割を担っているのだ。
ウォーレティスは対魔物用のレジェンドアーム。
巨大な相手よりも人間に近い体躯の相手の方が適している。
(それに残念ながら対龍を前提としているレジェンドアームは崩界には存在しない。世界の守護者だと言われている存在を討つレジェンドアームはない)
つくづく、相性が悪い相手である強大な存在にウォーティスは顔をしかめる。
神話における存在である龍は世界の守護者。
本来ならば、世界の脅威となる存在ではない。
それが例え、下位の存在である化身であるとしてもだ。
また、崩界において関わりの薄い存在である龍は神に比べ、その存在を軽視されている。
崩界のレジェンドアームが対龍を前提としていないのはそういった主観も影響しているのである。
(あくまで”神の世界”である事が仇となっている、か……。だが、それは他の世界でも大差はない。元より龍と直接、戦う事は前提とされていなかったからだ)
だが、それを嘆いても何もならない。
各世界間には互いに干渉があってもそれぞれに違う主観と文明を持っているからだ。
それに例え、”龍の世界”であっても対龍を前提とされているレジェンドアームは神話の時代の別格とされる剣一つしかない。
事実上、龍に対する優位性を持つレジェンドアームは別格の存在である物を除き、存在しない。
龍という存在はそれほどまでに強大で、異世界にとっては守護者であったのだ。
(だから、現在の持てる手段で立ち向かうのは当然の事だ――――!)
しかし、ウォーティスは不利と解っていても龍と相対する。
水のレジェンドアームに選ばれた騎士であるウォーティス=クレセントに退くという言葉は存在しない。
例え、相手が如何に強大であろうとも。
自らの力では決して敵わない相手であろうとも。
この世界に仇成すものであれば振り払うのみ。
ウォーティスは確固たる意思で龍との戦いを続けるのだった。
(っ――――!?)
2人が龍を引き受けている間に魔法の準備を進めるフィーナは違和感に顔を歪める。
どうも、水の魔力の集まりが悪いのだ。
今から使おうとしている魔法はあまりにも強大で凄まじい力を誇る。
だが、その反面で水の属性を持つ魔力を大量に必要とする。
自然四属性の魔法の中でも最高位にあるこの魔法は使うにも相応のものが要求されるのである。
しかも、この魔法をぶつけようとしている相手は龍なのだ。
レジェンドアームであるガンブレイクもウォーレティスも決定打にならないほどの力を持つ古の火龍。
決定打を与えるつもりならば、このローエン山脈の自然の法則を塗り替えるつもりでいかなくてはならない。
そのため、フィーナはこの魔法に要求される魔力を自然の中に秘められているものまで引き出そうとしているのだ。
(思うように集まらない……?)
だが、フィーナの思うように魔力は集まらない。
集まってくる魔力は普段の精々、4分の1程度。
ある程度の時間があれば必要な魔力を確保する事は可能だが、これでは予想以上に時間がかかってしまう。
(そうでした……この場所は火の属性が最も力を持つ場所。火が嫌う属性である水は追い出されてしまうのですね)
フィーナはこのローエン山脈がどのような場所であるかを思い出す。
この場所は火の属性が最も力を持つ場所であり、水が最も嫌われる場所。
そのため、水の魔力を集めようにも自然に秘められた水の属性は他の場所に比べても明らかに少ないのだ。
(しかも、今は火を司る龍がこの場にいます。そういった意味では既にこの場は火に支配されている……だから、思うように発動出来ない)
条件を照らし合わせると原因は場の問題と火龍の影響であることは間違いない。
神話の存在である龍の化身で尚且つ、火の属性を持つ龍。
そのような存在がいれば場が支配されるのは明白だ。
(ですが……私だって水の属性の祝福を得た巫女です。このくらいで完全に飲まれたりはしません――――!)
だが、フィーナは諦めない。
龍によって場が支配されていても。
如何にこの場所が自分の身を拒絶しているのだとしても。
レジェンドアームを使うのに必要なのは折れない心の強さだ。
フィーナは更に意識を集中させる。
龍に対し、決定打に成り得るであろう唯一の魔法。
水のレジェンドアーム、クレッセントノアを使えるのはフィーナだけなのだ。
そのためにこの場の自然四属性の法則を書き換え、水のレジェンドアームを発動させる。
とにかく、”魔力を集める事だけ”に集中しなくてはならない。
だからフィーナは気付かなかった。
火の属性で支配しているはずの場が揺らぎ始めている事に気付いた龍が狙いをフィーナに絞っていた事は――――。
From FIN 2011/12/25
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