「そう、火のイメージだ。火は瞬間的に燃え上がるもの……カイン殿、闘気の技に役立ててくれ」
ラゼルトが伝えるのは火を連想するイメージ。
火は瞬間的に燃え上がり、その大きな力を解放する。
映像のように見せられるそれをカインはしっかりと自らの心の中に焼きつけていく。
(火のイメージ――――これを闘気に置き換える)
ラゼルトから齎されるイメージの中でカインは火の闘気を練り上げる。
瞬間、燃え上がるもの。
それを連想し、ひたすらにイメージ。
闘気を集中させての斬撃を初撃とし、相手を斬った時に生じる傷痕を起点として火の闘気を一気に解放して滅する。
火の闘気剣――――『エクスプロージョン』
相手に紅の闘気をぶつけ、その箇所から一気に爆発させる――――それが、闘気による火の剣。
浮かび上がる火のイメージと現実を統合し、カインは火の闘気を発現させる術を得たのだった。
龍殺光記レジェンドアーム
「ラゼルト王、感謝します」
火の闘気剣を得たカインはラゼルトに感謝する。
属性の力を持つ闘気は本来ならばもっと時間をかけて属性を追加するものであるにも関わらず、僅かな時間で追加出来たのだ。
感謝の言葉しかない。
崩界の人間は基本的に一つの属性を得意とし、それ以外の属性を使える人間は特別な人間である。
本来ならば、複数の属性を使う事が出来るのは自然四属性の上位にあたる『光』、『闇』、『時』、『星』の属性の力を持つ者だけのはずなのだ。
しかし、ウィルヴェントと言う家柄はその例外とも関係なく、全ての属性を行使出来る。
これは崩界では考えられないような術であると言っても良い。
また、属性の力を闘気で使うという術は龍の発する属性の力に似ており、ウィルヴェントは龍との関係が深い可能性が考えられる。
カインが魔力と言う形ではなく、闘気と言う形で属性の力を使う事が出来るのも理由があるのだ。
ラゼルトはそのように見たのだろう。
そのために火のイメージをカインに伝えたのである。
「なにこのくらいは構わぬ。龍と戦おうとしている勇者に手を貸すのは当然の事だ。……ぐっ」
カインからの礼に答えたところで短く呻き、よろけるラゼルト。
「ラゼルト王!?」
「……大丈夫だ。些か、無理が祟っただけだ」
「そう、ですか……」
思わず、心配するカインをやんわりと拒否するラゼルト。
その表情には確かに疲労の様子が見て取れる。
これは無理もない事だろうと思う。
アルカディアを守護していたはずの火龍が目覚め、敵となってしまった事。
思いもよらない事態の中で混乱に対処し、最前線で龍と対峙していたラゼルトの苦労は察して余りある。
王と言う立場であるが故に兵士達を死地へと送り込み、次々と龍の前に倒れていくのを見ているだけしか出来ないのだから。
そんなラゼルトの苦を無にする事は出来ない。
新たな力を受け取った以上、カインに出来る事はラゼルトの思いに答える事だけだ。
これ以上の犠牲を強いずに龍を止める。
それがカインに出来る唯一の事だった。
「では、僕は行きます」
ラゼルトの思いを知ったカインは龍の下へ行こうとする。
「カイン殿」
だが、ラゼルトがそれを引き止める。
「ラゼルト王?」
「直に我が息子、ディオンが駆けつける。恐らく、勝機が来るのはその時だ」
カインを引き止めたラゼルトが告げる。
直にディオンが戦いの場へと駆けつけると。
確かにこの火急の時にディオンがいないのは不自然すぎる。
何か理由があるとしか思えない。
「ディオンが……解りました。ラゼルト王。御子息の力、借りさせて頂きます」
だが、何れにせよディオンが駆けつけてくれるのならばこれほど心強い事はない。
この場にディオンがいないと言う事とラゼルトの言葉からすると何か切り札があると言うのは確実だからだ。
「……うむ。カイン殿の動向者であるレジェンドアームの使い手にディオンの力が加われば必ずや勝ち目はある」
ラゼルトは無策で事を進めるような人物ではなく、思慮遠謀の末に行動を起こすような人物である。
そのような気質を持つ人間が真っ向から龍と戦う選択肢を選んだとしても何かしらの準備をするのは当然だ。
今回は息子であるディオンを切り札とし、決めとなる一手を準備していた。
「ディオンにはアルカディアに伝わるレジェンドアームを継承してからこの場に来るように伝えているからな」
しかし、目覚めた火の龍はラゼルトの想像を大きく超えるほどの力を持っていた。
アルカディア――――いや、崩界でも有数の軍団である黄金闘士団が足止めにしかならない。
相手が神話の存在であるとはいえども多少ぐらいは戦えると言う自負を持っていただけに衝撃は大きい。
そのため、ラゼルトはディオンにアルカディア王家に伝わる切り札――――レジェンドアームの使用を命じた。
現在、アルカディア王家に伝わっているレジェンドアームは持ち主を決めていない。
国の王であるラゼルトにはレジェンドアームを使う資格があるのだが、彼は魔導士であり、戦士ではない。
アルカディアのレジェンドアームは生憎と魔法に関係する物ではなく、武器なのである。
残念ながら、武器を手に取って戦う事を専門としていないラゼルトではその力をフルに発揮する事は出来ない。
だが、息子であるディオンはラゼルトとは違い、純粋な戦士である。
一応、僅かばかりの魔法を使う事は出来るが、ディオンはカインと同じく武器を手に取って戦う人間なのだ。
アルカディアに伝わるレジェンドアームを使いこなせるのはディオンとその母親だけだ。
「そうですか……確かにそれなら大丈夫かもしれません。レジェンドアームの使い手が4人。これなら……」
「うむ……龍にも対抗出来るはずだ」
ディオンも含めればレジェンドアームの使い手が4人。
しかも、その中でもA級のレジェンドアームの使い手が3人もいるのだ。
レジェンドアームの使い手が一度に揃う事などそう多くないだけに圧巻とも言える。
(だけど……それでも龍に対して有利とは言えない。龍が僕の知っている存在であるとするならば)
しかし、それでもカインは不安が拭えない。
龍の持つ戦闘力と言うものは生半可なものではないのだ。
それに龍は戦う際の初めに心を折ると言われている。
圧倒的な力を振るい、格の違いを存分に見せつけた上で敵対するものに威圧感を与える。
耐魔力を持つ身体に魔法金属ですら容易く斬り裂いてしまう牙や爪。
そして、周囲をまとめて消し飛ばす吐息――――ブレス。
正直、龍の力は想像を絶するのだ。
「カイン殿、すまぬが……頼む」
だが、ラゼルトの言葉を拒否するなんて選択肢は存在しない。
自身でも龍と戦うと決めた以上、もう後に行く道なんて存在しないのだ。
カインはラゼルトの言葉に頷き、この場を後にした。
カインがラゼルトと会い、話をしているその頃――――。
フィーナ達、レジェンドアームの使い手は苦戦を強いられていた。
「ガンブレイク、装弾! ……ショットシェル!」
使い手の声に応え、ガンブレイクの銃口が火を吹く。
晃一がガンブレイクに装填した弾は広範囲に渡って拡散する特性を持つ弾。
狙う範囲が一点に限らずに拡散するため、対象が大きければ大きいほど命中箇所も増える。
そのため、龍のように強大な体躯を持つ相手に対しては相応の効果が期待出来る。
ましてや、弾の種類の一つであるショットシェルは市場に出回っている代物ではない。
ガンブレイクでなくては使用出来ない特別な弾なのだ。
ショットシェルに秘められた威力の大きさは例え、飛竜であっても呆気なく肉片へと化してしまうほどのものである。
通常の魔物程度では防ぐ手段も存在しない。
「ちっ! 利いていないわけじゃねぇみたいだが……決定打にもなりえねぇか」
だが、ショットシェルの威力を以ってしても火龍は多少の身動ぎをするだけ。
確実にダメージを与えてはいるのだろうが、目に見えて効いていると判断するには遠い。
龍の身体はショットシェルを受けても動きが鈍っていないからだ。
「やはり、龍の堅牢な身体を抜くには剣や斧による裂傷が必要か」
ガンブレイクによる射撃のダメージからウォーティスが判断する。
龍の身体は堅牢な皮膚と鱗に被われており、銃の弾を弾き飛ばす。
ミスリルやエレクトラムを初めとした魔法金属を軽く上回る強度を持つ、その身体は脅威的な堅さを誇る。
それでもダメージが与えられるのは一重にレジェンドアームであるガンブレイクの力だ。
しかし、如何にガンブレイクと言えどもあくまで銃である。
銃弾を弾く身体を持つ龍に対して、決定打を与えるには柔らかい部分を狙うしかない。
皮膚や鱗の下にある肉を直接、狙わなくては。
「……そうみたいですね。ウォーティスの魔法も水の属性と言う意味では効いていますが魔法と言う点で見れば効いていません。やっぱり、私のじゃないと……」
また、龍の身体には耐魔力もあり魔法は効果が薄い。
ウォーティスのレジェンドアームは水の属性を持つ魔法剣であり、魔法の力を合わせて本領を発揮する物。
どちらかと言えば、剣としてよりも魔法の効果が強いため、耐魔力を持つ龍には効果が薄い。
それにフィーナは防御する事に専念しているため、レジェンドアームを使用するタイミングは掴めない。
フィーナの持つ、レジェンドアームは崩界でも最強を誇る水属性の魔法。
その魔法は自然四属性の加護を受けた水の巫女であるフィーナにしか使えない極大の魔法。
A級のレジェンドアームでありながら、魔法としての力はS級のレジェンドアームにも劣らないほどの強力なもの。
同じく、水の属性をもつレジェンドアームであるウォーレティスに比べても力の大きさははっきりと解るほどの物だ。
フィーナのレジェンドアームはそれほどの力を持っており、耐魔力を持つ龍に効くとすればそのレジェンドアームしかない。
「……フィーナ」
フィーナの言わんとしている事を察するウォーティス。
レジェンドアームの使い手が3人も揃っていながらも決定打と成り得る物がフィーナの極大魔法しかない。
そして、フィーナがそれを行使すると言う事はフィーナが矢面に立つしかない。
「大丈夫です。コウイチさん、ウォーティス。暫くの時間稼ぎをお願いします。この魔法を発動させるには時間がかかりますから」
「了解だ」
「……解った」
しかし、現状ではフィーナしか龍に対して有効なダメージを与える事が出来ない。
晃一とウォーティスはそれを理解し、フィーナの言葉に頷く。
最早、A級のレジェンドアームですら力が及ばない。
ならば、それよりも上の力をぶつけなくてはならない。
フィーナの持つ水の極大魔法――――属性の都合でA級に甘んじていながらもS級のレジェンドアームに匹敵するほどの魔法。
謂わば、切り札とも言うべき手段を使うしか事態の好転は望めない。
レジェンドアームの使い手である3人と古の火龍との戦いは新たな局面を迎えようとしていた。
From FIN 2011/11/13
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