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「解った。だったら、僕は何も言わない。……一緒に行こう」
フィーナの答えを聞き、カインは頷く。
その言葉と覚悟が本物かは瞳を見れば解る。
フィーナの眼差しには一点の揺らぎも存在しない。
レジェンドアームに選ばれた人間として、相応しい瞳だ。
覚悟も完了したと言うところだろう。
ならば、カインに申し出を拒否する理由はない。
この場にいる全員が覚悟完了と言う事ならば――――後は龍の前に立つのみなのだから。
龍殺光記レジェンドアーム
――――グオォォォォォッッッッッ!!!!
龍が雄叫びをあげながらアルカディアの黄金闘士団を尻尾で薙ぎ払い、闘気による火で焼き尽くす。
その様子は神話の存在である事をまざまざと見せつけるものであり、次々とアルカディアの勇士達は倒れていく。
ある者は龍に接近しようとしたところで尻尾によって薙ぎ払われるか、鋭い爪によって斬り裂かれる。
また、ある者は魔法や弓で攻撃を仕掛けたところで火を浴びせられ、燃え尽きる。
龍の振るう力の前には黄金闘士団とて、ゴミのようにあしらわれてしまう。
力の差が余りにも大きすぎるのである。
正に一方的と言っても過言ではない殺戮の光景――――。
カイン達一行が現場に到着したのは目の前でそれが行われている真っ只中であった。
「ちっ……野郎っ!」
晃一がいち早くガンブレイクを引き抜く。
一方的に行われる殺戮の現場を前にして、晃一に躊躇うと言う言葉はない。
ガンブレイクに水属性の弾を装填する。
相手は火の龍――――ならば、ぶつけるべき力は水。
崩界の自然四属性は風は火に弱く、火は水に弱く、水は地に弱く、地は風に弱いと言われている。
そのため、晃一の選択は真っ当なものであり、正しい選択肢である。
「これでも、喰らいやがれっ!!!」
晃一の声に反応するかのようにガンブレイクの銃口が青色に輝く。
ガンブレイクが発している青色の光は水の属性の力を現している。
属性を示す色は風は緑、火は赤、水は青、地は茶とはっきりと分かれているのだ。
これは魔法や闘気でも同じであり、属性の力を示す光の色は力を封じ込めた銃の弾と同じである。
「ガンブレイク――――!」
晃一に声に応え、ガンブレイクがうなりをあげる。
「ヤツを撃て――――!」
トリガーを引いたその瞬間、巨大な水の放射が銃口から解き放たれ、真っ直ぐに龍へと向かう。
銃口から放たれた水の大きさは晃一の3倍にも匹敵する5メートル以上にも及ぶ。
ギャォォォォォォォン――――!
普通の魔物や飛竜では一瞬で圧し潰されるほどの力が込められた巨大な水の放射が龍を襲う。
これは唯の水の放射ではない。
神話の時代から受け継ぎし力、レジェンドアームによる一撃なのだ。
例え、龍であっても無事で済むはずがない。
ガンブレイクの解き放った水の力はそれほどのものであった。
「カイン、今のうちだ。ガンブレイクで動きが止まってるうちに周りの生きてる人間を逃がせ」
ガンブレイクによる水の放射で龍の動きを止めながら晃一がカインに促す。
周囲にはまだ、龍に倒されていない黄金闘士団の人間達がいる。
「解った」
晃一の言おうとしている意味を察しカインは頷く。
ここから先はレジェンドアームを持っている者だけが踏み入る事の出来る世界。
神話の存在である龍との戦いだ。
「僕は其方に専念する」
この場は普通の人間が立ち入って良い場所ではない。
それは例え、カインのように単身で竜殺しが成せる人間でも例外ではない。
人であって人を超越した力であるレジェンドアームに選ばれた人間でなければ龍のような神話の存在には立ち向かえない。
だから、龍の前に立つには条件が必要だと言っても良いのかもしれない。
生憎とカインはレジェンドアームを持っておらず、一振りの鋼の剣だけだ。
それが業物と呼ばれる類の物であっても鋼の剣では到底、龍には対抗出来ない。
カインがこの場にいる誰よりも龍に詳しくとも、戦う術を知っていてもレジェンドアーム無くしては力は及ばない。
「悪ぃな。ヤツの相手は俺らが務める。……レジェンドアームを持つ者としてな」
「……ああ」
晃一の言葉に頷き、カインは龍との戦いの場から背を向ける。
今の自分に出来る事は生き残っているアルカディアの人間達は逃がす事だけだ。
その事を歯痒く思いながら、カインは駆け出す。
これから始まるレジェンドアームと龍の戦いに巻き込むわけにはいかないからだ。
普通の人間では到底及ばない、選ばれた者だけの戦いの中に選ばれていない人間が割って入るわけにはいかない。
龍とはそれほど強大な存在であり、神話の存在と戦うと言う事は想像を絶するものがあるからだ。
カインは晃一達の無事を願いつつ、成すべき事のために場を離れるのだった。
「ちっ……この程度じゃ大したダメージは与えられねぇか」
ガンブレイクによる水の放射が終わり、龍の姿が浮かび上がってきたところで晃一が吐き捨てるように言う。
火に有効な水の属性による攻撃を龍にぶつけたが、相手はほぼ無傷であった。
「……ああ、そうみたいだな」
龍の様子を見ながらウォーティスが頷く。
ガンブレイクによる一撃は確かに龍に直撃した。
だが、龍はびくともしていない。
しかも、レジェンドアームによる攻撃が殆ど利いていないのだ。
脅威的な防御力であると言える。
「それに龍は私達が思っている以上に大きいみたいです。今の水の放射では身体全体に攻撃を通す事は敵いません。巨大な相手には相応のものをぶつけないと」
フィーナの言う通り、ガンブレイクでもびくともしなかった龍の姿は予想以上に大きい。
今の攻撃は姿を認めた瞬間だったので、詳細に龍がどのような大きさや姿をしているかを確認していなかった。
黄金闘士団の人間を次々と倒していた龍の大きさは見た限りでは高さだけで30メートルにも及んでいた。
全長で見てみれば50メートル以上は軽いだろう。
歩いていくだけで次々に建物を粉砕してしまうほどの大きさだ。
先程の水の放射程度では怯みもしないのは当然かもしれない。
何しろ、ガンブレイクによる水の放射よりも6倍ほ以上も大きかったのだ。
龍からしてみれば若干、大きめの物体が当たった程度だった。
「ああ、譲ちゃんの言う通りだ。ヤツには半端なのは通じねぇ」
確かにフィーナの言う通りである。
火に対して有利な属性である水の力をぶつけてみたが、対して効果はなかった。
それは龍に対して有利な属性で攻撃するだけでは意味がないと言う事の証明である。
ガンブレイクは多種多様の弾を撃ち分ける事が出来るが、本来の力を発揮するのは属性の力を封じた弾ではない。
専用の弾を使わなくては本来の力を発揮する事は出来ないのだ。
だが、それでも龍が通常の魔物や飛竜とは比較にならない力を持つ事は明らかになっている。
本来の力を発揮していないとはいえ、ガンブレイクの一撃をものともしないのだ。
桁違いの防御力であると言えるだろう。
「ならば、水属性による攻撃は私に任せてくれ。コウイチ君は射撃に徹し、フィーナは援護を頼む」
龍の力の大きさを認めたウォーティスが晃一とフィーナの2人に指示を出す。
ガンブレイクによる属性弾が通じないならば、水の属性による攻撃は水の魔法剣を持つ、ウォーティスが引き受けるまでだ。
フィーナは攻撃に防御に補助にと多数の水の魔法を使う事が出来る優れた魔導士だ。
この場においては臨機応変に動いて貰うのが望ましい。
「了解だ」
「解りました」
ウォーティスの的を射た指示に晃一とフィーナは頷く。
2人もそれが良い判断だと感じたからだ。
戦う相手が強大な存在であるため、役割の分担が重要になってくる。
個々がバラバラに戦っては決して勝つ事は出来ない。
レジェンドアームに選ばれた人間である3人の思いは一つだ。
龍はここで止める――――。
それがこの場にいる全員の思いだった。
From FIN 2011/9/25
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