ここまでくれば私のやることは唯一つ。
 そう意気込んだ私は悠翔とそっと唇を重ねる。
 もう、抑えきれなくて、我慢できなくて。
 私は惹かれるままに悠翔にそっと口付けた。
 若干、悠翔も驚いたみたいだったけどそのまま私の行為を受け入れてくれる。
 これが私と悠翔の初めてのキス――――。
 大好きな人とのファーストキスは少しだけ甘くて優しくて――――。
 ああ、そうか――――。

 これが、大好きな人とキスをするってことなんだ

 そう実感しながら私は悠翔にもっと深く口付ける。
 それが悠翔の中にしっかりと残るように。
 そして、私の中にずっと刻まれるように。
 想いを込めて私は悠翔と唇を重ね合わせる。
 大好きな人とこうして口付けを交わしている――――。
 本当はとても嬉しいはずなのに――――少しだけ涙が溢れてしまう。
 そう、この行為が”今の私”にとっての最後の行為。
 だから……もっと身体に、心に残るように。
 それだけを考えて私は悠翔と口付けを交わす。
















 そう、これが――――。
















 これが、魔導師である私、フェイト=T=ハラオウンの最初で最後のキスだから――――。























魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 魔導師である私が悠翔と最初で最後のキスを交わして次の日――――。
 私はなのは達と今回の件について話をしていた。
「フェイトちゃん……どうして、黙ってたの? こんな大事なことなのに……」
 私の昨日の話の一部始終を聞いて、なのはが悲しそうな目で見ながら尋ねてくる。
 はやても同じ思いなのかなのはと同じような目を私に向けてくる。
「ごめん……なのは、はやて。今回のことはどうしてもなのは達には言えなくて」
 そんな2人に対して私は謝ることしか出来ない。
 今回の件は本来は悠翔の問題であって私は事情を知ったから介入しただけ。
 特に悠翔の事情はなのは達に話すことなんてとても出来なかった。
「でも、だからって……そこまでしなきゃいけなかったの?」
「そうやな。幾ら悠翔君のことがあるって言ってもフェイトちゃんがそこまで責任を負わんと駄目やなんて……」
 確かになのはとはやての言う通りかもしれない。
 私がここまでして悠翔を庇う必要があるのかって言われると疑問があると言うのは解る。
 だけど、悠翔とのことは何よりも大切なことで何にも変えられない。
 大切な人が危険な目に遭おうとしているのにそれを放っておくことなんて私にはとても出来なかった。
 だから、私は悠翔のために動いたし、自分がどうなるかも覚悟して動いた。
 なのは達の言い分も解るけど、これだけは譲れなかった。
「私は自分のことよりも悠翔のことを選んだから……これくらいは当然だよ。それに、私も解っていてこうしたんだから……」
 そう、私はこうなることを承知の上で行動を起こした。
 相手が任務で動いていたと言う点は予想外だったけれど、それでも私の行動はあくまで悠翔のことが優先順位だった。
 今回は任務を妨害したと言う形と悠翔が魔導師と戦ったと言う証拠の一切が残っていないために私が責任を取る形になった。
 これも、悠翔のことを守るためだから私はそれで良いと思っている。
「だから……私は、全然後悔なんてしてないよ」
 なのはとはやてには悪いけど、今回の結果には何も後悔なんてしていない。
 魔導師として同じ道を歩めなくなってしまったのは残念だけど……それも解っていたこと。
 あくまで悠翔と同じ道を歩みたいと思ったのが最大の転換期で悠翔と一緒にいたいと言うのが私の願いだった。
「……フェイトちゃんがそう言うんなら、私達も納得するしかないわ。そうやろ、なのはちゃん」
「そうだね……。フェイトちゃんがそこまで言うんだもん。それだけ悠翔君が大事だってことなんだよね?」
 なのはとはやても私の意志を汲み取ってくれたのかもう一度、私の顔を覗き込んでくる。
 もう、ここまできたのなら私に躊躇うなんて言う選択肢は存在しない。
 なのはもはやても解ってくれてる――――。
「うん。私は悠翔のことが大事――――だよ。悠翔は何にも変えられない私のたった一人の大切な人……」
 だから、私もはっきりとなのは達に自分の意志を伝える。
 悠翔のことが大事だからこそ、私は魔導師であると言うことをきっぱりと辞められた。
 本当は未練もあったし、なのは達ともっと同じ道を歩いて行きたかった。
 だけど、それ以上に私は大切だと思える人に出会った。
 私が全てを擲ってでも一緒にいたいと思った唯一人の人――――不破悠翔。
 この想いがなんて言うのかは私にはまだはっきりとしたことは言えないけれど――――。
 これがきっと、愛してるってことだと思う。
 何にも変えられないほど大好きで、愛しく思える彼の存在は私にこうした決断を迫らせるのには全く困らなかった。

 ――――だって……悠翔はそのくらい大事な存在だから。
















「はぁ……そこまでフェイトちゃんに想われて悠翔君は幸せものやなぁ……」
「うん、そうだね。はやてちゃん」
 私の悠翔に対する想いを聞いて、そんなことを言うなのはとはやて。
「え、ええっ!?」
 そんな2人の様子に私は思わず、声を荒げてしまう。
 2人が私と悠翔の関係を解っているのは承知しているのに何だか頬が熱くなってしまう。
 悠翔のことははやての言う通りだけどこうやって面と向かって言われると困る。
 そう言えばたった今、言ったことも普通に考えれば恥ずかしいことだったと想う。
 私はさっきまで普通にそう言うことを言っていたけど……こうやって一息ついて冷静になってみると凄く恥ずかしい。
 悠翔に対する想いは全く嘘じゃないし、本当のことだけど……それとこれとは話が別で。
 こうやって言われてしまうと私もどうして良いのか解らなくなってしまう。
「だって、フェイトちゃんがそこまでして選んだんや。悠翔君はそのくらい大事な人ってことやろ?」
「う、うん……」
「フェイトちゃんは可愛いなぁ……素直なのは良いことやで?」
 私の肯定の返事に満足そうな様子のはやて。
 悠翔のことは本当のことだし否定する理由なんて全く無い。
 私としては素直に答えたと言うか当然のことを言っただけなんだけど……。
「悠翔君がコロッといってまうのも無理ないわ」
 そう言いながら私の背後に笑顔で回り込むはやて。
 なんとなく、嫌な予感がするんだけど……?
「だから、もっとフェイトちゃんも自分に磨きをかけんとなぁ? と言うわけで……」
 そう言って私の胸を揉み始めるはやて。
「きゃっ……ちょ、ちょっと!? はやてっ!?」
 はやてのいきなりの行動に大慌てする私。
 こう言ったスキンシップははやてが好んでやってくることだけど……私は未だにこれに慣れない。
 はやてからこうされるとなんて言ったら良いのか解らないけど……変な気持ちになってくる。
 この感じはなんて言ったら良いんだろう……気持ち良いのか気持ち悪いのか解らないような感じかな?
 でも、はやてにこうされている時の私は何も抵抗出来ない。
 はやては親友だし、こう言ったスキンシップをされても嫌悪感なんて感じないけど……。

 相手が悠翔じゃないのは少しだけ残念かも……
 こんなことを望むなんて……私はいったい何を考えてるんだろ?

 こんな感じで変なことが私の頭を過る。
 はやてのスキンシップで本当に私の頭の中が良く解らなくなってきた気がする。
 ぼうっとこんなことを思いながら私はそのままはやてに身体を預けるのだった。

 あぅ……少しだけ気持ち良くなってきたかも?
















 なんだかんだではやてに色々とされてしまったけど……これも親友ならではのスキンシップだと言うことで。
 私が悠翔のために動いて、魔導師を辞める形になったと言うことだけど……2人は今回の話を聞いても態度を変えなかった。
 今回の事態は自分で勝手に動いて招いたことではあったけれどなのはもはやても事情をしっかりと解ってくれている。
 それがとても有り難くて、嬉しくて――――。
 本当は私だって寂しいけど、これも自分で選んだ選択肢。
 なのはとはやてには何て言われるか解らなかったけど、全てを伝えた。
 私がどうして、動いたのか。
 相手はいったい、誰だったのか。
 そして……悠翔がどうして魔導師を全滅させたのか。
 どれもこれもなのは達には驚くような結果だったと思う。
 その上で私が魔導師を辞めることになっても2人は送り出してくれて。
 本当に2人には感謝してもしきれない。
 事の内容が内容だっただけにとても相談出来なかったと言うのはあるけれど……。
 この点についても2人は理解を示してくれた。
 今回の事件によって高町なのはと八神はやてと言う大切な親友と同じ道を歩むことは出来なくなってしまったけど……私達の関係が変わったりはしない。
 事件の原因としては悠翔のお父さんとの間に起きた事件が元であって、悠翔や私達に直接的な関係は無かった。
 でも、過去の事件に関わっていたスヴァン執務官からすればそうでは無かったみたいで。
 悠翔のお父さんである一臣さんによって任務は失敗し、過去の事件に参加した魔導師は全滅の憂き目にあっている。
 その事件の当事者であったスヴァン執務官は一臣さんのことを怨み、10年以上もの長い時を費やしてきた。
 でも、一臣さんは管理局の知らないところで既に亡くなっていた。
 だから……怨みをぶつける対象も無く、本来の任務であった霊石の回収も出来なくなってしまった。
 スヴァン執務官の話を聞いた限りだと悠翔のことがなければそのまま、執務官として全うしたのではと思う。
 今回の件に関してもあくまで”正式な命令”と言う形を取り、この任務に際して妨害に入った私を”一時的に拘束”した。
 スヴァン執務官の行動は確かに管理局の人間としては間違っていなくて。
 相対した悠翔との戦闘が無ければ、恐らくは問題視されることも無かったんだと思う。
 それに、形が違えば霊石の回収任務には私達が動いた可能性も高い。
 偶然に近い形ではあるけれど悠翔と面識を得ることになったし、特に私は悠翔と想いを通わせた。
 こう言った経緯からも私達が悠翔に事情をしっかりと説明すれば悠翔も納得してくれたかもしれない。
 でも、今となってはこう言った推察も意味が無いものでしか無くて……。
 結果的には最悪と言っても良い結果で終わってしまった。
 唯一の救いとすれば悠翔に関する物が何も残っていないと言うことと、私が魔導師を辞めるだけで済んだと言うこと。
 これだけの死傷者が出ながらも表に取り上げられないと言うのは管理外世界での出来事であるって言うのが大きい。
 それに先に今回の事件を捕捉したのは夏織さん達の所属する組織の側――――。
 だから、管理局としても大きな沙汰にすることは出来ない。
 管理外世界で魔法が広まると言うのは決して容認してはいけないことなのだから。
 そう言った意味でも色々な状況が悪い意味で重なったけれど、一応の収拾を見た魔導殺しの事件――――。
 結果的には一臣さんと悠翔の親子二代に渡っての大事件となった。
 管理局外世界で直接的な死傷者が出たこの大きな事件は表沙汰になることなく、消滅していく。
 最終的には私、フェイト=T=ハラオウンが魔導師を辞めると言う形で責任を取ることによって――――。
















 魔導殺し事件――――。

 管理外世界に手2度に渡って起きた魔導師が全滅したと言う事件――――。
 その結果が齎したのは果たして何だったのか。
 このことは1人の少女のみがその事件の顛末を知っている――――。
 しかし、この少女は管理局と関わりの無い道を歩むことを決めた。
 少女からは詳細が語られることも無く、こうして多くの死傷者を出したこの事件は一応の終結を見た。
 結果として関わった魔導師は全滅したが、任務は達成したと言うことにより全てが闇に葬られることになった。
 この事件に関わった執務官、フェイト=T=ハラオウン――――。
 少女はいったい、何をこの事件で見たのか――――。
 少女からは何も伝えられることは無かった。
 そして、その背景には1人の少年があったと言うことも含めて――――。
 結局のところは真相は誰にも解らないままであり、任務自体も完遂されたと言うことでこの話は自然と経ち消えていく――――。
 新たにこの地球と言う世界が管理局ですら手に負えない世界であると言う明確な認識を与えると共に――――。
 こうして、魔導殺し事件と呼ばれた事件は人々に知られることは無く、その背景にいた少年と少女の存在も闇へと消えていくのであった。




































 From FIN  2009/11/7



 前へ  次へ  戻る