「そこまで言うなら……解りました。フェイトのことは手続きをしておきます」
フェイトの意志に迷いが無いと言うことを認めたリンディさんは暫くの間の後に頷く。
もう、フェイトがここまで言うのなら止めても無駄だと言うことがはっきりと解ったんだろう。
「ごめんなさい……義母さん」
「……フェイトが自分で選んだ結論ですもの、私からは何も言うことは無いわ。そうまでして悠翔君を選んだのだから……しっかりとね」
「うん……!」
フェイトが選んだ結論――――。
それは俺と共に歩むと言うこと――――。
信念を持って魔導師として務めてきたにも関わらずフェイトは俺と言うたった一人の人を選んだ。
フェイトは覚悟を既に決めている――――だったら俺から何も言うことは無い。
大切な彼女が魔導師として在ることよりも俺と共に歩むことを選んでくれたと言うこと――――。
だったら、俺に出来ることはそんなフェイトの気持ちをしっかりと汲み取ってあげることだけだ。
それが、覚悟を決めて決断してくれたフェイトに向き合うことなんだと思う。
そう――――それが俺に求められた応えなんだ
魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
一通りの話が終わって俺はフェイトの部屋へと招かれている。
リンディさんをはじめ、他の人達は俺達に気を使ってくれたのかこれ以上は何も言わず、ふたりきりにしてくれた。
総合的に話を纏めると――――今回の件は結局、フェイトが管理局を辞することで話が纏まった。
フェイトの決めた答えが決め手となり、今回の俺との話に関しては一応の決着が見られたのだった。
この事件は過去に父さんと関わった魔導師達の怨みから発生したもの。
そして、その息子である俺がその関わりのあった魔導師達を全て斬り捨てることで終わった事件――――。
此方側の主観では捕われた人質を救出ためにとった行動。
管理局側の主観では嘗ての任務を正式に再開したが、現地の人間によって編成された部隊が全滅した形。
この差異はやはり、大きく論としては平行線を辿るだけであり世界観の差が特に大きい。
互いが同じ世界同士であれば法廷の場へと話が移ったのだろうが――――。
最早、これは考えてみてもどうしようもない――――既にこのような結果が出てしまっているからだ。
全ての責任を負うと言う形になった上で今回のような結末になってしまったが……フェイトの表情は暗くなってはいなかった。
「……フェイト」
「うん、自分の選んだ結果に後悔もしてないよ」
申し訳なさそうにする俺を見ながらフェイトは躊躇うこと無く後悔はしていないと言う。
「私は自分のことよりも魔法のことよりも悠翔のことを選んだんだから」
それどころかフェイトは自分の全てよりも俺のことを選んでくれた。
「フェイト」
俺のためにそこまでしてくれたフェイトのことが愛しくて――――。
俺はフェイトの身体をそっと抱き寄せる。
「悠翔……」
フェイトは少しだけ戸惑いながらもやがて、俺の行為に身を預けてくる。
こうして抱き寄せたフェイトの身体は俺よりも小さくて――――。
ぎゅっと抱きしめたら壊れてしまいそうで――――。
だけど、フェイトがここにいるのは間違いは無い。
今回の件でフェイトとは離れ離れになるものだと思っていたけど……。
フェイトが俺を選んでくれたことで今もまだこうしていることが出来る。
それが唯、嬉しかった。
たった一人の大切な女の子とこうしていられる――――それはなんて幸福なことなんだろう。
俺はそのことを実感したままフェイトのぬくもりを感じていた。
悠翔がいきなり私を抱き寄せる。
思わぬ悠翔の行動に少しだけ驚いてしまって私だけど……すぐに悠翔にその身を預ける。
悠翔がしてくれたのは私も望んでいた行為だったから――――。
ふたりでそのまま暫くの間、抱き合って御互いのぬくもりを感じる。
悠翔は私のそばにいる――――。
本当なら私と悠翔は一緒にいられなくなるはずだったけど……。
彼はこうして私と一緒にいてくれている。
私が手放すと決意したものは大きかったけれど……そのことに全く後悔なんて無い。
ずっと私と一緒に魔導師としての道を歩んでくれたバルディッシュも納得してくれた。
それにアルフも私の決めたことを解ってくれると思う。
考えて、考えた末に導き出した今回の答え――――。
長年のパートナーであったバルディッシュはそのことを良く理解していた。
もしかすると私が初めて悠翔に出会って、心惹かれるものを感じた時から解っていてくれたのかもしれない。
それもバルディッシュが私とずっと一緒にいてくれたからだったと思う。
私が失ったものはとても大きなものだけど……それでも私は悠翔を選んだ。
心の底から大切だって思える唯一人の人――――それが悠翔って言う存在だと思う。
そう思ったからこそ私は彼のために動いた。
今回はそのことが裏目に出てしまったのかもしれないけど……これも私が自分で覚悟していたこと。
魔導師を辞めることになったけど……これは自分に対する戒め。
今回の件で魔導殺しとなってしまった悠翔と一緒にいるためにはこうするしか方法が無かった。
事件の方も管理局側としては正式な命令だったと言うのもやっぱり大きい。
まさか、そこまで考えてスヴァン執務官が動いていたなんて私も予測していなかった。
だけど、スヴァン執務官の執念を考えればそのくらいやったのも当然だったのかもしれない。
個人的な怨みだけでは自分が犯罪者と同じようになってしまうし、目的も達成出来ない。
それを良しとしなかったスヴァン執務官は嘗ての任務を再開すると言う形で行動したんだと思う。
私はそのことを知らずその任務を妨害し、あまつさえ悠翔が魔導師と戦うきっかけを創ってしまった。
悠翔は私を助けるためにスヴァン執務官達に戦いを挑んで、全員を斬り捨てた。
それも魔導師達は全員死亡と言う形で――――。
私の行動が今回の件を呼び起こしたと言っても良いと思う。
でも、管理世界に属していない立場である悠翔を管理局の法律で罰することは出来ないし、悠翔も私を助ける際に組織の命令を受けている。
そう言った事情も含めて私が責任を取ると言う以外に方法が思いつかなかった。
結果としては決してハッピーエンドじゃないけれど――――。
これは私が選んだ結果であり、望んだ結果――――。
だから、これで良いんだと思う――――。
皆には悪いけど……今回だけは私の我が儘を許して欲しい。
たった一人の大切な人を選んだと言うことを――――。
「……フェイト」
「……悠翔」
私と悠翔は御互いの名前を呼び合って身体を離す。
本当は名残り惜しいけれど、そうも言っていられない。
もう、今回の本題は終わっているし悠翔も私も今日はここまでしておかないといけない。
「……ここまで、だな」
「うん、悠翔」
悠翔もそれを解っているのかここまでだと促してくれる。
このまま、二人でこうしていたらきっと離れられなくなってしまう。
私も悠翔もそれを解っているからこそここまでにしようと思った。
それに、このまま私達だけこうしているのもケジメがつかない。
次に悠翔とこうするのは私の沙汰が全て終わってから。
手続きは義母さんがやってくれるって言っていたけれど、それまでは私もまだ責任を負っているわけじゃない。
義母さんが全ての手続きを済ませてくれて初めて私の責任問題の全てが終わったことになる。
それまでは悠翔とこうしているのも控えないといけない。
だから、今のが私が魔導師として悠翔と触れ合う最後の時。
次に悠翔とこうする時は私も一人の女の子として向き合うことになる。
ある意味で最後の触れ合いと言っても良かったのかもしれない。
でも、次に会う時は私も魔導師じゃないから――――まだ、魔導師である間にしておきたいことがある。
「……悠翔、ちょっと目を瞑ってくれるかな?」
「解った」
私が何をしたいのか解っているかまでは解らないけれど……悠翔は私の言う通りにしてくれる。
全く、躊躇いが無かったことを見ると悠翔も私の意図が理解出来ているのかもしれない。
悠翔が私の言う通りに目を瞑ったことを確認するとゆっくりと顔を寄せる。
そう、ゆっくり、ゆっくりと――――。
僅かな時間のはずだけれど悠翔に顔を寄せるまでの時間は凄く長く感じる。
その長く感じる僅かな間の後、私の顔は悠翔の顔の目の前まで近づいた。
もう、私と悠翔の距離は鼻先が触れ合うかどうかくらいの距離――――。
ここまでくれば私のやることは唯一つ。
そう意気込んだ私は悠翔とそっと唇を重ねる。
もう、抑えきれなくて、我慢できなくて。
私は惹かれるままに悠翔にそっと口付けた。
若干、悠翔も驚いたみたいだったけどそのまま私の行為を受け入れてくれる。
これが私と悠翔の初めてのキス――――。
大好きな人とのファーストキスは少しだけ甘くて優しくて――――。
ああ、そうか――――。
これが、大好きな人とキスをするってことなんだ
そう実感しながら私は悠翔にもっと深く口付ける。
それが悠翔の中にしっかりと残るように。
そして、私の中にずっと刻まれるように。
想いを込めて私は悠翔と唇を重ね合わせる。
大好きな人とこうして口付けを交わしている――――。
本当はとても嬉しいはずなのに――――少しだけ涙が溢れてしまう。
そう、この行為が”今の私”にとっての最後の行為。
だから……もっと身体に、心に残るように。
それだけを考えて私は悠翔と口付けを交わす。
そう、これが――――。
これが、魔導師である私、フェイト=T=ハラオウンの最初で最後のキスだから――――。
From FIN 2009/10/24
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