まさに、あの魔導師が最後に行った一言がその通りとなっている――――。

 俺の思うようにいかないと言うのはこう言ったことだったのか――――?

 確かに俺は魔導殺しに怨みを持つ魔導師を全滅させ、俺に対する脅威を取り除いた。
 これによって俺の周囲を取り巻く状況は一応の解決を見た。
 だが、結局のところは俺を守るために動いたはずのフェイトに処分が下されることになってしまった。
 これが相手の言っていた最後のことなんだろう。
 例え、フェイトを守ったとしても結果的にはこうなると言うことは相手には解っていた。
 そして自らが死ぬことでどうしようも無いようにする――――これが最後の一手だったのだろう。
 この結果がフェイトを管理局内での立場を追い詰めることになってしまった。
 フェイトには俺に関わることでどうなるかは解らない――――覚悟はしろと言っておいたのだが……その通りになってしまった。
 今回の件は確かに解決することが出来た。
 しかし、全てが上手くいったと言うわけでは無い――――それが今回の結果の全てだった。























魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















「申し訳ありません、俺がもっと事態に対処出来ていれば……」
 フェイトが処罰を受けると言うことに対して俺は唯、謝罪することしか出来ない。
 俺が狙われていることに対してもっとうまく立ち回っていればこうはならなかったかもしれない。
 相手の狙いが解っていたのに。
 フェイトの様子が可笑しかったのも解っていたのに。
 俺はそれを確認しなかった。
 フェイトは俺よりも先に情報を掴んでいたから先に動いた。
 あの時のデートの帰りの時点からフェイトの様子が可笑しかったことも踏まえれば既に答えなんて出ていたのに。
 どうして、俺は自分から動かなかった?
 確かに証拠も無いし、フェイトも何でも無いと言っていた。
 だが、あの様子が何でも無いなんて全く考えられないことも解っていた。
 フェイトが言わなかったのも俺が狙われるタイミングが解っていたからだ。
 だから、フェイトは俺を守ろうとして先に行動を起こした――――。
 そんなこと、フェイトの性格を知っている俺なら解っていることだったのに――――。
「いえ、私達の方が迂闊だったのかもしれません。任務として正式に続いているとは考えもしませんでした。普通なら時効になっているはずの事件ですから……」
 リンディさんも溜息を吐きながら今回の事件のことについて言葉にする。
 確かに十年以上も経っていて何事も起きていない事件であり、事実上の撤退が決まっていた任務であればそれは確かに時効になっているとも言える。
 だが、相手側はあえてその事件の当事者である自らが許可を取ると言う形で動いてきた。
 魔導殺しの事件に関わりがあり、尚且つ俺の持っている霊石の回収任務に関しても発見したと言うことにすれば任務再開は可能だ。
 管理局からすれば俺の持っていた霊石は危険な代物だと言っても良いのだから。
「ですが、悠翔君に魔導師が挑んだことで嘗ての事件と同じ結果となってしまいました。唯一つのことを除いて」
「……フェイトのことですね」
「はい、そうなります」
 しかし、今回の事件には大きく違いのある部分が存在している。
 俺の父さんの時もこうして魔導師が全滅したと言う結果であり、事件に関係あった父さんは管理外世界の人間と言うことで管理局側からは沙汰を下せなかった。
 そして、今回も全く同じ状況だ。
 俺は管理外世界の人間であり、魔導師でも無く、この世界の組織の命令を受けて動いた形だ。
 管理局側からすれば大いに不本意だろうが俺に対して干渉することは出来ない。
 だが、それは此方側からも同じことが言える。
 魔導師を全滅させる形になったとは言え、自分達の管理内の世界の出身では無い人間を罪人と扱うことは出来ない。
 結局のところはどちらからも沙汰を下すことが出来ないと言うことになる。
 しかし、管理局の側から見れば違う点としてフェイトの介入があげられる。
 フェイトが今回の件について止めようとしなければおのずと結果が大きく変わっていた可能性が高い。
 実際に俺が剣を取って魔導師に自分から戦いを挑むことも無かったのかもしれないし、魔導師が俺に奇襲を仕掛ける形で終わったのかもしれない。
 だが、フェイトが正式な命令を受けた魔導師の任務を妨害した形になったのは事実だった。
 そして、今回の事件で魔導師を全滅させた張本人である俺に味方すると言う形を取ってしまっている。
 何度も言わせて貰うが、俺自身は管理外世界の人間であり、自分の世界の組織からの許可、または命令を受けている状態で動いているため罪に問うことは出来ない。
 だが、フェイトに関しては事情が違う。
 フェイトは管理局の人間であり、執務官と言う立場にある人間だ。
 その執務官が俺と言う敵役に味方をし、任務の妨害をしたとなれば嫌が上にも処罰を受けるしかない。
 証拠となる映像などは残っていないのだが……今回の事件での生存者がフェイト1人だけと言うのは嫌でも疑いがかかってしまう。
 フェイトだけが今回の事件の顛末を見たことになるのだから。
 しかし、フェイトは俺のことを管理局に話すと言うことは決してしなかった。
 寧ろ、フェイトは俺を守ろうとしたのだから今回の事件のことを言うわけにはいかない。
 初めからフェイトが介入した時点でこの流れは出来あがってしまっていたと言える。
 相手の魔導師が最後に言い遺した、思うようになるとは思わないことだ――――と言うこと。
 まさにその通りの状況がフェイトを取り巻いているのだった。
















 悠翔達と義母さん達の問答を私はずっと黙って聞いている。
 今回の事件は悠翔のお父さんの起こした事件と殆ど同じ状況で結果も同じような状況。
 でも、悠翔が管理外世界の人間であり、この世界の組織の命令で動いていたから管理局は罪に問うことが出来ない。
 多分、夏織さんはこう言った状況を見越して悠翔が動けるようにしていたのかもしれない。
 それに夏織さんは今回の事件の顛末が解らないように全ての証拠となる物を処分していた。
 だから、今回の結果に関しては解る人にしか解らないし、悠翔が関わっていたって言うこともはっきりと断定は出来ない。
 こう言ったことから考えて寧ろ、悠翔と魔導師との一連の結果は無かったことにした方が良いと言う結果だって言っても良いと思う。
 悠翔とのことが公に出来ない以上、今回の事件のことは全て私の方に責任が向けられてくる。
 今回の執務官としての活動停止と言うのも予想の範疇だった。
 このまま話が進んでいけば私は魔導師として管理局に所属したままでいるのも良くないかもしれない。
 嘗ての私はPT事件を起こした方の側にいたのだから、罪を起こした側に味方するのは二度目になっている。
 以前の時は状況とクロノ達の尽力によって私は殆ど無罪で済んだけれど……今回に関してはどうすることも出来ない。
 一度目は流石に目を瞑ってくれたけれど……二度目は無いと思う。
 私は悠翔を守るために行動したつもりだったけれど、それはあくまで私の事情。
 悠翔は多分、自分で事態を収拾してしまうつもりだったんだと思う。
 一度おきてしまったことには”もし”なんて言葉は無いけれど……もし、私が動かなかったら悠翔は自分で身を守ったんだと思う。
 悠翔は私と一緒にいた時から既に魔導師の気配を自分で見極めていた。
 隠蔽の魔法も悠翔には全く通じなくて、あれなら奇襲を受けたとしても奇襲になんてならなかったと思う。
 悠翔はそれを解っていたから私には何も伝えなかった。
 あえて、奇襲を受けた時点で対処をして相手側に罪を問わせようと思っていたのかもしれない。
 だけど、私が介入したことで悠翔は私を助けるために魔導師に戦いを挑むことになった。
 結局のところ悠翔が私一人のために自分から介入したのが今回の事件の頭打ちの部分になる。
 でも、悠翔は私のために全く躊躇い無く魔導師と戦った。
 結果がどうなるかよりも悠翔は私一人のためだけに動いてくれた。
 それが余りにも嬉しくて悲しくて。
 私は自分でどうすれば良いのか解らなくなってしまう。
 考えてもどうすれば良いのかなんて解らないし、何が最善かなんて……。

 ――――ううん、一つだけあるかもしれない

 でも、それは……私がなのはやはやて達と一緒に立つことが出来なくなると言うこと。
 だけど、事態を丸く収める上で私自身が責任を負うと言う意味ではこれが一番良い。

 ――――ごめんね、アルフ、バルディッシュ……

 そう、私の出せる結論はこれしかない。
 心の中で謝りながら私はバルディッシュを取り出す。
 私の出した結論はアルフやバルディッシュとの別れを示している。
 元々、バルディッシュは管理局の物では無いからこんなことは必要無いかもしれない。
 だけど、責任を取ると言う意味ではこうするしか無いと思う。
 私の考えていることを理解してくれたバルディッシュが僅かに反応する。
 バルディッシュもあくまで私につきあってくれるみたいで――――感謝しても感謝しきれない。
 大事なバルディッシュが後を押してくれる――――だから、私も決断する。
















 魔導師を辞めると言うことを――――。
















「……義母さん」
 俺達の問答をずっと黙っていたフェイトがゆっくりと愛用のデバイスを取り出しながら口を開く。
 デバイスを取り出したフェイトはそれをそのままリンディさんとクロノさんの前に差し出し――――こう言葉を紡ぐ。
「今回の件の責任は全て私にあります。ですから――――私は責任をとって魔導師を辞めさせて頂きます」
 フェイトの言い放った一言はこの場にいる全員を黙らせるには充分な一言だった。
 今回の件に関わったことでフェイトが責任をとる形にはなってしまっているが……これは過失でしか無いはずだ。
 確かにある程度の責任は負わなければならないかもしれないがここまではしなくても良い。
 この場にいる誰もがそう思ったに違いない。
「私は執務官としていながら、今回の件に関して正式な任務よりも唯一人の人を優先させました」
「しかも、管理局からすれば事件を起こした側の人を守ったことになります。それは決して認められることではありません」
「恐らくは管理局内でも認められることなんて無いと思います。ですから、私が責任を取って辞めることによってこのことを不問にして頂きたいのです」
 はっきりとフェイトは言葉を紡いでいく。
 その瞳の中に迷いの光は全く感じられない。
「フェイト……」
「きっと……ここまでやらないと他の魔導師達の収まりもつきません。それに私は……悠翔と共に歩む道を選びたいです。だから――――」
「……魔導師を辞めて、管理局から離れることで責任を負うと言うつもりね」
「はい」
 フェイトの結論は俺と共に歩むために管理局を離れると言うこと――――。
 それも全ての責任を負うと言う形で――――。
「……本気なのね?」
「うん」
 過失でしか無い今回のフェイトの介入だが……彼女はあくまで俺と共に歩む道を選んだ。
 管理局側として魔導殺しと呼ばれた父さんと同じことをした俺の存在を認めるわけにはいかないだろう。
 例え、何かしらの事情があったとしてもだ。
 時が解決してくれると言う可能性もあるのだろうが、それはそれで数年以上は待たなくてはならない。
 とにかく、問題なのは今であり、俺の行った行動についてはどちらにしろ問題がある。
 管理局の法律上、時空犯罪者扱いに出来ない上に表向きは管理外世界での組織の命令を受けている――――。
 これほど、都合が良くて都合の悪いと言う立場にいると言うのは厄介なのだろう。
 だが、フェイトがそんな俺と共に歩むと言う選択を選ぶには管理局との関係を止めなくてはならない。
 要するにフェイトが今、出している結論と言うのはそう言うことだろうと言える。
「そこまで言うなら……解りました。フェイトのことは手続きをしておきます」
 フェイトの意志に迷いが無いと言うことを認めたリンディさんは暫くの間の後に頷く。
 もう、フェイトがここまで言うのなら止めても無駄だと言うことがはっきりと解ったんだろう。
「ごめんなさい……義母さん」
「……フェイトが自分で選んだ結論ですもの、私からは何も言うことは無いわ。そうまでして悠翔君を選んだのだから……しっかりとね」
「うん……!」
 フェイトが選んだ結論――――。
 それは俺と共に歩むと言うこと――――。
 信念を持って魔導師として務めてきたにも関わらずフェイトは俺と言うたった一人の人を選んだ。
 フェイトは覚悟を既に決めている――――だったら俺から何も言うことは無い。
 大切な彼女が魔導師として在ることよりも俺と共に歩むことを選んでくれたと言うこと――――。
 だったら、俺に出来ることはそんなフェイトの気持ちをしっかりと汲み取ってあげることだけだ。
 それが、覚悟を決めて決断してくれたフェイトに向き合うことなんだと思う。

 そう――――それが俺に求められた応えなんだ




































 From FIN  2009/10/8



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