一人の大切な女の子を守るためだったとはいえ、俺の行動は管理局からすればとんでもないことだ。
しかも、この件で執務官であるはずのフェイトも俺の側に回っている。
管理局と言う組織からすれば頭の痛い問題だろう。
今回の事件に関わった魔導師は管理局に対して独断で動いたと言うことらしいが証拠は無い。
寧ろ、魔導殺しに反感を持っている魔導師は多いくらいで正式に命令を下した人物がいる可能性だって考えられる。
それだけ魔導殺しと言う名前は重くて大きい。
ましてや、その息子が表舞台に登場し、同じような事件を起こした。
しかも、以前とは形が大きく違い、魔導殺しであるはずの俺の方がこの世界における言い分を通してしまっている。
管理局側からしても非があると全面的には言えないと言う状態となってしまっている。
これも夏織さんが先に現場を抑えてくれていた御蔭だと言える。
「悠翔もこうして出歩けるようになったことだし……管理局との問答も近いわね」
「そうですね。夏織さんの御蔭で事は有利に運びそうですけど」
「でも、悠翔の処遇がどうなるかは解らないわ。それは悠翔も解っているわね?」
「……はい、解っています」
そう、夏織さんの言う通り俺の処遇がどうなるかは解らない。
此方側として特に大きな問題は無いが――――管理局の側からすると俺がどうなるか。
それが全く、解らない。
嘗てと状況がかなり違うとはいえ、俺の父さんと同じことをしてしまった。
怨みを持つ人間は全滅しているため個人的な意味で後に尾を引くことは無いだろうと思う。
しかし、管理局からすれば俺は畏怖の対象となってしまっている。
このことが今後どうなるか――――未だにリンディさんからの話は来ていない。
だが、これだけは解っている。
リンディさんから話が来たらその時で決まってしまうのだと言うことが――――。
魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
――――更に次の日
俺は夏織さん達と一緒にハラオウン家に呼ばれていた。
魔導師達と交戦した結果についてと俺が今後どうするかの話と言うことでクロノさんから連絡があったのは昨日の夜のことだった。
「まず、今回の件は申し訳ありませんでした。事前に止めることが出来ず、申し訳ありません」
ハラオウン家に呼ばれて席について開口一番にリンディさんから謝罪の言葉が発せられる。
「調べて解ったのですが……魔導殺しに怨みを持っている一派が独自に動き、過去の事件の命令を引き継いだ形で今回の件は動いていました」
俺は今のリンディさんの話を聞いて愕然とした。
リンディさんからの言葉を聞く限り、ある意味で最悪の事態だと言える。
今回の件は一部の魔導師が独自に動いたと言うのは間違い無い。
だが、過去の命令を引き継いでいる形で動いていたということが大きいことだと言える。
過去の命令を引き継いでいる形だと言うことは夏織さんから渡された霊石の回収任務だったと言うことだ。
多少、独断で動いていたとしても組織の命令で動いたと言うのならばそれは正式なものとなる。
そして、父さんの時と同じように俺が魔導師の任務を妨害した――――。
形はどうであれ、俺の存在が任務に大きな影響を与えたと言うことになる。
充分に相手の性格を踏まえればそう言った手を使ってくることも考えられたが……俺の方も事態の認識が甘かったのかもしれない。
正式な任務として動いていたと言う可能性に関しては初めの段階から零とは言い切れなかったからだ。
「今回の件に関与した魔導師は正式に命令を実行していたに過ぎないと言う形であったため、管理局側は疑問を持っています」
管理局側が俺の行動に疑問を持っている――――。
それは当然のことであり、予測通りのことであると言える。
「任務に参加した魔導師達は何者かに殺されたと言う形になってしまっているので……」
リンディさんの言っている通り、今回の件に関わった魔導師は俺と交戦し、全員が死亡した。
どうして、何者かと言う形になっているのは映像と言う証拠が残っていないからだ。
しかし、結果的には魔導師が殺されたという形と言うよりは俺が殺したと言うのが実際のところだ。
「いえ、それは当然のことです。俺は確かに魔導師全員を斬って捨てましたから」
だから、俺が答えるべき言葉はこうだとしか言いようが無い。
普通に見ても非難されるのが当たり前で、正統性なんてあるわけも無い。
管理局の視点からすれば俺が任務の妨害者であり、魔導師達を殺した張本人だ。
これは紛れも無い事実だし、取り繕うことなんて出来ない。
例え、今回の事件に関わった物が一切、残っていない状態にあるのだとしても。
しかし、此方からすれば命を狙われたと言うことと人質を取られたという言い分がある。
少なくとも此方側の原因としては人質を助けるために戦闘行為を行ったと言うことになる。
そして、殺傷を前提としての戦闘は此方の世界では普通のことである。
結局のところは平行線上の意見だとしか言いようが無い。
此方からすれば管理局側が人質を取り、俺の命を狙ってきたと言うこと。
管理局側からすれば任務を妨害し、魔導師を全滅させたと言うこと。
あくまで互いの言い分が片一方の側の視点にしか正統性が無い。
この点においては双方の意見が譲ることも無いため、決裂するしかない。
何しろ、今回の件は人の命がかかっていたのだから――――。
意見がどうにも譲らないまま暫しの時間が流れる――――。
リンディさんもこの場に立ち会っているクロノさんも――――そして、フェイトと俺と夏織さんも黙ったままだ。
言うべきことはあるのかもしれない――――だけど、どちらもそれを口に出さないと言うだけだ。
この沈黙がどのくらい続いたか解らないくらいのところでクロノさんがゆっくりと口を開く。
「今回の件はこうすることでしか、解決出来なかったのか?」
無念そうな表情で俺に尋ねるクロノさん。
こうすることでしか解決出来なかった――――と言うこと。
考えてみるが、それはどうだろうか――――?
少なくとも穏便に済ませるには双方の意志が離れ過ぎていたと思う。
魔導師側の意志もあったのだろうが、此方にも意志がある。
互いの思う意志に大きな差があり過ぎた――――それも一つの要因だと思う。
だが、少なくとも穏便に済ませる可能性が無かったわけでは無い気がする。
相手の名分が霊石の回収任務を引き継いでいる形であったと言うことなら俺が霊石を渡した時点でその名分は失われる。
それでも戦闘行為が止められたと言うことは考えにくいが、結果に変動が生まれた可能性は充分にある。
しかし、相手側がそのような事情を持っていたと言うことを此方側は知らなかった。
当然、霊石を渡すと言う選択肢などは存在しないし、理解することも出来ないだろう。
結局のところは霊石を回収しに来たと言う形であっても戦うと言う選択肢しか存在しなかった。
(考えても意味が無いことか……。どちらにしろ俺の取る行動は最善の形を取ることは無かったのだろうから)
今回の件で問題をあげるとするならば魔導師側がフェイトを人質に取ったと言う点にある。
だが、相手側の名分からすると任務の妨害をしたフェイトを捕えたと言う形になる。
そして、そのまま今回のターゲットの持ち主である俺が霊石を渡さなかったため交戦することになったと言う形だ。
この結果が魔導師の全滅へと直結している――――。
あくまでこれが魔導師側の言い分ではあるのだが、これは確かにその通りであって否定する理由も無い。
今回の魔導師の任務は俺の持っている霊石を回収すると言うのが任務。
その持ち主である俺に交渉を持ちかけるのは当然だ。
しかし、俺は魔導師と交戦し、結果的に全滅させた。
俺が魔導師を全滅させた理由にフェイトを人質に取られたと言う理由があったとしてもその証拠が無い。
魔導師の行動内容自体は管理局には伝わっておらず、現場判断でと言う形になっているのだろうから。
そして、現場の人間に問い詰めようにも全員が死亡している。
尤も、最終的には霊石を破壊されたため、痛み分けであると言った形ではあるが……。
結果的には真相と言うものは闇の中に葬られてしまっていると言うことだ。
せめて、映像くらいでも残っていれば良かったのだろうが、それもすらも残っていないためどうすることも出来ない。
逆に此方側の方からしてみればフェイトと言う一人の女の子を助けるために戦闘行為に及んだと言うことになる。
魔導師は此方の世界では認知されておらず、今回の件のような形では暗殺者などのような刺客扱いでしか無い。
相手に対して、交渉するか全滅させるかが選択肢と言ったところではあったが、双方の意識の相違から交渉と言う選択肢は存在しない。
それ故に戦闘行為へと及び、結果的に魔導師を全滅させることで人質を助けた。
夏織さんからも既にそう言った指示で動くようにとなっていたし、警防隊の方からも人質救出と言う命令が下っていることになっていた。
結果的に双方とも任務で動いたと言うことになる。
だから、どちらの視点で見たとしても組織と言う意味合いでは間違っていない。
「他に結果は生まれたかもしれませんが……今回の件は双方の意志が相容れなかったとしか言えません」
双方の意志が相容れない、そして合意しない。
だったら今回のような結果になるのは当然のことだったと思う。
双方とも事情が一致しないままで戦うことになったのだから――――。
「……解りました。ですが……事情があったにせよ、今回の件は認めるわけにはいきません。それは、其方の方でも同じなのでしょう?」
「ええ、そうですね。貴方が言っている通り、此方も認めるわけにはいかないわね」
「でしたら……互いに譲歩するしかありませんね」
「そうでしょうね」
夏織さんとリンディさんが視線をぶつけ合いながら話の纏めにかかる。
何処かで譲歩しなければ物事は解決しない――――そう言うことだろう。
「今回の件でまず、悠翔君は――――」
「本来なら何かしらの処分を受けた上で管理局に対して協力するかどうかと言ったところなんでしょう?」
「はい、そうです。管理局は慢性的な人材不足であり、過去には拘わりません。ですが……」
リンディさんが俺に対しての条件を提示していく。
「悠翔君は管理外世界の人間であり魔導師でもありません。ですから悠翔君には――――条件が求められないのです」
「成る程……それは逆に厄介だと言うことね」
「申し訳ありませんが、そう言うことになります。悠翔君は……都合が取れない立場にあると言うことになりますので」
夏織さんとリンディさんの言う俺の立場は都合が取れない――――。
俺は管理外世界の人間であり、管理局の干渉が出来ない立場にある。
それに魔力が無いため、管理局に引き込むと言う理由も無い。
その双方からして俺は都合の良い立場では無いと言うことになる。
「悠翔君の近接戦闘の経験と技術は教導と言う視点からすればとても大きいものだわ。でも……」
「……はい。俺の剣はあくまで殺人術であり、守ると言う理念で同じ部分があったとしても、魔導師のような非殺傷と言う理念はありません」
御神の剣は確かに守るためにある。
しかし、魔導師のように非殺傷と言う真似は出来ない。
力を振るう理念は同じかもしれないがその点において大きな違いがあると言うのは以前にも言ってある。
だから、俺の剣は管理局の中で振るうことは出来ないのだと。
「解りました……。では、悠翔君にはこれ以上は何もありません。管理局で取ったデータも全て抹消し、悠翔君の存在は無かったことにしておきます」
「リンディさん……」
「本当は悠翔君が犯人と言う扱いになるのだと思います。ですが……貴方は管理外世界の人間であり、管理局も基本的に干渉は出来ない立場にあります」
「……だから、俺には処置を下せないと言うことですか」
「はい、そうなります。尤も、悠翔君は時空に対する犯罪を犯したわけではありませんし……それに、悠翔君が遣ったと言う証拠となる映像もありませんから」
だからと言って俺に正統性があるなんてことは在り得ない。
俺が管理局に対して刃を向けたのは明らかなことなのだから。
因みに今回の件で映像が残っていないと言うのは……夏織さん達が全て処分したからだ。
夏織さんは証拠を残さないようにと魔導師達のデバイスを一つ残らず破壊し、俺が魔導師を斬ったと言う証拠となる物を処分してしまった。
だから、リンディさんの様に事情を解っている人以外には俺が関わったと言うことは解らない。
「それに悠翔君はこの世界の組織の指揮下で動いています。管理局側としては一切、関わることすらも許されていません」
その上でリンディさんは俺が香港国際警防隊の指揮下にあると言うことから何も出来ないと言っている。
「ですから、悠翔君のことは一切、触れることが出来ないと言うことで結論が出ました」
「……そうですか」
この言い分からすると今回の件に関しては管理局側としても俺の父さんの時と同じように事件を無かったことにしたいのだろう。
ましてや、以前と同じ管理局外世界での出来事である。
表沙汰にするには不都合な部分が多過ぎる。
このようなことが管理局内で広がってしまっては更なる混乱を生むだけだ。
事態を収拾するためにはこの話を無かったことするにしかない――――。
だったら、俺からは何も言うことは無いのだが――――だが、俺には気になることがある。
「……リンディさん。一つ良いですか?」
「なんでしょうか?」
「今回、俺に対して干渉は出来ないと言うことですが……フェイトはどうなるんですか?」
「フェイトは……執務官としての活動停止の処分が下される予定です」
「……リンディさん」
「本当はフェイトがどうしてこう言った行動を取ったかは解っています。ですが……」
「立場上、不問にすることは出来ないと言うことですか」
「……はい。そうです」
そう言って目を伏せるリンディさん。
本当はフェイトが俺を守るために動いたことが解っているんだろう。
以前から魔導殺しを狙っている人物がいると言うことは先の俺が管理局に行った時に明らかになっている。
しかし、その魔導師達が正式な命令を受けたと言うことになっていたのが今回のフェイトのことにも繋がっている。
だからフェイトの行動が人を守るための行動だったとしても正統性が無くなってしまっていると言うことになった。
まさに、あの魔導師が最後に行った一言がその通りとなっている――――。
俺の思うようにいかないと言うのはこう言ったことだったのか――――?
確かに俺は魔導殺しに怨みを持つ魔導師を全滅させ、俺に対する脅威を取り除いた。
これによって俺の周囲を取り巻く状況は一応の解決を見た。
だが、結局のところは俺を守るために動いたはずのフェイトに処分が下されることになってしまった。
これが相手の言っていた最後のことなんだろう。
例え、フェイトを守ったとしても結果的にはこうなると言うことは相手には解っていた。
そして自らが死ぬことでどうしようも無いようにする――――これが最後の一手だったのだろう。
この結果がフェイトを管理局内での立場を追い詰めることになってしまった。
フェイトには俺に関わることでどうなるかは解らない――――覚悟はしろと言っておいたのだが……その通りになってしまった。
今回の件は確かに解決することが出来た。
しかし、全てが上手くいったと言うわけでは無い――――それが今回の結果の全てだった。
From FIN 2009/9/19
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