「……解りました。それでは行きましょう」
「はい!」
 俺の意志を汲み取ったフィリス先生に連れられて俺は手術室へと連れられて行く。
 遂に俺にとっての最後の戦いが始まろうとしている。
 治るか、治らないか――――それは二つに一つ。
 今後も付き合っていかなくてはならない俺の利き腕――――。
 それが今回の手術で全てに決着がつく。
 魔導殺しの件に一応の決着がついた今、俺の最後の戦いと言っても良いのはこの利き腕のことだ。
 御神の剣士として、不破悠翔として――――俺はこの時を迎える。
 もう、ここまで来たら俺の成すべきことは唯、一つだ。
 剣士として上の段階に進むためにも――――。
 そして、大切な女の子を今後も守り続けるためにも――――。
 逃げると言う選択肢なんて存在しない。
 こうして、全ての覚悟を済ませた俺は手術と言う名の最後の時に挑んでいくのだった。























魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 ――――数日後





 フィリス先生の下で手術を迎えた俺はとりあえずは順調な経過を迎えていた。
 俺の左腕の状態は考えていた通りに酷い有様で、あの戦いで無理矢理に雷徹を遣ったのが止めとなっていたと言った感じだった。
 結果として、手術でも普通にはもう治らないと言うことで生体材料と呼ばれるものを入れると言うことになってしまった。
 所謂、人工筋肉や人工関節などに用いられるものを使って壊れた左腕を治したと言う形だ。
 幸いにして腕そのものが無くなったわけじゃないので、生体材料で一部を補ったと言う方法をとったと言うことらしい。
 そう言った事情からも俺の左腕の機能が失われたと言うわけじゃない。
 一応は時が経てば鍛えたりすることも出来るようになるとか。
 寧ろ、左腕を壊す前とそこまでは変わらないと言った状態だとフィリス先生は言っていた。
 流石に恭也さんが言っている通りに無理をし過ぎれば反動が来るのは変わらないみたいだが……。
 これは生体材料と身体の機能が馴染んでくればある程度は気にならなくなってくるらしい。
 後は動かせるようになってからじゃないと実感は出来ないから何とも言えないが……。
 だけど、形はどうであれ漸く、俺の左腕は元の状態と言っても良い段階に戻ることになる。
 恐らくはフィリス先生で無ければ、殆ど絶望的であった状態からここまで治すことなんて出来なかっただろう。
 それだけ俺の左腕は酷い状態だっと言える。
 だが、フィリス先生の御蔭で怪我していたのをそのままにしてきた時よりも良い状態に治った。
 そのことには感謝しても感謝しきれない。
 今までは左腕を限定的にと言う術でどうにかしていたが、今後はそれも含めて剣術の幅を広げることが出来る。
 左腕を存分に遣えなくなってからは御神の剣士としては完成出来ないだろうとも考えていたが……望みもまた出てきた。
 もう暫くして左腕が完全に動かせるようになったら、徐々に慣らしていこう――――そう思う。
 また、御神の剣士として高みを目指せる――――それは本当に嬉しいことだった。
 利き腕を潰したと言う時点で一度は俺も御神の剣士としての道を諦めようと思ったのだから。
 あの時は剣士としてもう駄目だとも考えた。
 だけど、諦めなかったからこそこうして今も俺は御神の剣士としてここにいる。
 左腕が動くまで回復した後、他の古流剣術を参考に独自の剣術を身に付けることによってそれを補おうとした。
 その結果として今の俺がここにいる。
 そして、剣士としての俺がここにいる。
 だから左腕を潰したことも決して後悔はしていない。
 左腕を潰したからこそ手に入れられたものもあるのだから――――。
















 俺はこうして無事だったが、今回の事件に関与した魔導師達はそうでは無かった。
 フェイトを助けるために俺が斬り捨てた魔導師達は全員、死亡したと言う結果が出ている。
 元々、俺は相手の魔導師を生かそうと考えていなかったが、やはり、助かった魔導師はいなかったらしい。
 死亡の原因は斬られた時の傷によるもの――――。
 もしかしたら、場合によっては医療魔法なら治せると言うのもあったのかもしれない。
 だが、俺は魔導師を斬り捨てた際、再起不能になるようにしていたつもりだ。
 寧ろ、生きていた方が可笑しいと思っても良い。
 実際に一対多数の戦いになった時点で生かすように戦うなんて言う余裕なんて無い。
 そんなことが出来るのは人間技では無いと言っても良いくらいだ。
 それ故に魔導師全員には深手を負わせていた。
 戦うことになった以上、手加減なんて考えられない。
 精々、死なないかどうかくらいで済ませるので限界だった。
 結局、俺と戦ったことが原因で全員が死亡した。
 これは俺が招いた結果であり、背負わなくてはならない結果だ。
 皮肉にも俺は父さんと同じ、魔導殺しとなったのだと言えるかもしれない。
 今回の件の首謀者も俺の放った雷徹と霊石によって魔力を消滅させられた影響で助かることは無かった。
 魔力と言う力の根源が無くなり、自分で応急処置を施すことも出来なかったからだ。
 しかも、俺は彼のその最後をきっちりと見届けている。
 結果としては俺の方も霊石を失ってしまったため、痛み分けと言ったところだが……結局は誰も助からなかったわけだ。
 本当は誰も殺さずに済む方法があったのかもしれない――――。
 だけど、俺の力ではそんなことは到底出来はしなかった――――。
 今回の結果は当然のことだったのかもしれない。
 戦う以上、生かすと言う選択肢は無く、何より大切な人を人質に取った。
 その時点で最早、和解することは不可能だったと思う。
 戦うことでしか解決出来ないのであれば、剣を取って戦うのみ――――。
 それがこの結果だとするならば――――御神の剣士としては間違ってはいない。
 大切な人を守るために剣を取ったのだから。
 阻む覚悟があるなら阻まれる覚悟をせよ。
 覚悟が――――出来たのならば剣を取れ。
 俺が剣を取って戦ったのはそのことを念願に置いていたからだ。
 だけど、この結果に俺は何一つ後悔なんてしていない。
 大切な女の子――――フェイトを守りきることが出来たのだから――――。
















 因みに今回の事件について後のことは夏織さんが処理をしてくれた。
 俺が手術を受けている間に夏織さんは管理局側よりも先に現場を抑え、その上で管理局側に駆け引きが出来るように事の顛末を全て洗い出した。
 香港国際警防隊の方にも初めから手を回しておいてくれていた御蔭で俺が今回の行動を取ったことは人質解放と言う動機になっている。
 とは言っても元々からフェイトを助けるために動いたのだから現実に差異はあまり無い。
 大きく違うのは俺が魔導師を斬り捨てたことが警防隊の指揮下のことであると言うことになっていることだ。
 夏織さんは事が起きる前に初めから俺が今回のような行動を取った場合に備えてくれていた。
 その御蔭で俺はこうして御咎めらしい御咎めは受けていない。
 人を斬ったと言う事実はあれど、世間的には正当な行動として解釈されるように夏織さんが根回しをしている。
 元々、御神の剣士はこう言った世界に身を置いているため人を斬ると言うことは別に珍しくは無い。
 俺も護衛に参加したりしている時は人を斬ると言う経験をしている。
 未だに年齢としては若過ぎるのは自分でも実感している。
 だけど、こうして俺が剣を取っているのは決して遊びなんかじゃない。
 父さんの後を継いで御神の剣士となった今では覚悟も終わっている。
 今回の件を綺麗に収められなかったのは残念だったが……これも俺の力が至らない故だ。
「夏織さん、すいませんでした。俺の性でこんなことになってしまって。それに……霊石も失ってしまいました」
「ううん、気にしなくて良いわ。あの状態で悠翔は良くやったと思う」
 俺が1人で魔導師と戦い、全員をなんとかしたものの霊石を失ってしまった。
 しかし、この結果に夏織さんが責める様子は無い。
 寧ろ、出来る範囲で事を済ませたと言う点について評価してくれている。
「ですが……」
「確かに今回のことは犠牲が多いかもしれない。だけど、貴方は無事に一臣から続いている因縁に片を付けた。それは紛れもない事実のはずよ」
「……夏織さん」
「だから、貴方が恥じる必要は無いわ。寧ろ、ここから先の管理局との問答が問題ね」
「……はい」
 確かに夏織さんの言う通り、管理局との問答は大きな問題となっていくだろう。
 俺は管理局に対して遣ってはならないことをしている。
 殺傷を前提とした戦闘行為――――そして、魔導師を全滅させたと言うこと。
 一人の大切な女の子を守るためだったとはいえ、俺の行動は管理局からすればとんでもないことだ。
 しかも、この件で執務官であるはずのフェイトも俺の側に回っている。
 管理局と言う組織からすれば頭の痛い問題だろう。
 今回の事件に関わった魔導師は管理局に対して独断で動いたと言うことらしいが証拠は無い。
 寧ろ、魔導殺しに反感を持っている魔導師は多いくらいで正式に命令を下した人物がいる可能性だって考えられる。
 それだけ魔導殺しと言う名前は重くて大きい。
 ましてや、その息子が表舞台に登場し、同じような事件を起こした。
 しかも、以前とは形が大きく違い、魔導殺しであるはずの俺の方がこの世界における言い分を通してしまっている。
 管理局側からしても非があると全面的には言えないと言う状態となってしまっている。
 これも夏織さんが先に現場を抑えてくれていた御蔭だと言える。
「悠翔もこうして出歩けるようになったことだし……管理局との問答も近いわね」
「そうですね。夏織さんの御蔭で事は有利に運びそうですけど」
「でも、悠翔の処遇がどうなるかは解らないわ。それは悠翔も解っているわね?」
「……はい、解っています」
 そう、夏織さんの言う通り俺の処遇がどうなるかは解らない。
 此方側として特に大きな問題は無いが――――管理局の側からすると俺がどうなるか。
 それが全く、解らない。
 嘗てと状況がかなり違うとはいえ、俺の父さんと同じことをしてしまった。
 怨みを持つ人間は全滅しているため個人的な意味で後に尾を引くことは無いだろうと思う。
 しかし、管理局からすれば俺は畏怖の対象となってしまっている。
 このことが今後どうなるか――――未だにリンディさんからの話は来ていない。
 だが、これだけは解っている。
 リンディさんから話が来たらその時で決まってしまうのだと言うことが――――。




































 From FIN  2009/9/14



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