悠翔は私じゃ考えられないようなことをしてきた人で。
 私から見たら普通じゃないことだって経験している。
 だから今回のようなケースも悠翔は全く動じていなくて。
 それどころか、躊躇うことも無く私のために自分の身体を張ってくれた。
 悠翔の信念は守ることにあるって自分で言っていたけど……。
 本当に悠翔はそれを実践してしまうような人間で。
 思わず私の胸もどきっと高鳴ってしまう。
 危ないと解っていても大事な人のためなら身体を張ってでも助けてくれる――――。
 出会ってまだそんなに経っていないけど……私の大好きな悠翔はそんな人。
 それを改めて実感しながら私は悠翔の手当てを済ませていくのだった。























魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 暫くの時間をかけて漸く、悠翔の手当てが終わる。
 なんとか、血の方も止まったみたい――――左腕を除いて。
「ごめんね、左腕だけは手当て出来なくて」
「……いや、構わないさ。ここまで遣ったのは俺の責任だし」
 悠翔は手当ての終わった腕を軽く動かして見せる。
 だけど、左腕だけはやっぱり駄目みたいで。
 さっきの奥義の時に凄い音がしていたから悠翔の左腕も如何かなってしまったのかもしれない。
「それに、フィリス先生ならなんとかしてくれる。俺はそう思ってる」
「……うん」
 悠翔の言葉に頷く私だけどここまでさせてしまったことが申し訳なくて私は俯いてしまう。
 私の様子を察してくれたのか悠翔が私の頭を優しく撫でてくれる。
 悠翔に撫でて貰った箇所は何処となく、暖かくて優しくて……。
 私の気持ちも少しずつ落ち着いていく。
 悠翔は全部解っててここまで遣ってくれたんだから……。
 落ち込んでいるよりも笑顔でいた方が悠翔も喜んでくれる。
 だったら、私も落ち込みっぱなしでなんていられない。
 私に出来る精一杯で悠翔の接しようって思う。
「悠翔、後は私と恭也に任せて貴方は先に病院に行きなさい。まだ、時間には間に合うわ」
 私が落ち着いた頃合いを見計らって夏織さんが悠翔に声をかける。
 時間帯を見てみると既に12時近くになっていて。
 悠翔は病院に行かなくてはいけない時間になってしまっている。
「……解りました。後はお願いします」
 悠翔も夏織さんの言っている意味が解ったらしく、頷いている。
 これ以上、悠翔がこの場に残ると言うのは大きなトラブルを抱えたままと言うことになる。
 魔導師をこれだけ斬り捨てたりしたのは悠翔――――。
 悠翔は全てを解っていてこうしたのは明らかで。
 これが全て私を助けるために遣ったって言うのも間違いが無くて……。
 それでも、はっきりとしていることがある。
 それは、悠翔では今回のことを弁明なんて出来ないってこと――――。
















 夏織さんに促されて俺達は病院へと向かった。
 移動する間、フェイトは俺にずっとベッタリと言った感じで、随分と心配をかけてしまったことがはっきりと解る。
 フェイトは俺の左腕のことを気にしていた様子だったが……俺は気にしなくても良いとフェイトに言った。
 何度も言うが、これは俺の責任であってフェイトの責任じゃない。
 寧ろ、大切な彼女を守るためにこうなったのだから悔いはない。
 今から手術が控えているが――――例え、この手術で治らなかったとしても俺は決して後悔はしない。
 俺の左腕のことなんかよりもフェイトのことの方がずっと大切な存在なのだから。
 フェイトを守れなかったと言うことの方がずっと辛いと断言出来る。
 俺の意義は大切な人を守ることにあって御神の剣は大切な人を守るためにある。
 それは当然、不破の剣だってそれは変わらない。
 御神の剣士としてそれに殉じたと言うのもある。 
 だが、それ以上に俺の意志はフェイトと言う大切な女の子を守ると言うことにあった。
 フェイトを守るためだったらどんなこともやってみせる――――それを実行したに過ぎない。
 結果としてはこうなってしまったが俺に出来る最善のことをしたまでだ。
 フェイトが無事だったのだから俺としてはこれで良かったんだと思っている。
「悠翔……」
「……ああ、いってくる」
 フェイトと短く言葉を交わして、俺はフィリス先生の下へ向う。
 無理はするなと言われていたのにも関わらず、俺はここまで遣ってしまった。
 フィリス先生から何を言われるか解らないが……これも既に承知していることだ。
 ここまで遣ったのは他ならぬ俺の責任なのだから。
 患者として決して褒められたようなものではないがフィリス先生に任せるしかない。
 俺にはこの左腕をどうすることなんて出来ないんだから。
 意を決して俺はフィリス先生のいる医務室へと入っていく。
 今日で俺の左腕のことの全てに決着がつくことになる――――。
 アリサやすずかを守るために怪我を負った左腕――――。
 そして、フェイトを守るためにここまで傷を負ってしまった左腕――――。
 誰かを守るためにこうなってしまった左腕だが――――。
 尚更、このままにしておくわけにはいかない。
 大切な女の子であるフェイトを守るためにも俺はこの左腕を治さなくてはならない。
 そして、遂にこの時が来た――――。
 そう、これで最後なんだ――――。
















「これは、随分と派手にやりましたね……」
 フィリス先生と会って俺が第一声に言われたのはこれだった。
 俺の左腕の様子を見ながら溜息を吐き、更に俺の四肢の怪我を見て溜息を吐くフィリス先生。
 既に俺は恭也さんのようなタイプだと言うように思われているのでフィリス先生からみても俺の今回の状態は予測の範囲内ではあったらしい。
 思ったよりもフィリス先生は驚いた様子をしていない。
「左腕だけじゃなくて四肢の全部を怪我してくるなんて……。やっぱり、何かあったんですね?」
「はい」
「……解りました。ですが、悠翔君にも事情があるんでしょうからこれ以上は聞きません」
「すいません、有り難うございます」
 俺の事情を察してくれたフィリス先生はこれ以上の詮索をしないと言ってくれる。
 俺から血の匂いがまだするのはフィリス先生も解っているはずだ。
 それをあえて何も言わずに処理をし始めてくれているフィリス先生には感謝するしかない。
 左腕以外の包帯を外し、傷跡を綺麗に消毒し直していく。
 これから手術をするのだから包帯を巻きっぱなしと言うわけにもいかない。
 手慣れた手つきで次々と作業を進めていくフィリス先生。
 恭也さんもこう言った傷を負うことが多いのか本当にフィリス先生の作業には迷いが無い。
「いよいよですが……悠翔君の左腕は今回でまた大きく傷ついています。手術にも影響があるかもしれません。それでも良いですね?」
   一通りの処置を済ませて、フィリス先生がいよいよその時だと言うことを促す。
 フィリス先生は俺の左腕が大きく傷ついていることによって影響があるとも言っているが、既に俺の覚悟は終わっている。
 もし、これで影響があるんだとしても大切な女の子を守るためにこうなったのだからどんなことになっても悔いは無い。
 万が一、治らないのであったとしても俺は自分の左腕と向き合っていく――――。
 もう、心の準備なんて終わっている。
 後はフィリス先生を信じるだけだ。
「……解りました。それでは行きましょう」
「はい!」
 俺の意志を汲み取ったフィリス先生に連れられて俺は手術室へと連れられて行く。
 遂に俺にとっての最後の戦いが始まろうとしている。
 治るか、治らないか――――それは二つに一つ。
 今後も付き合っていかなくてはならない俺の利き腕――――。
 それが今回の手術で全てに決着がつく。
 魔導殺しの件に一応の決着がついた今、俺の最後の戦いと言っても良いのはこの利き腕のことだ。
 御神の剣士として、不破悠翔として――――俺はこの時を迎える。
 もう、ここまで来たら俺の成すべきことは唯、一つだ。
 剣士として上の段階に進むためにも――――。
 そして、大切な女の子を今後も守り続けるためにも――――。
 逃げると言う選択肢なんて存在しない。
 こうして、全ての覚悟を済ませた俺は手術と言う名の最後の時に挑んでいくのだった。




































 From FIN  2009/9/11



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