申し訳なさそうな様子のままの悠翔が僅かに一呼吸置いた後、私に尋ねてくる。

 ――――覚悟はあるか

 悠翔が言っているのは今回の件に私が自分で関わったと言うこと。
 こう言った結果で終わってしまった以上、私も悠翔も御咎め無しと言う訳にもいかない。
 悠翔は初めからこう言ったことに関しての覚悟をしている人。
 全部解っていて魔導師と戦うと言う対処をしたんだと思う。
 それに対して私は悠翔のような覚悟は求められる立場じゃない。
 でも、私の答えは一つしか無い。
「うん、あるよ。覚悟が無かったら介入しようなんて思わない」
 そう、これが私の答え。
 私も私でこうなることは覚悟が出来ていたこと。
 悠翔を守るために介入したことに後悔なんてしていない。
 こんな結果になってしまったと言うことも。
 自分で結論を出したことだから全部、解っている。
 だって、私にとっては自分がどうなるかよりも悠翔を失ってしまうかもしれないと言うことの方が怖かったんだから――――。























魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















「うん、あるよ。覚悟が無かったら介入しようなんて思わない」
 フェイトの覚悟を聞いて安心する。
 これからどうなるかはまるで解らないが、フェイトも既に腹を決めている。
 いや、寧ろフェイトは初めから覚悟なんて済ませていたのかもしれない。
 俺が魔導師達と一戦遣るのは初めから解っていたことであって和解すると言う道が無かったのは事実だ。
 しかし、魔法と言う術が無い俺からすれば相手に対して仕掛けることは出来ないし、先手を打つことも出来なかった。
 出来ることとすれば襲撃に対して備えをして待っておくぐらいか。
 実際に今回の俺はそのつもりであり、装備を整えて身構えていた。
 何時、何処で襲撃があっても戦えるように。
 魔力は感じれなくとも相手の気配で解るから問題は無い。
 俺はそのつもりで準備をしていた。
 しかし、フェイトは俺がそんな橋を渡らないようにするために先に魔導師との間に干渉していた。
 これは余程の覚悟が無ければ決して出来ないことだ。
 俺はフェイトを危険に晒さないために自分を狙わせようとしたが、フェイトの方も俺を狙わせないために魔導師に立ち向かった。
 御互いに考えることが同じだったのかもしれない。
 だからこそ、今回の結果はこのようになってしまった。
 結局、俺もフェイトも魔導師と戦い、結果的には管理局側にたてついたことになる。
 俺の場合は魔導殺しの事件を再び、起こした人間として。
 フェイトは魔導殺しを庇った人間として。
 これがどのような結果となるかは全く解らない。
 唯、言えることは覚悟は済ませておかないといけないと言うこと。
 フェイトは既にその覚悟を済ませているようでその点に関しては心配は無い。
 俺の方も全て理解している上でこのような行動に出ている。
 後はどう言う話で結果が回ってくるかだけだ。
 今回の件での魔導師の死傷者は20数人――――要するに全員だ。
 嘗ての魔導殺しの時と同じ結果であると言っても良いと思う。
 しいて違いを言うなら、俺の行動目的がフェイトを救う事あったと言う点にあるくらいだろうか。
「……解った。フェイトがそこまで覚悟しているなら何も言わない。どんな結末になるとしても決して後悔だけはしないでくれ」
「うん……解ってる」
 相手の魔導師に関しては後は法の裁きを受けるのみだが、俺達がどうなるかは解らない。
 一応、俺は香港国際警防隊の許可を下に動いたことになるからどうにかなると思う。
 正式に夏織さんからも許可を出して貰っているし、名分としても人質を解放しない相手に実力行使に出たと言う形になるからだ。
 しかし、フェイトがどうなるかが解らない。
 クロノさんやリンディさんが便宜を諮ってくれるとは思うが……それでもどうだろうか。
 最悪、執務官を辞めなくてはいけないかもしれない。
 魔導師殺しとはそれだけ大きな事件であり、俺の方に味方をしたと言う行動は大きいと感じる。
 尤も、回答が出た後の最終的な結論をどうするかはフェイト次第だが――――。
















「悠翔!」
「……夏織さん、恭也さん」
 俺とフェイトが御互いの覚悟を確かめあった後、夏織さんが現場に駆けつける。
 恭也さんも一緒だと言うところをみると何箇所かの候補を捜しまわった後、ここに来ると言う結論になったんだと思う。
「悠翔、この状況についてはあえて聞かないが……無事にフェイトを助けられたんだな」
「はい」
「そうか……1人で良くやったな。怪我はあるみたいだが……別状が無いなら良い」
 ここに来るまでの途中で倒れている20数人以上の魔導師を見たと思われる恭也さんの言葉は思いの外、落ち着いている。
 フェイトを助けることを話した時点からこうなることは恭也さんには解っていたらしい。
 夏織さんの方も覚悟があるなら剣を取るように言っていたため、この状況に関しては予想通りだったようだ。
「だが、随分と無茶をしたようだな。左腕も既に限界だろう?」
「そう、ですね。止められてはいたんですけど……遣ってしまいました。それに禁じ手である神速の二段がけも」
 俺は今回の件で自分が遣ったことを包み隠さずに伝える。
 恭也さん達には隠す必要なんてない。
 寧ろ、全てを明らかにしなくてはならない。
「状況を直接見たわけでは無いから解らないが……その判断は間違っていない。恐らく、遣わざるを得なかった状況だろう」
 俺の口から洩れた言葉を聞いて、恭也さんが僅かな間を置いて口を開く。
「……恭也さん」
「悠翔は御神の剣士としての本分を果たしただけだ。だから俺に責める理由は無い」
 恭也さんは俺が御神の剣士として戦ったと言うことを承知している。
 大切な人を守るためにこの剣があると言うことは恭也さんが一番、良く解っているからだ。
 だから、恭也さんは俺に対してもこれ以上は言わなかったのだと思う。
 結果はどうであれ、本分を果たしたと言う点では恭也さんの言う通りでもあるから。
「そうね……悠翔は良くやったわ。フェイトちゃんが無事だったのは貴方のお陰よ」
「夏織さん……」
「いざとなったら剣を取りなさいと言ったのは私だけど……今回に関してはそれが功をそうしたみたいね」
 今回の件は夏織さんが剣を取るようにと後を推してくれたことが大きい。
 実際に戦うことになった際も躊躇う要素としては剣を取った時にどうするかと言うことが懸念されていた。
 しかし、夏織さんの言った言葉は俺にとって金石の言だったと言っても良い。
 俺自身が自分で決めたことに躊躇わなかったのもこの言葉の後押しがあったからだと言っても良い。
 覚悟があるなら剣を取れ――――。
 それは御神の剣士として戦えと言うことでもある。
 結局、この結果が魔導師達の殲滅とフェイトの救出と言う結果になったのだから。
「とりあえず、この場は私と恭也に任せて、悠翔は血を拭ってから着替えなさい。病院に行かないといけないから」
「……はい」
 夏織さんが俺に着替えるようにと促す。
 確かにこのまま病院にいけば間違いなく不審者だ。
 怪我はしているから一応、怪我人扱いにもなるだろうが……色々と詮索されると不味い。
 そう考えた俺は夏織さんの言う通りに血を拭い始める。
「フェイトちゃん、悪いんだけど……そこに応急処置をする道具があるから悠翔の処置と手伝いをお願いしても良いかしら?」
 俺が血を拭い始めたのを見て、夏織さんがフェイトに俺に応急処置をするように頼む。
「あ、はい。解りました」
 夏織さんに頼まれて弾かれたようにフェイトが動き始める。
 さっきからずっと俺を心配するような目で見ていたフェイトは甲斐甲斐しく俺の世話を焼こうと思っていたのかもしれない。
 だけど、それが今は嬉しく感じる。
 俺は大切な彼女を守りきったのだと実感出来るのだから――――。
















 悠翔の手当てをしつつ彼の身体を良く見てみる。
 魔力弾を受けた箇所……幸い、質量兵器とは違って弾が身体の中に残っているって言うことは無いからそれだけは安心出来る。
 でも、殺傷設定だったと言うこともあって悠翔の四肢はぱっくりと傷が開いている。
 しかも、この状態のままで悠翔はあれだけの動きをしていたんだから驚くしかない。
 悠翔は慣れていると言った感じの表情をしているけど……これは見ている方が辛くなってしまう。
 特に左腕は傷を受けていたのにも関わらず、腕に負担のかかる奥義を遣ってしまっていて出血が一番酷い。
 止血をしても悠翔の左腕は血が止まらなくて……私は不安な気持ちになってしまう。
 本当に悠翔の左腕は大丈夫なのかと。
 さっきから悠翔は左腕だけは全く動かさなくて。
 様子を見てみても左腕は動かしたくても動かせないと言った状態にあるみたいで。
 悠翔はさっきから左腕の様子を気にしている。
「悠翔……やっぱり、左腕が?」
「……ああ。少し遣り過ぎたらしい」
 悠翔は少し遣り過ぎたって言っているけど全然、少しとは言えないと思う。
 寧ろ、思いっきり無茶をしたとしか言えなくて。
 腕が動かなくなってしまうまでやったんだから……。
「だけど、フェイトを守れたんだ。これくらいの代償なら安いくらいだ」
「悠翔……」
 痛むはずの左腕を見ながら悠翔は僅かに微笑む。
 悠翔は確かに無理なんてしていない――――悠翔にとってはこれは普通なんだから。
 でも、私から見ればどうにもそうは思えなくて。
 無理をしているだけに映ってしまう。
 悠翔のことは解っているつもりだけど……どうしてもそう考えてしまうのは私が甘いのかな?
 だけど、大好きな人のこんな姿を見ても怖いとは思わない。
 そのことが悠翔のことを信用しているって言う証だと思う。
 悠翔は私じゃ考えられないようなことをしてきた人で。
 私から見たら普通じゃないことだって経験している。
 だから今回のようなケースも悠翔は全く動じていなくて。
 それどころか、躊躇うことも無く私のために自分の身体を張ってくれた。
 悠翔の信念は守ることにあるって自分で言っていたけど……。
 本当に悠翔はそれを実践してしまうような人間で。
 思わず私の胸もどきっと高鳴ってしまう。
 危ないと解っていても大事な人のためなら身体を張ってでも助けてくれる――――。
 出会ってまだそんなに経っていないけど……私の大好きな悠翔はそんな人。
 それを改めて実感しながら私は悠翔の手当てを済ませていくのだった。




































 From FIN  2009/9/5



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