(これで、全て終わったんだな……)
 戦いが終わったことを確認した俺は漸く、一息吐く。
 魔導師が倒れ、霊石によって魔力が失われたと言うことでフェイトを捕えていた結界も消えたはずだ。
 そう思って俺はフェイトの方にゆっくりと振り向く。
 俺が振り向く前にフェイトは既に俺の下へ走り出していたらしい。
 そのままの勢いでフェイトが俺に抱きついてくる。

 良かった、フェイトは無事だ――――

 フェイトの暖かさが感じられる。
 たった一人の大切な彼女はここにいる。

 俺は彼女――――フェイトを守りきったんだ……

 胸に込み上げてくるこの想いを感じながら俺はフェイトを優しく抱き寄せた。























魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















「悠翔……悠翔っ!」
 AMFが消えたと同時に私は悠翔に抱きつく。
 今まで魔導師達と戦っていた悠翔は多くの返り血を浴びていて。
 自身が受けた殺傷設定の魔力弾の傷もあってあちこちが紅く染まっている。
 特に左腕は傷を受けた分と無理矢理奥義を遣った分もあって酷い状態。
 私のためにこんなになるまで戦って――――。
 私のせいで悠翔に傷を負わせてしまった。
 それが申し訳なくて、私は悠翔の胸の中で嗚咽を漏らす。
 悠翔の胸板に抱きついてきた私をそっと悠翔は抱き寄せてくれているけれど……。
 悠翔は右腕のみで私を抱き寄せている。
 左腕の方は真っ赤に染まった状態で力無く、だらんとしている感じ。
 今の戦いの影響で既に悠翔の左腕は動かなくなってしまっているように見える。
「ごめん、ごめんね……悠翔」
 悠翔の左腕は今日が手術なのに、無理をさせてしまった。
 魔力弾や魔導師の返り血を受けた悠翔の左腕は見てみるだけでとても痛々しくて。
 最後に遣った奥義の反動で悠翔の左腕は完全に無理をしてしまっているのは明らか。
 私はそんな悠翔の左腕をそっと手にとり、自分の頬へと寄せる。
 本当はこんなことしたらいけないのに私を守ってくれた悠翔の左腕。
 そこまでやってくれたからこそ、私も無事なわけで……本当に申し訳なく思う。
「……フェイトが気にする必要は無い。俺がフェイトを守りたくてこうしただけだ」
「悠翔……」
 悠翔がそう言いながら指は辛うじて動く左腕で私の頬に零れ落ちていた涙をそっと拭ってくれる。
「俺のせいでフェイトをこんなめにあわせてしまった。……済まない」
「ううん、悠翔は悪くないよ。私が勝手にあの人達と戦ったんだから……」
「……事情はそうかもしれない。だけど、俺が原因でフェイトが魔導師達と戦うことになったのは事実だ。だから、済まない」
「……悠翔」
 私のせいで悠翔はこんな風になってしまったのに。
 悠翔は自分のせいで私が魔導師達と戦うことになってしまったことを悔やんでいる。
 何処までも悠翔は私を守ろうとしていてくれていたことが伝わってくる。
 多分、悠翔は全てを自分一人でなんとかしようと思っていたんだと思う。
 相手が私に目的があるんじゃなくて、自分に目的があると言うことが解っていたから――――。
 でも、私も悠翔を守りたくて。
 本当は魔導師とも関係が無いはずの悠翔が戦うなんてそれは大きな問題になってしまう。
 それに悠翔は魔導師から怨みをかっていて、命まで狙われていた。
 さっきの時も魔導師達の遣っていた魔法は全て殺傷設定で――――本当に悠翔を殺すつもりだった。
 魔導殺しのことで怨みがあったんだとしてもこれは度が過ぎていたと思う。
 結局、悠翔は無事だったけど……もし、殺傷設定の魔法をまともに受けていたら悠翔はどうなっていたか解らない。
 最悪の場合は命まで失っていたかもしれない。
 そう考えるとぞっとする。
 悠翔はこうして無事でいてくれているけれど……本当に申し訳なくて。
 大切な、大好きな人にここまでさせてしまって……私は悲しい気持ちになった。
















 フェイトが俺に抱きついたまま悲しそうな表情をする。
 確かにフェイトにこんな表情をさせてしまうのは解っていたが……俺はフェイトのこんな表情が見たくて戦ったわけじゃない。
「……フェイト」
「ごめんね、悠翔……。私がいけなかったの。昨日の時点で悠翔に伝えていればこんなことには……」
 フェイトが昨日のことを謝罪してくる。
 確かに昨日の時点では俺は今回のことを知らなかった。
「だが、フェイトは俺のことを思って、黙っていてくれたんだろ? だったら、別に良いさ」
「でも、でもっ……!」
「……良いんだ。フェイトは間違っていない。寧ろ、俺が巻き込んでしまったんだ」
「悠翔……」
 今回、魔導殺しのことに巻き込んでしまったのは俺の方だ。
 事情は過去に起きた出来事に全てがあるのだから。
「……今回の件の発端は俺の父さんと母さんのことにある。原因となったのはこれの回収任務が元らしい」
 そう言って俺はフェイトに先程、魔導師に対して遣った霊石を見せる。
 最早、砕け散っているため形として石の姿の原型は止めてはいなかったがフェイトにはしっかりと見せておく必要がある。
 この霊石は事件の発端となった物であり、俺の父さんとも深い関係があった物――――。
 そして、今回の事件に関わりのあったフェイトにはこれを見る資格がある。
「凄く綺麗……。悠翔、これは……?」
「霊石と呼ばれる物だ。まぁ……昔の時代で言う邪気祓いに遣われていた物と言えば良いと思う」
「邪気祓い……?」
「名の通りに邪気を祓ったり魔を祓う。そう言った目的に遣われていた石だ。しかし、この石には管理局にとって都合の悪い存在だったんだ」
「都合の悪い……?」
「そうだ。この石自体は魔法の存在しないこの世界の物だから特別に危険と言うわけじゃない。だが……この石は魔を祓うと言う意味で魔力も祓うことが出来る」
「えっ!?」
 俺の説明に驚いた表情をするフェイト。
 流石に魔力も祓ってしまうと言うのには驚きを隠せなかったらしい。
 しかし、更にフェイトには驚く話題を振らなければならない。
「俺の母さんは元々、この世界出身の魔導師だったらしい。だが、この石の回収任務で魔力を失ってしまったんだ。完全に魔力が消滅すると言う形で」
「悠翔のお母さんが……?」
 やはり、俺の母さんが魔導師だったと言うのは予想外だったらしい。
 フェイトも流石に戸惑いを隠せないでいる。
 この事実を初めて聞いた時は俺も随分と驚いたものだったから当然だと思う。
「多分、後に回収に現れたのはこの時の母さんの失敗が元なんだろうと思う。管理局としては魔導師を潰すと言うのに脅威を感じたんじゃないか?」
「……うん、そうかも」
 俺の推察に納得したような様子のフェイト。
 どう見ても魔導師から見れば魔力を消滅させてしまうような代物は脅威にしか感じない。
 この世界では実害が無くても、実際に関わった魔導師に被害は出てしまっている。
 それが尚更、脅威の物として捉えられるようになったんだろう。
「そして、もう一度回収に現れた魔導師達は俺の父さんと戦って全滅した……。それが、魔導殺し事件の真相だ」
 この事件の真相は初めに回収に現れた母さんが任務に失敗し、再び回収に現れた魔導師達が父さんと戦って全滅した――――。
 結局は御互いの正義や主張が交わることが無かったからと言うのにもあるかもしれない。 
 こう言った経緯からしてもこの事件はフェイトとは関係は無い。
 寧ろ、俺の家族の問題であって管理局との問題だ。
 フェイトは管理局側が怨みをはらすために動こうとしたことを止めて、俺にはもう関わらせないようにしようとしてくれた。
 結局はまた、魔導殺し事件の時と同じ結果になってしまったが――――フェイトの心遣いは嬉しかった。
「だから、俺に原因がある。フェイト……巻き込んでしまって済まなかった」
「悠翔……」
 フェイトにここまでさせてしまったことが申し訳無くて俺はもう一度彼女を抱き寄せる。
 今回の件は俺だけで済んでしまえば特に御咎めも無かったはずだ。
 俺が管理局と関わることを止めてしまえばそれで良いと言うことに話を持っていけばどうにか出来る。
 しかし、フェイトを干渉させてしまう結果になってしまった以上、彼女がどうなってしまうかが解らない。
 俺が御咎めを受けるのは構わない。
 だが、フェイトにも俺と同じことを背負わせてしまうのは辛い――――それが唯一の不安だった。
















「だから、俺に原因がある。フェイト……巻き込んでしまって済まなかった」
「悠翔……」
 今回の事件のことで申し訳なさそうにする悠翔。
 決して、悠翔のせいじゃないのに……。
 今回の事件は悠翔自身に問題があったわけじゃなくて。
 でも、悠翔は自分に原因があると言っていて……何処まで真面目な人なんだろう。
 悠翔は自分で全部を背負うつもりなのかもしれない。
 魔導師と戦ったのは自分の責任――――きっと悠翔はそう考えている。
 でも、今回の件には私も関わっている。

 ううん、関わっているんじゃない――――自分で関わったんだ

 そうはっきりと私は自覚している。
 悠翔は自分で魔導師達を迎え撃って解決させようと考えていた。
 でも、私はそれに介入して魔導師同士のところで止めようと思った。
 悠翔に襲撃しようとする魔導師達を止めるために。
 でも、私のその行動が悠翔をこんなめにあわせてしまった。
 本末転倒だと言っても良いと思う。
 結局、私は悠翔に助けて貰う結果になってしまって。
 悠翔は私を助けるために傷ついて。
 本当は無理をしたらいけないのに無理をして。
 こうして、悠翔の近くにいるから解るけど……悠翔の身体は怪我をしていて。
 もう、悠翔の左腕は動かないくらいにまでなってしまっている。
 大好きな人にここまでさせてしまったことが本当に申し訳なかった。
 でも、悠翔はこんなふうになってしまったのに私のことを心配してくれている。
 私よりも悠翔の方がずっと傷ついているはずなのに。
「……フェイト。巻き込んでしまった俺が言うのはなんだが……今回の件に関わったことに覚悟はあるか?」
 申し訳なさそうな様子のままの悠翔が僅かに一呼吸置いた後、私に尋ねてくる。

 ――――覚悟はあるか

 悠翔が言っているのは今回の件に私が自分で関わったと言うこと。
 こう言った結果で終わってしまった以上、私も悠翔も御咎め無しと言う訳にもいかない。
 悠翔は初めからこう言ったことに関しての覚悟をしている人。
 全部解っていて魔導師と戦うと言う対処をしたんだと思う。
 それに対して私は悠翔のような覚悟は求められる立場じゃない。
 でも、私の答えは一つしか無い。
「うん、あるよ。覚悟が無かったら介入しようなんて思わない」
 そう、これが私の答え。
 私も私でこうなることは覚悟が出来ていたこと。
 悠翔を守るために介入したことに後悔なんてしていない。
 こんな結果になってしまったと言うことも。
 自分で結論を出したことだから全部、解っている。
 だって、私にとっては自分がどうなるかよりも悠翔を失ってしまうかもしれないと言うことの方が怖かったんだから――――。




































 From FIN  2009/8/27



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