私は悠翔を守るためとその事態を避けたくて行動を起こしたのに何も出来なかった。
 もう、今の私には悠翔が無事であることを祈ることしか出来ない。
 悠翔の無事を祈って私は目を瞑る――――。
 そして、私がもう一度目を開いた時――――目の前では信じられない光景が映っていた。
 今、私達のいる場所から直線上に離れている場所にいた魔導師達が紅い鮮血を撒き散らしながら次々に倒れていく。
 その光景には誰の姿も見当たらない――――。
 だけど、目の前の光景の中にいると思われる人物は次々と魔導師を斬り伏せていく。
 その度に鮮血が舞っていくことを見ると明らかに魔導師達の命を奪うことを前提として動いている。
 やがて、ある程度距離が近づいてきたと思ったところでその光景の中心にいたと思われる人物の姿が現れる。
 魔導師達が次々と斬られていくその光景の中心にいたのは――――私の大切な人。
















 ――――不破悠翔。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 裏山に入って確認した魔導師の人数は約20人前後。
 その内の10名前後は若干、感じる感覚が弱い。
 フェイトからダメージを受けているのだろう。
 しかし、一度にそれだけの魔導師を相手にするのは流石に辛い。
 相手が魔導師に限らず、一度に多数を同時に相手にすると言うのは相応に体力と精神力を消耗する。
 裏山の開けた場所に行くまでに遭遇した魔導師は約、10人前後。
 半数近くの魔導師が警戒のために配備されている。
 手段としては常道だろう――――。
 ……だが、相手が相手と言うのもあって遣りにくい。
 普通に拳銃を相手にするよりは戦いやすいが……どうあっても弾幕を避けなくては斬り込むことが出来ない。
 しかも、相手が20人前後も周囲にいるとなれば僅かな隙も油断出来ない。
 例え、手負いの状態の魔導師が相手でもそれは同じ事だ。
 まず、距離的に俺に近い、魔導師数人の手元に向かって飛針を投げつける。
 デバイスを落としてしまえば魔導師の戦力は一気に半減するはずだ。
 3人ほどの魔導師が短く呻き声を上げながらデバイスを取り落とす。
 殺傷を前提とした一撃なら当然、痛みを伴う。
 魔導師が魔力的な一撃に馴れているのであれば、こう言った痛みに対する耐性は低いだろう。
 相手が飛針で怯んだのを見計らった俺は一気に間合いをつめて斬り捨てる。
 手加減なんて当然する必要は無い。
 相手が相応の行動を取ってきた以上、容赦をする理由なんて全く無い。
 とりあえず、相手が死ぬか死なないかなんて気を遣う余裕なんて無い。
 そもそも、こう言った多対一で戦う時は相手を手負いの状態で残すと言うこと事態が命取りになる。
 そう言った意味でも相手を全員、斬って捨てるしか手段は無い。
 だから、今の俺に言えることは唯、一つ――――。

 御神不破流の前に立ったことを後悔させてやる――――





 ――――小太刀二刀御神流、奥義之歩法・神速





 一気に3人ほどの魔導師を斬り捨てた俺は神速の領域に入る。
 俺の視界から色が失われ、全てがモノクロの世界に変わる。
 相手の魔導師が2人ほど俺を狙ってデバイスを構え、魔法を放つ姿が目に映った。
 しかし、神速の領域にいる今の状態であればその魔法も止まっているようにしか見えない。
 魔力の弾を抜けて間合いを詰めた俺は魔法を放っていた魔導師を立て続けに斬り伏せる。
 魔導師を斬り伏せたところで神速の領域から抜け出る。
 だが、俺の動きは止まらない――――。
 神速から抜け出たと同時に俺は続けて神速の領域に入る。
 斬り伏せた魔導師達がゆっくりと倒れ始める前に神速の領域に再び入った俺は次の魔導師に向かって距離を詰め、鋼糸を投げつける。
 鋼糸が3人ほどの魔導師を纏めて絡みとるのを認めた俺は一気に鋼糸を引き抜いて相手を斬り裂く。
 今回、選んだ鋼糸は3番の物。
 3番以下の番号の鋼糸であれば人だろうと関係なく切断することが可能だ。
 血飛沫をあげながら倒れていく魔導師が目に映るがそんなことは気にする必要も無い。
 今の俺にはたった一人の大切な女の子を助けることしか目に映っていないのだから――――。
















「はぁ……はぁ……」
 これで、何人くらいの魔導師を斬り捨てただろうか。
 既に20人近くは斬り捨てたが……まだ、魔導師の気配は残っている。
 後は奥に2、3人くらいか――――。
 だが、その中の1人の存在感は圧倒的だ。
 相当な実力者に違いない。
 だが、その人物こそがフェイトを攫った首謀者であり、魔導殺しのことに執着している人間だろう。
 相手からしても漸く、望んだ状況になったと言えるかもしれない。
 魔導殺しと呼ばれた父さんの継承者である俺を自らの手で抹殺すること――――それが相手の望みだろう。
 それに今の俺は20人近くの魔導師を一度に相手をして消耗している状態だ。
 まさに願ったり叶ったりの状況だろう。
 だが、フェイトを助けるためにはそんなことは関係ない。

 俺の成すべきことは大切な彼女を救い出す――――それだけなのだから

 奥に残っていた魔導師が俺の存在に気付き、魔力弾を放ってくる。
 だが、俺はあえてそれを避ける動作に移らない。
 そのまま、俺は右手に飛鳳を構え左手に鞘を持った状態で駆け出す。
 俺に迫ってくる魔力弾に対し、剣気から発する霊力を込めた飛鳳で弾く。
 銃弾を弾いた時のような音が鳴り、魔力弾が消失する。
 剣気から発する霊力によって対魔力のような力を得ている今の飛鳳に威力の低い魔力弾は通用しない。
「おぉぉぉぉぉっっっ!」
 魔力弾を弾いた勢いのまま、2名の魔導師を一気に斬り伏せる。
 血飛沫をあげながら倒れていく魔導師を後目に俺は目の前にいる最後の1人に向かって飛鳳で斬りつける。
 だが、相手の魔導師は俺が向かってくるのが解っていたのかいとも簡単に斬撃を避け、魔力弾で反撃する。
 神速の領域に入っておらず、しかも距離も接近戦の距離からの魔力弾――――避けることは出来ない。
「かかったな。貴様がこの間合いに来ることは既に解っていた。そして、貴様に対して狙うべき箇所もな!」
 相手は完全にこの形を狙っていたのだ。
 魔力弾を複数撃ちながら、相手は俺の左腕を狙う。
 完全に謀られたと言っても良いだろう。
 せめて、直撃だけは受けないように咄嗟に身を捩るが、避けきれなかった魔力弾が俺の身体を掠めていく。
 左脚、右脚、右腕、左腕――――四肢に魔力弾が掠め、頬にも魔力弾が掠める。
 ぴっと皮膚が裂かれたことから察するに殺傷設定なのも間違いないだろう。
 体感としては銃弾を受けた時のような感覚だが、左腕に受けたところだけは違う。
 集中して狙ってきたと言うのも左腕だけは数発の魔力弾が命中していた。
 しかし、幸いにして左腕は動く――――。
 戦う分にはまだ何とか出来るし、こういった痛みは慣れているため気にする必要は無い。
 唯、左腕に受けた箇所の傷は舐めてかかるわけにもいかなかった――――。
















「悠翔っ!」
 スヴァン執務官の目の前にまで迫った悠翔が魔力弾を受ける姿が目に映る。
 幸い、悠翔は咄嗟に身を捩ったみたいだったけど……悠翔の受けた箇所から血が滲み出ていることから殺傷設定の魔法を受けたんだと思う。
 掠めただけだから悠翔の命に別状は無いけど……今、確かに悠翔は左腕に魔力弾を受けていた。
 しかも、何発も命中していたのが見える。
 明らかに悠翔の左腕は他の箇所に比べても真っ赤に染まっていて、傷が深いことが解る。
 私はそんな悠翔のことが心配で思わず声を荒げてしまう。
「ぐ……」
 左腕に魔力弾を受けた悠翔が短く呻きながら膝を付く。
「くくく……此方の方が上手だよ、魔導殺し」
 悠翔が斬り込んで来たのに対処した際に一連の動作で一気に距離を取り、スヴァン執務官と悠翔の位置は入れ替わった形になる。
   悠翔からすれば漸く、捉えられるところだったのに振り出しに戻ってしまったような感覚。
 離れた距離からすると悠翔からは何も仕掛けることが出来ない。
 スヴァン執務官はそれも計算して悠翔から距離を取ったんだと思う。
「さて、動かないで貰おうか」
 悔しそうな表情をしている悠翔に対し、動くなと言うスヴァン執務官。
 デバイスに何か魔法の準備をするように指示していたみたいだけど……何をしようとしているのかまでは解らない。
「君は良くやったが、これまでだ。魔導殺し。君なら私が何をしようとしているのか解っているはずだ」
「くっ……!?」
「そうだ……察しが良いようだな。そして、既に私はその魔法の準備が終わっている。君が距離を詰めたとしても斬ったとしてもこの魔法は発動する」
 スヴァン執務官の口から出てきたのは既に私に対して魔法の準備が終わっていると言う事。。
 今の私はAMFに閉じ込められているから完全に魔法はシャットアウトされている状態。
 だけど、スヴァン執務官はAMFごと私に対する魔法の準備を進めていて。
 確かにスヴァン執務官ほどの実力者ならAMFがあっても対処するなんて問題無いことで。
 私を閉じ込めたのも全て計算の上でのことだと理解出来る。
 それに魔法に距離なんて関係無い。
 悠翔とスヴァン執務官の位置が入れ替わったことによって私のすぐ傍に悠翔がいるけれど、相手からすればそれは取るに足らないこと。
 私を魔法で如何こうする距離なんて意味を成さないのだから。
 こんな状況では幾ら悠翔でも手を出すことは出来ない。
 スヴァン執務官は何処までも非道になれる人みたいで全く躊躇いと言うものが感じられない。
 私をどうこうするって言うのも間違いなく本気だと思う。
 それが解っているから私も悠翔も何も抵抗することが出来ない。
 悠翔も小太刀を腰だめに構えなおしたまま、一歩も動かない。
 私が人質に取られている形になっているから悠翔は動けないんだと思う。
 私のせいで悠翔は何も抵抗することすら出来なくて――――。
 このままじゃ悠翔は何も抵抗せずにスヴァン執務官に遣られてしまう――――。
 いったい、どうすれば良いの――――?




































 From FIN  2009/8/15



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