『う、うん……。じゃあ、悠翔君……フェイトちゃんのことをお願い』
「ああ、任された」
 まだ、不安そうな様子のなのはさんからフェイトのことを託された俺は携帯をきる。
 フェイトがどうして学校に来ていないのか、誰にも言わずに行方が分からないのか――――。
 俺にはその全てに心当たりがある。
 昨日の魔導師のことが影響しているのは間違いは無い。
 デートの帰りの時、フェイトの様子がずっと可笑しかったのがそれを示している。
 俺には言えなかったこと――――それはあの魔導師が狙っていると言うことだったんだろう。
 フェイトは俺を狙わせないために自分からあの魔導師のところに行ったと考えられる。
 そして、今も学校に来ていないと言うことを考えればフェイトは朝から既に行方が分からなくなっていると言うことになる。
 相手の狙いは俺にあると言うのに――――フェイトが俺のために自分で身体を張っている。
 その気持ちは嬉しくもあるが、申し訳ないと思う。
 本来、フェイトはそんなことに巻き込まれることは無かった筈なのに、俺のせいでこんなことになってしまっている。
 大切な1人の女の子をこんなことに巻き込んでしまった――――。
 そのことが悔しくて、情けなくて――――。
 自らの不甲斐無さに俺は飛鳳を握り締めるのだった。























魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 なのはさんからの電話を受け終わり、俺はすぐさま高町家を出る準備をする。
 先程、手入れをした飛鳳を裏十字の形にし、袖口には飛針を身に付け、懐に小刀と鋼糸の3番を隠し持つ。
 小太刀と暗器を全て見に付けた俺はそのまま高町家を後にしようとする。
「悠翔、何処か行くのか?」
「……恭也さん」
「随分と急いでいるみたいだが……何かあったのか?」
 俺が慌てて出て行こうとしていたのに気付いている恭也さん。
 ここは隠しだてしても何も得なことは無いだろう。
 フェイトを捜すにしても俺の知っている所だけではとても見つけられないかもしれない。
 今は手段や状況なんて選んでいられない。
 恭也さんも父さんの事件のことは知っている筈だから今、起きている出来事を伝えても大丈夫だろう。
「はい、実は……俺の父さんに怨みを持つ人間にフェイトが攫われたんです」
「……フェイトが?」
「はい。それで今からフェイトを捜しに行こうとしていたんです」
「ふむ……そう言うことなら俺も手を貸そう。とりあえず、目ぼしい場所は解っているのか?」
 俺の簡潔な説明に要領を得たのか恭也さんは手を貸すと言ってくれる。
 しかし、目ぼしい場所と尋ねられても俺にはピンとこない。
 とりあえず、人気の少なさそうな所くらいだが……。
「いえ、場所は解らないんです……。目ぼしをつけるとすれば……人気の無いところだとは思うのですが」
「人気が無くて尚且つ、それなりに広い場所か……」
 人気の無いところと言う意見に考え込む恭也さん。
 俺が知っている人気の無い場所は裏山か八束神社くらいしか無い。
 恭也さんだったらもっと他の場所も知っているだろうと思う。
 暫くの間を置いた後、恭也さんが口を開く。
「悠翔はとりあえず、裏山と八束神社の方に行ってくれ。俺は父さんと母さん達に伝えた後、他を当たってみる」
「解りました」
 恭也さんは俺に気を遣って先に動くように意見を出してくれる。
 裏山と八束神社なら場所も解るし、人気も無いと言う点からフェイトがいる可能性は充分に考えられる。
 それに恭也さんが士郎さんや夏織さんに声をかけてくれるなら俺の行き先が外れても次の一手を考えてくれる――――。
 恭也さんの提案はとても有り難いものだった。
「じゃあ、俺は行きます。時間もありませんし」
「いや、少し待ってくれ。一言だけ言っておくことがある」
 提案を聞いて、すぐに高町家を後にしようとする俺に恭也さんが呼びとめる。
「……もし、遭遇した場合は容赦をするな。相手が例え、何者であろうとも」
「……はい、恭也さん」
 恭也さんの伝えたい一言は相手が魔導師であろうとも容赦をするなと言うこと。
 相手が例え、何者であろうとも――――と言うのはそれを示唆している。
 この世界の人間では無いからと理由で手加減なんて必要無い――――相手が向かってきたのであれば刃を反す。
 恭也さんが言っているのはそう言うことだ。
 昨日までは何とか他の方法で解決させようと考えていたが――――フェイトを巻き込んだ以上、俺にその選択肢は無い。
 相手は大切な人に手を出した――――。
 それは自分が手を出される覚悟は出来ていると言うことでもある。
 覚悟を持つと言うことは報復される覚悟も持つと言うことと同義でもあるからだ。
 相手側がどう見ているかは解らないが、此方側としてそう事態を受け取った。
 だが、戦うことが決まった以上そのようなことは関係無い。
 こうなってしまえば最早、命のやり取りをするしか無いのだから。
 相手が人質を取った以上、此方は人質を解放すると言うことが一番の優先すべきことであり、成すべきことだ。
 それは他ならぬ俺が一番、解っている。
 だからこそ、俺は覚悟を決めなくてはならない。

 全員、斬って捨てる――――

 それが剣士である俺自身――――いや、御神不破の剣士である俺の覚悟だった。
















 恭也さんと別れて俺は高町家を後にする。
 俺の目指す行き先はシグナムと戦闘をしたあの裏山――――。
 あそこは人気も少ないし、広い場所だ。
 身を隠すのにもちょうど良いし、戦う場所としても申し分無い。
 フェイトが攫われるような場所としては決して考えられなくも無い場所だ。
 だが、フェイトが何故、攫われたのかを考えると腑に落ちない点もある。
 相手の狙いはあくまで俺であって、フェイトには無い。
 フェイト自身も相手とは面識があるわけでも無いし、管理局の魔導師が戦う必要性も無いだろう。
 そう言った要因は全て俺の側にある――――。
 だからこそ、腑に落ちない点が出てくる。
 それ以外に要因と言うものを考えるとすれば……昨日、フェイトの様子が可笑しかったのに原因があるのかもしれない。
 昨日、デートの帰りの時のフェイトは様子がずっと可笑しかった。
 俺が尋ねてみても何処か上の空と言うかなんと言うか。
 なんでも無いと言っていたから俺もあれ以上は何も聞かなかったが――――。
 ……それがそもそもの間違いだった。
(あの時、無理矢理にでも聞いておくんだった――――)
 こうなってしまってはそう思うしか無い。
 昨日の時点でフェイトは相手が俺を狙うために行動を起こすのを知っていたはずだ。
 フェイトは恐らく、俺を狙わせないようにするために自分の手で片をつけようと思ったんだろう。
 管理局の問題が大きくなる前にとフェイトは考えたに違いない。
 そして、俺を守るために昨日の魔導師達と対峙したフェイトの身に何かがあった――――。
 今もフェイトと連絡がつかないことを考えるとそうとしか思えない。
 考えれば考えるだけ足が自然と急ぎ足になっていく。
 数分後、知らないうちに自分でも信じられないようなペースで目的地である裏山へと到着する。
(……空気が重い)
 裏山から感じる空気が心なしか重く感じられる。
 何か戦いがあったかのような感覚だ。
(人の気配は――――10人……いや、20人を超えているな)
 感じられる嫌な感覚に俺は人の気配を探る。
 それなりの人数がいることをみると……どうやら、当たりらしい。
 この場所にフェイトがいる――――それは間違いないだろう。
 大切な彼女の気配も奥の方から感じられる。
 だが、フェイトのところに行くまでの道にいる人間達――――まずはこれを排除しなければならないだろう。
 遣るべきことをはっきりと確信した俺は飛鳳を抜いて、目的地へと向かって駆け出した――――。
















 私がAMFに捕われてどれだけ時間が立ったんだろう……?
 あれから、スヴァン執務官は私を捕えたままで特に何もしてはこない。
 あくまで目的が悠翔にあるってことが要因だろうとは思うけど……。
 こうも静かだとなんとなく変な感じがする。
 さっきからずっとスヴァン執務官は悠翔を捜しているみたいだけど見つからないみたい。
 それが、少しだけ私の気持ちをほっとさせてくれている。
 でも、悠翔が私と連絡がつかないことを知ったら絶対に動きだすと思う。
 そろそろ時間の方も午前中の授業がお休みに入る時間帯。
 なのは達には何も伝えずにいるから、もしかしたらなのは達経由で悠翔に連絡が既にいっているかもしれない。
 だとしたら悠翔が見つかるのも時間の問題で。
(悠翔……)
 私の大好きな唯一人の男の子。
 本当は彼に迷惑をかけたくなくて行動を起こしたつもりだった。
 それなのに私はこうして捕えられてしまっていて。
 逆に彼に迷惑をかけてしまっている。
 恐らく、悠翔は私がいないことを知った時点で行動を起こすはず。
 ううん、既に悠翔は私を捜して行動を起こしているかもしれない。
(悠翔を守りたかったのに――――)
 逆に私が悠翔に助けられる側になってしまっている。
 このまま、時間が経てば経つほどその可能性は上がっていく。
 魔力の無い悠翔には私が何処にいるかなんてそう簡単には見つけられないと思う。
 だけど、捜している最中にスヴァン執務官達に見つかる可能性もあるし、見つかる前に悠翔が見つける可能性だって考えられる。
 そうなると剣士と魔導師の戦いは避けられない。
 私は悠翔を守るためとその事態を避けたくて行動を起こしたのに何も出来なかった。
 もう、今の私には悠翔が無事であることを祈ることしか出来ない。
 悠翔の無事を祈って私は目を瞑る――――。
 そして、私がもう一度目を開いた時――――目の前では信じられない光景が映っていた。
 今、私達のいる場所から直線上に離れている場所にいた魔導師達が紅い鮮血を撒き散らしながら次々に倒れていく。
 その光景には誰の姿も見当たらない――――。
 だけど、目の前の光景の中にいると思われる人物は次々と魔導師を斬り伏せていく。
 その度に鮮血が舞っていくことを見ると明らかに魔導師達の命を奪うことを前提として動いている。
 やがて、ある程度距離が近づいてきたと思ったところでその光景の中心にいたと思われる人物の姿が現れる。
 魔導師達が次々と斬られていくその光景の中心にいたのは――――私の大切な人。
















 ――――不破悠翔。



































 From FIN  2009/8/13



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