「きゃっ……!?」
 私が移動した先の地面から光があふれ始める。
 光があふれてきたと思ったら、私のバリアジャケットがゆっくりと解除されていく。
 バルディッシュも機能を停止させていく―――。
(っ……!? まさか、AMF!?)
 光があふれた後に私の周囲に展開したものはアンチ・マギリング・フィールド――――通称、AMF。
 魔法を無効化する上級のフィールド魔法。
 AMFは外からなら対処法もあるものなんだけど……内側からでは殆ど対処法が無いと言う恐ろしいフィールド魔法。
 私はそのAMFの内側に入ってしまった。
 その性でバリアジャケットが維持出来ず、バルディッシュの魔力も遮断された。
 こうなってしまうと私もどうしようも出来なくて――――。
 今の私の状況からこれが始めからスヴァン執務官の狙いだったと言うことを察する。
 私をAMFの中に捕えることにより、一切の抵抗を封じる――――。
 それが、スヴァン執務官の狙いだった。
 だけど、それに今更気付いても遅い――――。
 私は既に相手の術中に嵌まった後なのだから――――。























魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















「くくく……こうも見事に嵌まるとはな。ハラオウン執務官の欠点は噂通りだったと言うことか」
「っ……」
 AMFの中に閉じ込められてしまって私は何も抵抗することが出来ない。
 この人が策を遣ってくるってことなんて解っていたはずなのに――――私はそれを見破れなかった。
 それどころか完全に相手の思うつぼになってしまっている。
 私が攻撃に昏倒しやすい戦闘スタイルだと言うのも既に見破られていて。
 初めから私は捕えるつもりでこう言った罠を仕掛けていたんだと思う。

 ごめん、悠翔……私、貴方のこと守れなかった

 悠翔を守るためにこの人達に挑んだはずなのに――――。
 寧ろ、私のとった行動が尚更、悠翔を危険にさらしてしまうかもしれない。
 私がこうして捕えられてしまったと言う結果になってしまった以上、悠翔が狙われるのは明らかで。
 どうすることも出来ない私は唯、見ているしか出来ない。
「さて、ハラオウン執務官も予定通りに捕われてくれたことだし、予定通りに動くとするか」
 スヴァン執務官の言葉に駄目って言いたいのに。
 今の私は何も言うことが出来ない。
 悠翔を狙っていることが解っていて、私はそれを止めるためにこうして来たのに――――悔しい気持ちで一杯になる。
 どうして、私は悠翔を守ってあげられなかったのか。
 本当に悔やんでも悔やみきれない。
 悠翔がもし、この場に現れたとしたら私のせいで悠翔は何も手出しをすることが出来ない。
 寧ろ、悠翔の性格を考えれば私のことを助ける代わりに自分の命なんて惜しまないと思う。
 私はそう言った事態を避けるために行動を起こしたつもりだったのに――――。
 結局のところは悠翔を危険に晒すことになってしまっている。
(悠翔……悠翔――――っ!)
 そんな状況になってしまったことが申し訳なくて、悔しくて。
 私は目を閉じて、悠翔の名前を呼び続ける。

 悠翔、ごめんなさい――――
















 相手側の襲撃も前提として病院に行く準備を済ませた俺は時間まではかなりあると言うことで高町家で待機していた。
 しかし、こう言った時ほど時間と言うものは逆にゆっくりと感じられるもので俺は暇を持て余していた。
 このまま時間が経過するのもなんだからとりあえず、時間があると言うことで俺は飛鳳の手入れをしている。
 まずは、飛鳳を横にして下に置き、目釘抜きを使って目釘を抜き、柄をはずす。
 柄をはずしたとところでゆっくりと飛鳳を鞘から抜く。
 飛鳳を抜いたところで小太刀の柄を外しにかかる。
 この時、柄を抜く時に左手で柄頭を棟のほうから握り、小太刀を斜めに立て、右手の拳で軽く左手の手首を打つようにする。
 そして茎が軽く緩んだところで、調子をはかってさらに2,3回手首を打ってゆくと自然に刀が抜けて来ると言った感じだ。
 この際、注意しなくてはならないことは最初にあまり力を入れて強く手首を打ち過ぎると、茎の短い短刀などは飛び出してしまう危険があると言うことだ。
 小太刀もどちらかと言えば茎が短いので適度な力加減が要求される。
 飛鳳を完全に抜き終わったところで次は拭いの作業へと移る。
 小太刀に限らず、刀を拭う時は最低でも2枚以上の拭い紙が必要となる。
   まず、最初の1枚で良く拭って、古い油や、汚れをとる。
 この作業は馴れていないと手を斬る危険性があり、慎重さも要求される。
 拭い紙を棟のほうから当て、刀の刃先を親指と人差し指とで軽く抑えるような気持ちで力を入れず、静かに拭うようにする。
 切っ先のところは特に力を抜いて切っ先の形なりに拭ってゆき、スッと抜いて行く。
 俺の場合は馴れているので上から下に拭い下げるようにやっているが、馴れていない人は絶対にやってはいけない。
 ほぼ、確実に手を斬ってしまうことになるからだ。
 一通りの拭いが終わったところで飛鳳に打ち粉を打っていく。
 小太刀の表のハバキ下から切っ先の方へムラが無いように軽く叩いて、裏側も切っ先からハバキ下の方へ同様に打ち粉を打つ。
 その上で棟の部分にも打ち粉を軽く打っておく。
 打ち粉を打ち終わったところで2枚目の拭い紙を使って先程と同様に飛鳳をゆっくりと丁寧に拭う。
 そして、拭い終わったところで飛鳳の状態を確かめる。
 この時、錆が出ていないか、傷やその他の故障が無いかを確かめておく。
 故障が無いことを確認した俺は柄などをはずしたまま飛鳳を鞘に収める。
 尚、手入れに使用した拭い紙は初めに油などを拭き取る時の下拭い用と打ち粉を打った後に拭う上拭い用とに分けて用いることが大事なことだ。
 最後に油塗紙を準備し、これを幅3センチ、長さ6センチほどに適当に畳んでこれに新しい油を含ませる。
 油塗紙に油を含ませたところで先程、鞘に収めた飛鳳をもう一度抜いて、拭いの時と同じ要領で静かに丁寧に油を塗っていく。
 油の塗り忘れが無いかを確認しながらこの作業を数回ほど繰り返し、ムラの無いように薄く全体に塗るようにする。
 こうして、油を塗る作業を終えたところで再び、柄をはめて飛鳳を元の状態へと戻す。
 飛鳳の柄をはめたところで問題無いかをもう一度確認し、状態を確かめる。
 問題が無いのを確認し、俺は飛鳳をゆっくりと鞘へと戻す。
 これで、小太刀の手入れは終わりだ。
 当然だが、1本目の飛鳳と同様に2本目の飛鳳も手入れをしておく。
 流石に小太刀を2本とも手入れをすると結構な時間がかかるし、集中力も要求される。
 こう言った要素もとても大切なことの一つだ。
 一通りの手入れが終わったところで俺は一旦、一息吐く。
 しかし、それを合図にしたかのように携帯電話から着信音が鳴り響いたのだった――――。
















 携帯電話の着信相手を確認する。
 電話の相手は『高町なのは』となっている。
「もしもし……」
 相手がなのはさんからと確認した俺はすぐさま電話に出る。
『あ、悠翔君。少し聞きたいことがあるんだけど……今、大丈夫かな?』
 こころなしか慌てているような感じのあるなのはさんの声。
 恐らく、何かあったんだろう。
「ああ、大丈夫だけど……。何かあったのか?」
『う、うん……実は……』
 何かあったのかと尋ねる俺に対して歯切れの悪いなのはさん。
 俺に言っても良いのかどうか悩んでいる感じだ。
 なのはさんは俺が今日、病院に行くことを知っている。
 何かあった場合でも俺の力を借りるわけにはいかないと思っているのかもしれない。
 暫くの間があった後、なのはさんがおずおずと口を開く。
『フェイトちゃんが学校に来てないの……』
「フェイトが!?」
『う、うん……』
 なのはさんの口から出てきた言葉はフェイトが学校に来ていないと言う意外な言葉。
 フェイトは真面目な娘だから学校を事情無くして休むような人では無い。
 確かに先日は俺を心配するあまりに学校を抜け出してきたことはあったが――――。
 それでも、なのはさん達にも黙って学校に来ていないと言うのは考えにくい。
 そう考えた俺はもう一つの可能性の方も尋ねてみる。
「もしかして、はやての方も知らないのか?」
『うん。はやてちゃんもフェイトちゃんからの連絡は受けてないって……』
「……そうか」
 はやてもフェイトからの連絡を受けていないと言うことも踏まえると……これは何かあったと考えるしかない。
 しかし、俺は今の報告を受けても思いのほか落ち着いていた。
 既に俺の中には心当たりがあったからだ。
『どうしよう、悠翔君。私達もフェイトちゃんを捜した方が良いかな……?』
「いや、なのはさんはそのまま学校にいてくれ。フェイトは俺が捜す」
『だけど、悠翔君も時間が……』
 フェイトを捜すと言いだした俺のことを心配してくれるなのはさん。
 確かに時間のことも考えればあまり動きまわるわけにはいかないだろうが……俺自身のことなんかよりもフェイトの方が大切だ。
 俺からしても時間なんて気にしている場合じゃない。
「俺のことは大丈夫だから……なのはさんはとりあえず、はやて達にもフェイトのことは俺がなんとかすると伝えてくれ」
『う、うん……。じゃあ、悠翔君……フェイトちゃんのことをお願い』
「ああ、任された」
 まだ、不安そうな様子のなのはさんからフェイトのことを託された俺は携帯をきる。
 フェイトがどうして学校に来ていないのか、誰にも言わずに行方が分からないのか――――。
 俺にはその全てに心当たりがある。
 昨日の魔導師のことが影響しているのは間違いは無い。
 デートの帰りの時、フェイトの様子がずっと可笑しかったのがそれを示している。
 俺には言えなかったこと――――それはあの魔導師が狙っていると言うことだったんだろう。
 フェイトは俺を狙わせないために自分からあの魔導師のところに行ったと考えられる。
 そして、今も学校に来ていないと言うことを考えればフェイトは朝から既に行方が分からなくなっていると言うことになる。
 相手の狙いは俺にあると言うのに――――フェイトが俺のために自分で身体を張っている。
 その気持ちは嬉しくもあるが、申し訳ないと思う。
 本来、フェイトはそんなことに巻き込まれることは無かった筈なのに、俺のせいでこんなことになってしまっている。
 大切な1人の女の子をこんなことに巻き込んでしまった――――。
 そのことが悔しくて、情けなくて――――。
 自らの不甲斐無さに俺は飛鳳を握り締めるのだった。




































 From FIN  2009/8/12



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