「なっ――――卑怯ですっ!」
「これも戦い方の一つだよ、ハラオウン執務官。それに手段など選んではいられんからな」
 卑怯だと思うけれどこれはスヴァン執務官の方の言い分の方が正しい。
 正々堂々の戦いをする場であれば卑怯な振る舞いは認められないけど、今はそんな場じゃない。
 寧ろ、正々堂々としている方が可笑しいと言っても良い。
 悔しいけど、相手の言い分の方が正しいと言えるかもしれない。
「確かに貴方の言う通りかもしれません……だけど、私は貴方達を認めるわけにはいきません!」
 相手の言い分を理解した上で私は否定の返答を返す。
 そして、そのまま待機状態にしてあるバルディッシュを掲げ、バリアジャケットを身に纏う。
「同じ管理局の人間同士でなんて戦いたくない……だけど、貴方達が彼を狙うと言うなら私は貴方達を止める」
「それは此方も同じことだ。魔導殺しを庇うと言うのであれば同じ管理局の所属であろうとも容赦せん」
 私が戦闘態勢に入ったのを認めたスヴァン執務官も同じくデバイスを起動させ、戦闘態勢へと移行する。
 周囲にいる管理局員達も戦闘態勢へと入っており、デバイスが私の方へと向けられている。
 一対多数の戦いになるけど――――ここで私が負けたら悠翔が狙われる。
 たった1人の大切な人に手出しをさせないためにも私は負けられない――――。























魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 デバイスを起動させたことを引き金に戦闘が開始される。
 フェイトは起動と同時にフォトンランサーを詠唱、そのまま向かってこようとした魔導師に向かって放つ。
 一対多数と言う状況になってしまった以上、機先を制するしかフェイトに手段は無い。
 スヴァン以外の魔導師にフェイトが劣っていると言うことはあり得ないが、フェイトはそこまで油断をするような魔導師では無かった。
 瞬く間にフォトンランサーで魔導師3人ほどを行動不能にする。
 因みにフェイトは殺傷設定を遣っていない。
 だが、殺傷設定を遣わなくても一定以上の魔力でダメージを与えれば行動不能にしたり、戦闘不能にすることも可能である。
 フェイトは一定以上の魔力ダメージを与えることで魔導師を戦闘不能に追い込んだのである。
 狙った魔導師が戦闘不能になったのを認めたフェイトはすぐさま距離を取り直し、砲撃魔法の準備へと入る。
 人数が多い以上、無闇に囲まれるわけにもいかない。
 ましてや、剣士と違って接近戦のみでと言う戦闘手段に長けていると言うわけでもない。
 迂闊に間合いに飛び込んで戦うと言うことは出来なかった。
 間合いを取り直したことで魔導師達の数名かが直線上に並ぶ形になる。
 フェイトの狙い通りの形になったと言っても良い。
 直線上に並んだ魔導師の人数は4人ほど――――それを確認したと同時にフェイトの砲撃魔法、サンダースマッシャーが放たれる。
 クロノのブレイズキャノンに迫るほどの砲撃魔法であるサンダースマッシャー威力も申し分ない。
 数名の魔導師を纏めて撃ち抜くのは難しいことでも無いのである。
 黄色の閃光が空間を斬り裂き、魔導師が倒れていく。
 この僅かな間にフェイトは7名もの魔導師達を戦闘不能に追い込んだ。
 フェイトのあまりの強さに周りの魔導師達がどよめきだす。
 若くして執務官となったフェイトの魔導師としての力量は噂に名高い。
 だが、あくまで少女と言う年齢でしか無いフェイトをそこまで評価しているわけでも無かった。
 あくまでスヴァンを除いて。
「ほう……流石はハラオウン執務官。全力を出さなくともこれだけ戦えるか」
「……解っているなら退いて下さい。私だってこんな真似はしたくありません」
「ふ、それが出来るなら当の昔に引いているさ」
「っ……!」
 他の魔導師はフェイトの実力に多少、怯みつつあるが肝心のスヴァンは全く動じる様子は無い。
 あくまでフェイトの実力が解っている上でのことらしい。
 フェイトとしてはなんとか、ある程度戦うだけで事態を収めたいと考えていたがそうもいかない。
 相手も退かないし、自分も退けない――――。
 このまま戦い続ければ相手の魔導師を全員、戦闘不能にしなくてはならなくなる。
 覚悟は既にしていたが、このまま戦い続けるわけにもいかない。
(あの人を止めるしかない――――)
 それが、フェイトの導き出した答えだった。
















 フェイトの戦いぶりを見ながらスヴァンはどうするかを考える。
 このまま普通に戦ったとしてもフェイトは時機に魔導師達を蹴散らしてしまうことだろう。
 フェイトの余力からすれば充分に考えられる。
 それに今のフェイトは愛する人に手を出させないために戦っている。
 そう言った時の人間と言うものは兎に角、強い。
 摂理のようなものだと言っても良いだろう。
 まともにぶつかりあうのは得策とは言えない。
(やはり、私が直接相手をしつつアレに嵌めるか)
 他の魔導師ではやはり、相手にならない。
 ここは自らが直接相手をするべきだろうとスヴァンは判断する。
 自身ならフェイトが相手でも対抗するのは問題無い。
 それに、フェイトをここに誘き寄せたのは罠にかけるためである。
 その罠自体は既に準備も終わっており、後はそのポイントにフェイトを誘い出すのみ。
 仕掛けた罠はAMFを人1人分ほどの範囲に展開させ、強制的に魔法を使用不能にさせるためのもの。
 相手が魔導師であればこれほど有効なトラップと言うものも無いだろう。
 幾ら、フェイトが魔導師としてどれだけ強くても魔法さえ封じてしまえば唯の少女でしか無い。
 そう結論付けたスヴァンがフェイトの動きを確認する。
 思案していた間にフェイトは更に3人ほど魔導師を戦闘不能に追い込んでいた。
 これで僅かな時間の間に10人ほどの魔導師が戦闘不能にされてしまったのである。
 だが、フェイトは魔導師の数を減らしたことで狙いをスヴァンの方に切り替えていた。
 スヴァンに向かってフェイトが距離を詰め始め――――フェイトの姿が真・ソニックフォームへと変わる。
 フェイトの誇る最速の形態にして、魔導師の速度の中でも頂点を極めていると言っても良いその形態。
 並みの魔導師では対応することも出来ないだろう。
(私を狙ってくるか。逆に好都合だ――――)
 しかし、スヴァンは並みの魔導師では無かった。
 フェイトが真・ソニックフォームを遣ってきたと言えども相手に出来ないと言うわけでは無いのであった。
 寧ろ、フェイトが狙いを切り替えたことによって誘導しやすくなる――――。
 フェイトが自分から術中に嵌まりつつあるのを認めたスヴァンは密かに笑みを浮かべるのであった。
















(あの人に対抗するにはこれしかない――――)
 自分よりも力量が上の相手に対抗するためには自分の最大の力が発揮出来る方法が必要。
 そう考えた私は真・ソニックフォームに形態を変える。
 魔法の限界の速度を極めたと言っても良い真・ソニックフォームなら対処されたとしても相手もギリギリの領域のはず。
 魔導師である限り、真・ソニックフォームの速度を上回ることは難しいから。
 私の戦闘スタイルが変わったことに気付いたスヴァン執務官がデバイスを構え、牽制の射撃魔法を放ってくる。
 弾速もなのはにも負けていない――――。
 だけど、今の私の速度ならそれを対処するのは難しいことじゃ無かった。
 迫ってくる魔力弾をギリギリの範囲で回避していく。
 だけど、全て避けたと思ったところで魔力弾の数発が方向転換し、私の追尾を開始する。
 今の魔力弾に数発か誘導弾を混ぜていたみたいで。
 こんな芸当が出来ると言うのは流石、執務官だと言っても良かった。
 このまま魔力弾の追尾を受けるのは不利だと考えた私は魔力弾を斬り落としにかかる。
 だけど、魔力弾は私の動きを嘲笑うかのように私を避けていく。
(どういうこと――――?)
 明らかに不自然な魔力弾の動き。
 普通、私を狙っているのであれば真っ先に私に向かってくるはず。
 私が今のように反転したとしても魔力弾が私を狙うことには変わりは無いはずだった。
 だけど、今の魔力弾は私を避けるような動きをしてくる。
 何処か不可解な動きだと感じられる。
 でも、あの魔力弾が殺傷設定の可能性が高いことも考えれば無視することも出来ない。
 悠翔を相手にすることを前提しているスヴァン執務官は殺傷を遣うことを躊躇ったりにするはずは無いから。
 私が不可解な動きをする魔力弾のことを考えていたら、急に魔力弾が加速して私へと向かって来る。
 咄嗟に私は魔力弾の弾道から外れる方向へと移動する。
 だけど、この動きが間違いだった。
「きゃっ……!?」
 私が移動した先の地面から光があふれ始める。
 光があふれてきたと思ったら、私のバリアジャケットがゆっくりと解除されていく。
 バルディッシュも機能を停止させていく―――。
(っ……!? まさか、AMF!?)
 光があふれた後に私の周囲に展開したものはアンチ・マギリング・フィールド――――通称、AMF。
 魔法を無効化する上級のフィールド魔法。
 AMFは外からなら対処法もあるものなんだけど……内側からでは殆ど対処法が無いと言う恐ろしいフィールド魔法。
 私はそのAMFの内側に入ってしまった。
 その性でバリアジャケットが維持出来ず、バルディッシュの魔力も遮断された。
 こうなってしまうと私もどうしようも出来なくて――――。
 今の私の状況からこれが始めからスヴァン執務官の狙いだったと言うことを察する。
 私をAMFの中に捕えることにより、一切の抵抗を封じる――――。
 それが、スヴァン執務官の狙いだった。
 だけど、それに今更気付いても遅い――――。
 私は既に相手の術中に嵌まった後なのだから――――。




































 From FIN  2009/8/10



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