多分、霊石に何らかの力があったとしても霊力を専門とする流派では無い御神流では力を引き出すことは敵わないだろう。
 神咲一灯流やそれに通じる流派の人間、または純粋に退魔の法を遣う様な人間しかこれを遣うことは出来ないんじゃないかと思う。
 こう考えれば魔導師にもこの霊石を遣うことは出来ないはずだ。
 魔導師には霊力と言ったものは一切遣えないどころか魔力しかないのだから。
 この霊石を遣う時点で魔力を失うと言った状況を招くだけでしか無い。
 だから、これを危険視したのかもしれない。
 それに魔力を失わせると言った効力――――魔導師の基準ではロストロギアに当たる可能性も高い。
 ロストロギアに当たる可能性があるからこそ、魔導師が回収に現れたんだろうと思う。
 結局は今の状況もロストロギアの回収と言った部分と父さんが回収を拒んだことに原因がある。
 だが、相手側は霊石のことを諦めて俺の方に狙いを変更している。
 既に事件の発端だった物であるはずの霊石は関係無い――――。
 後は俺が動けば相手も動いてくるはず――――。
 それに相手は人を守る側の立場の人間だ。
 俺を狙うにしても一般の人間を巻き込むような真似は考えないだろう。
 だから、そう言う視点で見てみればある程度の予測が見えてくる。
















 勝負どころは俺が1人で外に出た時だ――――























魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 悠翔とフェイトのそれぞれの思惑が交錯する中――――。
 事態は刻々と動き始めている。
 魔導師からの犯行予告のあった時間は午前10時頃。
 それよりも前にフェイトが現れなければ悠翔を襲撃すると言うことである。
 しかし、悠翔は相手が何も仕掛けて来ないわけが無いと思っており、既に迎え撃つ準備を整えている。
 相手の狙い目が自分が1人で外に出てきた時だということも。
 御神の剣士である悠翔であれば気配の察知と言う形で襲撃を回避することは難しくない。
 元々、御神不破流には目に頼らず、音と気配によって相手の居場所を知る術と言うものが存在する。
 この身体運用法を『心』と言い、元々暗がりで暗殺などを多様する不破家が編み出した術なのである。
 当然だが、御神不破流を継承している悠翔もこの術は習得しており、相手が動いた時点で察知することが可能なのであった。
 事実、魔導師が反応を消してくる術と言うものはあくまで魔法と言う概念によってであり、魔力が消えている状態でしか無い。
 剣士の感覚からすれば気配までは消えていないと言う感覚である。
 魔導師が相手であれば基本的に魔力反応を追うことで探るため完全に姿を消すことも適うだろうが、剣士が相手ではそうはいかない。
 剣士は一切、魔力を追うことなんてしないのだから。
 以前、ユーノが例え話として出したなのだが、この世界は魔法の変わりに剣術などがそれに当たると称したことがある。
 その基準で言えば、魔法が戦うための術であり、人を守るための術であるのならば剣術にも同じことが言える。
 剣術は殺人術にして、人を守るための術――――そして、心身を鍛えて自らを高めるための術と言っても良い。
 魔法もその点に関しては全く同じものであり、違いと言えば視点の差とでも言うべきだろうか。
 概念として、剣士が身を置いているこの世界では常に命のやり取りが発生する。
 しかし、魔導師の世界では非殺傷と言うものが存在しており、そう言った命のやり取りが起きることは殆ど無い。
 こう言った感覚の差ははっきり言って大きいと言える。
 相手もそうだが、自分自身の覚悟にも差が現れるし、気の持ち方も大きく変わってくる。
 悠翔も若いながらに剣士として立っている状態であり、覚悟と言うものは終わっている。
 それに相手が襲撃してくると言う点に関しては既に想定内のことであり、自分が1人になった時が狙い目だと言うことも理解している。
 しかし、フェイトは悠翔には手を出させるつもりは無いと言う考えであり、管理局内の問題だからその範囲で食い止めると考えている。
 それもまた、正しい考え方であると言える。
 だが、フェイトは自分一人でこのことを解決しようとしている――――。
 それに対して悠翔は相手が仕掛けてくるのを想定して準備をしている――――。
 ここに来て2人の考えは大きく違っているものになってしまっている。
 そして、それが今回の物事に大きく関わっていくことになるのであった。
 フェイトが悠翔を守るためにとった行動――――。
 これが、今回の事態に大きな影響を及ぼすことになる。
















「いってきます」
 念のため学校に行く準備を済ませた私は普段通りの時間に家を後にする。
 こう言った部分は何時もの通りにしておかないと皆に疑われてしまうだけ。
 幸い、今日はなのは達と一緒に登校する約束はしていないから私1人で動いても大丈夫。
 それに今のなのは達なら私が学校に来なくても悠翔のところに行っていると思うから疑われにくい。
 先日に私が早退して悠翔の様子を見に病院に行ったと言う行動からもそう思われるはず。
 こう言った大事なことをなのは達に黙っているのは気が引けるけど……相手との約束は1人でと言うことだからそう言うわけにもいかない。

 事情を説明したらなのは達はきっと助けてくれる――――

 だけど、こんなことになのは達を巻き込みたくない。
 今回の私の行動は管理局に対して刃を向けるようなことにもなっているかもしれないから。
 もし、相手が正式な許可を得ていたら私の行動は完全に管理局に反することになってしまう。
 管理局の視点からすれば悠翔のお父さんである不破一臣さんのおこした事件は未だに解決していないことになっている。
 事件の発端であった不破一臣さんはもういないけれど――――管理局はそこまでは知らない。
 悠翔は今のところ深く関わりを持っている人間で私達、魔導師とも接点を持っている。
 このことから魔導師と関わりを持っていて魔導殺しに一番近いのは悠翔と言うことになる。
 管理局は過去の素性には拘らないけれど――――悠翔は管理局には条件付きで協力してくれるに過ぎない。
 管理局入りに関しては明確に拒んでいると言っても良いと思う。
 だから、今の悠翔の立場は管理局からすれば危険視しても良い立場でもあるかもしれない。
 完全に敵対するとは言っていないけれど、完全な味方と言うわけでもない。
 悠翔は管理局に対しては曖昧な立ち位置を選んでいると言った感じ。
 でも、それは此方の世界で剣士として生きてきたから選んだ選択肢。
 そう考えてみても悠翔の選んだ立場が決して間違っているって言うわけじゃない。
 自分のいる世界の違いから考え方が大きく違うなんてことは充分に考えられるから。
 だけど、そう言った立場を選んだからこそ今回のことが起きようとしているかもしれない。
 もし、悠翔が管理局に正式に味方する立場であったら管理局側からもストップがかけられる。
 相手の魔導師も私闘と言う形で手出しはしにくくなる。
 でも、悠翔は味方をするとは明確にしていなくて。
 更に管理局で戦闘データを取った時に魔導殺しと呼ばれた不破一臣さんとの共通点が多いことが明らかにされてしまっている。
 危険視されたとしても当然のことかもしれない。
 そう言った意味では執務官と言う立場にいる以上、私も悠翔とは敵味方みたいな関係と言っても良いと思う。
 だけど、私は悠翔と相対する真似なんてとても出来ない。
 悠翔が優しい人だって知っているし、悠翔の剣が大事な人を守るためにあるってことを知っているから。
 それに悠翔は私が初めて大好きになった大切な人――――。
 たった1人の大切な人と刃を交えるなんてとても出来ない。
 だから、私は今回のことを止める側に回る――――。
 魔導殺しと言う理由はあったとしても当事者では無い悠翔を後継者だからと言う一方的な理由で遣らせるわけにはいかない。
 後は相手を止めるだけ――――それが私に出来ることだから。
















「……来たか、ハラオウン執務官」
 私がこの場に現れたことを確認し、相手が口を開く。
「はい、貴方を止めに来ました」
 私も相手の魔導師に対して返事を返す。
 昨日はあまり相手の顔を良く見てなかったから解らなかったけど……この人は見覚えがある。
 スヴァン=ヒルド執務官――――私と同じ執務官の立場にある人。
 この人は執務官としては裏側の仕事が多く、汚れ役みたいなことを多くしてきているって聞いたことがある。
 でも、魔導師としての実力は一流で執務官の中でもトップクラスの実力者だとか。
 ランクは私と同等のSランクで魔力自体は私よりも低い。
 だけど、魔導師にして裏側の任務を多くこなしてきた彼は私よりもずっと経験豊富な人物。
 元々の魔力以上に大きな力を持っている。
 正直、私だけじゃとても敵わないかもしれない。
 でも、私はそれでも戦わないといけないからこの人と相対する。
「くくく……殊勝な心がけだが、君では私には勝てないだろう」
「……そうかもしれません。ですが、私は彼のために貴方と戦います」
 敵わないかもしれないけど私の覚悟はもう決まっている。
 悠翔を守るためにもスヴァン執務官と戦ってその行動を阻む――――それが私の決めたこと。
「ふっ……良い眼だ。しかし、此方の言う通りにしてくるとは甘かったな」
 私の様子を見ながら指をパチンと鳴らすスヴァン執務官。
 今の合図に合わせてこの場に伏せていたと思われる管理局員達が続々と現れる。
「なっ――――卑怯ですっ!」
「これも戦い方の一つだよ、ハラオウン執務官。それに手段など選んではいられんからな」
 卑怯だと思うけれどこれはスヴァン執務官の方の言い分の方が正しい。
 正々堂々の戦いをする場であれば卑怯な振る舞いは認められないけど、今はそんな場じゃない。
 寧ろ、正々堂々としている方が可笑しいと言っても良い。
 悔しいけど、相手の言い分の方が正しいと言えるかもしれない。
「確かに貴方の言う通りかもしれません……だけど、私は貴方達を認めるわけにはいきません!」
 相手の言い分を理解した上で私は否定の返答を返す。
 そして、そのまま待機状態にしてあるバルディッシュを掲げ、バリアジャケットを身に纏う。
「同じ管理局の人間同士でなんて戦いたくない……だけど、貴方達が彼を狙うと言うなら私は貴方達を止める」
「それは此方も同じことだ。魔導殺しを庇うと言うのであれば同じ管理局の所属であろうとも容赦せん」
 私が戦闘態勢に入ったのを認めたスヴァン執務官も同じくデバイスを起動させ、戦闘態勢へと移行する。
 周囲にいる管理局員達も戦闘態勢へと入っており、デバイスが私の方へと向けられている。
 一対多数の戦いになるけど――――ここで私が負けたら悠翔が狙われる。
 たった1人の大切な人に手出しをさせないためにも私は負けられない――――。




































 From FIN  2009/8/6



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