「尤も、魔導師の側としては一臣に全滅させられた事で諦めたのだろうけど」
 あれから、父さんが魔導師に遭遇していないのは相手が諦めたと言うのも確かにあると思う。
 そのお陰で俺は魔導師とは関わらずにいられた。
 しかし、父さんが魔導殺しと言う事件を起こしたのには変わりは無い。
 結局のところはこうして、あの事件を追いかけてきた人間が出てきてしまった。
 芽は摘み取れていなかったと言えるのかもしれない。
「だけど……結局、魔導師とはまた刃を交えることになりそうね。……悠翔、これを持って行きなさい」
「夏織さん?」
 そう言って俺に霊石を手渡してくる。
「この霊石は必ず役に立つわ。相手をどうするかは悠翔次第だけど、ね」
「……夏織さん」
 夏織さんから霊石を受け取った俺はそれをじっと見つめる。
 こうして見る限りでは綺麗な石でしか無いように見える。
 だが、これは父さんが守っていた物であり、形見の品のような物。
 今回の決着をつける上でも持っていた方が良いのかもしれない。
 俺には魔力と言った特別な力は全く無い。
 この石の力も俺に対しては何も効力を発揮しないはずなのだが――――霊石が何処となく暖かく感じた。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















「この霊石は一臣が守っただけじゃなくて、悠翔のお母さんの物でもあるのよ」
 霊石を受け取って何処となく暖かい感じがすると思っていた俺に驚きの言葉が投げかけられる。
 これは俺の母さんの物でもある……じゃあ、霊石は母さんの?
「悠翔が考えているのとは少し違うかもしれないけど……この霊石は貴方のお母さんが守っていたの。ある事情をきっかけにね」
「ある事情ですか……?」
「……ええ、そうよ」
 俺の思った通り、この霊石は母さんが守っていたものだったらしい。
 しかし、夏織さんは何かを言うべきか悩んでいるような表情をしている。
 そして、少しだけ考えた後、夏織さんがゆっくりと口を開く。
「……実は悠翔のお母さんは魔導師だったの。この世界出身のね」
「なっ!? 母さんが……」
 夏織さんのまさかの言葉。
 俺も全く知らなかった意外なこと――――はっきり言ってなんて言ったらいいのか解らない。
 母さんが魔導師だったなんて……。
 俺の知っている母さんは少なくとも魔導師では無かったはずだ。
 何処か変わっている感じだったけど普通の人間だと思っていた。
「でも、悠翔のお母さんはこの霊石が原因で魔力を失ったわ。だから、貴方の知っているお母さんは魔導師では無いの」
 夏織さんが俺の疑問の一つを答えてくれる。
 魔を払う霊石――――これが魔力を消滅させると言うことなら魔導師だった人は普通の人になってしまう。
 ある意味でそれが実証された一例だとも言える。
 こういった事情があったのなら俺の母さんが魔導師じゃないと言う理由も納得は出来る。
「悠翔のお母さんは元々からこの世界では古い家柄の人間だったの。だけど、強い魔力を持っていた。魔導師になったのは多分、それが原因ね」
 初めて聞く俺の母さんの話題。
 母さんが古い家の人間だったのは知っていたけど、魔導師でもあったと言うのは初めて聞いた。
 俺が生まれた時はもう、母さんは魔導師じゃなかったから。
「悠翔のお母さんは魔導師としては10歳くらいから活躍していたらしいけど……内容に関してだと詳しい話までは解らないわ」
 俺の母さんもなのはさん達と同じように幼い頃から魔導師として活躍していたらしい。
 やはり、魔導師は若い頃からと言うのが多いのだろうか?
「とりあえず、解っていることとすれば、悠翔のお母さんは任務で霊石を回収しに来た際に霊石に触れてしまったことによって魔導師としての力を全て失ったことね。要するに”魔”を払われたと言うのはこういうことになるんじゃないかしら?」
 ”魔”の力――――魔法のこと。
 母さんが魔法を失ったのは霊石に触れたから――――。
 確かに夏織さんの言う通り、魔を払われたとは良く言ったものだ。
 考えてみればその通りだと言えるのだから。
 しかし、魔導師としての力を失ったと言っても母さんは元からこの世界の人間だ。
 どうにかする手段はあったんじゃないかと思ってしまう。
「でも、悠翔のお母さんの実家は過去に滅亡していて管理局の保護下にあったの。経緯としては過去の事件の時に管理局に接触した形だったと思う。  確かあの時に行方が解らなくなっていたのが彼女だし、何かしらで管理局に遭遇したと考えればつじつまも合うわ」
 そんな疑問点を夏織さんがきっちりと説明してくれる。
 母さんの実家は既に無かったと言うことらしい。
 そう言えば母さんの家は古くから続いている家だったと聞いた気がする。
 古くから続いている家と言うのは何かしらの事情を抱えていることが多い。
 御神流に関わる家もそんな古くから続いている家の一つであり、爆弾テロが過去にあったのはそう言った事情も含まれている。
 恐らく、母さんの実家も同じような事情だったんじゃないかと思う。
「それで、魔力を失って管理局に戻る術も失った悠翔のお母さんは途方に暮れたみたい。どうすることも出来ないってね」
 確かに実家は滅亡、保護先の管理局には戻れないとなれば途方にくれるしか無いと思う。
 実際に俺も父さん達を失った時に夏織さんと美沙斗さんが引き取ってくれなかったら同じ状況だったのだから。
「だけど、この時に一臣が悠翔のお母さんを助けてくれたのよ。事情を全部聞いた上で、霊石の持ち主にもことの経緯を全て説明してね。
 この時に霊石の持ち主だった人は悠翔のお母さんを責めること無く、引き取ると言ってくれた。だから、悠翔のお母さんは天涯孤独の身でありながらこの世界に戻れた。
 後はまぁ……一臣達しかしらないわね。今は本人がいないから確認することなんて出来ないけど……」
「いえ、ここまで聞ければ充分です。夏織さんがこの話を知っているということは……夏織さんも一応は当事者だったんですか?」
「まぁ、そんなところね。私もこの時は一臣に会いに来ていた頃だったし、本当に偶々よ。このことに関しては」
 夏織さんがこの話について詳しいことが疑問だったが、当事者の1人だったのなら納得出来る。
 細かい部分までは解らないとは言っていたけれど後は父さん達の問題だったんだろう。
 唯、夏織さんが解らなかった部分の話でも明らかになっていることが一つある。
 父さんと母さんはこの事件をきっかけに知り合い、そして結ばれるに至ったのだと――――。
















「そう言った事情もあるからこの霊石は悠翔が持つべきだわ。私が預かっていたけど、本来の持ち主に返すと言った感じね」
「はい、夏織さん」
 こうして、事情を聞いてからならこの霊石を俺が持つと言うのも納得出来ると思う。
 父さんと母さんが出会った切欠にして、後に父さんが守りぬいた物。
 これを俺が受け継ぐと言うのなら躊躇う必要性なんて無い。
「これで、貴方は一臣から全てを引き継いだわ。不破家の後継者が持つ小太刀である飛鳳。そして、一臣が守った物である霊石……」
「……はい」
「後は魔導殺しの事件に決着をつけること――――これで悠翔が背負っているものも一段落するわ」
 俺が父である不破一臣から背負ったもの――――。
 夏織さんの言う通り、魔導殺しの事件に決着をつければ全てが一段落する。
 元から狙われているという点については剣士として身を置いているのだから気にするまでも無い。
 そう言ったことも踏まえれば魔導殺しの事件が決着をつけるべきことであり、因縁の終わりなのかもしれない。
「だけど、まずは腕を治してからね。今のままじゃ万が一に対処出来ないでしょ?」
「そう、ですね」
 夏織さんの言う通り、まずは左腕を治さなくてはならない。
 利き腕に制限のある今のままで戦うのは命取りにもなりかねない。
 相手が手段を問わない以上、俺の方も万全の態勢で挑むのが定石だろう。
 あの手の相手は本当に何をしでかすか解らない。
 魔導師だと言うことが解っているとはいえ、相手は俺を始末するためにきた相手だ。
 普通の魔導師と考えるのは愚の骨頂だろう。
 寧ろ、剣士や暗殺者と戦う時と全く同じように考える方が良いだろう。
 そう考えるのであれば俺は相手を斬り捨てるつもりでいくべきだ。
 しかし、それは相手の対応次第で考えるしかない。
 出来るなら殺さずに法の裁きと言ったように持っていきたいが――――それはそれで、禍根を残すままとなってしまう。
 結局のところは手段と言う手段が考え辛い。
 だが、こうして手元に霊石があることを考えれば手段はあるかもしれない。
   相手を制圧した上で、霊石で魔力を失わせる――――。
 これが、俺に出来る裁量の手段だろうと思う。
 しかし、相手の出方次第では全員を斬り捨てる必要も考えられる。
 手加減をしては命を失うだけであり、余計な禍根を残すことにしかならない。
 剣士である俺に出来るのはそれだけだ――――。
















 夏織さんから霊石を受け取り一通りの話を聞いた後、俺は部屋で1人になっている。
 1人になったことで改めて、色々と考えてみる。
 父さんが最後まで魔導師から守ったと言う物――――。
 こうして、俺が持つことになるなんて何処か感慨深いものがある。
 だが、こうして俺が霊石を以って魔導師と戦うことになるのはやはり因果と言う奴なのかもしれない。
 父さんが戦った相手とは限らないが、少なくとも因縁のある相手だ。
 俺がその相手と戦うと言うのを因果と言わずとしてなんて言うんだろうか。
 剣士と魔導師の命のやり取り――――父さんは何をどう思っていたのだろうか。
 唯の敵だと割り切っていたのか、それとも嘗ての母さんの同胞を斬ることに心を痛めていたのか――――。
 父さんはもういないため、それは誰にも解らない。
 俺の知っている父さんだったら、よほどのことが無い限りは人を斬り捨てたりはしない。
 だけど、父さんは魔導師全員を斬って捨てた。
 多分、母さんに関係していたのかもしれない。
 霊石によって魔導師から引退した母さんに管理局が何かを言ってきたと言う可能性もある。
 管理局でそれを保護するとかそういった名目で。
 しかし、母さんの立場を考えればそれは承服出来ないことだろうと思う。
 霊石の元の持ち主は恩人だと言っても良いのだから。
 恩を仇で返すなんて真似はきっと出来なかったんじゃないかって思う。
 それに管理局との縁は魔力を失ってからは切れたものになっていたのかもしれない。
 この世界に戻ってきた母さんはもう、魔導師としてやっていくことは出来なかったんだから。
 母さんとしても魔導師を引退して父さんと結婚した以上、そのつもりだったんだと思う。
 この霊石自体は古くから伝わってきていた物であり、特別な物ってわけじゃない。
 確かに邪気払いと言った力が強いと言った感じだけど、神咲家の霊剣ほど特別な物とは言い辛い。
 管理局がこれを欲したのは神咲家の存在を知らなかったからかもしれない。
 だけど、それだけじゃ理由としてはまだ弱い。
 霊剣の存在を知らなくても霊石を狙うだけの理由があったんだから。
 多分、管理局が霊石を本気で保護と言う名目で確保しようとしたのは母さんが原因なんだと思う。
 若くて優秀な魔導師だったと言う母さんが触れてしまっただけで魔力を失ってしまった――――。
 このことから霊石は危険な代物と判断されたためだろう。
 結局は父さんが再度、霊石を確保しようとした魔導師達を全員、斬って捨てることによってこのことは終わった。
 しかし、今度は霊石では無く、父さんが魔導師を斬ったと言うことが今の事態を引き起こしている。
 要するにこの霊石を取り巻く状況が事件を引き起こした――――要するにこう言うことなんだろうと思う。
 だからこそ、俺は今回で全てに決着をつけないといけない。
 父さんのこと、母さんのこと――――どちらにも関わりがあったのなら俺が決着をつけるまでだ。
 だけど、まずは利き腕を治してからにしないといけない。
 今のままでは万が一だって考えられるのだから。
 とりあえず、全ては明日の手術次第だな――――。




































 From FIN  2009/7/16



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