夏織さんの言っている許可と言うのは――――人を斬っても良いという許可。
 所謂、拳銃で言うところの発砲の許可と同義ではあるのだが――――夏織さんはそこまでしても構わないと言っている。
 と言うことは夏織さんも今回で全ての決着をつけるようにと言っているんだろう。
 俺も元々からそのつもりで考えていたから夏織さんの手回しは有り難く思う。
 戦うしかないのであれば、剣士から見ればそれはもう、命のやり取りだ。
 相手が魔導師であって、剣士とは考え方などが違うと言ってもそれは全くもって関係は無い。
 立ち塞がった以上は俺の敵でしかないのだから――――。
 そして、事の次第を覚悟した俺は御神の剣士としての誓約文言の一部を思い出すのだった。
















 進むなら、阻まれる覚悟をせよ――――
 痛みは恨みをことを覚悟せよ――――
 力を持つから罰せられることを覚悟せよ――――
 それらを自覚し、それでも守りたいなら覚悟せよ――――
 守るために傷つける者よ、覚悟せよ――――
 いつか、誰かに恨まれて傷つけられるかもしれないことを――――
 親しい者達に降りかかる理不尽が、自分への恨みを発端にしているかもしれないことを――――
















 正にこの言葉は俺の今の状況をはっきりと示唆していると言える。
 そして、もう一つの言葉もそれにしっかりと当てはまっている――――。
 その言葉は今の俺が夏織さんとの会話で決断したことでもある――――。
















 ――――覚悟ができたのなら、剣を取れ
















 最早、覚悟は出来ている。
 後はこの手で決着をつけるだけだ――――。
 それがどんな結末になるのだとしても――――。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 結局、どんなふうに考えても今の私にはどうすることも出来なくて。
 私に出来ることなんて明日に備えるしかない。
 それに、悠翔にはもう気付かれていると思う。
 私としては隠していたつもりだけど悠翔が敏感な空気に気付かないなんて思えない。
 悠翔は鈍感な人だけど、命のやり取りをしてきただけあって今回みたいなケースにはとても敏感で。
 私の表情の意味なんてきっと理解していると思う。
 でも、流石の悠翔でも明日のことまでは解らないはず。
 だけど、それはあくまで想いの通じ合う前までの話。
 今の悠翔は私の様子を良く見てくれている。
 それがとても嬉しくて、私は天にも昇る気持ちだった。
「はぁ……」
 だけど、それは今回の場合に関しては辛いものがある。
 悠翔を巻き込みたくないって思っている私だけど……悠翔はきっと自分からこのことに関わってくる。
 それを考えるとどうしても溜息が漏れてしまう。
 悠翔にこれ以上、魔導殺しのことに関わらせたくないから。
 だから、私は自分のところで止めるって決意したのに。
 既に私の中にも予感みたいなものがある。
 多分、私が戦って勝てなければとんでも無いことになってしまうってこと……。
 あの魔導師は悠翔に挑むだろうし、悠翔も受けて立つと思う。
 だけど、悠翔は殺すことを前提として剣を振るっているって言っていたから。
 魔導師が剣士と命のやり取りをするなんて凄く重いこと。
 どんなに考えても良い結果になんてなるわけが無い。
 もし、本当に悠翔が魔導師と戦うことになったとしたら、私は悠翔の味方をすると思う。
 例えクロノや義母さんが魔導師の側に回ったとしても。
 私だってもう、覚悟は出来ているんだから――――。
 悠翔と運命を共にするって――――。
















「悠翔。覚悟も決まったことだし……貴方に渡しておくものがあるわ」
 そう言って夏織さんは厳重に包まれた小さなものを取りだした。
「これは?」
「開けてみれば解るわ」
 夏織さんに開けるように促されて俺は包みを開ける。
 包みの中から出てきたものは俺が見たことも無い宝石のようなもの――――。
「夏織さん、これはまさか――――?」
「そう。これは一臣があの時の事件に守っていたもの。所謂、オーパーツって言うものに当てはまるけど……如いて言うなら、霊石とでも言えば良いかしらね」
「霊石……」
 確かに夏織さんの言う通り、この石からは特別な力のようなものを感じる。  なんて言えば良いだろうか――――神咲流の遣う得物である霊剣と似たようなものだと感じる。
「要するに邪気払いの力がある石って感じね。存在的には神咲流の霊剣に近いかもしれないわ」
 俺が感じた通りにこの石は霊剣のような存在らしい。
「でも、この石には特別な力なんて無いわ。あくまで私たちにとってはね」
「……そうですね」
 夏織さんが言っている通り、あくまで俺達には特別な力は無いだろうと思う。
 元々から神咲流の人達のような霊力は持ち合わせていない。
 これが霊石と呼ばれるものだとしても御神流の人達にはその力を遣う事は出来ないだろう。
「だけど、魔導師に対してはとてつもなく大きな力を発揮するはずだわ」
「魔導師に対して?」
「ええ、そうよ」
 しかし、夏織さんからの言葉は意外と言っても良い言葉。
 魔導師に対しては大きな力を発揮する――――いったい、これはどういう意味なんだろうか?
「この石は邪気払いの力があるって言ったけど……これは魔を払うって言うのもそれに含まれるわ」
「魔を払う――――」
「そう、名前の通り”魔”と言う名の力――――魔力も払うことが出来るの」
「なっ……!?」
 思わず、この石の意外な側面に驚く。
 邪気を払う――――これは確かに霊剣などと言った神咲流に伝わっているもの全てに通じるもの。
 それは勿論、魔を払うと言うのも含まれているとは思う。
 邪も魔も同じようなものと言われているのだから。
 だけど、まさか本当に魔力を払うことも出来ると言うのには驚いた。
「と言うことは……?」
「そう。この石には魔力を消滅させる力があるの」
 魔力を消滅させる――――。
 これは驚異的な力を持っているって言っても良いかもしれない。
 俺達のように魔法を元から遣えない人間にとって関係は無い。
 だが、魔導師の側から見ればこれほど恐ろしいものは存在しないだろう。
 何しろ触れているだけで魔力が失われてしまうのだから。
 だが、これで魔導師側がこれを狙ってきたかの合点がいった。
 魔導師からすればこの石を野放しにするなんて真似は出来ないだろう。
 何しろ、魔導師としての存在を消されてしまうようなものなのだから――――。
















「まぁ、魔を払うための物って言っても私達からすれば危険じゃないわ。元々から魔力なんて無いんだしね」
「……そう、ですね」
 俺が考えた通り魔導師では無ければ大きな危険があるわけでは無いらしい。
 元々から魔力が無いと言うこの世界だからこそこの石は危険なものでは無いと言える。
 とは言っても霊石もこの世界では特別なものには変わりないだろう。
 父さんが護衛に入ったと言うくらいだ、相応の物だと考えられる。
 しかし、どうして夏織さんがこの霊石を持っているんだろうか?
「この石は一臣が亡くなる前に私に預けていた物なの」
 俺が尋ねる前に夏織さんが俺の疑問に答えてくれる。
「護衛をした時の事件によってこの霊石は正式に一臣の手に渡る事になったわ。確実に守るためにね」
 夏織さんの言っている通り、魔導師に狙われたと言うのであれば誰かが守らなくてはならない。
 守りきったとはいえ、父さんがいなくなった事を知ってしまえばまた、狙われるかもしれない。
 父さんが持つようになったのは必然的な事だって言っても良かった。
「幸い、一臣はこのことを他に洩らすと言うことをしなかったわ。だから、他の人間には狙われなかったの」
 確かに父さんは御神不破流の正統後継者。
 暗殺などを生業とする裏の人間だと言っても良い。
 父さんが情報を一切、洩らさなかったのは当然のことだ。
「尤も、魔導師の側としては一臣に全滅させられた事で諦めたのだろうけど」
 あれから、父さんが魔導師に遭遇していないのは相手が諦めたと言うのも確かにあると思う。
 そのお陰で俺は魔導師とは関わらずにいられた。
 しかし、父さんが魔導殺しと言う事件を起こしたのには変わりは無い。
 結局のところはこうして、あの事件を追いかけてきた人間が出てきてしまった。
 芽は摘み取れていなかったと言えるのかもしれない。
「だけど……結局、魔導師とはまた刃を交えることになりそうね。……悠翔、これを持って行きなさい」
「夏織さん?」
 そう言って俺に霊石を手渡してくる。
「この霊石は必ず役に立つわ。相手をどうするかは悠翔次第だけど、ね」
「……夏織さん」
 夏織さんから霊石を受け取った俺はそれをじっと見つめる。
 こうして見る限りでは綺麗な石でしか無いように見える。
 だが、これは父さんが守っていた物であり、形見の品のような物。
 今回の決着をつける上でも持っていた方が良いのかもしれない。
 俺には魔力と言った特別な力は全く無い。
 この石の力も俺に対しては何も効力を発揮しないはずなのだが――――霊石が何処となく暖かく感じた。



































 From FIN  2009/7/12



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