「……悠翔ならそう言うと思ってたわ。だけど……とりあえず、明日は無理をしないこと。良いわね?」
「はい、解りました」
 夏織さんから明日の病院の時間帯と手術について簡単に教えて貰う。
 今の左腕のことを考えれば恭也さんの膝と同じくらいにまで治るなら充分すぎると思う。
 恭也さんの膝は神速も撃ち過ぎなければもう、痛みらしい痛みは無いと言った段階だ。
 そのくらいにまで治るのであれば俺の左腕も雷徹も撃ち過ぎなければ大丈夫と言ったところにまで治る。
 今は2回も雷徹を撃てば利き腕はもう、痛みを感じる段階だ。
 それに、長時間小太刀を振るうことも叶わない。
 だから、俺は虎乱と言った二刀を遣う奥義が遣えなかった。
 しかし、腕が治ってしまえば二刀を遣う奥義を習得することも出来るかもしれない。
 そう言った意味でも明日の手術は重要なものであり、絶対に成功して欲しい。
 だけど、俺の利き腕が治ると言うことよりフェイトに利き腕のことで無闇に心配をかけないで済むと言うこと――――それが一番嬉しい。
 それが今の俺の利き腕に関することで思う一番の気持ちだった。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















「そう言えば、ちょっと聞きたかったんだけど……悠翔は今日、何処に行ってたの? 確か、フェイトちゃんと出かけてたわよね?」
「……なんで知ってるんですか」
 ひとまず、話に一区切りがついたところで夏織さんが新しい話題を振ってくる。
 黙っていたつもりだったのだが、フェイトと出かけていたのは思いっきりバレていたらしい。
 しかし、なんで知っているかは聞かないと駄目だろう。
 少なくとも俺は今日は誰にもフェイトと出かけるとは言っていなかったはずだ。
「ふ〜ん……カマをかけてみただけだったんだけど。本当だったのね」
「ぐ……」
 しかし、流石は夏織さんだった。
 此方が自爆するのが解っていてあえて言わせてきた。
 俺の方も言葉に詰まるしか返答が思いつかない。
「で、どうだったの? ふたりっきりだったんだから色々と進展とかあったのよね?」
「……黙秘は流石に駄目ですか?」
「勿論、だめよ? 今の悠翔の保護者は私なんだし、ね」
 あまり、話したくないのでなんとか黙秘権を行使しようとするが、夏織さんにそんなものは通じないらしい。
 これではどうしたものかと考えてしまう。
「とは言いたかったけど……詮索するのは流石に野暮すぎるわね。やっぱり、今回は聞かないことするわ」
 俺が困った様子になったのを見兼ねたのか夏織さんは詮索するのを止めてくれる。
 普段なら根掘り葉掘り聞かれていたかもしれないが、流石に解っていてくれているらしい。
「とりあえず、悠翔を見てる感じでは大丈夫だったみたいだし?」
「……はい」
 俺が何も言わなくても何処かで夏織さんは今回のデートが上手くいったのかが解っている。
 所謂、大人の女性の勘と言う奴なのかもしれない。
「こうしてふたりっきりでデートをしたってことは、悠翔とフェイトちゃんはつきあい始めたのね?」
「……はい、そうです」
 夏織さんが俺とフェイトの関係が進んでいることを尋ねてくる。
 俺としても夏織さんに対してはっきりと気持ちを伝えておかなくてはいけないと思い、肯定の返事を返す。
 フェイトとの関係は夏織さんの前で否定するべきものじゃない。
 いや、もうここまで来てしまったら隠しだてする方が可笑しいと思う。
 フェイトのことを恥ずべき必要なんて全く、無い。
 海鳴で見つけた大切な人――――それがフェイトなんだから。
















「そう……良かったわね、悠翔」
 俺の返答に嬉しそうな表情で頷く夏織さん。
 夏織さんは俺を引き取ってからずっと気にしてくれていた。
 父さんも母さんもいない俺のことを引き取って今まで剣士として育てくれたのは夏織さんだ。
 俺が海鳴に来た理由も夏織さんに勧められたからだった。
 後は美沙斗さんからも勧められたという理由も大きい。
 恭也さんの母親である夏織さんと、美由希さんの母親である美沙斗さんには本当に感謝するしかない。
 俺が大事な人を守るためと言う剣を教えてくれたのも夏織さんと美沙斗さん。
 特に夏織さんは恭也さんに教えてあげられなかった分まで教えてくれたと思う。
 そうして、俺のことをずっと見てくれてきた夏織さんにとって今回の俺の報告は感慨深いものがあるのかもしれない。
「フェイトちゃんを大事な人って認めたってことはもう、覚悟も出来ているのね?」
「……はい。それはもう既に」
 夏織さんの覚悟は出来ているかと言う問いかけ。
 それが何を示しているのかと言われるとそれは――――フェイトとの別離を示している。
 そして、もう一つの覚悟とは――――管理局に対する態度のこと。
 夏織さんは曲がりなりにも俺の父さんと魔導師の関係のことを解っている。
 だからこそ、今の問いかけをしてきたって言える。
 父さんとの関係がはっきりしてきた今、俺がどう対峙するかは明らかになってきている。
 そして、今日のデートの時に出会った魔導師――――それが俺に答えを導き出させた。
 管理局があの行動を認めているかは解らない――――だが、少なくとも俺はあの魔導師と戦わなくてはならないだろう。
 そして、俺があの魔導師と戦うことで魔導殺しと言う事件は全て解決すると思う。
 あの魔導師が俺の父さんとのことに因縁をもっている最後の1人だとするならば決着をつければ残りを根絶出来る。
 だが、その代償は大きくなってしまうだろう――――。
 しかし、この魔導殺しのことについては俺が決着をつけるしかない。
 父さんの残した最後の問題を解決するのは息子である俺の役目なのだから――――。
















「だったら、私からはこれ以上何も言わないわ。フェイトちゃんとつきあうことには賛成だしね」
「夏織さん……」
「だから、フェイトちゃんを悲しませちゃ駄目よ?」
「……はい」
 俺が何を考えているのか解った夏織さんはこれ以上は何も言わないと言ってくれる。
 だが、フェイトを悲しませるなと念を押す。
 夏織さんには俺が魔導殺しの事件を解決させるつもりでいると言うことが解っている。
 しかし、それによってフェイトを巻き込むと言うことも解っているのかもしれない。
 フェイトは管理局の人間であり、魔導殺しの事件のことを知ってしまっている。
 そして、俺と一緒にいる時に切欠となる人物とも出会ってしまった。
 既に布石は打たれてしまっている――――もう、ここまで来たら止められない。
「念のために許可を出しておくようにしておくわ。悠翔、万が一があったら剣を取りなさい」
「……解っています」
 夏織さんも何処かでそれに気付いている。
 いや、もしかしたら俺が不審な人物を見た時から考えていて、先日の管理局での気配でそれを確信したのかもしれない。
 俺とは比べても多くの修羅場を見てきた夏織さんには何か感じるものがあるんだろう。
 何も言ってはこないが、恭也さんも士郎さんも同じことを感じているかもしれない。
 夏織さんも万が一があったらと言っているが、既に俺が剣を取るしか無いことを解っている。
 そうでなければ許可を出しておくようにとまでは決して言わないだろう。
 夏織さんの言っている許可と言うのは――――人を斬っても良いという許可。
 所謂、拳銃で言うところの発砲の許可と同義ではあるのだが――――夏織さんはそこまでしても構わないと言っている。
 と言うことは夏織さんも今回で全ての決着をつけるようにと言っているんだろう。
 俺も元々からそのつもりで考えていたから夏織さんの手回しは有り難く思う。
 戦うしかないのであれば、剣士から見ればそれはもう、命のやり取りだ。
 相手が魔導師であって、剣士とは考え方などが違うと言ってもそれは全くもって関係は無い。
 立ち塞がった以上は俺の敵でしかないのだから――――。
 そして、事の次第を覚悟した俺は御神の剣士としての誓約文言の一部を思い出すのだった。
















 進むなら、阻まれる覚悟をせよ――――
 痛みは恨みをことを覚悟せよ――――
 力を持つから罰せられることを覚悟せよ――――
 それらを自覚し、それでも守りたいなら覚悟せよ――――
 守るために傷つける者よ、覚悟せよ――――
 いつか、誰かに恨まれて傷つけられるかもしれないことを――――
 親しい者達に降りかかる理不尽が、自分への恨みを発端にしているかもしれないことを――――
















 正にこの言葉は俺の今の状況をはっきりと示唆していると言える。
 そして、もう一つの言葉もそれにしっかりと当てはまっている――――。
 その言葉は今の俺が夏織さんとの会話で決断したことでもある――――。
















 ――――覚悟ができたのなら、剣を取れ
















 最早、覚悟は出来ている。
 後はこの手で決着をつけるだけだ――――。
 それがどんな結末になるのだとしても――――。



































 From FIN  2009/7/9



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