あの男さえいなければ、自分にもっと力があれば――――。
 そう思ったスヴァンは自らをずっと磨き上げてきた。
 魔導殺しを倒し、この怨みと言うものを晴らすために――――。
 その一心でずっと力を高めていったスヴァンであったのだが、魔導殺しは自らの手にかかることなく死亡してしまった。
 原因は解らなかったが、呆気無い魔導殺しの最後であった。
 魔導殺しが死亡したのは喜ばしいことではあったが、スヴァンは怨みをぶつける場所を亡くしてしまった。
 何時しか魔導殺しの怨みも過去のこととなりつつあった現在――――。
 不破悠翔と名乗る1人の少年を見ることになった。
 海鳴の地で監視していたのは雰囲気が魔導殺しに似ていたと言うだけの理由であった。
 しかし、少年が管理局でテストを受けると言う話になった時あまりにも驚いた。
 少年の動きはあの魔導殺しに似ていたのである。
 風貌だけでは無いあの動き、あの立ち振る舞い、その全てが魔導殺しに似ている――――。
 スヴァンは少年のその姿に己の宿敵の姿を垣間見た。
 だからこそ、こうして今まで集めてきた同志と共にあの少年と戦うことを決めたのである。
「決行は明日。我らの怨みの全てをぶつけ、何としても魔導殺しを追放、または抹殺するのだ!」
 スヴァンの言葉に同意した魔導師達が意気込むように声をあげて返事をする。
 あえて、ここで追放と言ったのは管理局の理念に反しないためであるが、本音を言えば殺すつもりである。
 スヴァンは殺傷設定で魔法を遣うことも厭わない。
 それは全て、魔導殺しの怨みを果たすためのものである。
 既にフェイトを通じて魔導殺しの後継ぎを殺すための布石は整っている。
 後はフェイトを人質として魔導殺しに迫るのみだ―――――。
 その事を思い浮かべながらスヴァンは不敵な笑みを浮かべるのであった。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















「ふう……」
 悠翔と別れて家へと戻ってきた私は思わず溜息を吐く。
 今日のデートは凄く楽しかったし、嬉しかった。
 悠翔からはプレゼントまで貰っちゃったし……。
 プレゼントして貰ったネックレスをいじりながら悠翔のことを思い浮かべる。
 だけど、それ以上に深刻な問題が待ち構えていると言うことを考えるだけで溜息を吐くのを止められない。
 悠翔を狙っている人達と戦うのは明日――――しかも、相手は同じ管理局の人で。
 さっきは気がつかなかったけど、冷静になって考えてみたらさっきの人は私と同じ執務官の人。
 しかも、トップクラスの人で執務官としても長く務めている人だったと思う。
 名前は確かスヴァン=ヒルド執務官――――執務官の中でも多くの裏の仕事を務めてきた人。
 確か事件を起こした相手を捕えるのでは無く、相手を制圧をすると言ったタイプの人だったと思う。
 しかも、この人の場合は殺傷設定を遣うことすらも躊躇わないとかなんとか……。
 執務官の中では実力派でもあり、強硬派と言った感じの人だったと思う。
 今までずっと誰かを追いかけていて、その相手を倒すために執務官を務めていると聞いたことがあったけど……。
 もしかしたら、魔導殺しのことなのかもしれない。
 悠翔のことを狙ってきたことを考えればそう考えるのが自然だと思う。
(……じゃあ、あの人は被害者の1人だったってこと?)
 私の中に一つの答えが浮かぶ。
 悠翔を狙っているってことは魔導殺しのことを執拗に追いかけていたって言う証拠。
 逆に考えて見ればそれだけ魔導殺しに怨みがあるって言うことだと思う。
 もしかしたら、魔導殺しの事件で大切な誰かを失ったのかもしれない。
 だから、それだけの怨みを持って悠翔を追いかけているのかもしれない。
 そう思うと魔導殺しと言われた悠翔のお父さん……不破一臣さんの取った行動は正しいとは思えなくて。
 だけど、一臣さんが魔導師と戦った理由は管理局の方が侵略者に見えたからで。
 一臣さんから見れば管理局が保護しようとした行為が侵略行為だったと言うことになる。
 でも、これは一臣さんが魔導師を殺さずに生かして逃がせば今の状況は起きなかったのかもしれない。
 魔導殺しと言う忌み名がついたのは一臣さんがこの時に魔導師を全員斬り捨てたことにあるんだし……。
 でも、剣士の覚悟を聞いた今では一臣さんの取った行動はその覚悟と言うものに基いている。
 だから、一臣さんの取った行動は剣士としては決して間違っていなくて。
 剣士と魔導師の考え方の違いと言うものが今の状況を引き起こしている。
 そう思うと私はなんとなく無性に悲しく感じる。

 悠翔はやっぱり、管理局とは相容れない存在なのかな……?
















 フェイトとの初デートの時にまさかの遭遇を果たしてしまった。
 あれからフェイトと別れて高町家に戻った俺は自分に宛がわれた部屋で今日のことを考えていた。
 俺を狙っている魔導師にこんなに早く会うことになってしまうとは俺も思っていなかった。
 だが、相手の側から出てきたというのは都合が良い。
 気配を隠したりする術を持っていたりするわけでも無いことを踏まえると奇襲される可能性は低いだろう。
 あくまで剣士としての主観で見た限りはと言ったところだが。
 しかし、俺達の目の前に現れた以上は油断は出来ない。
 フェイトの様子が可笑しかったのも気になるし……。
 近々、何か起こるのは間違いないだろう。
 ……いや、あの手の人間は思い立った後はすぐ動いてくるはずだ。
 その方向性で考えれば明日にも動いてくるかもしれない。
 しかし、これはあくまで俺の勘でしかない。
 結局のところは俺には相手の行動を読み切る術は無いのだった。
 唯一、俺が明日と予測できる要因とすれば様子が可笑しかったフェイトの態度。
 これが、俺がそう思う唯一の予感だ。
 フェイトが何でも無いと言ったことが逆にそれを真実に近付けている。
(どうにも嫌な予感と言うものが抜けないな――――)
 今すぐフェイトに何かあると言うわけでも無いのだろうが……。
 魔導殺しと呼ばれた俺の父さんに因縁のある相手と言うことを考えればどうにも落ち着かない。
 相手が例え魔導師だとしても俺達の側に近いと見るべきだろう。
 フェイトがどれだけ優れた魔導師だとしてもああ言った手の輩であれば相手にし辛いだろう。
 寧ろ、相手が魔導師が相手だとしても俺の方が相手にするべきだ。
 ああ言った人間を相手にしてフェイトの手を汚すわけにいかない。
(……しかし、フェイトのあの瞳は)
 何かを決意したかのような気がした。
 フェイトとは出会って時が長いわけではないが、その表情は多少は読み取れるつもりだ。
 それだけ、フェイトのことが好きだと言う自負もあるし、そのくらい俺もフェイトを見つめてきたつもりだ。
 だからこそ不安と言うものは大きくなってしまう。
(唯の杞憂であってくれれば良いのに――――)
 どうしても、そう思わざるを得ない。
 俺が危険な輩に狙われるのは別に構わない。
 だが、フェイトが狙われる、または自分で向かっていくと言うのであれば話は別だ。
 今の俺の剣は人を守るためだけじゃない、フェイトと言う女の子を護るためにあるのだから。
















(これ以上、考えても埒があかない、か)
 結局、考えても手段を思いつかなかった俺は溜息を吐く。
 俺が備えられることとすれば全ての装備を整えておくくらいしか無い。
 後はフェイトの動向を見逃さないこと。
 決してフェイトに無茶な真似をさせないようにする――――。
 まぁ、出来ることとすればそのくらいだろうと思う。
 多分、魔法があれば別の対処法も見出せたかもしれないが、俺は魔法を拒んだ身だ。
 それは高望みのし過ぎだろう。
 今の俺に出来ることで最善を尽くす、これしか俺には無いのだから。
 俺が決意を固めた時、頃合いを見計らったのか部屋の扉をノックする音が聞こえる。

 気配の感じからして夏織さんだな――――

 それを読み取った俺は外の様子を警戒しながら扉を開ける。
 夏織さんが何をしてきても大丈夫なように。
「うん、ちゃんと警戒してるわね。関心関心」
 扉を開けた向こうにいた夏織さんは俺の対応する態度に満足した様子。
 もし、今の瞬間に警戒していなかったら間違いなく呆れられるだろう。
「……刺客と言うのは何時現れるか解りませんしね」
「まぁ、そうよね。それをちゃんと踏まえているならそれで良いわ」
 夏織さんに対する俺の返答は今日の出来事にも通じるものがある。
 刺客が何時現れるか解らない――――。
 それは剣を振るう裏の側では当然のこと――――。
 尤も、身内を相手にここまでやるのは異常なことなんだけどな。
 夏織さんの場合は意図的に俺にこう言った訓練をする機会を与えてくれている。
「うん、この訓練もこのくらいで良いかしらね。悠翔もちゃんと対処出来るようになったみたいだし」
「……ありがとうございます」
「でも、また試したりするからそのつもりでいてね」
「はい、解りました」
 夏織さんのこの訓練も長いこと続けてきたが漸く、合格点を貰えたらしい。
 近々、何か起こることを考えれば夏織さんから合格点を貰えたというのは嬉しい。
「さて、そろそろ本題に移りましょうか」
 俺の返事を確認した後、夏織さんが口を開く。
 本題はもう考えなくても解る。
 先程、俺に対して電話で言っていたことだろう。
「明日の病院のことだけど……時間は午後の1時からよ」
「午後1時、ですか」
「フィリス先生は治せるって言っていたけど、まぁ……治り具合は恭也の膝と同じくらいと言った感じみたいね」
「いえ、充分すぎる程ですよ」
「……悠翔ならそう言うと思ってたわ。だけど……とりあえず、明日は無理をしないこと。良いわね?」
「はい、解りました」
 夏織さんから明日の病院の時間帯と手術について簡単に教えて貰う。
 今の左腕のことを考えれば恭也さんの膝と同じくらいにまで治るなら充分すぎると思う。
 恭也さんの膝は神速も撃ち過ぎなければもう、痛みらしい痛みは無いと言った段階だ。
 そのくらいにまで治るのであれば俺の左腕も雷徹も撃ち過ぎなければ大丈夫と言ったところにまで治る。
 今は2回も雷徹を撃てば利き腕はもう、痛みを感じる段階だ。
 それに、長時間小太刀を振るうことも叶わない。
 だから、俺は虎乱と言った二刀を遣う奥義が遣えなかった。
 しかし、腕が治ってしまえば二刀を遣う奥義を習得することも出来るかもしれない。
 そう言った意味でも明日の手術は重要なものであり、絶対に成功して欲しい。
 だけど、俺の利き腕が治ると言うことよりフェイトに利き腕のことで無闇に心配をかけないで済むと言うこと――――それが一番嬉しい。
 それが今の俺の利き腕に関することで思う一番の気持ちだった。



































 From FIN  2009/7/6



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