だから、私が身をはってでも悠翔を守る――――

 そう思った私は悠翔の手をきゅっと握り直す。
 悠翔も私に応じるかのようにきゅっと手を握り直してくる。
 私がどう思っているかを悟られてしまっているかもしれない。
 でも、悠翔はこれ以上は何も言ってこなくて。
 さっき私がなんでもないと言ったことを悠翔はちゃんと守ってくれている。
 それが嬉しくもあってなんとなく悲しくも感じてしまう。
 だけど、今は悠翔のそう言った部分がとても有り難かった。
 今の私がどういうつもりでいるなんて悠翔に話したりしたら覚悟が鈍ってしまうかもしれないから。
 覚悟も無しにああ言った怨みを持っている人達の前に立つなんて出来ないと思う。
 悠翔には関係のないところで怨みを持っている人達と悠翔を戦わせるわけにはいかない。
 もし、悠翔が戦うならその怨みはきっと大きくなってしまう。
 私が相手ならまだしも、悠翔が相手だったら魔法で殺傷設定を遣うこともきっと躊躇わない。
 でも、その行為は管理局に所属している人間が理念そのものを破ってしまうことでもある。
 私は執務官と言う立場でもあるから相手にそんな真似をさせるわけにもいかない。
 特に同じ管理局の人間が相手ならそれは尚更で。
 だからこそ、悠翔には関与させずに私がなんとかする――――。
 それが多分、誰も巻き込まずに済む方法だと思うから――――。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 お互いに思惑が交差しながら私達は家の近くまで戻ってきた。
 戻ってくるまでの間に私達の間に会話らしい会話は無くて。
 それだけ、今日に会った魔導師のことを考えてしまっている。
「ごめんね、悠翔。嫌な思いをさせちゃったね?」
「いや、俺の方こそすまない。俺のせいでああ言った輩と遭遇することになってしまった」
「ううん、あの人達は管理局の人間だから……私の方に問題があるの」
「いや、元は父さんと俺の問題のはずだ」
 私と悠翔の意見は平行線を辿るばかり。
 私から見れば管理局の問題だから悪いのは私達の側であって。
 悠翔から見れば魔導殺しの事件を起こしているのは自分の側であって。
 どちらから見ても悪いのは自分の側ってことになってしまう。
 だけど、それが何処か可笑しくって。
「ふふっ……」
 私はつい、笑みがこぼれてしまう。
 本当は笑ったりしたらいけないんだけど……どうしても可笑しくて。
「ごめんね、悠翔。なんか……私達、お互い様な気がして」
 そう、私と悠翔の言っていることは互いに自分の側が悪いと言っているわけで。
 原因はどちらにもあるのかもしれないけれど何故か私達は自分達の方が悪いと言いあってしまっている。
「……そうだな」
 悠翔も私にそう言われて気付いたらしい。
 だけど、今日会った魔導師とのことを皆に教えるわけにはいかない。
 どちらに非があると言われたって今は誰にも解らないし、私だって解っているわけじゃない。
「でも、このことは誰にも言えないと思う。きっと皆に迷惑がかかってしまうから」
「……ああ」
 悠翔と魔導殺しのこともそうだし、私と管理局のこともそう。
 今回の件は私が終わらせないといけない――――。
 皆に広がる前に解決させないといけない――――。
 それだけは私にも解っていることだから――――。
















「じゃあね、悠翔。また、明日」
「ああ、また」
 フェイトの表情からして結局、何も聞けないまま俺とフェイトは別れる。
 何も聞かなかったが何故か嫌な感覚が拭えない。
 あの手の人間はあの手この手を準備して仕掛けてくるからだ。
 いや、俺の前に直接現れたと言うことは既に準備などは終わっているだろう。
 後は頃合いを見計らって俺を襲撃するか、または誰かを人質にするか――――。
 相手の打ってくる手は大体、このくらいだろうと思う。
 俺を殺すつもりでかかってくるにしろ、ここは管理局外の世界だ。
 魔導師としては若干、遣りにくいだろう。
 だが、父さんに怨みをもってずっと俺を探し続けていたと言う執念も考えれば手段は拘ったりしないだろう。
 相手の目的は俺を殺すことか、または管理局と関わるのを止めさせる理由をつくるか――――。
 どちらに転んでも結局のところは管理局とは相容れない存在になってしまう。
 まず、俺を殺すために相手が掛かってきたのであれば相応の対応をしなくてはならない。
 確実に俺は仕掛けてきた相手を殺すことになるだろう。
 元より、仕掛けてきた時点で生かすつもりも無い。
 もし、生かしたとしても再起不能になるくらいまでの傷は与えておくつもりだ。
 魔導殺しと呼ばれた人間と同種である俺に仕掛けてくるのであればそのくらいの覚悟くらいは出来ているだろう。
 だが、相手が俺を狙っているとしても此方からは仕掛けるつもりは無い。
 刃を向けないで済むのならそれに越したことは無いし、誰も巻き込むことはないからだ。
 俺の方は俺の方でどうするべきかは解っているつもりだ。
 仕掛けてくるなら相応の返礼で刃を返させて貰う。
 何も無いのであれば此方からは何もしない。
 とりあえず、俺の方針としてはこんなところだろうか。
 しかし、如何にもフェイトの様子が気になる。
 相手と言葉を交わした様子は見られなかったが――――。
(まさか、な)
 フェイトが俺の代わりに戦おうとしていると言う可能性が俺の頭に浮かぶ。
 俺は一瞬だけ頭に浮かんだ考えを振り切る。
 だが、その一瞬だけ頭に浮かんだ考えが正しい可能性はある。

 もしかして、管理局が関わっているから自分が止める――――フェイトはそんなことを考えているのか?

 まさかとも思うがフェイトの性格を考えればその可能性は決して拭えない。
 フェイトの様子を思い浮かべた俺は如何にも落ち着かないような感覚を覚えた。
















「皆、集まったか」
 先程、悠翔とフェイトに現れた男が周囲を見渡す。
 そこには以前悠翔が見かけた人間達がずらっと勢揃いしている。
「全員、揃いました。スヴァン執務官」
 スヴァンと呼ばれた男――――それが先程、悠翔とフェイトの前に現れた男の名前であった。
「うむ……いよいよ、魔導殺しが我らの前に現れた。遂に忌々しい輩に引導を渡す時がきたのだ」
 スヴァンは拳を握り締めながら言葉を紡ぎだす。
 思いだすだけでも魔導殺しと言う名は忌々しい。
 今から10年程前の事件を引き起こしたたった1人の人物。
 スヴァンにとってはその男を怨んでも怨み切れない理由と言うものがあった。
 魔導殺しと交戦することになった当時、管理局は地球の方で反応が確認されたある物を回収するために密かに動いていた。
 そのある物は宝石状の物体で所謂、あの世界ではオーパーツと呼ばれるもの。
 これだけであれば管理局が動くまでも無い物である。
 しかし、その物体にはある特性と言うものが存在していた。
 その特性は触れた者の魔力を消滅させ、魔導師としての生命を散らせると言うものである。
 危険性としては有害を撒き散らすような物では無かったが、その特性は驚異的なものであった。
 触れてしまうだけで魔導師としての生命を絶たれると言うのは恐るべき物であり、野放しにしておくわけにもいかなかった。
 この世界は管理外であり、魔力と言うものが存在しない。
 だから、このように普通に宝石として存在しているのだろう。
 しかし、管理局からすれば驚異的なものにしか映らず、なんとしても確保し、封印しておく必要があった。
 そのために管理局は魔導師を派遣し、速やかに回収すると言う判断を下した。
 触れるだけで魔力が失われてしまうと言う代物ではあるが、ある魔導師の失敗で魔力が無ければ大丈夫であると言うことが明らかになっていた。
 そのため、回収すると言うだけであれば大きな問題と言うものは無かった。
 だが、その回収任務時に遭遇した1人の人間――――魔導殺しさえいなければ。
 この宝石状の物体を回収するために派遣された魔導師は魔導殺しの妨害により、誰も任務を達成することは出来なかった。
 1人、また1人と魔導師が派遣されたがその誰もが戻ってくると言うことは無かった。
 この事態を重く見た管理局は高ランクの魔導師を多数集め、回収を命じた。
 1人だけ状況を確認するための人物を就けると言った形を持って。
 その時にその状況を確認するために派遣されたのがスヴァンである。  当時のスヴァンは10代と若く、高ランクの魔導師入りを果たしたばかりの頃であった。
 期待の若手魔導師として現場の中に参加したのだが、その時に見た光景は信じられないものであった。
 高ランクの魔導師の集団を持ってしてもそれを回収することは敵わなかったのである。
 その時に立ち塞がった1人の人物――――両手に小太刀を持ち、信じられないような動きをする人間。
 まさにその人物の存在は驚異そのものであった。
 回収するために交渉を持ちかけてみたがその男は聞き入れず、已む無く魔導師側は実力行使に出た。
 その時に1人の人物は両手の小太刀を持って魔導師を次々と斬り伏せていったのである。
 この時に応戦した魔導師達は全員、一瞬と言っても良い時間の間に1人の人物によって殺されてしまった。
 スヴァンは状況を確認するのが任務であったためこの場から離れて見ていたのだが――――この光景を見て愕然とした。
 この任務にはスヴァンの恋人も参加していたのである。
 同じ若手の魔導師として腕を磨きあげ、公私共にパートナーであった1人の少女。
 その彼女も1人の人物の手にかかってしまったのである。
 惨殺現場と言っても良いこの場所にスヴァンが駆け付けた時、彼女はまだ息はあった。
 しかし、スヴァンは結局、彼女を助けることは敵わなかったのである。
 自分には医療系の魔法を遣えなかったためである。
 急いで管理局へと戻り、助けようとしたが彼女は息を引き取った後であった。
 原因は処置が遅すぎたため。
 後、少しでも良いから処置が早ければ彼女は助かったのである。
 スヴァンはこの時、自分自身の力不足を呪った。
 あの男さえいなければ、自分にもっと力があれば――――。
 そう思ったスヴァンは自らをずっと磨き上げてきた。
 魔導殺しを倒し、この怨みと言うものを晴らすために――――。
 その一心でずっと力を高めていったスヴァンであったのだが、魔導殺しは自らの手にかかることなく死亡してしまった。
 原因は解らなかったが、呆気無い魔導殺しの最後であった。
 魔導殺しが死亡したのは喜ばしいことではあったが、スヴァンは怨みをぶつける場所を亡くしてしまった。
 何時しか魔導殺しの怨みも過去のこととなりつつあった現在――――。
 不破悠翔と名乗る1人の少年を見ることになった。
 海鳴の地で監視していたのは雰囲気が魔導殺しに似ていたと言うだけの理由であった。
 しかし、少年が管理局でテストを受けると言う話になった時あまりにも驚いた。
 少年の動きはあの魔導殺しに似ていたのである。
 風貌だけでは無いあの動き、あの立ち振る舞い、その全てが魔導殺しに似ている――――。
 スヴァンは少年のその姿に己の宿敵の姿を垣間見た。
 だからこそ、こうして今まで集めてきた同志と共にあの少年と戦うことを決めたのである。
「決行は明日。我らの怨みの全てをぶつけ、何としても魔導殺しを追放、または抹殺するのだ!」
 スヴァンの言葉に同意した魔導師達が意気込むように声をあげて返事をする。
 あえて、ここで追放と言ったのは管理局の理念に反しないためであるが、本音を言えば殺すつもりである。
 スヴァンは殺傷設定で魔法を遣うことも厭わない。
 それは全て、魔導殺しの怨みを果たすためのものである。
 既にフェイトを通じて魔導殺しの後継ぎを殺すための布石は整っている。
 後はフェイトを人質として魔導殺しに迫るのみだ―――――。
 その事を思い浮かべながらスヴァンは不敵な笑みを浮かべるのであった。



































 From FIN  2009/7/2



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