「うん、ごめんね。でも、本当になんでもないから……」
 フェイトはそう言うがどうしても、俺の頭からは不安の色が拭えない。
 絶対に何かがあったのは間違いない。
 何を言われたかまでは解らないが、フェイトにこれだけの表情をさせる何かを言われたんだと思う。
 だが、これ以上追及するわけにもいかない。
 フェイトが自分でそう言っているのだから、問い詰めても今は話を聞いて貰えないだろう。
 だったら、今の俺が出来ることはフェイトのことを信じるしかない。
 フェイトがそう言っているのなら、他の誰よりも俺が信じないといけない。
 彼女を信じると言うこと――――。
 それが、フェイトの相手として付き合っている俺にかせられた心構えみたいなものなのだから――――。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















「……帰ろう」
 これ以上、このままでいるわけにもいかない。
 俺はフェイトに帰ろうと促す。
「うん」
 フェイトも俺の言葉に頷き俺の手を握ってきた。
 流石にあんなことがあった後だ、お互いに気まずい空気が流れる。
 明らかに俺を狙っている相手に遭遇したのだ。
 それも管理局に所属している人間――――。
 その事実と言うものはフェイトにとっては辛いことだと思う。
 今までは直接的には会っていなかったら実感までは湧かなかったかもしれない。
 だが、こうして直接会ってしまうと話は別だ。
 今の男は明らかに此方の世界の人間では無い。
 HGSの人間とも明らかに毛色が違う。
 気配と立ち振る舞いでそれも明らかだろう。
 しかし、それだけあって相手が魔導師だと言うのが明らかになってしまった。
 その事実がフェイトに大きく衝撃を与えてしまったのは間違いない。
 思えば今の男は先日に俺が病院で見かけた人物と同一人物だ。
 ずっと海鳴を張っていてあの時に漸く、俺を認識したのかもしれない。
 そして、認識した後からずっと俺のことを狙っていた――――。
 多分、これが事実なんだろう。
 あの態度からして魔導殺しを追い続けていたのは間違いない。
 ずっと海鳴に張っていたのは恐らく、この地に現れると予測していたのだろう。
 そして、俺は予測通りにこの地に現れた――――。
 これも何かの天命みたいなものなのかもしれない。
 俺は今まで魔導殺しと呼ばれた父さんの一面を知らなかった。
 しかし、予期せぬ形で俺はその一面を知ることになった。
 知ってしまった以上、このことに決着をつけるのは息子である俺の責務だろう。
 管理局と関わったが故に導き出された父さんの一面。
 魔導殺しの事件は管理局でも闇に葬られようとした事件。
 しかし、俺が現れたことによってその事件のことが再び表舞台に現れた。
 既に管理局全体にこの話が伝わっている可能性も高い。
 あの手の輩は情報をわざと漏洩し、立場上で追い詰めてくると言った手段もとってくるだろうから。
 多分、この件を解決すると言うのと引き換えに俺が管理局と関わることを認められなくなる。
 どちらにしろ、俺と相手の立場は平行線を辿るだけだ。

 もう、俺に残された道は戦うしかない――――
















 悠翔の手をきゅっと握って私はどうすれば良いのかを考える。
 もう、時間なんて残されていない。
 今、言っていたことが本気なら明日には悠翔を狙って動いてくる。
 悠翔は明日が利き腕の手術と言っているけれど……それでも関係無しに狙ってくるのかもしれない。
 魔導殺しって言う名前はそれだけ管理局でも嫌われている。
 それに悠翔は魔導殺しを受け継ぐ人間だって認知されているみたいで。
 そう考えるとなんだか悲しくなってしまう。
 悠翔は優しくて、強い人で――――。
 それでいて強い覚悟を持っていて誠実な人――――。
 不破悠翔って言う人はそんな人なのに。
 管理局の中では魔導殺しの後継者でしか無いだなんて。
 悠翔と同じ剣術を遣う恭也さん達は管理局の認知している範囲では剣を一度も振るったことが無いからそう言った対象からは外れている。
 多分、なのはのことも考えているから管理局の前では剣を遣わないのかもしれない。
 だけど、悠翔は恭也さん達と違って剣を目の前で振るうことになってしまった。
 それが、決定的になってしまっているのが悲しくなってくる。
 あの時は確かに管理局でのテストだったからそれなりの人が見ているし、悠翔は容赦なく人を斬ることで自分のその信念を見せた。
 悠翔の信念は剣士としては当然のことなんだけど、魔導師にとっては常識外でしか無くて。
 義母さんも渋々ながら納得はしていたけど、本当は許容できるようなことでも無いと思う。
 悠翔は管理局の理念を真っ向から否定したのだから。
 でも、それは自分の命が常にかかっている世界にいるからこそ言えることで悠翔の覚悟のほどが窺える。
 その覚悟は悠翔のように剣を振るって命のやり取りをしている人からすれば当然のことで。
 だけど、魔導師の場合は非殺傷を前提としていて、殺傷なんてことは殆ど考えない。
 それに命のやり取りまではやろうとはしない。
 ここに悠翔の考えと私達の考えに大きな差があるんだと思う。
 私は悠翔のそう言った側面を見たつもりだし、話にも聞いている。
 だから、ある程度は理解出来ていると思う。
 でも、私が理解しているとしても悠翔のその考えは管理局には決して通じるわけじゃなくて。
 特に魔導殺しの事件があったのだからそれは尚更で。
 既に悠翔は畏怖の対象になってしまっているのかもしれない。
 先日に立ち合った人達の反応は解らないけれど……多分、悠翔を見て恐怖を覚えていると思う。
 私だって悠翔のあの雰囲気は怖く感じるのだから。
 私の場合はそう言った一面も含めて悠翔だから――――って思っているからそれも気にならない。
 だけど、管理局の人からすれば悠翔のあの感覚は畏怖の対象にしかならなくて……。
 現に魔導殺しに怨みを持っている人達が表に出てきたのも悠翔が原因だなんて……。
 こうして見てみると悠翔のお父さんである不破一臣さんもその後を継いだ悠翔も管理局とは戦うしかない立場で……。
 どうして、こうなってしまったんだろう……?
 私にはどうすることも出来なくて――――。
 悠翔を狙っている人達は同じ管理局の人間で……。
 悠翔を守るためにはこの人達と戦うしかくて――――。
 だけど、私が戦うと管理局員同士で戦うと言う事態になってしまう。
 そうなれば非があるのはどうしても私の方になる。
 管理局から見れば異端の存在である魔導殺し――――悠翔はその後継者なんだから。
 だけど、私には悠翔の側に立つと言うこと以外は考えられない。
 例え、私が管理局から除名されてしまったって構わない。
 義母さんやクロノには迷惑をかけてしまうかもしれないけれど――――。
 私の考えは既に決まっているのだから。

 悠翔を――――私の大好きな人を守るって――――
















 お互いに考えていることは同じなのか私と悠翔は言葉を交わさずに歩いて行く。
 勿論、その手はぎゅっと繋いだままで。
 私は私で覚悟を決めたつもりだけど、悠翔もそれをなんとなく気付いているのかもしれない。
 悠翔は私達に解らないところで感覚を掴んだりしているから……。
 私と相手の人との念話の時もその雰囲気で察しているのかもしれない。
 だけど、察していても察していなくても今回に関しては悠翔に動いて貰うわけにはいかない。
 悠翔はやっと自分の利き腕を治すチャンスがめぐってきたんだから。
 そんな日に無理なんてさせるわけにはいかない。
 それに……一臣さんに対する怨みを悠翔にぶつけてくるような相手と戦わせたいとも思わない。
 悠翔は悠翔であって、一臣さんとは違う人なんだから……。
 それを怨むのはお門違いと言っても良いと思う。
 今回の問題は管理局で残っている魔導殺しの事件に関しての問題であって悠翔自身には何も問題は無いんだから。
 関連性があったとしても悠翔には関係無い――――それは明らかで。

 だから、私が身をはってでも悠翔を守る――――

 そう思った私は悠翔の手をきゅっと握り直す。
 悠翔も私に応じるかのようにきゅっと手を握り直してくる。
 私がどう思っているかを悟られてしまっているかもしれない。
 でも、悠翔はこれ以上は何も言ってこなくて。
 さっき私がなんでもないと言ったことを悠翔はちゃんと守ってくれている。
 それが嬉しくもあってなんとなく悲しくも感じてしまう。
 だけど、今は悠翔のそう言った部分がとても有り難かった。
 今の私がどういうつもりでいるなんて悠翔に話したりしたら覚悟が鈍ってしまうかもしれないから。
 覚悟も無しにああ言った怨みを持っている人達の前に立つなんて出来ないと思う。
 悠翔には関係のないところで怨みを持っている人達と悠翔を戦わせるわけにはいかない。
 もし、悠翔が戦うならその怨みはきっと大きくなってしまう。
 私が相手ならまだしも、悠翔が相手だったら魔法で殺傷設定を遣うこともきっと躊躇わない。
 でも、その行為は管理局に所属している人間が理念そのものを破ってしまうことでもある。
 私は執務官と言う立場でもあるから相手にそんな真似をさせるわけにもいかない。
 特に同じ管理局の人間が相手ならそれは尚更で。
 だからこそ、悠翔には関与させずに私がなんとかする――――。
 それが多分、誰も巻き込まずに済む方法だと思うから――――。



































 From FIN  2009/6/29



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