(ハラオウン執務官、君には教えておこう。私達は明日、魔導殺しを討つために動く)
(え……?)
(止めたければ君1人で先に来るのだな。場所はとりあえず、あそこに見える裏山とでもしておこうか)
(何故、私にそこまで教えてくれるんですか?)
(ふっ……唯の余興だよ。尤も、午前10時までに君が現れなかった場合は容赦無く、魔導殺しを討たせて貰うがな)
 私に対してそれだけを言い残し、魔導師は姿を消した。

 明日、悠翔を狙うために動く――――?

 時間と場所を指定してきた相手の真意なんて解らない。
 だけど、悠翔を狙うなんてことをさせるわけにはいかない。
 明らかに罠だって言うのは解るけれど……私が止めなくちゃいけない。

 それに明日を狙ってくるなんて――――

 悠翔は明日には利き腕の手術があるからとてもじゃないけど戦えない。
 そんな悠翔に無茶をさせるわけにはいかない――――。
 私は少しだけ考えて心を決める。

 魔導師が相手になるけれど……悠翔を守るためには私が戦わないと――――






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















「フェイト、大丈夫か?」
 私が念話であったやり取りのことを考えていると悠翔が私の顔を覗き込んでくる。
 今の私の様子が不審に見えたのか悠翔は気になっているみたいで。
「あ、ううん。大丈夫だよ。少し、怖かっただけだから」
「……そうか」
 流石に念話のことは言えず、私は感じたことをそのまま素直に伝える。
 悠翔が怒ったのは別に怖くもなんとも無かったんだけど……相手の魔導師が怖かった。
 あんな魔導師の目は私も見たことが無い。

 魔法を遣う世界であんな恨みを持つような人が出てくるなんて……
 魔導殺しはそこまで恨みをかっていたのかな……?

「え……?」
 少しだけ不安そうな表情をしていた私を悠翔がそっと抱き寄せる。
 悠翔は私が少しだけ震えているのに気づいてくれた。
 いきなりの行為に私も少しだけ驚いてしまったけど……すぐに悠翔に身を預ける。

 悠翔にこうして貰っているとなんか安心する……

 身を預けていて私はなんとなくそう感じる。
 こうやって優しく抱きしめて貰っているとなんだか幸せな気持ちになれる。
 たった今まで怖いって言う気持ちだったのに、こうして抱きしめて貰って私はすっかりと安心している。
 それがなんとなく嬉しくて私は悠翔の胸の中で頬ずりをする。
 悠翔に包まれているのが凄く温かく感じて……。
 何時もこうして悠翔を感じていたい……今の私は心の底からそう思える。
 だからこそ、悠翔のことを狙っている人をなんとかしないといけない。
 かと言って、悠翔に無理はさせられないから私が解決しないといけないんだと思う。
 これはあくまで悠翔自身の問題じゃなくて管理局の問題なんだから――――。
















 フェイトの様子を見て思わず、抱き寄せる。
 こうして、抱き寄せたフェイトは俺よりも細くて小さくて柔らかくて。
 それになんとなく、良い香りがする。
 改めて、フェイトが女の子なんだな、と言うことを実感する。
 少しだけ震えていたフェイトだったが俺が抱き締めるとすぐに震えがおさまる。
 これで、少しだけでも安心して貰えるならそれで良い。
 大切な女の子に不安そうな表情だなんてさせたくない。
 唯、俺はそれだけを考えてフェイトを抱き締める。
 今さっきの相手は明らかに俺に殺意を持っていた。
 間違いなく、俺の父親である不破一臣に大切な誰かを斬られたんだろう。
 管理局の言う魔導殺しの事件――――きっとその時に大切な人を失ったのかもしれない。
 だが、魔導殺しの事件については管理局側にも否が無いとは言い切れない。
 しかし、その点が世界観の認識の差によるものであるとも考えられる。
 管理局からすれば保護、または調査と言う名目だったのだろう。
 しかし、父さんからすれば敵にしか見えなかった。
 いきなり保護をするとか言われても、それは傲慢な振る舞いだと感じられる。
 父さんは正体も解らない相手を敵と認識し、戦った――――。
 それは剣士として、決して間違っていない行為だと言える。
 父さんからすればあくまで守るために戦ったのだから。
 しかし、その認識の違いが管理局側から見ての魔導殺しと言う存在を生んでしまった。
 父さんはあくまで護衛として戦ったに過ぎない。
 守るために相手を全て駆逐したと言うのがその答えだろう。
 それに、全員を斬って捨てたと言うのも相手側とは話をしても無駄だと言う結論になったからだと思う。
 もしかすると管理局の保護すると言う名目そのものが父さんの激鱗に触れた可能性も高い。
 父さんの気質からすると管理局の言い分に同意するとは決して考えられない。
 尤も、事件の真相を知っている人は誰もいないのだからそのことについては確認することは出来ないのだが……。
















「フェイト、何かあったのか? 相手が消えてから何かを考えているみたいだが」
 ゆっくりとフェイトを離しながら気になったことを尋ねる。
 俺が相手に殺気をぶつけた時のフェイトの反応はまだ、予測出来たものだったが今の様子は只事では無いような気がする。
「ううん、大丈夫……。なんでもない」
「……そうか」
 フェイトの様子を見る限りではなんでもないとは言い切れないと思う。
 少なくとも普通の言葉を交わさずに相手と何かを話したのでは無いだろうか。
 もしかしたら、念話とかで何かあったのかもしれない。
 俺には念話を聞くことは一切出来ないからな……。
 しかし、フェイトがなんでもないと言っているのならこれ以上、追及するわけにもいかない。
 俺に関係することかどうかの確証も無ければ、フェイトの身に何かがあるのかと言う確証も無い。
「だったら、フェイトが言いたくなったらで良い」
 だから、俺の憶測だけで反応するわけにはいかなかった。
 こう言ったことで迂闊に動くのはフェイトのことを考えると出来なかった。
 俺に対してと言う確証があるのであればそこまでは大きな問題では無いが……。
 確証も証拠も無く動いてしまえば此方の方が不利な状況となる。
 今の相手が俺に殺意を持っていたのは明らかだが、何かをしかけて来たと言うわけでもない。
 唯、言葉を交わしただけであり、裏があるのは明らかでもしかけることは出来なかった。
「うん、ごめんね。でも、本当になんでもないから……」
 フェイトはそう言うがどうしても、俺の頭からは不安の色が拭えない。
 絶対に何かがあったのは間違いない。
 何を言われたかまでは解らないが、フェイトにこれだけの表情をさせる何かを言われたんだと思う。
 だが、これ以上追及するわけにもいかない。
 フェイトが自分でそう言っているのだから、問い詰めても今は話を聞いて貰えないだろう。
 だったら、今の俺が出来ることはフェイトのことを信じるしかない。
 フェイトがそう言っているのなら、他の誰よりも俺が信じないといけない。
 彼女を信じると言うこと――――。
 それが、フェイトの相手として付き合っている俺にかせられた心構えみたいなものなのだから――――。



































 From FIN  2009/6/25



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