あくまで手術で治すと言うのが悠翔の考え――――それは解ってる。
 悠翔は魔法でなら治せるはずのものを断った。
 それは悠翔の信念だと思うし、この世界の人としての考えなら間違ったことじゃないと思う。
 だけど、魔法で治すよりも悠翔の腕は完全には治らないと思う。
 治ったとしても傷痕は残るだろうし、今までよりは大丈夫だとしても遣い過ぎると軽い痛みが出たりすると思う。
 確かに悠翔の抱えている問題点は解決出来るのは解る。

 でも、私じゃきっとこんなふうな考え方は出来ないんだろうな……
 私だったら魔法で治して貰ってしまうと思うし……

 悠翔はここまで踏み入っているから無関係じゃないけれど……悠翔は管理局の誘いを断って、あくまで協力するだけと言っていた。
 だから、悠翔が魔法で治して貰うと言う選択をしないのはあくまで魔法とはなるべく関わらないと言う意思表示――――。
 悠翔の考えは解っているけれど、それが少しだけ寂しく感じる。
 でも、これも悠翔が決めたことだから私は精一杯、応援しよう。
 悠翔が決めたのなら私はそれから目を逸らさずにいる――――。 
 それが悠翔に対して私が出来ることなんだと思うから。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















「さて、そろそろ帰ろうか」
 少しだけ私の考えが纏まるのを待ってくれていた悠翔が帰るように促してくれる。
「うん、そうだね」
 悠翔の言葉に頷いて私はそっと悠翔の手を取る。
 私の行為が何を意味しているのかを理解した悠翔が優しく私の手を握り返してくれる。
 そして、手を繋いだまま帰路につこうと歩き始めたその時――――悠翔の足が止まる。
「どうしたの……?」
 いきなりの悠翔の様子に思わず尋ねる私。
 悠翔は今までの優しい表情から真剣な表情に変わっている。
「……誰かに見られているな」
「え……?」
 悠翔が誰かに見られていると言ったことに私も驚きながらも周囲を確認する。
 だけど、私には何も感じられない。
「バルディッシュ?」
 念のためバルディッシュに尋ねて見ても返答は曖昧なものが返ってくるばかり。
 悠翔が今まで言っていた謎の視線は魔導師が相手みたいな感じを言っていたから魔力を探ってみたんだけど……。
 それが不自然にしか感じられない。

 もしかしたら、隠密用の魔法――――?

 私の頭に浮かぶのは魔法で完全にシャットアウトをしてしまっていると言う状態にしていると言うこと。
 こういった状態になっているのであれば魔力感知を遣っている私達が相手を見つけるのは困難なことだと言える。
 私達には気配察知と言う方法に馴染みが無いから悠翔達みたいには見つけられない。
 多分、相手の方も完全に気付かれないようにしていると言うつもりだと思う。
 だけど、悠翔達は私達とは全く違うところで人の気配や魔力の気配を感じている。
 そう言った違うところで感じているからこそ悠翔は人の気配に気付いたんだと思う。
 もし、悠翔がいなかったら私は気付かないままだったと思う。
 相手が敵なのかは解らないけど……悠翔の口振りからするに友好的な相手じゃないってことだけは解る。

 なんだか、怖い……

 得体のしれない相手の存在に私は急に不安になって悠翔の手をきゅっと強く握った。
















(この気配……先日の相手と同じか)
 俺は気配を読み取りながら相手の存在を確認する。
 この嫌な感覚は先日にフェイトと一緒にいた時に感じた相手と全く同じだ。
 フェイトは気付いていないが、俺には気配が解る――――。
 恐らく、相手は魔法によって姿を認識させないようにしているんだろう。
 だが、気配が消えていると言うわけでは無い。
 普通の人間であれば充分に気配を隠せていると言えるのだろうが、御神の剣士からすれば隠せているとは全く言えない。
 そもそも、殺気を放っているのだからその時点でばれると言った認識は相手には無いのだろうか。
(相手のいる側はあっちか――――)
 俺に対して殺気を向けている方向を見据えながら俺は相手に対して殺気をぶつける。
 フェイトも俺が殺気を放ったのを傍で感じ取ったのかびくっと震える。
 フェイトを怖がらせるのは本意じゃ無いけど、こればかりは仕方が無い。
 相手が殺気を放って相対している以上、此方もそれ相応の態度で立たなくてはならない。
「出て来い、殺気をぶつけてきたのならそのつもりなんだろう?」
 俺は相手の存在を解っている上で問いかける。
 一瞬、相手が驚いたような気配を感じたが、やがて1人の人物が現れる。
「くくく……この私に気付くとはな」
 現れたのは1人の男性。
 外見からして俺達よりも年齢はそれなりに上だろう。
 感じからして20代前半から後半くらいに見える。
「どうやって私の存在を見極めたのかは知らないが、流石は魔導殺しと呼ぶべきか」
 男の口から洩れた言葉は魔導殺し――――。
 この言葉が出たと言うことは間違いなく――――。
「……その呼び方をすると言うことは俺に対して怨みを持っている人間か」
「その通りだ。数日前より貴様の動向を監視していた」
「やはり、か。気配を感じていたのはそのためか」
 男が僅かに俺の言葉に驚いたような表情をする。
 魔導師の基準からすれば俺がこの男の存在に気付くことはあり得なかったのだろう。
 それに、男を良く見て見ると俺が病院の敷地で見かけた人間と同じ人間だ。
 やはり数日前から俺を探るために動き始めていたらしい。
 そのような手を打ってきているだけあって目の前の男は明らかに俺に対して敵意を向けている。
 このままでは戦うしか無いのかもしれない、な――――。
















 私達の前に現れた人は私も見覚えが無い魔導師。
 でも、目の前にいる魔導師から感じられる魔力は私達よりも上かもしれない。
 少なくともトップクラスの魔導師だと言うのだけは理解出来る。
 私やバルディッシュも感知出来ないような魔法を遣える時点でどれだけの実力者かはなんとなく解る。
(この人……強い)
 悠翔も相手の力量は解っているらしく睨みつけるように見つめている。
「昨日はよくもやってくれた。流石に冷や汗をかいたぞ」
「……専守防衛だ。悪く思わないで貰おうか」
 悠翔が吐き捨てるように相手に睨みを利かせる。
 さっきまでの悠翔とは違う感覚に私も少しだけびくっとしてしまう。
「ほう……そう言い切るのは流石と認めよう。しかし、良いのかな? そのような態度であれば、ハラオウン執務官が怖がるだけだが?」
「……っ」
 私の様子に気付いている相手の挑発に悠翔が言葉を詰まらせる。
 悠翔が言葉で押されているのを初めて見た。
 普段の悠翔だったら今の挑発もさらっと受け流すはずなのに。
 私がいるから悠翔は黙ってしまったみたいで。
 悠翔に今の私が怖いと思ったことを気付かせてしまっている。
 それが悠翔にも感じられたからこそ悠翔は黙ってしまったんだと思う。
「ふっ……殊勝な心がけだな、魔導殺し。流石に愛する人の前では片無しと言うことか」
「っ……!?」
 相手の言葉を聞いて今度は私が言葉に詰まる番で。
 悠翔が視線を感じていると言っていたから解っていたけど……見られていたってことで。
 なんて嫌な人なんだろう――――監視を目的でそう言った行動をしたんだろうとは思うけれど。
 これが、この人の遣り方なのかもしれない。
「ふっ……まぁ、良い。今回は挨拶程度のつもりだったからな。無駄話はこのくらいにしておこう」
「……そうして貰える方が助かるな。俺としても遣りあいたくは無いからな」
「魔導殺しらしからぬ台詞だな。私としても今、この場では戦うつもりは無いのでね。とりあえずは日を改めるとしよう。覚悟しておくのだな」
 悠翔に覚悟しておけと言う一言を残し魔導師はこの場を離れていく。
 魔導師の姿が見えなくなろうとしたその瞬間、私に念話が届く。
(ハラオウン執務官、君には教えておこう。私達は明日、魔導殺しを討つために動く)
(え……?)
(止めたければ君1人で先に来るのだな。場所はとりあえず、あそこに見える裏山とでもしておこうか)
(何故、私にそこまで教えてくれるんですか?)
(ふっ……唯の余興だよ。尤も、午前10時までに君が現れなかった場合は容赦無く、魔導殺しを討たせて貰うがな)
 私に対してそれだけを言い残し、魔導師は姿を消した。

 明日、悠翔を狙うために動く――――?

 時間と場所を指定してきた相手の真意なんて解らない。
 だけど、悠翔を狙うなんてことをさせるわけにはいかない。
 明らかに罠だって言うのは解るけれど……私が止めなくちゃいけない。

 それに明日を狙ってくるなんて――――

 悠翔は明日には利き腕の手術があるからとてもじゃないけど戦えない。
 そんな悠翔に無茶をさせるわけにはいかない――――。
 私は少しだけ考えて心を決める。

 魔導師が相手になるけれど……悠翔を守るためには私が戦わないと――――



































 From FIN  2009/6/18



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