夏織さんと士郎さんの間にはとても割り込めるような気配では無い。
 それだけ、夏織さんと士郎さんの発する空気に圧倒されてしまうかのようだ。
 圧倒的な力量を持つ2人の剣士の立ち合い――――。
 剣士と魔導師の立ち合いとは全く違う空気を感じる。
 魔導師には魔導師の威圧感と言うものがあるが、剣士は剣士でやはり別の威圧感がある。
 今の夏織さんと士郎さんは別に殺気などを放っているわけでは無いが、自然と威圧感のようなものを感じる。
 これは俺と夏織さん達の力量の差と本能的に俺が感じている感じる力量の差の両方だろう。
 身体がその力量の差と言うものを訴えてきている。
 俺がシグナムと立ち合った時もその力量の高さを感じてはいたが、今回とは全く違う。
 シグナムの場合だとあくまで騎士と言う立場の相手だったからだろうか。
 だからこそ今回の立ち合いでの気配の違いが解る。
 しかし、これだけの力量を持つ剣士同士の立ち合い。
 中々、見ることが出来るものじゃない。
 恭也さんと士郎さんが立ち合うと言うのは多いのだろうけど、夏織さんと士郎さんが立ち合うと言うのは少ない。
 だからこそ、あまり感じない空気を感じるのだろう。
 今回の夏織さんと士郎さんの立ち合い――――。
 これは一瞬たりとも目が離せないものになりそうだ――――。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















「さて、始めようか」
「ええ」
 短く会話を交わす士郎さんと夏織さん。
 互いに名乗ること無く始めるつもりらしい。
 そう思った瞬間、夏織さんが先に動く。
 夏織さんは御神の奥義も遣えるが、御神流とは違う戦い方だ。
 詳しい話は知らないが、元は御神流とは違う流派の人間らしい。
 得物は小太刀を遣っているらしく、その辺りに関しては同じらしいのだが。
 夏織さんの小太刀は一本の鞘に二刀の小太刀が納まっている。
 外見からでは長刀に見えるだろう。
 夏織さんがああ言った形にしているのはそう言った部分で認識を誤らせるためだ。
 最も、既に夏織さんの得物を知っている俺達が認識を誤ることはないのだが。
 夏織さんは御神流の方法で小太刀を差している時もあるが、今回は違う方法で行くと言うことか。
 俺がそう思った瞬間、夏織さんが士郎さんが動くよりも速く間合いを詰め、斬撃を見舞う。
 この一連の動作だけでも俺の速度をゆうに超えている。
 夏織さんは速度に関しても俺よりも速い。
 いや、恭也さんや士郎さんよりも基本的な速度に関しては上だろう。
 速度的には美由希さんや美沙斗さんに近い。
 瞬間的な速度に関しては恭也さんが最も速いのだろうが――――。
 しかし、夏織さんの動作に動じることなく士郎さんは小太刀を抜刀し、その斬撃を受け止める。
 士郎さんの差し方は二刀差し。
 抜刀を基本とした戦い方や一刀のみで戦う時などに最も有利な差し方だ。
 士郎さんが最も得意とするのは抜刀術――――。
 そう言った意味でも士郎さんは二刀差しを遣っているのだと思う。
 夏織さんが速度で上回っているとするならば、士郎さんは剣速において夏織さんを凌駕する。
 士郎さんが抜刀した小太刀はすんなりと夏織さんの小太刀を受け止めている。
 後手に回ったが、剣速で上回る士郎さんは冷静に夏織さんの動きに対処したのだろう。
 はっきり言って流石としか言いようが無い。
 俺だと今の夏織さんの動きに的確な対処が出来るとは限らないからな――――。
















「やるわね、士郎」
「お前も相変わらずだ」
 不敵に笑う夏織さんと士郎さん。
 今の交錯は肩慣らし程度でしか無いのだろう。
「速度に劣る分を剣速でカバーしているのは流石だわ」
「お前だって充分に速度で俺を上回っているのだから御相子だろう」
「それもそうかしら、ね」
 互いの長所を指摘し合って苦笑する夏織さんと士郎さん。
 こう言った立ち合いは慣れているのか余裕の表情だ。
 俺から見れば次元が違うとしか言いようが無い。
 ここまでの打ち合いを余裕でこなす士郎さん達のレベルが高すぎるのだと言える。
 恭也さんの方は士郎さん達と同レベルなのでそう言った感想は持っていないみたいだが。
 しかし、士郎さんの二刀差しは一番、参考になる。
 俺自身が二刀差しを基本としているのもあるし、利き腕の都合もあって一刀で戦う場合も多い。
 士郎さんは片手のみで戦うことも多く、抜刀術を多用する。
 俺は抜刀術はあまり遣わないが、士郎さんの動きは参考にしておいて損は無い。
 今後、俺が抜刀術も遣うようになれば士郎さんの動きが参考になるのだから。
 それに、抜刀を基本として連続攻撃をすると言う二刀差し特有の方法も俺には必要になってくる。
 今もその戦い方はやっているが、士郎さんのようにはいかない。
 夏織さんは愛用の小太刀の特性上、差し方は背負いに近いし、美沙斗さんはどちらかと言えば十字差しの系統だ。
 裏十字に関しては恭也さんや美沙斗さんに聞けば良いが、士郎さんを除き、二刀差しの使い手は俺の近くにはいない。
 そう言った意味でも士郎さんの二刀差しを今の視点で見る事が出来ると言うのは大きい。
 俺が士郎さんの立ち回りをじっと見ていると次の動きに移るところだった。
 士郎さんが小太刀を納刀し、夏織さんは二刀目の小太刀を引き抜いた。
 恐らく、一瞬で決着をつけるつもりなのだろう――――。
















「士郎、これで決着をつけるわ――――」
「臨むところだ――――」
 俺が思ったとおり、構えを取って動き出す夏織さんと士郎さん。
 2人が動いたと思った瞬間、その姿が掻き消える。
(神速の領域――――?)
 俺がそう思った時、視界の目の前で数回の剣載の音が鳴り響く。
「悠翔、意識を集中しろ。見逃すぞ」
「はい、解りました」
 恭也さんに促され、俺は意識を集中する。
 神速の領域に入るような感覚に近い形をイメージする要領で意識を研ぎ澄ませる。
 こうすることで知覚力が爆発的に上昇する。
 神速の領域に入る場合は更にここから身体のリミッターを外すと言ったこともするのだが。
 今回は意識を研ぎ澄ませるだけなので神速の領域の時とは違う。
 その状態で俺は夏織さんと士郎さんの気配を探る。
 僅かな間が空いた後、徐々に夏織さんと士郎さんの気配が感じられるようになる。
 俺の前で繰り広げられている、その光景の中で動き回っている夏織さんと士郎さん。
 今までは動きを感じることが出来なかったが、感覚を研ぎ澄ませることによってその動きが僅かながらに感じられる。
 夏織さんは二刀の小太刀を逆手に持っている。
 それに対して、士郎さんは小太刀を腰だめに構えたままで移動している。
 御互いにタイミングを見計らっているのだろう。
 そして、御互いが最も得意とする技で決めるために――――。
 夏織さんは逆手持ちにしているが系統的には薙旋で来るだろうと思う。
 士郎さんが狙っているのは多分、虎切で間違いないだろう。
 士郎さんは抜刀術を最も得意とする御神の剣士。
 二刀差しも今では遣い手が殆どいないと言う差し方なのに士郎さんがそれを愛用しているのは抜刀術を極めているからにあるだろうと思う。
 手数の点では圧倒的に夏織さんが有利だと言えるが、士郎さんの虎切は手数の多い奥義をも凌駕する。
 士郎さんの抜刀術はそれだけ恐ろしいものがある。
 それに、士郎さんの虎切には俺が知らない術があるんじゃないかと思う。
 一撃で手数を無効化出来るだけの力量は士郎さんなら当然、持っているだろう。
 しかし、夏織さんほどの剣士を相手にするのであればそれは難しいとも感じる。
 幾らなんでも、夏織さんの薙旋を一撃のみで凌ぐのは難しすぎると思う。
 だが、士郎さんは夏織さんの動きを見ても慌てることは無い。
 寧ろ、予想どおりだと言う表情で夏織さんの動きに対して抜刀術の構えを取っている――――。
 士郎さんはいったい、何を考えている――――?



































 From FIN  2009/4/28



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