「えっと……今日は私とデートでもしない? 出来ればふたりっきりで」
 フェイトからの今日の予定についての返答はデートの誘い。
「ん、デート?」
「うん、そうだよ。折角、つきあい始めたんだし……駄目、かな?」
 フェイトが上目遣いで俺の顔を覗き込んでくる。
 それもおねだりしている表情だ。
 そんなフェイトの頼みを断れるはずも無い。
「いや、駄目じゃ無い。折角だし……そうしようか」
「うんっ!」
 俺の回答が嬉しかったのかフェイトは嬉しそうな表情をして頷く。
(……可愛いな)
 その表情を見てつい、俺もそう思ってしまう。
 惚れた弱みがあるのかもしれないが、フェイトは可愛いと本当に思う。
 今まではこう言う考え方をしたりはしなかったのだが……改めて変わったのかもしれない気がする。
 フェイトに告白されたのが一つの転機になっているのか。
 両想いになれたことが原因なのか。
 それは俺には解らないが、悪くない――――。
 ――――少なくてもそう思う。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 フェイトを送り届けてから俺は高町家に戻る。
 フェイトとは待ち合わせの約束をしている。
 とりあえず、時間としてはまだ後だから俺は家に入る前に道場の方へと顔を出す。
 俺が中に入って見ると道場では士郎さんと夏織さんが剣を合わせようとしていた。
「あら、悠翔。戻ったの?」
「はい。夏織さんの方は?」
「今から士郎と立ち合うところよ。ちょうど良かったわね悠翔」
 やはり、夏織さんと士郎さんは今から立ち合うところだったらしい。
 あれからすぐに解散したのはある意味でラッキーだったのかもしれない。
「悠翔の方はとりあえず、訓練は終わってるみたいね。腕の方も大丈夫かしら?」
「はい。腕の調子も悪くは無いと思います」
「そう。その件は後で話をするとして……悠翔も見ていきなさい。士郎と遣るのは私も久しぶりだから」
「解りました」
 夏織さんに見ていくようにと言われて道場の隅に移動する。
 今回は恭也さんも道場にいるらしい。
「おはようございます、恭也さん」
「おはよう、悠翔」
「今回、恭也さんは立ち合い人ですか?」
「まぁ、そんなところだ。悠翔もちょうど良いタイミングで戻ってきたな」
「ええ、夏織さんにも言われました。士郎さんと立ち合うのは久しぶりだと」
 夏織さんが士郎さんと立ち合うのは互いの状況もあって殆ど無い。
 俺も実際に見たと言うことは殆どなかった。
 多分、恭也さんも2人立ち合いを見たという経験はあまり無いだろう。
「俺も2人の立ち合いをあまり見たことは無い。色々と参考になるだろうな」
 案の定、恭也さんもあまり見ていないようだ。
 それだけ2人が立ち合うと言うのは珍しいと言うことだ。
 尚更、今回の立ち合いが見れると言うのは喜んだ方が良いだろうな――――。
















「そう言えば悠翔、今日の訓練はどうだったんだ? 少し息が上がっている気がするが」
 まだ、立ち合いが始まらないと言うことで恭也さんが今日の俺の訓練のことを尋ねてくる。
 俺の呼吸の状態だけで少し何時もと違うことが解ると言うのは流石だ。
「ええ、実はフェイトと立ち合ってきたんです」
「フェイトとか? こんな時間帯からか」
「はい。実は……訓練に行く時にフェイトに会いまして」
「成る程な。フェイトも朝に訓練をしていることがあるみたいだから、その時にと言ったところか?」
「ええ、そんな感じです」
 本当は違う理由なのだが、言うのが恥ずかしいので今は黙っておく。
 正式に伝えるのはもう少し後で構わないだろう。
「それで、フェイトとの立ち合いはどうだったんだ?」
「そうですね……。フェイトの特徴を一言で言うとすれば速さが特徴でしょうか」
「ふむ、それは俺も立ち合った時に感じたな。実際に体感してみてどうだったか?」
「純粋な速度と言う概念で見れば俺よりも上ですよ。身体の反応が追いつけなかったと言うわけでは無いんですけど」
「気配察知の要領で先読みしたと言ったところか。悠翔の場合は」
「はい、普通に目で追うだけでは追いつけないと思いましたし。実際に目で見えると言うよりは目にも止まらないと言う感じでしたし」
「寧ろ、フェイトの速度は目に映らない速さと言っても良いだろうからな。悠翔の言い分は尤もだな」
 俺の感じたことに同意する恭也さん。
 恭也さんもフェイトと立ち合った経験があると言うことだが……どうやら俺と同じような感想を覚えていたらしい。
「悠翔は今回の決め手は何を持ってきた?」
「俺の今回の決め手は――――神速です」
「やはりそうか。フェイトのあの速度に対応するなら神速を遣うか、フェイトの動きを見極めた上での高速の一撃くらいしか考えにくいからな」
 俺が決め手に神速を遣ったのに納得する恭也さん。
 恭也さんでも神速無しにフェイトの速度に追随するのは難しいらしい。
 まぁ、あの速度に普通の身体能力で追いつける方が可笑しいと思うが。
「恭也さんの場合は何が決め手だったんです?」
 そう言えば、恭也さんは何を決め手に遣ったのだろうか。
 俺の場合は神速で背後に回ると言う手段をとったのだが――――。
「俺は閃を決め手に遣ったな。フェイトが全力で向かってきたから俺もそれに応じたと言ったところだ」
「閃、ですか」
 恭也さんがフェイトとの立ち合いで遣った決め手は――――小太刀二刀御神流、奥義之極・閃。
 俺も先日の立ち合いで初めて見た御神流の奥義。
 フェイトが全力できたと言うことは真・ソニックフォームを遣ってきたんだろう。
 だから、恭也さんは全力で応じると言う意味で閃を遣ったんだろうと思う。
「全力の相手に自分の奥義を出し惜しみすると言うのは非礼に値するからな」
「はい。そうですね――――」
 恭也さんがフェイトを相手に閃を遣った理由は納得出来る。
 全力の相手に全力を出さない――――それは非礼に値する。
 俺もそのとおりだと思う。
 だから、俺もフェイトを相手に神速を決め手に遣った。
 それはフェイトが強いと言う証明でもある。
 多分、恭也さんも俺と同じように思っているんだろうな――――。
















「さて、話はこのくらいにしておくか。そろそろ、準備運動が終わったみたいだからな」
「はい、恭也さん」
 フェイトとの立ち合いの考察に一段落したところで夏織さんと士郎さんの準備運動が終わる。
 互いに持っている得物は二刀小太刀。
 夏織さんも士郎さんも渡すべき相手に小太刀を継承しているので無銘の小太刀だ。
「さて、準備は良いかしらね。士郎」
「ああ、俺の方は大丈夫だ。こうして夏織と立ち合うのも久しぶりだからな俺も本気でやらせて貰うさ」
「それは此方の台詞よ。貴方に負けっぱなしも嫌だし」
「ふっ……俺も負けるわけにはいかないな」
 互いに牽制するように言葉を交わす夏織さんと士郎さん。
 余裕そうな表情だが、その表情の向こうは臨戦態勢とでも言ったところだろう。
 2人からは威圧感のようなものが感じられる。
 夏織さんからも士郎さんからも唯者では無い気配が感じられる。
 その存在感は俺など比べるべくも無い。
(2人でこう向かい合っていると割り込めないな)
 夏織さんと士郎さんの間にはとても割り込めるような気配では無い。
 それだけ、夏織さんと士郎さんの発する空気に圧倒されてしまうかのようだ。
 圧倒的な力量を持つ2人の剣士の立ち合い――――。
 剣士と魔導師の立ち合いとは全く違う空気を感じる。
 魔導師には魔導師の威圧感と言うものがあるが、剣士は剣士でやはり別の威圧感がある。
 今の夏織さんと士郎さんは別に殺気などを放っているわけでは無いが、自然と威圧感のようなものを感じる。
 これは俺と夏織さん達の力量の差と本能的に俺が感じている感じる力量の差の両方だろう。
 身体がその力量の差と言うものを訴えてきている。
 俺がシグナムと立ち合った時もその力量の高さを感じてはいたが、今回とは全く違う。
 シグナムの場合だとあくまで騎士と言う立場の相手だったからだろうか。
 だからこそ今回の立ち合いでの気配の違いが解る。
 しかし、これだけの力量を持つ剣士同士の立ち合い。
 中々、見ることが出来るものじゃない。
 恭也さんと士郎さんが立ち合うと言うのは多いのだろうけど、夏織さんと士郎さんが立ち合うと言うのは少ない。
 だからこそ、あまり感じない空気を感じるのだろう。
 今回の夏織さんと士郎さんの立ち合い――――。
 これは一瞬たりとも目が離せないものになりそうだ――――。



































 From FIN  2009/4/25



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