(フェイトの全力の速度、見極めさせて貰うぞ――――)
どのくらいの速度かは解らないがフェイトの全力がどのくらいのものか見極めておきたい。
俺の技量で何処まで対処出来るのかは解らない。
だが、やってられないことは無いはずだ――――。
後はその一手に対してどうやって応じるかだけだ――――。
そして、俺に打てる最速の一手は――――神速だ。
フェイトのその形態に対抗するにはこれしか無いだろう。
だが、神速を遣えば速度の概念と言うものは関係無い。
神速はあくまで領域なのだから。
(この一手で決着がつくか――――)
唯、これだけははっきりと解っている。
俺もフェイトも最後の一手をとろうとしている。
フェイトもそのつもりなのは間違いない。
だったら、俺もこの一手でけりをつけるまでだ――――。
俺の神速をもって――――。
魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
私は真・ソニックフォームの状態で悠翔と対峙する。
悠翔も私がこれで最後にしようとしていることが解っているみたいで。
同じように小太刀を構えたままで様子を窺っている。
(隙が無い――――?)
小太刀を身構えたままで私の前に立つ悠翔を見て私は自然とそう感じてしまう。
悠翔は私がどんな動きをしても反応してくる――――。
まるで、そんな感覚が過るかのように。
だけど、ここで臆していたらどうにもならないし、勝ち目だって無い。
私の全力は今の状態であり、もう出来ることなんて殆ど無い。
(だから、行くしか無い――――)
私を意を決して悠翔に向かって飛び込む。
一瞬、私の速度に驚いた表情をする悠翔。
だけど、悠翔は動揺した様子を見せずに私の動きを見極める。
(やっぱり、反応してくる――――?)
私の動きを冷静に見極められていると言うことを考えると悠翔には動きが見えているんだと思う。
でも、悠翔でも完全に反応するのは難しいはず。
悠翔が私の姿を追っているのが解る。
それでも、まだ私の方が速い。
だけど、私がここまで速度を引き上げて挑んでいるのに悠翔は落ち着いている。
悠翔がそう簡単には動じたりしないことは解っているけど――――。
それにしては落ち着き過ぎかもしれない。
(でも、考えたって仕方が無いから――――)
私は悠翔にライオットザンバーで斬りかかる。
ライオットザンバーは二刀流だし、連続攻撃が出来るから1回や2回くらい凌がれたとしても問題は無いはず――――。
だから、悠翔が対処して来たとしても――――この距離ならもう反応出来ないはず。
私がそう思った瞬間、私の目の前から悠翔の姿が掻き消える。
(っ!? 神速――――?)
ライオットザンバーが悠翔を捉えるかというところで悠翔の姿が私の目の前から消える。
真・ソニックフォームからの連続攻撃を今の一瞬でかわした?
今のは幾らなんでも反応なんて出来ないはず――――。
困惑する私に背後から冷たい感触が過る。
そこには小太刀を私に向けた状態で立っている悠翔がいた――――。
フェイトが目にも止まらない速さで斬り込んでくる。
いや、目にも止まらないと言うよりは目に見えない速さに近いだろうか。
予想以上にフェイトの動きは速いと言える。
だが、対応出来ない速度と言うわけでは無い。
決してフェイトの姿を追えないと言うことでも無かった。
身体は追いつかなくても感覚的なもので追うことは出来る。
しかし、フェイトの動きは俺の反応速度を上回っている。
まともに相手をするのは難しい。
(成る程、速度と言う意味合いでは洒落にならないかもな)
普通の人間では反応すらも出来ないだろう。
魔導師でも殆どの人間はこの段階の速度には辿りつかないだろうと感じる。
フェイトのこの速度は魔導師の領域では一線を超えていると思う。
だが、俺自身、この速度に対応するのはどうにかなる。
速度が極限まで上がっているとは言っても気配が消えているわけじゃない。
見える見えないを別にしても気配で読み取ることに関しては問題とは言えなかった。
唯、あまりにもフェイトの速度が速い。
(やはり、此方も遣うしか無いか)
フェイトの動きを見ながら俺は結論を出す。
これだけの速度に対抗するには神速の領域に入るしか無い。
それに、これだけの高速戦であれば決着と言うものは一瞬だ。
俺は意識を集中し、フェイトの気配を追いかける。
高速で俺の周囲を回っているフェイト。
俺がどう動くのかタイミングを計っているんだろう。
だが、それは此方も同じだ。
フェイトがどう動いて来るのかを計っている。
俺がフェイトの気配を追いかけているだけだと感じたのかフェイトが一気に加速して斬り込んでくる。
(きたか――――)
俺はこのタイミングを待っていた。
フェイトが最高の速度で仕掛けてくるタイミングを――――。
――――小太刀二刀御神流、奥義之歩法・神速
フェイトが動くのを感じたと同時に俺は神速の領域に入る。
俺の視界から色が失われ、全ての光景が止まったかのように見える。
高速で斬り込んで来ているフェイトの動きもゆっくりと動いているようでしかない。
だが、そう見えているのは俺の側からの領域であって現実にはそうでは無い。
フェイトの側から見れば自身の高速移動は続いている。
あくまで此方はフェイトとは違う領域に入ることによって、違う時間の流れで身体を動かしている。
まぁ……フェイトから見れば一瞬で俺がその場から移動したことになるから、結局のところ速度的には一時的に上回ることになるのかもしれない。
だが、神速を遣っても相手の反応速度などが落ちるわけではない。
実際に神速が相手でも反応してくる人間はいるのだから――――。
俺はそのまま、神速の領域の中を駆け抜けフェイトの背後に回り込み、飛鳳をフェイトに突きつける――――。
そして、世界に色が戻る――――。
「ここまで、だな」
私に小太刀を突きつけたままの体勢で悠翔が立ち合いの終わりを伝えてくる。
「うん、そうだね……」
今の一瞬の攻防だけで私の負けが確定してしまった。
高速戦闘では一瞬で決着と言うものがつくけれど今のは完全に真・ソニックフォームを凌がれてしまったと言えると思う。
「今の悠翔の動きは……神速なんだよね?」
「ああ、そうだな。フェイトが最大速度で斬り込んで来た時に俺は神速の領域に入った」
悠翔から返ってきた返答はやっぱり思ったとおりで。
悠翔は今の一瞬だけで神速を遣って私の真・ソニックフォームを凌いだ。
この結果は真・ソニックフォームの速度でも神速には届かなかったってことだと思う。
「そう……やっぱり神速には敵わないんだね」
悠翔に真・ソニックフォームが破られたことで改めてそう感じる。
魔法ではこれ以上の速度は殆ど望めないのに悠翔は神速で簡単に対処してしまった。
神速が魔法では辿りつけない速度だってことを改めて実感する。
「神速は普通に動くのとは少し違うからな。神速は確かに速く動くための歩法だけど、魔導師から見たら転移に近いと思う」
少しだけ落ち込んでいる私に悠翔が神速について少しだけ解説をしてくれる。
魔導師から見れば転移に近い……確かにそうかも。
私が悠翔を確実に捉えられる距離を取ったにも関わらず悠翔は一瞬で背後に回っていたし……。
「速度を上げていると言うのも確かにあるが、それとは別に普通とは違う領域で動いているからな」
「普通とは違う領域?」
「まぁ……例え話みたいなものだけどな」
ああ、そうなんだ……。
何があるかは解らないけど、その秘密があるからこそ真・ソニックフォームでも神速には敵わないんだ……。
どんな方法かは解らないけど、神速には魔法では決して追いつけない何かがある。
そう考えれば悠翔の神速を追えなかったことも納得出来る。
「だが、今回に関して言えばフェイトが反応出来なかったと言うのは一瞬の虚を突いたからに過ぎないと俺は思う」
「え……?」
でも、悠翔から出てきた答えは少し意外な答え。
今の悠翔の言い方からすると、私でも神速を相手に反応は出来るって言いたいのかな?
意味合いが少し解らないけど……悠翔はエクスが反応してきたのと同じことを言いたいのかもしれない。
そう言えば、ファリンさんも悠翔の神速に反応していたような……?
尤も、ファリンさんがどうしてあんな真似が出来たかなんて解らなかったけど――――。
ファリンさんもああ言ったことが出来るって言うことは悠翔の言っていることは本当にそうなのかも。
私も恭也さんと立ち合った時に少しだけそう言った感覚があったような気がするし……。
まぁ……私の場合は反応するどころか一瞬の閃きを感じただけでしか無かったんだけど。
それに……考えてみれば悠翔自身もそう言った点ではかなり凄い方だと思う。
真・ソニックフォームを相手にしながらもギリギリで神速を遣ってきたことを見るとそうにしか見えないから。
「それに神速は数秒程度しか持続出来ないからな。そう言った意味ではフェイトの真・ソニックフォームだったか? の方が凄いと思う」
「そうかな……?」
悠翔はそう言うけど、私にはあまり実感出来ない。
神速が数秒程度しか持続出来ないって言っても……こう言った戦いだとあまり関係無いような気もするし。
私にはあまり解らないけど、悠翔には神速が長くは持続出来ないことが欠点だと思ってるみたい。
だから、悠翔は神速よりも魔法の方が凄いって言っているんだと思う。
でも、私から見れば神速の方が凄く見えるわけで……。
う〜ん……これってどっちもどっちなのかな――――?
From FIN 2009/4/21
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