単純な速度で言えば真・ソニックフォームが上回っていると言えるけど――――。
 悠翔達の遣うその術はこう言った接近戦においては私達の遣う魔法を凌駕する。
 ううん、接近戦だけじゃない。
 上手く説明は出来ないけど……悠翔達の奥義である神速は速度と言うものの概念では測れない。
 普通、速度が速いだけなら映像のスローモーションで見ればその動作は当然遅くなる。
 私の真・ソニックフォームの場合でもそれは当然、同じなわけで。
 だけど、悠翔達の遣う神速と言うものはそれに当てはまらない。
 神速は映像で見ても全くその速度が変わらない。
 スローモーションで映像を再生しても普通に映像を再生したものと変わらなかった。
 つまり、スローモーションで再生しても全く見えなかった。
 原理は解らないけれど、神速は魔法では不可能な方法で動いているとはっきりと言えた。
 だけど、それを理由に逃げるなんて考えられない。
 悠翔とこうして刃を交えさせて貰っているんだから、ここで退くわけにいかない。
 単純な速度においてなら私の方が勝っているんだからここは遣るしか無い――――。
 私の意思はそう決した――――。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 フェイトのバリアジャケットが変化する。
 フェイト曰く速度を更に引き上げるための形態であり、全力の形態だと言うことだが……。
(これは、目のやり場に困るような気がするな)
 そう、フェイトの服装は些か困ったものだと感じてしまう。
 別に追求した結果でこうなったのなら別にどうこう言う必要は無いが……。
 関係が変わってしまっている身としてはそれはちょっと複雑な気持ちだ。
 別にフェイトがそう言う趣向の持ち主だとは思わないが、それでもだ。
 一応、言うだけ言っておくしか無いだろうか。
「全力なのは別に良いと思うけど……流石に薄くないか?」
「えっ?」
「いや、フェイトの服装とかにどうこう言うつもりは無いんだが……流石に目のやり場とかに困る」
「あぅ……」
 俺の言いたいことが解ったのかフェイトが頬を紅く染める。
 いや、俺の方も頬が熱くなっているから御相子なのだが。
「ごめんね? こんな服装で」
 頬を紅く染めたまま潤んだような目で俺を見つめるフェイト。
 流石にこんな目をされては俺も言葉に詰まる。
 目のやり場とかに困るとか言うのは事実だが……。
 フェイトが自分で出した答えの経緯でこうなったのなら悪いとは言わない。
「い、いや……自分で出した結論であれば別に構わない」
「うん、ありがとう。悠翔」
 なんとか取り繕うようにフェイトに返答する。
 まぁ、フェイトが自分で考えたのなら俺からもこれ以上言う必要は無い。
 フェイトも俺がそう言ったつもりなのが解ったのか少しだけ微笑む。
 答えが互いに纏まったところで俺は表情を引き締め直す。
 フェイトもそれを察知して真剣な表情へと戻る。
「さて、フェイトも本気でくると決めたのなら……俺も本気でいかせて貰う」
「うん、お願い。悠翔」
 フェイトが本気でくるつもりだと言うのなら俺も本気で相手をしなくては失礼だろう。
 それに、本気で相手をしなくては今のフェイトには太刀打ちできない――――。
 ならば、今の俺の力を持って相手になる――――それだけだ。
















 悠翔から目のやり場に困ると言われて頬が熱くなってしまう。
 そう言えばあまり、この姿の時のことは意識していなかったけど……。
 改めてこう言われてしまうと照れてしまう。
 私としてはそんなつもりは無かったんだけど……やっぱり、悠翔からそう言われるとちょっとだけ恥ずかしい。
(薄いとか目のやり場に困るって……言われたけど)
 逆に速さを求めたらこんな風になってしまって。
 それが裏目に出ちゃってる感じなのかもしれない。
 みんなはこう言って無かったけど……もしかしたら同じように思っている人はいるのかもしれない。
 ううん、悠翔がこう思っているんだからきっとそう思ってると思う。
 みんなが言わないのは……多分、悠翔と同じ理由なんだろうとは思うんだけど。
 それでも、意識してしまうと恥ずかしいものがある。
(駄目駄目。気にしないようにしないと)
 頭の中で念じて考えてしまったことを振り切る私。
 こんなことを気にしたままで悠翔と立ち合うなんて無理だから。
 集中力を欠いたままで悠翔を相手にしていたらどうなるかなんて明らかで。
 悠翔の実力を持ってすれば私をすぐに倒すことなんて出来るはずだと思うから。
 私はもう一度、気を引き締め直す。
(悠翔のように技量が上の相手に立ち向かうには――――)
 自分の持つ力で最も優れているものをぶつけるしか無い。
 だからこそ私は真・ソニックフォームを遣うことを選んだわけで。
 この形態のがどう思われるなんかなんて二の次。
 もう、これで行くって決めたのなら迷わない。
 相手が悠翔だからこそ私の全力でいく。
 それがきっと私に出来ること――――。
















 フェイトの瞳から迷いが消えた。
(成る程、今の言葉は俺が悪かったが……。自分で迷いを振り切ったか)
 俺の性で動揺したと言っても良かったが……。
 フェイトは自分からその動揺を振り切った。
 流石に大したものだと思う。
 いや、見事とでも言うべき、か。
 まぁ……本当に俺が申し訳ないことをしたとしか言いようも無いのだが。
 自分で振り切ったのであれば俺もそれに応じなければならない。
(なら、俺もフェイトの全力に対して応じなければ)
 俺はゆっくりと飛鳳を構える。
(最速の一手が相手なら、此方も最速の一手で相手をするまでだ――――)
 フェイトが最速の一手で来ると言うのであれば――――。
 俺も遣うことの出来る最速の一手で相手をする――――。
 それが俺の遣るべきことだ。
 フェイトの最速の一手を受け止めて、俺の最速の一手で受けて立つ――――。
(フェイトの全力の速度、見極めさせて貰うぞ――――)
 どのくらいの速度かは解らないがフェイトの全力がどのくらいのものか見極めておきたい。
 俺の技量で何処まで対処出来るのかは解らない。
 だが、やってられないことは無いはずだ――――。
 後はその一手に対してどうやって応じるかだけだ――――。
 そして、俺に打てる最速の一手は――――神速だ。
 フェイトのその形態に対抗するにはこれしか無いだろう。
 だが、神速を遣えば速度の概念と言うものは関係無い。
 神速はあくまで領域なのだから。
(この一手で決着がつくか――――)
 唯、これだけははっきりと解っている。
 俺もフェイトも最後の一手をとろうとしている。
 フェイトもそのつもりなのは間違いない。
 だったら、俺もこの一手でけりをつけるまでだ――――。
















 俺の神速をもって――――。



































 From FIN  2009/4/19



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