(こういうことなんだろう、な)
飛鳳が俺の意思に応えるかのように僅かな光を放つ。
剣気から発する霊力を飛鳳に纏わせる――――。
これが恭也さんが八景でやっていたことなんだろう。
一度、なのはさんとの模擬戦でも遣った手段だが、あれは魔力弾を斬り捨てただけだ。
それに、ここまで意識を集中してやっていたわけじゃない。
なのはさんの時は殆ど、感覚に任せてやったと言った方が良いだろう。
話からすればこの状態であれば魔力弾以外でも斬り捨てたり、魔力の刃を受け止めたりと言うことが出来るそうだが――――。
(遣ってみるか――――)
考えても仕方が無い。
効果のほどは自分で実際に試してからで無ければ解りはしない。
まずは、それを試してみてからだ――――。
そう考えた俺は飛鳳に力を込めて、フェイトを弾き飛ばす。
「きゃっ!?」
俺の力が予想外の強さだったのかフェイトが短く悲鳴を上げる。
フェイトが魔導師だとしてもその腕力は中学生の少女でしか無い。
俺の場合は少なくとも60Kg以上はある――――。
フェイトを弾き飛ばした俺はそのままの状態からデバイスの刃に向かって飛鳳で斬り付けた――――。
魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
フェイトのデバイスの刃と飛鳳の刃がぶつかりあう。
相手の光の刃がまるで実体の刃と同じような感覚で飛鳳とぶつかりあった。
「っ!?」
フェイトが今の感覚に驚いた表情を見せる。
正直、この感覚には俺の方も吃驚している。
なのはさんの時はそこまで実感出来なかったが――――本当にここまでの効果があるとは思いもしなかった。
確かに耐魔力のような効果を得られると言うことだったが……この効果は予想以上だ。
本当に魔力弾だけでなく、魔力の刃も受け止めることが出来た。
形無き物を斬るために気を込めると言ったことは割と普通にやるものではあるが……。
こうして、目に見えて形に無い物が相手だとその効果が実感出来る。
飛鳳の刃とフェイトのデバイスの刃の間がうっすらと白く輝いている。
俺の込めた霊力が魔力を受け止めていると言うことなんだろう。
「悠翔……これは?」
フェイトが今の現象のことを尋ねてくる。
そう言えばフェイトには俺も剣気を込めることが出来ると言ったことは伝えていない。
今のフェイトの反応を見る限り、恭也さんもフェイトには剣士の類がこういった剣気を込めると言ったことが出来るとは伝えていないんだろう。
「恭也さんがフェイトとの戦闘でやったことと同じものだ」
「え……? 悠翔も同じようなことが出来るの?」
「一応はな。まぁ、俺が出来るのはこういった遣い方だけなんだけど」
「だけど、それでも凄いよ。普通ならやっぱり、こういうことは出来ないと思うし」
「……そうかもしれないな」
俺自身、これが特別だとは思ってはいない。
多分、恭也さんも同じような感じで考えているだろう。
しかし、魔導師から見ればこういったことはあまり考えられない。
普通の小太刀で魔力の刃を受け止めているのだから。
だが、俺の剣気でこういったことが出来るのであれば、専門職である神咲流はどうなんだろうなとも思ってしまう。
別のことも出来そうだが――――今は考えても仕方が無いか。
俺が出来ることはこうやって剣気から発する霊力で魔法に対処するだけだから。
「――――続けようか」
「うんっ!」
一旦、区切りが出来た形になってしまったのでフェイトに続けると促す。
フェイトも俺の言葉に頷き、デバイスを構え直す。
とりあえず、効果のほどは実感出来た――――。
次はどう動くことにするか――――。
悠翔がバルディッシュの刃を受け止めたのに少し吃驚する。
悠翔も恭也さんと同じようなことが出来るなんて……。
出来無いのかな、と思ってたけどそんなことはなくて。
やっぱり、悠翔は凄いんだなって思ってしまう。
だからこそ悠翔が強いってことが解る。
気を引き締めてかからないといけない。
改めて、私は悠翔と距離を取り直す。
悠翔の小太刀が決して届かない距離にまで。
「バルディッシュ!」
《Assault Form》
バルディッシュをハーケンフォームからアサルトフォームへ変形させる。
「フォトンランサー、ファイア!」
射撃魔法であるフォトンランサーを放つ。
フォトンランサーは直線にしか撃てないけれど、弾速が速くて連射が利く攻撃魔法。
だけど、悠翔はフォトンランサーを見ても冷静で。
(悠翔はどうするつもり……?)
私が考えている合間に悠翔が動き始める。
悠翔はフォトンランサーの弾道が読めているかのように身を捩る。
フォトンランサーを全く問題にもしていないかのような悠翔の動き――――。
もしかしたら、フォトンランサーを銃弾の要領で対処しているかもしれない。
魔法は魔力光がある分、銃弾よりも見切りやすいと言っていたし……。
(だったら、ファランクスシフトなら?)
私の頭の中にフォトンランサーのバリエーションであるファランクスシフトが浮かぶ。
多分、フォトンランサーの射撃タイミングをずらすだけじゃ悠翔には通じない。
そう考えればファランクスシフトが有効なんだろうけど――――。
(悠翔の腕に無理をさせてしまうかも)
悠翔の左腕のことを考えるとファランクスシフトを遣うのは躊躇ってしまう。
恭也さんはファランクスシフトも小太刀で叩き落としていたけど……悠翔の場合はその動きが左腕の負担になってしまうと思う。
だとしたら、ファランクスシフトを遣うことは出来ない。
悠翔にそんな真似をさせるわけにはいかないから。
でも、悠翔相手に手加減しようなんて思わない。
悠翔だって手加減するつもりは無いんだと思うから。
だったら、別の手段でやるしかない――――。
私はそう考えて、もう一度だけフォトンランサーを放った。
フェイトの攻撃魔法の弾道を良く見極める。
弾速は速いが、銃弾と同じ感覚で捉えれば全く見切れないと言うことは無い。
寧ろ、光を放つ分だけ読みやすいと言える。
拳銃の弾だと光を放ったりはしないからな――――。
かと言って油断が出来るわけも無い。
読みやすいとは言っても一度でも当たれば危険なのには変わりが無い。
フェイトの力量の高さのことを踏まえれば決して油断は出来ない。
(さて、フェイトはどう動く――――?)
フェイトは俺が弾道を見切っていることにはあまり驚いた様子は見せない。
多分、俺が弾道を見切ってくることは予想の範囲内なんだろう。
フェイトもこれだけでは俺に通じないことは解っていると思う。
だとしたら、次の手を考えているに違いない。
だが、フェイトが俺に対して手数の多い方法を取ってこないのは左腕に気を遣ってくれているのかもしれない。
戦闘にはそんな心遣いはいらないとでも普段の俺なら言っていただろう。
だけど、フェイトに対してはそんな気持ちは浮かんでこない。
寧ろ、フェイトのその心遣いが嬉しかった。
俺の左腕に負担をかけまいとしてくれている――――これはフェイトの優しい部分だと思う。
それでいて俺を相手に手を抜かないようにしているのが有り難い。
俺が考えている合間にフェイトがもう一度、同じ攻撃魔法を放つ。
弾数が先ほどよりも増えているかのような感覚だ。
いや……実際に弾数を増やしたんだろう。
だが、このくらいであれば避けることに問題は無い。
これだけでは俺に通じないと言うことはフェイトも解っているはずだ。
唯、時間を稼ぐか、間合いを近付かせないようにすると言うことにしかならない。
多分、フェイトはそれも計算済みだろう。
フェイトがそんなに短絡的に攻めてくるとは思えない。
と言うことは、次の手を打ってくるか――――?
From FIN 2009/4/14
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