「悠翔……」
 フェイトが腕の中に納まったまま俺をじっと見つめる。
 そのままフェイトはゆっくりと目を閉じて――――顔を少しだけ上に向ける。
 フェイトのその行動を理解した俺はそれに応えようと顔をゆっくりと近づけていくが――――。
「っ!?」
 一瞬、異質な気配を感じた。
 何か殺気が籠ったような視線を感じる。
「悠翔……?」
 今の俺の行動に疑問を浮かべるフェイト。
 お預けを喰らったようなかたちになってしまったためか少しだけ残念そうな表情をしている。
「……すまない。何か気配を感じたんだ」
「気配……?」
「ああ、明らかに殺気をぶつけてきた」
 そう、今の殺気は此方へと向けられたもの。
 しかも、怨みの籠ったものだ。
 俺は今の気配がまだいないかを確認する。
 もしかすると、俺を狙っている一派の人間かもしれない。
 それとも、フェイトに対して何か怨みを持っているような人間かもしれない。
 それは考えにくいことだが……可能性がゼロとは言い切れない。
 このまま仕掛けてこないのであれば良いのだが、万が一と言うものもある。
(いた――――)
 そして、俺は気配を感じた方向に向かって飛針を投げつける――――。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 投げつけた相手に飛針が当たったことを確認する。
 気配を完全に消せていなかったことを見ると相手は素人だろう。
 どうして、見向きもせずに気付いたのかが解らなくて戸惑っている感じだ。
「……戦いたくないのであればさっさと失せろ」
 感じた気配の方向に向かって殺気を叩きつける。
 相手が俺の殺気に当てられているのが解る。
 やはり、相手はこう言ったことを専門にしているわけでは無いらしい。
 普通俺の命を狙ってくるとすればこのような真似は考えられない。
 ここまで気配がバレバレでは狙うにしても偵察するにしても意味が無いだろう。
 意図的に気配をバラすと言う可能性もあるが、それはあまり考えにくいだろう。
 もしかしたら、相手は魔導師なのかもしれない。
 俺の殺気に何かしらを感じた相手が離れていく気配を感じる。
 とりあえずは撤退してくれたらしい。
 流石にこう言った場所で戦いたいとは思わなかった。
「悠翔……?」
「すまない。異質な気配がした」
「え……もしかして?」
「いや、そうとは限らないが……。俺が思うには魔導師じゃないかと思う」
 多分、魔導師だと言う感じを覚えたのが今の相手の逃げ方だ。
 ある程度、離れたと思ったその瞬間に相手の気配が完全に消えた。
 一瞬でふっと気配が消えたような感覚だ。
 恐らく、転送でもされたんだろうと思う。
 これでとりあえずは安全は確保出来たんだろうと思うが……油断は禁物だ。
 急いでフェイトを送り届けなくてはならない。
 万が一を考えると安心は出来ないからな――――。
















 まさか、いきなり誰かに狙われるなんて……。
 管理局での立ち合いの時から悠翔が魔導師に狙われていることは解っていたけれど……。
 海鳴でも実際に遭遇するなんて。
 悠翔とのことがお預けになったのはちょっとだけ残念だったけど……。
 こんなことがあったんじゃ仕方が無いと思う。
「急いだ方が良いな」
「うん」
 悠翔が私を急ぐように促してくる。
 私としてはもうちょっと悠翔と一緒にいたいけれど、あんなことがあったんじゃそうも言っていられなくて。
 でも……私を送り届けた後に悠翔が今の人に襲われたりするかもしれないことを考えると心配で。
 だけど、私がそう言ったとしても悠翔は大丈夫だって言うんだと思う。
 それはもう解っていることだから私からはこれ以上は言わない。
 悠翔の性格を考えると自分が狙われたってことよりも私をこんなことに巻き込みたくないって言う気持ちの方が強いと思う。
 気持ち、少し足早な感じで私の家まで悠翔に送って貰う。
 数分ほど歩いた後、私の家であるマンションの前に到着する。
「ありがとう、悠翔。ここまで送って貰って」
「どういたしまして。フェイトを無事にここまで送れて良かった」
「うん。私も悠翔に送って貰って嬉しかったよ。それに……」
「……うん、そうだな」
 家に入る前に悠翔とのさっきのことを思いだす。
 それは悠翔も私と全く同じで。
 思いだすだけで顔から火が出そうなくらい熱くなる。
 つい、もらしてしまったかたちだったけど……悠翔に告白した。
 それに悠翔も応えてくれて……ううん、悠翔も私のことが好きだって言ってくれて。
 私の片想いじゃ無かったことが凄く嬉しかった。
 だからこそ、これだけで今日はお別れしないといけないのが少し名残り惜しくて。
「じゃあ、俺もそろそろ帰るから」
「あ、ちょっと待って」
 私は悠翔を少しだけ引きとめる。
 せめて送ってくれた御礼に何かしたくて。
 それに……漸く気持ちを伝えあったんだから普通に御礼をするだけじゃ物足りなくて。
「ん……」
 私は悠翔の頬に軽く口付ける。
「ありがとう、悠翔。送ってくれて。今のは御礼だよ♪」
「あ、ああ……」
 私のいきなりの行動に顔を真っ赤にして戸惑う悠翔。
 でも、私はずっとやってみたいって思っていたことだから戸惑いは無かった。
 本当は私も頬が熱いんだけど、それは表情になるべく出さないようにして。
「じゃあね、悠翔♪」
 やりたいって思っていたことが出来た私は凄く上機嫌な気持ちでマンションの中に入っていく。
 ちらっと後ろを見たら悠翔も少しだけ嬉しそうにしていたのが見えた。
 少しいきなりだったけど、良かった……喜んで貰えて。
















 フェイトが入って行ったことを見届けた俺は漸く、帰路につく。
 入っていく前にフェイトが最後にとった行動は流石にやばかった。
 まさか、いきなり頬に口付けてくるとは。
 俺もまさかの行為に何も言えなかった。
 だけど、フェイトの行為は嫌じゃ無かった。
 寧ろ、嬉しいと感じる行為だった。
 フェイトは俺の頬に口付けた時、凄く嬉しそうな表情をしていた。
 今の行為も好きだって伝えあったからこそ出来た行為なんだと思う。
 だけど、今のフェイトの嬉しそうな表情は可愛かった。
 今までは唯、好意を寄せていただけだったけど、気持ちを伝えた後だからか今まで以上にフェイトが可愛く見えた。
「……フェイトには敵わないな」
 完全に今のはフェイトにしてやられたと言える。
 平常心を保つことには自信があったつもりだったが……今はそれが全く出来ていない。
 これが、惚れた弱みと言う奴か。
 自分の今の状況にとりあえず苦笑する。
 だが、それ以上にフェイトとこう言ったことが出来たと言うことが嬉しかった。
 普通と言うものがどういうものかは解らない。
 でも、漸く一歩進んだ関係になったと言うのに間違いは無かった。
 フェイトが俺の特別――――。
 それは出会ったあの時から始まっていたこと。
 海鳴でフェイトを助けたあの時から全てが始まっていたんだと思う。
 何から何までフェイトは特別な女の子だった。
 父さんのことや、自分のことを話したのもそうだけど……。
 何より、初めて出会ったのに自分から秘密をばらしたのが出会った時は信じられなかった。
 だけど、今を思えばあの時からフェイトはずっと特別だったんだろうと思える。
 俺の傍に自分から近付いて来てくれた女の子。
 そして……俺が護りたいと思った初めての女の子。
 そんな特別な女の子と気持ちをかよい合わせられたと言うこと――――それが一番、嬉しかった。
 俺はそう言った喜びを感じながら、ゆっくりとした足取りで高町家への帰路についた。
 勿論、フェイトのことを考えながら――――。



































 From FIN  2009/4/2



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