「……そうだな。それはあるだろう。だが、もう一つ理由が考えられる」
「なんでしょうか?」
「悠翔はエクスと戦った時は御神の剣士としては戦っていないだろう?」
「……はい」
 恭也さんの言うもう一つの理由――――。
 俺が御神の剣士としてエクスと戦っていない。
 それはそうかもしれなかった。
 あの時は魔導師が相手だと言うことが前提で戦っていたから、御神の剣士としての立ち回りは最後にしかやっていない。
 恭也さんの言うとおり、御神の剣士として戦っていなくてどうやって見せれば良いのか。
「だから、気にしなくても良い。次に手合せをする機会があったら存分にやれば良いだろう」
 うん、恭也さんの言うとおりだ。
 今回のことは終わったことであり、俺が御神の剣士として戦わなかったのも自分の判断でやったことだ。
 そこはあまり気にしなくても良いだろう。
 それに恭也さんに尋ねた目的であるエクスの剣のことは聞けたから良しとするべきだ。
 後は……エクスの剣術についての議論だけだと思う。
 俺は恭也さんの答えに頷き、次の話題をきり始めた――――。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















「恭也さん、エクスの剣術についてはどう思いますか?」
「エクスの剣術か……。ふむ、俺が思うに古流剣術などに近いと感じるな」
「古流剣術ですか?」
「ああ。近代の剣術は儀礼的なものが中心となっているが、エクスの剣はそれとは全く、思想が違うからな」
「と言うことは?」
「方向性としては御神流と同じだろうな」
 エクスの剣術について恭也さんと議論を交わしていく。
 エクスの先程の動きや立ち回りからして色々と推察を立てていく。
「しかし、エクスの影に溶け込むと言う動きは面白い」
「それは俺も思いました。あの動きは御神流には無いものですし」
「あの手はグリフも多用していたが……実際に良く見てみるとあの動きは実に理にかなっている」
「意識の間隙に飛び込むと言う点ですか?」
「ああ、そうだな。あれは御神流とは別の意味での気配の消し方だと言えるだろう」
「気配の消し方、ですか」
「……ああ。俺達の場合は剣気や殺気などを完全に断つことで気配を消すが、あの剣術は影と言う間隙で気配を消している」
「と言うことは……?」
「逆を言えば影が無ければあの動きは出来ないと言うことだ。恐らく、エクス自身もそれは解っているだろう」
 確かに影と言うものを利用してあの動きをやるのだとしたら、影が無ければその動きは出来ない。
「だが、エクスが普通に気配を消すことも出来ることを考えればこの方法の欠点はあまり無いと言えるだろうな」
「成る程……」
 恭也さんの言うとおり、エクスが気配を消すことが出来ると言うことを考えればあまり大きな欠点は見当たらない。
 如いて言えば、影に気をつければある程度の対処が可能だと言うことだろうか。
「まぁ、エクスの剣について俺が解るのはこのくらいだろう。衝撃波などに関しては言うことも無いだろうからな」
「ええ、そうですね」
 恭也さんとエクスの剣について大体の話を纏める。
 御神流とは全く違う、西洋の古流剣術……。
 恭也さんも色々と参考になったみたいだ。
 俺も知らないことが多々あったから勉強になったと思う。
 ……と流石にフェイトの所に戻らないと心配されるか。
 フェイトの視線を感じた俺は恭也さんに一声かけて戻ることにした。
















「悠翔、恭也さんと何を話してたの?」
「ああ、エクスとの立ち合いのことについてちょっとな」
 戻ってきた悠翔に何を話していたのかを尋ねてみる。
 でも、返ってきた返答は思った通りで少しだけ安心する。
「しかし、エクスも大したものだな。恭也さんとあそこまで渡り合えるなんて」
「いや、偶々だよ。次はこうはいかない」
「そうだろうか。俺はそうは思わないけどな。次はエクスもある程度は恭也さんの技に反応出来るんじゃないのか?」
「……気付いていたのか」
「薄々な」
 多分、悠翔が言っているのは反応速度の話だと思う。
 悠翔はエクスの反応速度を異常なものだって言っていた。
 エクスもそのことは解っているみたいで。
 悠翔が何を言いたいのかが解ったみたい。
「その剣術の最大の武器は驚異的な反応速度だろう?」
「まぁね。そうなる、かな」
「……と言うことは神速も見えているのか?」 「いや、悠翔達の言っている神速に関しては見えていると言うよりも反応させてるだけかな。確かに高速で動くことは出来るけど、あそこまでは出来ない」
 エクスは神速に関しては見えているわけじゃないって言う。
 でも、身体が反応出来るってどれだけ凄いんだろう。
「義姉さんも反応速度でならある程度は対応出来るから、僕だけが凄いってわけじゃないけどね」
「成る程な」
 僕だけが凄いわけじゃないって……それってどうなんだろう。
 私から見ればエクスも充分凄いようにしか見えないんだけど……。
「まぁ、この話はここまでだ。僕も悠翔もこれ以上は話すことは出来ないだろ?」
「……そうだな」
 とりあえず、悠翔とエクスのこの会話はここまでみたいで。
 それにしても……なんか非常識なことばかり聞いていたような気がする。
 私達の場合は魔法を遣えばそう言ったことが出来るけど……。
 悠翔達の場合は生身一つでやっているんだから。
 改めて私は悠翔達の凄さを実感した――――。
















「話も落ち着いたみたいだし……そろそろ、良いだろうか」
「……クロノさん」
 俺達の話が終わったことを区切りと感じたクロノさんが尋ねてくる。
「エクスと恭也さんの立ち合いは見させて貰った。グレアム提督から聞いていた通りの実力だな」
「いえ、そんなこと無いですよ」
「謙遜することは無い。君の実力は相当なものだ。君のような人間が協力してくれているのは本当に有り難い」
「……とは言っても僕の場合は自分の都合ですから」
「それでもだ。君のような人間がはやてに協力してくれているのは助かる。はやては複雑な立場だからな」
「……解っています。グレアム氏が僕をはやての傍につくように言った意味も」
 やはり、エクスも自分が何故、はやての傍にいるのかは理解しているらしい。
 まぁ……エクスも同業者だから解っているのが当然なのだろうけど。
「さて、本題だが……今回はここまでだ。悠翔のランクも計測出来たし、エクスのランクも計測出来た」
「……そうですか」
「それに、悠翔の方も一応の正体が掴めたからな。今回に関しては解散だ」
 まぁ、俺が何者かを確かめるのは目的の一つだったと言うのはまぁ、当然か。
 フェイトもそれを気にしていたと言うことは、元々から俺が疑われていたと言うのにも繋がる。
 正体を確かめるためにも俺は呼んだと言うのは当然だと言える。
 恐らくは夏織さん達を呼んだのも俺の正体の確証を得るための要因の一つであったに違いない。
「そう身構えなくても良い。別にどうもしないさ。唯、正体がはっきりしたと言うことは他の魔導師に動きがあるかもしれない。それだけは気を付けてくれ」
「……解りました」
 クロノさんの言うとおり、これに関しては気をつけるしか無いだろう。
 いや、既に狙われている可能性だって高い。
 そう言った意味では既に駆け引きが始まっているのかもしれない。
「とにかく、今回はこのまま高町家の方に戻させて貰う。今日、立ち合った魔導師についてはなんとかしておく」
「……すいません、お願いします」
 クロノさんも俺の考えていることがある程度解るのか、何も言わずに俺が言いたかったことを代弁してくれる。
 今回、立ち合った魔導師に関しては此方の概念と言うものをぶつけたと言うことになる。
 恐らく、覚悟の違いと言うものは解ったはずだ。
 後は俺からどうこうすると言うつもりはない。
 だが、俺のせいで恐怖感を持ってしまった可能性だってある。
 そう言った不安を抱えていることを考えれば何かしらの対処はしなくてはならない。
 とは言ってもその覚悟の違いと言うものを見せつけた俺では逆効果にしかならないだろう。
 だから、クロノさんの申し出は有り難かった。
 しかし――――今回、俺と関わった魔導師達がどうなるかは今後次第だ。
 戦うことを辞めるのか、それとも続けるのか――――。
 それは俺が決めるべきことでは無い。
 後は本人達の意思次第――――そう思う。



































 From FIN  2009/3/16



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