「俺は心が読めるとか言うわけでは無いから深いところまでは解らないが……エクスの剣は邪なものでは無い。それは、はっきりしている」
恐らく、エクスが自分の剣を悪く見ているのは昨年の事件のことが影響しているのだろう。
自らと同じ剣を遣う人間がああ言った事件に関わっていたのだから。
「そう言った意思と言うものはグリフの剣と同じだとしても関係ないはずだ。エクスの剣はエクスの剣だからな」
「恭也さん……」
「だから、自分の剣を信じろ。俺に言えることはそれだけだ」
「はい!」
エクスの表情が明るくなったのを確認した恭也は満足そうに頷く。
自分が伝えるべきことはこのくらいだろう。
ここから先はエクス自身がやっていかなければならない。
あくまで、自分がやったことは方向性を示しただけに過ぎない。
(良い目をするようになった)
エクスも自分の言葉を受けたのが影響したか、目に宿る意思の光がはっきりとしてきた。
これなら、もう心配する必要はないだろう。
恭也はエクスから感じられるものを見ながらそう思う。
魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
(決着か……)
恭也さんとエクスの立ち合いが終了する。
決め手は虎切――――。
西洋の剣を遣う人間にとっては考えられない手段である抜刀術で恭也さんは最後の一手を打った。
流石に虚を突かれたのだろうと思う。
人間は誰でも初めて見るものには僅かに反応が遅れる。
抜刀術と言う概念の無い剣術を遣っているエクスなら尚更だろうと思う。
神速からの虎切――――。
虎切をああ言った方法で遣うのはとても、今の俺では出来はしないだろう。
抜刀術は基本的に後の先と言った形に遣う場合が多いのだから。
虎切に関してはまだ、形の段階でしか無い俺にはそれすらも出来るかは怪しいが。
だけど、良い立ち合いだったんじゃないかと俺は思う。
「悠翔君」
「……はやて」
「やっぱり、恭也さんは凄いなぁ……」
「ああ、恭也さんは本当に凄いと思う。剣に全く、迷いが無い。エクスにもそれが伝わっていると思う」
「そうやな……エクスは自分の剣に自信が無かったみたいやし。恭也さんと立ち合ってその迷いが払われたってのは良いことやと思う」
「エクスはそんなに迷っていたのか?」
「うん。エクスが迷い始めたんはグリフと言う剣士の話が表に出た時期からや」
「グリフ……昨年の事件に関わった剣士か」
「私は昨年の事件のことなんて解らへんけど、グリフ……エクスのお兄さんやな。その人がやっていることに負い目みたいなものを感じていたんやと思う」
「……成る程な」
エクスが迷っていたと言うのはなんとなく解る気がする。
面識が殆ど無いとは言っても自分の兄弟がそう言ったことをしていれば悩むと思う。
それが、自分と同じ手段を遣っているんだとすれば尚更だ。
俺だって自分の親や兄弟がそう言ったことをしていれば同じような迷いを抱いていただろう。
「だから、恭也さんと立ち合ったのは良いことやと思うんよ。エクスも恭也さんの言葉で何かふっきれたみたいやしな」
立ち合いが終わって此方に戻ってくる恭也さんとエクスの様子を見ながら満足そうに微笑むはやて。
はやての言うとおり、傷付いていながらもエクスの表情は明るいものだった。
成る程、何かふっきれた――――そのとおりみたいだな。
「お疲れ様、エクス」
「はやて」
「ん、解っとるよ。なんも言わなくてええ」
「ごめん、はやて」
「……うん」
エクスが戻ってきて早速、二人の空間を創り始めるはやて。
普段のはやてからは考えられないような行動だと思う。
凄く真剣で……なんと言うか普段の面白いような感じのするはやてとは全く違う。
少しだけエクスと視線を合わせて、はやては元通りの表情へと戻る。
「どうやった、恭也さんとは?」
「ああ、凄いよ。なんて言えば良いんだろうな恭也さんの剣は」
「そんなに凄かったん?」
「いや、凄いと言うか……別格だと思う」
「ん〜私には解らんけど……エクスがそう言うんやったらそうなんやな」
エクスの言葉に感心したような様子のはやて。
恭也さんが別格……。
私も恭也さんとは立ち合ったことがあるからそれはなんとなく解る。
でも、エクスの言っている意味の別格は違うんじゃないかと思う。
私には解らなかったけど……彼にはそれが感じられたんじゃないかって。
「今までは自分の剣を何処か重い物だと思っていたんだけど……そうじゃないってことを実感出来ただけでも今回の立ち合いは大きかったと思う」
「エクス……」
「だから、僕は今後も剣も遣っていく。まぁ、こっちも遣うけど」
そう言って二挺の拳銃を見せるエクス。
「うん、それで良いと思うで。エクスがそう決めたんなら私もそれで良いと思うし。私は応援してるで?」
「ありがとう、はやて」
うん、とりあえずエクスも纏まったみたいで。
はやても嬉しそうだし……これで良いんだと思う。
あれ? そう言えば悠翔はさっきから何も言わないけど……?
気になって隣りいるはずの悠翔を見てみると何時の間にかそこには姿が見えない。
慌てて、悠翔の姿を探してみると――――悠翔は恭也さんと何かを話していた。
「恭也さん、エクスの剣はどうでしたか?」
「……ああ。どうも何も良い剣だったと思う。あの剣術については俺も余り良い印象を持っていなかったが……それは間違いだったと言い切れるくらいだ」
「エクスの剣はそれほどに?」
「そうだな。エクスの剣は少し迷いがあったみたいだが、それもグリフの影響だったからな。それがふっきれたと言うことはエクスの剣は心配しなくても良い」
「そう、ですか」
恭也さんにエクスと立ち合った感想を聞いてみるが……予想以上に良い感じの手応えだったらしい。
だが、俺にとってはなんか複雑な気分だ。
なんと言えば良いのかは解らないが、そんな感じがする。
「残念に思うのか?」
「何がです?」
「同じ御神の剣士としてエクスに剣を導いてやれなかったことだ」
「……そうかもしれません」
ああ、恭也さんの言うとおりだ。
多分、俺が残念に思っているのは同じ御神の剣士でありながら、エクスに何も見せられなかったことにあるんだと思う。
既に終わっていることだとは言え、それは俺にとっては痛いことだった。
俺の剣からは何も感じられなかったと言うことだとも言えるからだ。
「俺の剣はまだ、完成していません。だから、エクスには何も見せることが出来なかったのでしょうか?」
だが、俺の剣は恭也さんの剣と大きな違いがある。
恭也さんの剣は既に完成しているが、俺の剣はまだ完成には至っていない。
それ故にエクスには明確な形を示すことが出来なかった――――。
「……そうだな。それはあるだろう。だが、もう一つ理由が考えられる」
「なんでしょうか?」
「悠翔はエクスと戦った時は御神の剣士としては戦っていないだろう?」
「……はい」
恭也さんの言うもう一つの理由――――。
俺が御神の剣士としてエクスと戦っていない。
それはそうかもしれなかった。
あの時は魔導師が相手だと言うことが前提で戦っていたから、御神の剣士としての立ち回りは最後にしかやっていない。
恭也さんの言うとおり、御神の剣士として戦っていなくてどうやって見せれば良いのか。
「だから、気にしなくても良い。次に手合せをする機会があったら存分にやれば良いだろう」
うん、恭也さんの言うとおりだ。
今回のことは終わったことであり、俺が御神の剣士として戦わなかったのも自分の判断でやったことだ。
そこはあまり気にしなくても良いだろう。
それに恭也さんに尋ねた目的であるエクスの剣のことは聞けたから良しとするべきだ。
後は……エクスの剣術についての議論だけだと思う。
俺は恭也さんの答えに頷き、次の話題をきり始めた――――。
From FIN 2009/3/14
前へ 次へ 戻る