「後、もう一つは異常なまでの反応速度だ。俺から見ればこれが一番、凄いと思う」
「え? でも、さっき悠翔と戦った時はそうでも無かったように見えたけど?」
「あれはエクスが此方の手の内を知らなかったのが一つ、後は俺が神速の領域に入った上で、読まれにくい奥義を遣ったからだ」
「と言うことは悠翔が戦った時は悠翔の方が奇襲を仕掛けたってこと?」
「そうなるな。唯、エクスの凄いところは神速の領域に入った俺の動きに身体が反応していたことだ」
「ええっ!?」
「先程は完全に反応出来たわけでは無いみたいだが……多分、何度か遣っていれば神速にも対応出来ると思う」
 本当に信じられない……。
 まさか、エクスが凄いのは反応速度にあったなんて。
 しかも、悠翔の見立てではもっと技量が上がれば神速にも対応出来る?
 今の段階でも身体は反応してたってことを考えるとそれは本当みたいで。
 じゃあ、私の真・ソニックフォームじゃ反応で追いつけるってこと?
 神速は私の真・ソニックフォームよりも速いんだから……。
 だとすればエクスはどれだけ凄いんだろう?
 こう考えてみればさっきのエクスの結果も納得出来る気がする。
 私が色々と考えながら立ち合いの光景を見つめていると……恭也さんが小太刀を仕舞ったのが見えた。
 いったい、どう動くつもりなんだろう――――?






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















(恭也さんが動くのか)
 エクスの目の前で八景を納刀すると言う行動を取った恭也さんの動きをみながらそう判断する。
 八景を納めたと言うことは恭也さんの取る手段は虎切か、それとも薙旋か――――。
 はたまた、暗器を遣った戦術か――――。
 恭也さんの場合は納刀した場合でも多数の戦術を取ることが出来る。
 それも今の俺には出来ない戦術が。
 これは俺と恭也さんの大きな差の一つだろう。
 恭也さんは御神流の奥義を全て習得しており、暗器の遣い方も巧みだ。
 それに対して俺は御神流の奥義は一部のみ、それでいて暗器の遣い方は恭也さんに及ばない。
 納刀した場合に取れる手段は限られているからだ。
「ねぇ、悠翔。恭也さんは小太刀を仕舞ったけど、どうするつもりなの?」
「いや、俺にも解らない。恭也さんの場合は俺よりも多くの手が遣える。それに暗器の遣い方も巧みだ」
 今の恭也さんの今の差し方は裏十字、納刀しても抜刀しても動きやすい差し方だ。
 ここからどう動くのか、興味は尽きない。
「納刀してからの手段は確かにあるけど――――」
 俺が小太刀を納刀する場合は二刀目を奇襲に遣うためにやっている。
 後は暗器を遣うために納刀するくらいか。
 それは恭也さんにも 共通するものがある。
 だが、俺の場合は手段が限られてくることを考えればその差は大きい。
 恭也さんには納刀した場合でも虎切があるが、俺には虎切は無い。
 これだけでも大きな差になる。
 虎切は御神流の奥義では唯一の抜刀術。
 抜刀術とは納刀した状態から抜き放つ動作で一撃を加えるか相手の攻撃を受け流し、二の太刀で相手にとどめを刺す術。
 しかし、俺にこれを遣うことは出来ない。
 虎切は俺以外の御神の剣士は全員遣うことが出来る。
 高速で、長射程の抜刀術――――裏を返せば御神流の奥義の中でも遣いやすく、奥が深い奥義だと言える。
 小太刀は刀や太刀は違って、総じて射程と言うものが短いからだ。
 そう言った意味では虎切や射抜と言った射程の長い奥義と言うものは重要になってくる。
 その欠点を打ち消すことが出来るのだから。
「恭也さんの場合は手段が無数にある。ここからどう動くのかは予測はつかない」
「そうなんだ……」
「とにかく、見てみるしかない――――」
   そう、とにかく様子を見ているしかない。
 恭也さんがどう動くか――――それは俺の経験にも繋がる。
 だからこそ次の恭也さんの行動が何かを見極めなくては――――。
















(なんのつもりだ――――?)
 恭也が八景を納刀した姿を見て疑問に思うエクス。
 いったい、何をするつもりかが解らない。
 小太刀を鞘に納めてどうするつもりなのだろうか。
 悠翔は奇襲に二刀目の小太刀を遣っていたが、その手は既に予測を付けることは出来る。
 だとすれば、身体は充分に反応出来る。
 悠翔が最後に遣っていた動きは完全に見極めたわけでは無いが、反応することは不可能じゃない。
 悠翔と同じ剣術を遣うと言うことは解っている。
 だから、完全とは言わないがある程度であれば手段を予測出来る――――。
 エクスはそのつもりだった。
 しかし、エクスは抜刀術と呼ばれるものがあることを知らない。
 そもそも、西洋剣では納刀した状態から抜き放つ動作で一撃を加えるか相手の攻撃を受け流し、二の太刀で相手にとどめを刺すと言う考え方は存在しない。
 元々から西洋剣と言うものはそう言った芸当には向いていないからだ。
 だから西洋剣は一度、鞘から抜き放った場合は最後まで剣を納めることはない。
 そもそも、剣で一々、納刀するなんてことは無駄に近いとさえ思える。
 悠翔が遣ったように、一瞬の間隙を突いて二刀目で奇襲をすると言う遣い方であれば効果的だとは思う。
 鞘内で剣を走らせても、寧ろ意味はない。
 別に剣速が速くなるわけでもなければ、攻撃と言うわけでもないはずだ。
 少なくともエクスは納刀したと言うことについてはそう見える。 
 剣は斬り抜くものではなく、叩き斬るものだと言う常識が根底にあるからだ。
 日本の刀と言うものを知らないと言うわけではない。
 しかし、本当にそう言った術があるかどうかは現実に見ていないので半信半疑だった。
(隙が無い――――)
 だが、八景を納刀した恭也からは微塵の隙も感じられない。
 寧ろ、此方が間合いに飛び込めば瞬時に遣られてしまうとさえ思える。
 考えても答えは浮かばない。
 だからこそ、恭也の構えが不気味に感じられる。
 しかし、なんとなく感じていることがある。
















 恐らく、斬り込めば自分に勝ち目はない――――。
















(成る程、賢明な判断だ)
 斬り込んでこないエクスの様子を見ながら恭也は感心する。
 相手の対処を見ている限り、エクスは”刀”と言うものの感覚を持ち合わせているわけでは無いらしい。
 西洋剣を遣う剣士は、斬り抜くと言うよりは叩き斬ると言うような戦い方をする。
 エクスの戦い方を見ていてもそれは間違いない。
 剣圧を飛ばすと言う方法も叩き潰すと言った類のものだと考えられる。
 相手が刀の特性を把握していないのであれば好都合だ。
 バスタードソードの方が間合いで有利。
 衝撃波がある分を含めれば尚更だと言える。
 八景を納刀したのはそう言った差を埋めるためだ。
 間合いの差を埋めるには広範囲、長射程の技を遣うしか無い。
 御神流の奥義では虎切、射抜がそう言った条件に当てはまる。
 しかし、射抜に関しては既に悠翔が遣っている。
 エクスの特徴はその驚異的な反応速度にある。
 先程の悠翔との戦いを見ていてもそれは明らかだ。
 特に驚くべきところは神速からの薙旋にも身体が動いていたと言うこと――――。
 それを考えれば射抜では見切られる可能性も考えられる。
 恭也はそう考えて、虎切を遣える体勢へと持っていったのである。
 虎切は抜刀術――――。
 相手の認識が西洋の剣と言うのが常識であれば抜刀術と言うものは常識外れの術だと言える。
 誰しも、”初めて”見るものと言うのに関しては反応が遅れるものだ。
 優れた反応速度を持っているとは言ってもそれは変わらない――――。
 だからこそ、その一点を突く――――。
 それが恭也の導き出した結論だった。



































 From FIN  2009/3/8



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