「ねぇ、はやて……」
「ん、どうしたん? フェイトちゃん」
「はやては……彼のあの戦い方のことを知ってるの?」
「ん〜……良く知ってる」
 シグナムの言うとおりはやてはあの戦い方を良く知っているみたいで。
「でも、エクスの剣も色々と事情があるものやからな……。その辺りについては私にも言えへんよ」
「はやて……?」
 何処となく、言いたくなさそうな表情をするはやて。
 彼の剣は何かあるみたいで、特別な事情とかがあるのかもしれない。
 確かに彼の振るっている剣は普通には出来そうもない芸当で……。
 だけど、どうしてはやては何も言わないのか。
 理由の中には恭也さんと話していたことが何か影響しているのかもしれない。
 私には解らなかったけど、何か重要な事件に関わっていたみたいだし――――。
 だったら、今はどう考えたって解らない。
 今は目の前で起きていることに集中しよう――――。
 私は考えていたことを振り切って目の前で戦っている恭也さんとエクスの方に視線を戻した。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 剣を構え直し、恭也の隙を窺って見るが……全く、その隙が見当たらない。
 それどころか踏み込んだ時点で此方の手の内が全て凌がれるような気さえもする。
 明らかに感じる技量の差――――。
 だが、決して遣りようが無いと言うわけでは無い。
 此方の遣える手でも恭也が遣えないものと言うものは存在する。
(なら、その手段を駆使して戦うまでだ――――)
 エクスは恭也に向かって地を蹴り、間合いを詰め始める。
 動きに気付いた恭也が八景の裡口を切る――――。
(このタイミングなら――――)
 恭也の動きを見計らってエクスは更に間合いを詰める。
 傍目には正面から恭也に対して挑もうとしているようにしか見えないのだが――――。
 ある程度の距離を詰めた瞬間、エクスの姿が掻き消える。










 一瞬、恭也もエクスの姿が消えたことに虚を突かれる。
 距離を詰めた後に目にも止まらない速さにまで加速したのは理解出来た。
 だが、エクスに神速のような芸当が遣えるとは考えられない。
(これは……美由希が言っていた動きか?)
 恭也は美由希が戦ったと言っていたグリフの動きを思い出す。
 美由希が言うにはグリフは目にも止まらない速さで姿を消すことが出来――――。
(――――そこか)
 影に溶け込んで相手の影から姿を現して奇襲することが出来ると言っていた。
 その言葉を思い出した恭也は自分の影に向かって飛針を投げつける。
 恭也が読んでいた通り、影の中からエクスが出現し、飛針を叩き落す。
 今の動きでエクスもグリフと同じ芸当が出来ると言うことは明らかになった。
 影の中に溶け込んでの奇襲――――これは驚異的な技法だと言える。
 人を殺すと言うことにおいてはある意味で理想的な手段だとさえ言える。
 自らの影なんて常識的には考えられないからだ。
 だが、此方にも陰行と言うものがある。
 そう言った意味では此方も似たようなものだ。
(今の奇襲は良かったが、まだ甘い)
 恭也はエクスの今の動きを見ながら冷静に判断する。
 良い手段ではあったが、気配を読み取る術を持つ御神の剣士にそれは決して見切れないものではない。
(しかし、魔導師が相手であれば話は別だったかもしれないな。今の手段は理に適っている)
 だが、エクスの動きは魔法とは関係が無い。
 魔導師のように気配を魔力で読み取るようなことをしているのなら今のは読めはしないだろう。
(だが――――やってくれる)
 今の動きを読み切った恭也に対してエクスはお構い無く間合いに飛び込んでくる。
 奇襲が読まれたのに攻勢を止めないと言うのは大したものだ。
 恭也はエクスの動きを見極めながらそう思った。
















(これも、恭也さんには通じないか――――)
 自分の遣える術の中でも最も、こう言った状況に適していると言っても良い、影に溶け込むと言う身体運用法。
 普通に対処するのは困難な技法の一つでもある。
 しかし、恭也には見切られてしまった。
 間合いも狙いも間違ってはいなかったはずだ――――。
 それでも、見破られたと言うことは恭也がそれだけ優れていると言う裏付けでもある。
(だからと言って――――)
 此方に退くと言う道理も無い。
 このまま止まっても活路が見出せないのであれば流れを自分で引き寄せるしか無い。
 そう考えたエクスはそのまま、構うことなく恭也に仕掛けていく。
 奇襲が見破られた瞬間から最早、自分の不利は理解している。
 それでも、一撃を加えれば状況は変わってくる――――。
 一撃、二撃、と斬撃を恭也に向けるエクス。
 しかし、恭也は冷静に対処していく。
 大剣と言うものは一撃が重いのが長所だが、剣速が遅いと言うのが短所なのである。
 片手半剣とも呼ばれるエクスのバスタードソードですらその欠点は同様だと言えた。
 恭也にとっては剣速がやや、遅く感じられのである。
 元々から、剣速の速い小太刀を遣っているのだ。
 大剣の軌道などは冷静に立ち回れば見極められないことも無い。
 しかし、グリフが相手であれば恭也の対処法も違うものになっていたかもしれない。
 だが、エクスにはまだグリフほどの力量は無い。
 それだけは恭也から見ても明らかだった――――。
















 エクスと恭也さんの立ち合いに唖然とする私。
 今、エクスの姿って一瞬、消えたよね!?
 しかも恭也さんの目の前で。
 全く、今のエクスの動きは解らなくて、見えなくて。
 どうやって、あんな動きをしたのか見当もつかない。
 それにエクスは恭也さんの影から姿を現していた。
 いったい、どう言うこと――――?
「まさか、あんな身体運用法が出来るなんて」
「悠翔は今の動きを知っているの?」
「いや、俺も今の身体運用方法は知らないな。少なくとも御神流にあの術はない」
 悠翔の言葉に吃驚する私。
 まさか、悠翔も知らない方法だなんて。
「フェイトは俺がああ言ったことなら殆ど知っているように思ってるかもしれないが、それは違う」
「……どういうこと?」
「要するに……今のエクスの動きは俺の範囲外だってことだ。恐らく、エクスの遣っている剣術特有の動きなんだろう」
 えっと……悠翔でもエクスの剣術は解らないってこと?
 悠翔も流石に初めて見た剣術だからそう言う評価をしているんだと思うけど……。
「とりあえず、俺から見て解ることも何点かある」
「本当!?」
「まず一つは、今の影に溶け込むと言う身体運用法は相手の意識の間隙を突いていると言う可能性が考えられる」
「意識の間隙……? でも、恭也さんは反応していたよ?」
「それは、剣気とか殺気を読むのと同じ理屈で対処したからだろう。気配察知などが出来れば対処出来ないことは無い」
 えっと……要するに恭也さんは私達では解らない部分で察知して対処していたってことになるのかな?
 なんか私の理屈じゃ解らないけど……多分、そんな感じだと思う。
「後、もう一つは異常なまでの反応速度だ。俺から見ればこれが一番、凄いと思う」
「え? でも、さっき悠翔と戦った時はそうでも無かったように見えたけど?」
「あれはエクスが此方の手の内を知らなかったのが一つ、後は俺が神速の領域に入った上で、読まれにくい奥義を遣ったからだ」
「と言うことは悠翔が戦った時は悠翔の方が奇襲を仕掛けたってこと?」
「そうなるな。唯、エクスの凄いところは神速の領域に入った俺の動きに身体が反応していたことだ」
「ええっ!?」
「先程は完全に反応出来たわけでは無いみたいだが……多分、何度か遣っていれば神速にも対応出来ると思う」
 本当に信じられない……。
 まさか、エクスが凄いのは反応速度にあったなんて。
 しかも、悠翔の見立てではもっと技量が上がれば神速にも対応出来る?
 今の段階でも身体は反応してたってことを考えるとそれは本当みたいで。
 じゃあ、私の真・ソニックフォームじゃ反応で追いつけるってこと?
 神速は私の真・ソニックフォームよりも速いんだから……。
 だとすればエクスはどれだけ凄いんだろう?
 こう考えてみればさっきのエクスの結果も納得出来る気がする。
 私が色々と考えながら立ち合いの光景を見つめていると……恭也さんが小太刀を仕舞ったのが見えた。
 いったい、どう動くつもりなんだろう――――?



































 From FIN  2009/3/6



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