今、この場にいる人間で昨年の事件の当事者は恭也さん唯、1人だ。
 後は美由希さんとフィアッセさん、それにエリスさんだが……この場には誰もいない。
 やはり、恭也さんしかあの事件のことは解らない。
 一番、因縁があるのは士郎さんなのだろうが……士郎さんも昨年の事件に関しては直接、関与していない。
 詳しい説明をしろと言うのが難しい話だろう。
 まぁ、士郎さんの場合は全ての事情を解っていそうだが――――。
 俺がリンディさん達の会話を聞いている間に向こうの方で動きが少しずつ出始める。
 いよいよ、始めるつもりらしい。
 恐らく、勝敗と言う点で見れば恭也さんが勝つだろう。
 だが、エクスの剣も未知数だ――――。
 それに恭也さんがどう動くかも解らない。
 遂に昨年の事件に関わりのある剣士同士の戦いが始まる。
 俺に出来ることは、それを見届けるだけだ――――。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 まず、先手を撃って動いたのはエクス。
 恭也との間合いをある程度詰めたところで剣を振る。
 一瞬、離れて見ているフェイト達には何がしたいのかは解らなかった。
 だが、その場で立ち合っている恭也にはエクスが何をしたのかが解る。
 エクスの違和感のある動きに恭也は咄嗟に身を動かす。
 そして、恭也が今までいた射線上には”目に見えない何か”が通り過ぎていった。
(衝撃波か――――)
 空気がビリビリと震えるような感覚。
 今、放たれたのは剣圧を相手に向かって飛ばすと言う方法。
 御神の剣士には遣うことの出来ない攻撃方法である。
 距離としては数メートルくらいの距離でしか無かったが、剣が明らかに届くような距離では無かった。
(成る程――――やってくれる)
 これでは正面から向かうのは得策とは言えなくなってくる。
 しかも、普通にあれだけの剣圧を放つことが出来るのであれば恐らくは剣の見た目以上に間合いが大きいだろう。
 剣速についてはまだ判断のしようも無いが、少なくともあの間合いの広さは厄介だ。
 エクスの方も恭也が衝撃波を避けるのは予想どおりだったらしく、既に剣を構え直している。
 相手の剣は剣の類で言えば大剣と呼べるもの。
 しかし、拳銃との兼用も考えているとのこともあり、その大きさは大剣と言うにしては小さい。
 エクスの扱っている得物はバスタードソードと言う類の物になる。
 バスタードソードは片手、両手の両方で扱うことを前提とされた西洋剣だ。
 片手半剣とも呼ばれ、斬ることと突くことの双方の間の特性を持った剣でもある。
 エクスの扱っているバスタードソードはやや、刃が太い。
 特殊な創りになっているのだろう。
 冷静に相手の得物を見極めていく恭也。
 ああ言った芸当が出来ることを考えれば力量としては自分の予想を上回っていたことになる。
 流石に、剣圧で周囲の物を吹き飛ばしたり、破壊したりと言った芸当は普通のレベルの芸当では無い。
 それは普通にやってのけたことを見ると、一流の領域にいるのは間違いない――――。
 だとすれば、他にも手を持っているだろう――――。
 そう考え、恭也は改めて気を引き締め直した。
















(凌がれるか――――)
 間合いの広い分で先手を取ったつもりだったが、恭也には初めから見抜かれていたらしい。
 剣圧による衝撃波――――相手がこの手を知らないのであれば効果的な手段のはずだった。
 だが、恭也はそれを察知し、既に行動をおこしていたのである。
(流石に正攻法では通じない――――)
 今のを簡単に凌がれたことを見ると自分と恭也の力量差は明らかだ。
 恐らくはまともな方法では恭也とは討ち合えない。
 恭也はまだ、動いてはいないがそれは……はっきりとしていることだった。
 悠翔でもあれだけの実力を持っているのだから、恭也は少なくともそれ以上である。
 エリスから聞いた話から踏まえても恭也の実力は底がしれない。
(だけど――――退くわけには!)
 エクスは再度地を蹴り、恭也へと間合いを詰め始める。
 恭也もエクスの動きには気付いており、八景を構え斬り込んでくる。
 そして、そのままエクスは向かってきた恭也と斬り結ぶ――――。





 ガキン――――と鈍い金属音がする。





 自分の剣と恭也の八景がぶつかりあった音。
 剣士同士の戦い特有のものだと言っても良い。
 そのまま、鍔競り合いをするが――――。
(重い――――)
 得物としてはバスタードソードを遣っている自分の方が重いはずだ。
 だが、恭也は片手の八景だけで易々と自分の剣を受け止めた。
 悠翔もそうだったが、小太刀と言う得物を遣っているせいもあり、膂力と言うものが見た目以上に感じられる。
(悠翔の場合も相当なものだと思ったけど……これは――――)
 恭也の場合は想像を絶するような膂力だった。
 少なくとも握力だけでも100キロくらいあるのでは無いだろうか。
 悠翔でも60キロくらいは超えているような印象を受けたが……。
 恭也の場合はそれを軽く上回っている。
(このまま、斬り結ぶのは不利――――)
 そう判断したエクスは自分から弾かれるように間合いを取り直す。
 真っ向から討ち合っても活路は見い出せない――――。
 エクスは思考を組み立て始めた――――。
















 改めて恭也さんとエクスの戦いを見て吃驚する私。
 恭也さんが凄いのは解っていたことだけど、彼の方があそこまで剣を扱えるなんて思ってもいなかった。
 特に初めに彼が何をやったのかは全く解らなくて。
 恭也さんが身を動かして避けたのは解ったんだけど……?
「衝撃波か……」
「え?」
「エクスは、初手で衝撃波を放ったんだ。まさか、あんな芸当が出来るとは思わなかったな」
「衝撃波?」
「ああ。剣圧によって発生した風圧を相手にぶつけると言った感じだろう、な」
 エクスが何をやったのか解らないと言う私に悠翔が色々と説明をしてくれる。
 いや、風圧って……いったいどれだけの剣圧なんだろう?
 剣を振っただけで衝撃波が出るだなんて。
「シグナムはああ言ったことは出来ますか?」
 なんとなく気になったので同じ西洋剣の遣い手であるシグナムに尋ねてみる。
「いや、私にはああ言った芸当は出来ないな。改めて、マクガーレンには驚かされる」
 シグナムにも彼のような芸当は出来ないとのこと。
 でも、シグナムは今の剣を見てもあまり驚いていないみたい。
「もしかして、シグナムは彼の戦いを見たことが?」
「いや、私は直接見たわけでは無い。唯、マクガーレンのことに関してだと主はやてに聞いた方が良い。主が一番、マクガーレンのことを見ているからな」
 私が思ったこととは裏腹にシグナムは彼の戦いを見たことが無かったみたいで。
 でも、はやての方に聞いた方が良いってことは……はやてと何かがあったってこと?
「ねぇ、はやて……」
「ん、どうしたん? フェイトちゃん」
「はやては……彼のあの戦い方のことを知ってるの?」
「ん〜……良く知ってる」
 シグナムの言うとおりはやてはあの戦い方を良く知っているみたいで。
「でも、エクスの剣も色々と事情があるものやからな……。その辺りについては私にも言えへんよ」
「はやて……?」
 何処となく、言いたくなさそうな表情をするはやて。
 彼の剣は何かあるみたいで、特別な事情とかがあるのかもしれない。
 確かに彼の振るっている剣は普通には出来そうもない芸当で……。
 だけど、どうしてはやては何も言わないのか。
 理由の中には恭也さんと話していたことが何か影響しているのかもしれない。
 私には解らなかったけど、何か重要な事件に関わっていたみたいだし――――。
 だったら、今はどう考えたって解らない。
 今は目の前で起きていることに集中しよう――――。
 私は考えていたことを振り切って目の前で戦っている恭也さんとエクスの方に視線を戻した。



































 From FIN  2009/3/4



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