「……俺で良いのかは解らないが、あの事件に関わった者として彼と剣を合わせる――――俺に出来るのはそれだけだ」
「うん、解ってる。だから、恭也の思うとおりにやって。きっとあの子にも恭也の剣は伝わると思うから」
 忍には彼が恭也に立ち合ってほしいと考えたのは昨年の事件に関わっているからだと言うのは解っている。
 今の話は忍にしてみれば解らない部分も多い。
 だが、エクスの瞳に宿る光は忍にもなんとなく理解出来た。
 そして、その意思の強さも。
「……そうだな」
 恭也にも忍の言葉の意味が良く解る。
 彼がどうして自らに挑んできたか――――。
 恐らく、自分の兄が討たれたと言う剣を直接受けてみたいのだろう。
 そして、兄がどうして敗れたのか――――恭也達の振るった剣が正しいのか――――。
 それを見たいと思っているのかもしれない。
 忍もそれをなんとなく理解しているからこそ今の言葉を自分に伝えたのだ。
 それが解っている以上、全力で応じるしか無い。
 だったら、此方の取る行動は既に決まっている――――。
















 此方も御神の剣士として応じるまでだ――――。























魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 八景の差し方を最も多用している裏十字のかたちに持っていく。
 裏十字は十字差しからの派生型であり、柄をかなり腰の前まで持ってくる形。
 恭也のように納刀、抜刀を繰り返すような戦い方を繰り返す戦い方をする剣士には最も適した差し方である。
 恭也自身、状況に応じて差し方を変えているが基本の型は裏十字をメインにしている。
 最も、二刀の裡の一刀を手に持つと言う構えを取ることもあるのだが――――それは状況に応じて次第としている。
 あの事件の時は一刀を手に持つ形を取っていたのだが――――今回はどう動くか。
 まずは相手の動き方次第だが……。
 少なくともグリフには力量的には及ばないだろう。
 だが――――あの剣を知っている身として侮ることは出来ない。
 それに、自分は直接、戦ったわけではない。
 あの剣の全てを見たわけではないのだ。
 何があるのかは解らない以上、油断はならない。
(――――無粋だな)
 そんなことを考えてもやるべきことは変わらない。
 剣を合わせると決めた以上、躊躇う必要性は無い。
 相手は唯の少年では無い。
 悠翔と同じく、少年でありながら一人前の剣士だ。
 悠翔との立ち回りで剣は殆ど遣わなかったが……その駆け引きは一流の領域だろう。
 それに、悠翔と戦っていながらも手の内をバラしていない。
 悠翔の対処法にその片鱗が見えたが……確証は無い。
 やはり、自分は直接立ち合ってはいないのだから。
 あくまで美由希が話していたことから推察しただけに過ぎない。
 しかし、その立ち回りは悠翔の剣を凌いでいたことを見ると充分過ぎるほどの実力だ。
 兎に角、それを踏まえた上での立ち回りをしなくてはならない。
 それに――――少年が見たいものは御神の剣。
 あの事件に関わった者の立場としてその剣を見せる――――。
 それが自らに課せられた今回の目的だろう。
 意識を統一し終わった恭也は改めてエクスに視線を向けた。
















(なんて、威圧感だ)
 恭也の気配に底知れぬ戦慄を覚える。
 悠翔が剣気を開放してきた時も相当な威圧感を感じたが、恭也の威圧感はそれも比較にならない。
 いや、恭也は剣気を開放してはいないのだろう。
 悠翔の時のように空気が変わったわけではないのだから。
 だが……力量に差があり過ぎる――――それは肌で感じられることだった。
 悠翔の場合は実力的には拮抗していかもしれない。
 しかし、恭也の場合はその実力差が段違いと感じられる。
 剣気を開放していなくてもこれだけの威圧感を感じると言うことは……身体が本能で恭也の実力を訴えているのかもしれない。
(これが、高町恭也――――)
 恭也や美由希のことは義姉であるエリスから聞いていたつもりだった。
 だが、こうして立って見るとそれが自分の予想をはるかに上回るものだったと言うことを実感させられる。
 あの事件の解決に大きく関わったと言うのは伊達ではないだろう。
 特にエリスやフィアッセの敵をも打倒したと言うのが一番、凄いと感じる。
 あの人間は裏の側ではあまりにも有名だったのだから。
 恭也その人間を一瞬の時の間に仕留めてしまったと言う――――。
 自分にはとても想像なんて言うものは出来ない。
 だが、こうして直接立ち合うと言う機会を手にいられたのだから。
 後は自分の剣を振るうだけだ。
 あの事件の首謀者を討ち果たし、墜ちてしまった剣士であるグリフをも討ち果たしたと言う御神の剣。
 それを見せて貰うと言うこと――――今回の目的はそれだった。
 そして、もう一つ――――この人物の剣はどんな意思を持っているのか。
 それを見極めることが一番の目的だった。
 その意識を再確認し、恭也の前へと立つ。
 自分の剣が何処まで通じるかなんて解らない。
 後は、今の自分が振るうことの出来るものの全てを持って立ち向かうだけだ――――。
















「ちょっと、2人は何をしようとしているの?」
 恭也さんとエクスがフィールドの中心に立った姿を見たリンディさんが慌てた様子を見せる。
「今から一戦、遣るそうです。申し訳ないですが……。リンディさん、黙認して貰えませんか。出来れば映像を取るのも停止して」
「いったい、どういうことなの?」
「……詳しくは話せません。これは当人同士の問題なので」
「何か込み入った理由があるのね?」
「……はい」
「解りました。そこまで言うのでしたら言うとおりにさせて貰います」
「ありがとうございます」
 俺の言い分を理解してくれたリンディさんがすぐさま、指示を出してくれる。
 ひとまずはこれで良いだろう。
 少し無茶だったと思うが、理解をしてくれたリンディさんには感謝しないといけない。
「けど、恭也さんが動くだなんて……いったい何があるのかしら?」
「……恐らくは昨年の事件が関わっているわね」
「昨年の事件、ですか?」
「ええ。真相を知りたければ本人に聞くか、自分達で調べることね。私も知ってはいるけれど当事者では無いから」
 リンディさんの疑問に答えていく夏織さん。
 昨年の事件が関わっているのは夏織さんの言うとおりだ。
 エクス自身もそれを仄めかしているからな。
 だが、夏織さんも俺も昨年の事件の当事者では無い。
 今、この場にいる人間で昨年の事件の当事者は恭也さん唯、1人だ。
 後は美由希さんとフィアッセさん、それにエリスさんだが……この場には誰もいない。
 やはり、恭也さんしかあの事件のことは解らない。
 一番、因縁があるのは士郎さんなのだろうが……士郎さんも昨年の事件に関しては直接、関与していない。
 詳しい説明をしろと言うのが難しい話だろう。
 まぁ、士郎さんの場合は全ての事情を解っていそうだが――――。
 俺がリンディさん達の会話を聞いている間に向こうの方で動きが少しずつ出始める。
 いよいよ、始めるつもりらしい。
 恐らく、勝敗と言う点で見れば恭也さんが勝つだろう。
 だが、エクスの剣も未知数だ――――。
 それに恭也さんがどう動くかも解らない。
 遂に昨年の事件に関わりのある剣士同士の戦いが始まる。
 俺に出来ることは、それを見届けるだけだ――――。



































 From FIN  2009/3/1



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