「だが、悠翔との駆け引きを見ているとそれを思いだす。本人と関係があるのかまでは解らないが、な」
「……そうですか。そこまで解るとは流石です」
恭也さんの言葉に驚くエクス。
グリフが何者かは俺にも解らないが……話を聞いている限りでは昨年の事件に関わった人物のようだ。
しかも、恭也さんの話を聞く限りでは剣士のようだが……?
西洋の剣技で有名なのはドイツの剣術だが……やはり、その流れを組んでいるのだろうか。
「しかし、俺の見立てではエクスもグリフと同じ剣技を遣えるように見えるが……関係者なのか?」
「……はい。彼、グリフは僕の実の兄です。僕達は孤児で幼い頃に離れ離れになっていたのですけど」
「そうか……だったら、俺達、御神の剣士を恨んでいるんじゃないのか?」
「いえ、寧ろ感謝しています。僕が兄と会ったのは一度だけでしたが……既に兄の剣は汚れたものになっていましたから」
「……と言うことは、フィアッセを襲った時よりも前からか」
「はい。何時からか兄は強者を求めるだけの騎士になってしまいました。だから、誰かが止めなくてはならなかったんです」
グリフと言う人物は騎士としての道を外れた――――。
謂わば、剣士としての道を外れたと言うのと同義だと言うことか。
俺がそう考えるのを余所にエクスは言葉を続ける。
「だから……兄を止めてくれた貴方達には感謝しています」
まさか、エクスの話がここまで昨年の事件に関わっているとは思わなかった。
それも――――実の兄が敵の側だったなんて。
エクスが言いたかったのはあの事件のことだったのか――――。
だが、俺はあの事件には関与していない。
エクスに対して俺は何を言えば良いのか解らない。
こう言った関わりだったなんて――――。
魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
「そうか、エクスの気持ちは解った。だが、それは美由希の方に言ってやってくれ。グリフを止めたのは美由希だから、な」
「……はい」
エクスが自分と昨年の事件の関わりの話を言い終わったところで話が一段落する。
だが、エクスの話がこれだけとは到底、思えない。
恭也さんに接触したのは他にも何かがあるんじゃないか?
「さて……俺のところに来たのはそれだけか? まだ、他にあるんじゃないのか?」
「……解りますか」
「ああ、なんとなくだがな」
俺が予想していたとおり恭也さんに接触したのは他にも目的があったらしい。
「でしたら、話は早いです。僕と立ち合って貰えませんか?」
「……成る程、それが本題か」
「すいません。不躾なことだと思いますが、どうしても貴方の剣を受けたいんです。あの事件と関わりを持つ貴方と」
「……解った。そこまでの意思があるのなら相手になろう」
「ありがとうございます」
エクスの目的は恭也さんと立ち合うこと――――。
そして、それに応じる恭也さん。
エクスの瞳の中に宿るものを感じ取ったのかもしれない。
恭也さんは無闇やたらに戦うような人間ではない。
それはエクスも同じだろうと思う。
だが、エクスが恭也さんに挑むと言うのはなんとも形容し難い部分がある。
御神の剣士として立ち合いとするならば俺と立ち合った時点でそれは達成出来ている。
しかし、エクスが恭也さんにそれを申し込むと言うことは俺との立ち合いでは何かが足りなかったのだろう。
あの事件の当事者である恭也さんの剣を見たいのか――――。
それとも、エリスさんが見たと言う恭也さんの剣をこの手で見たいと思っているのか――――。
俺にもそこまでは解らない。
だが、恭也さんの剣に挑むと言うことはそう言った考えがあるのかもしれない。
エクスも多分、そんな感じで考えているんだろう、な。
「悠翔君とも立ち合ったのに恭也さんと立ち合うやなんて……大丈夫なん?」
「身体の方は大丈夫だ。悠翔の時に受けたダメージはシャマルさんに治して貰っているから」
「せやけど……相手は恭也さんなんやで? 今度は無事じゃすまんかもしれんし……」
「その時はその時だよ。僕もそのくらいの覚悟は出来てるさ」
「エクス……」
恭也さんとの立ち合いが決まったエクスのことをしきりに心配するはやて。
恭也さんならどのくらいかの手加減は出来るだろう。
だが……恭也さんも本気でくるのは間違いない。
だとすれば、初めから覚悟はしておかなければならないんじゃないかと思う。
エクスはそのことをよく理解している。
「それに、僕は騎士だから。相手が如何に強かろうとも退くような真似は許されない」
恭也さんに視線を向けながらエクスがはっきりと言い放つ。
騎士の信念か――――。
俺も御神の剣士としての信念を掲げているからエクスがどう言うつもりなのかは良く解る。
護る――――それが御神の剣士にある信念だ。
当然、俺も恭也さんも美由希さんも士郎さんも美沙斗さんも夏織さんも個人差はあるけれどそれぞれが信念を持っている。
エクスがどんな信念を持っているかまでは解らないが、強い信念を持っているのは解る。
「うん……解ったで。エクスがそこまで言うんやったら私もとめたりへせんよ。無事でいればそれで良いんやから」
「……すまない、はやて」
はやてに見送られてその場から離れていくエクス。
その姿に迷いと言うものは微塵にも感じられない。
既に覚悟も終わり、初めから機会があればこうするつもりだったのだろう。
それにエクスが退くような真似は許されないと言っていたが……そのとおりだ。
多分、俺もエクスと同じようなことを経験していたら同じようなことをしていただろう。
勿論、剣士に退く道理はないと言う理由で――――。
そう言った意味でも今回の恭也さんとエクスの立ち合いは見届けなければならない。
エクスの剣、見せて貰う――――。
エクスとの立ち合いに応じた恭也も準備を始める。
「恭也、話を受けちゃったけど……大丈夫? 彼も悠翔君と同じくらいみたいだけど」
「剣士や騎士と言うものにそう言ったものは関係ない。彼もそのつもりだろう」
八景を腰に廻しながら忍の問いかけに応じる恭也。
剣士にはそう言ったものは関係ない――――それは正しくそのとおりだった。
恭也自身も幼い頃より剣を取り、護るという信念のために剣を振るい続けてきた。
御神不破の剣士として士郎の後を継いだ今もそれは変わっていない。
恭也も少年騎士であるエクスの瞳の中に騎士の信念の光と言うものを感じた。
だからこそ今回の立ち合いに応じたのである。
「だったら、俺が彼のその意思を否定するわけにもいかない。剣士として彼に応じるまでだ」
「そう……恭也がそう言うんだったら私も止めないから」
「……すまないな」
恭也の言いたいことをなんとなく理解する忍。
一度、言いだしたことは決して曲げはしない恭也のことは良く解っている。
だから、自分が止めるわけにはいかない。
忍の出した結論はそうだった。
「……俺で良いのかは解らないが、あの事件に関わった者として彼と剣を合わせる――――俺に出来るのはそれだけだ」
「うん、解ってる。だから、恭也の思うとおりにやって。きっとあの子にも恭也の剣は伝わると思うから」
忍には彼が恭也に立ち合ってほしいと考えたのは昨年の事件に関わっているからだと言うのは解っている。
今の話は忍にしてみれば解らない部分も多い。
だが、エクスの瞳に宿る光は忍にもなんとなく理解出来た。
そして、その意思の強さも。
「……そうだな」
恭也にも忍の言葉の意味が良く解る。
彼がどうして自らに挑んできたか――――。
恐らく、自分の兄が討たれたと言う剣を直接受けてみたいのだろう。
そして、兄がどうして敗れたのか――――恭也達の振るった剣が正しいのか――――。
それを見たいと思っているのかもしれない。
忍もそれをなんとなく理解しているからこそ今の言葉を自分に伝えたのだ。
それが解っている以上、全力で応じるしか無い。
だったら、此方の取る行動は既に決まっている――――。
此方も御神の剣士として応じるまでだ――――。
From FIN 2009/2/28
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