「そうでしたか……。そう言うことでしたら納得しましょう。悠翔も不意討ちで動いたんだし、御相子ですしね」
「そう言って下さると助かります」
一応は夏織さんも納得はしたらしい。
だが、こう言ったことまで気付く夏織さんは凄いと思う。
俺は彼が此方側に近いと言うことしか解らなかった。
夏織さんは俺との戦闘を見て魔導師とは違うのに気付いたのだろう。
俺は間近で戦っていたのに気付く余裕が無かった。
相手を見極められなかったと言うのは俺の技量不足もあるのかもしれない。
「それで、今回のテストの結果は私も理解したけれど……悠翔はどうするつもりなの?」
「俺は……」
「確かに一臣のことがあるのは解るわ。それによって波紋を呼んでしまうのも」
「……解っています」
「私としてはあまり、関わらない方が良いと思うわ。もし、関わるのであれば……良く考えるべきね」
夏織さんの意見は確かに一理ある。
関わるとすれば俺の父、不破一臣との関係で複雑な立場に立たされる。
しかし、関わらないと言うにしても俺も魔法のことを知ってしまっている。
これは難しいところだと言えるだろう。
そう言った意味では良く考える必要があると思う。
今はまだ、急ぐ必要は無いとは思う。
だが、このまま答えを出さないと言うわけにもいかない――――。
さて、どうするべきか――――。
魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
「悠翔」
俺がどうするかを考えていると何時の間にか傍まで近づいてきたフェイトが俺の顔を覗き込んでいた。
「フェイト。俺はどうするべきなんだと思う?」
「悠翔は……悠翔が思うとおりにしたら良いと思う。でも……」
「でも?」
話を中途半端なところで区切るフェイト。
何か言いたいことがあるみたいだが、どうしたら良いのか考えているらしい。
少し、考え込むような様子の後、フェイトは口を開く。
「私としては悠翔に協力者なってほしいな。だって……悠翔はそのうちいなくなってしまうから」
俺を少しだけ見つめた後、寂しそうに俯くフェイト。
俺がいなくなる――――か。
確かにそれはフェイトの言うとおりだ。
俺が海鳴に来て数日が経過するけど、今の段階の予定ではGWが終わったら俺は海鳴を離れてしまう。
左腕の手術のことを踏まえればまだ、海鳴に滞在する期間は長引くとは思うが……。
それでも、何時かは海鳴から離れなくてはならないだろう。
俺はフェイトを護りたいと決めたのに。
漸く、ここで護りたい人を見つけたのに。
それでも、自分の立場を考えれば海鳴を離れなくてはいけない。
「フェイト、俺は……」
「ううん、気にしないで。これは……私の我が儘、だから」
フェイトは我が儘だと言っているが、そんなことは無い。
本当は俺だってフェイトから離れたく無い。
だけど、そうも言っていられない。
こればかりは俺一人ではどうすることも出来ないからだ。
俺自身、フェイトの傍にいたいと思う。
俺のことを見てくれた女の子、本性を見せても俺のことを信じてくれた女の子、フェイト=T=ハラオウン。
彼女を護る――――と言うのが俺の見つけた答えだ。
それを貫くには――――管理局に協力するか、海鳴に移るかと言った選択肢しかない。
だが、俺の答えは決まっているんだと思う。
フェイトと共に在るために俺がするべきことは――――。
「私としては悠翔に協力者なってほしいな。だって……悠翔はそのうちいなくなってしまうから」
どうして、私はこんなことを言ってしまったんだろう。
こんなことを言っても悠翔を困らせてしまうだけなのに。
「フェイト、俺は……」
やっぱり、悠翔もどう答えれば良いのか解らないみたいで。
きっと、悠翔を困らせてしまったんだと思う。
「ううん、気にしないで。これは……私の我が儘、だから」
うん、そう……これはあくまで私の我が儘。
でも、こんなことを言ったのは悠翔と一緒にいたいって思ったから。
私は悠翔と離れたくない。
今はまだ、私の傍にいるけれど、何時か悠翔はいなくなってしまう。
私のことを護りたい人って言ってくれたけど、私の傍にいてくれるのかは別問題で。
悠翔もそれが解っているから考え込んでいるんだと思う。
暫く、考え込むような仕草をしていた悠翔がゆっくりと口を開く。
「フェイトが言っていることは我が儘なんかじゃない」
「悠翔……?」
「俺だって、フェイトと離れたくはない。唯、事情が事情だから」
悠翔には深い事情があって。
それが解決しないと駄目みたいで。
でも、その事情は悠翔の父親である不破一臣さんにある。
それに……悠翔は一臣さんの後を継ぐ人……。
問題になっているのはそこにあるんだと思う。
「俺が管理局に深く関わるのはあの事件のことを知っている人にとっては認められないことだと思う」
「……うん」
「夏織さんもこのことを解っているから反対しているんだと思う。俺もそう言ったことにフェイト達を巻き込みたくない」
「悠翔……」
「そう言った事情があるからこそ俺は管理局に関わるわけにはいかないんだ。だけど……俺の意志はフェイト、君を護ることだ」
「え……?」
「だから、俺は条件付きで協力させて貰おうと思う。関わるわけにはいかないと言っても、ここまで関わったんだ。後には退けない」
「悠翔っ!」
私はあまりの嬉しさに悠翔に抱き付く。
悠翔が……悠翔が協力者になるって言ってくれた。
そのことがあまりにも嬉しくて。
私は悠翔が協力してくれることなんて無いって思っていたから。
まだ、不安はあるけれど、悠翔の出してくれた答えが本当に嬉しかった――――。
これで良い――――。
俺がフェイトに伝えた答えは多分、今の段階では一番、最良の返答だろうと思う。
管理局に深入りすれば、父さんとの事件の確執がある。
かと言って、ここまで関わっているのに退くわけにもいかないだろう。
抱き付いてきたフェイトの頭を優しく撫でながら考える。
とは言ってもあまり、この体勢は良くない気がする。
クロノさんは俺の方を殺すかのような目つきで睨んでいるし、リンディさんは微笑ましそうに様子を見ている。
しかし、ここで引き離してしまうとフェイトがしょぼんとしたような表情になってしまうだろう。
俺が悶々と考えているとフェイトが落ち着いたのか漸く、俺から離れる。
クロノさんとリンディさんが見ているのに気付いたのだろう。
恥ずかしそうに頬を紅く染めて俯く。
「じゃあ、悠翔君はそれで良いのね?」
「ええ、構いません。条件をのんで貰えればの話ですが」
「……聞きましょう」
「まずは、魔導師とは違うと言うことを前提で動かさせて貰えませんか? 極力、善処しますが殺傷前提だと言うことは承知して下さい」
「……その件は確かに悠翔君には譲れないものですね。承知しましょう」
「後、俺と関わったことで管理局を辞めたいと言いだした人が出ても引き留めないで下さい」
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味ですよ。……そう言った人間は覚悟が足りなかったと判断して貰えれば結構です」
「……解りました。それものみましょう。他にはありませんか?」
「……いえ、これ以上はありません。恐らく、此方の提示する最後の条件は管理局の法律的には認められないと思いますから」
「就業年齢の問題、ですか」
「……そう言うことです」
一通りの条件を提示して、俺は話を切り上げる。
他にも条件はあるだろうが、はっきりと言っておく必要があるのはこのくらいだろう。
質量兵器が禁止と言うのは気になるが、俺は質量兵器を扱うことは無いし、問題ないだろう。
流石にこの世界に関わることまでは俺から言うことは出来ないからな――――。
俺からは今回の話もここまでだ。
後は夏織さんの返答が問題だが、どうにかなるだろう――――。
本当は俺から言いたい言葉はまだ、あるのだが……それはきっと言わない方が良い。
恐らく、その言葉は大きな反発を招くだけだ―――――。
――――管理局の在り方は矛盾している。
From FIN 2009/2/13
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