「いや、そこまで聞ければ充分だ。君が魔導殺しの関係者だと解っただけでも良い」
「それで、俺をどうするつもりなんですか?」
「……どうこうすると言うつもりは無い。もう、この事件は終わったことだ」
「……そうですか」
「それに、管理局は過去の出自には拘らない。君が魔導殺しの息子だとしてもそれは変わらない。だが……」
「……立場の問題ですか」
「ああ、そうだ。悠翔の立場ははやてに似ていると言える。はやても闇の書事件に関わっていて、今はそれの主だからな」
 はやてもある意味では俺と同じような境遇だと言うクロノさん。
 だが、それだけでは無い。
 何か含むところがあるようだ。
「しかし、悠翔ははやてと大きく異なる部分がある。はやては闇の書の主と言う立場ではあるが、過去の主との関係性は全く無い」
「成る程、俺の場合ははやてとは逆だと言うことですか」
「そう言うことだ。はやての場合は怨むのは筋違いだと言えるが、悠翔の場合は怨まれて当然だ。理由は……言わなくても解っているだろう」
「……ええ、解っています。俺は魔導殺しの息子であり、後継者だと言うこと、だからですね」
 これで、答えは納得出来た。
 確かにフェイトやはやての話を聞いた限り、管理局と言う組織は過去の出自や立場にはあまりとらわれない。
 そう言った点では香港国際警防隊に良く似ている。
 だが、俺の場合は組織的には良いとしても事件の関係者にとっては忌むべき存在だと言うことになる。
 不破一臣が斬った人間の関係者は今も管理局に多く勤めていると考えられる。
 だとすれば、その息子である俺が管理局に関わってきたらどうなるのだろうか。
 恐らくは、歯止めが利かなるかもしれないな。
 俺に怨みをぶつけるという形で――――。























魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















「それで、悠翔。君はどうするつもりだ」
「どうするつもりと言うと?」
「管理局に関することだ。最早、悠翔は管理局とは無関係では無い。寧ろ、関わりとしては深いと言える」
「……そうですね」
 クロノさんからの話を聞き暫し、考え込む。
 俺は既に魔法の話を細かく聞いているし、今まで起きた事件のことも詳しく聞いている。
 それに、管理局の方まで出向いてのテスト。
 クロノさんの言うとおり、最早、無関係とは言えない。
「裏の事情を含めても悠翔の力は欲しい。管理局には君のような人間はいないからな。だが……」
「……魔導殺しですか」
「ああ、そうだ。悠翔が魔導殺しと関係が深いのが問題だ」
「その問題に関しては別に何も言いませんけど、俺としては自分の父親をそう呼ばれるのは不快なんですけど、ね」
「……すまない。悠翔の父親の名前は?」
「不破一臣です」
「では、訂正しよう。悠翔の場合は一臣氏との関係が深いのが一番の障害になってくる」
 やはり、管理局との関係については俺の父さんが一番の障害らしい。
 まぁ、流石に皆殺しにしていると言うステータスは余りにも印象が悪い。
 それに、父さんが行った行為は魔導師から見れば虐殺とも見えるだろう。
「一臣氏が何を考えてあのような行動をとったかは僕達の側では解らない。君は何か知っていないか?」
「父さんが、そのような行動をとったのは恐らく、其方の行動が激鱗に触れたからではないでしょうか」
「激鱗?」
「はい。俺の父さんは確かに人を殺したりするのは躊躇いがありません。ですが、無闇にその刃を向けることは決してしない人でした」
「……成る程」
「ですから、管理局の側に非があるのでは無いかと俺は思うわけです」
「……確かに一理ある。だが……何故、一臣氏はそうしたのだろうか」
「それは俺にも解りません。唯、言えることは管理局の側が父の激鱗に触れたと言うことしか」
「そうか……解った。このことに関しては此方からも確認しておく」
「……ありがとうございます」
 こうして、クロノさんとの話に一旦の区切りをつける。
 こうでもしないと恐らく、延々と意見の食い違いで終わってしまうだろう。
 とりあえず、父さんがどういったつもりで剣を振るったのかは伝えたつもりだ。
 後はクロノさんがどう動くかだろう――――な。
















 クロノさんとの問答を終え、少し考えてみる。
 魔導殺しと俺の関係が深いと言うこと。
 それはあの事件のことを聞いたことがある人間にとっては畏怖の対象だろう。
 しかも、俺は魔導殺しと呼ばれた父、不破一臣の小太刀と戦闘技術を継承している。
 俺は小太刀二刀御神不破流の継承者と言う立場だけではなく、魔導殺しの後継者と言う立場にもあたる。
 それが一番の問題であり、俺が管理局に関わるとややこしくなる要因なんだろう。
 管理局には御神の剣士のような戦い方をする人間は一人もいない。
 剣士と言うものがいない世界だからそれは当然なのだが。
 だからこそ、俺や恭也さんの遣っている御神流に目をつけているんだろう。
 しかし、魔導殺しと言う事件で殺された人間の関係者にとっては復讐の機会を与えてしまうようなものだともとれる。
 人間次第ではずっと、俺のことを探していたのもいるかもしれない。
 そう言った人間から見れば魔導殺し本人は死亡したが、それだけでは多分、収まらないだろう。
 そして、遂にこの場に魔導殺しの継承者が現れたとなると……復讐の機会が訪れたとも考えられる。
(やっかいな話だな――――)
 つくづく、そう思わざるを得ない。
 此方としては既に終わったことを蒸し返されても困るだけだ。
 それに、父さんのことを詫びるつもりは毛頭無い。
 父さんは自らの信念に従って剣を振るっただけだ。
 剣士の理屈は魔導師には解らないだろう。
 俺も解ってほしいとは思っていない。
 とりあえず、考えても仕方が無いので俺は一旦、考えていることを振り切る。
 今はこんな問答をしたいわけじゃない。
 俺が管理局にどう言った返答を返すかだ――――。
















「少し、良いかしら?」
「ええ、どうぞ」
 俺が考えている最中、夏織さんが動く。
「まず、今回のテストで府に落ちない点があるわ。何故、魔導師じゃない子を入れているんですか?」
「気付かれましたか」
 なんだって――――魔導師じゃない?
 夏織さんとリンディさんの会話に僅かな驚きを覚える。
「ええ、あの気配は間違いなく、私達と同質のものですからね」
「そこまで気付いているのであればお教えします。あの子は……クロノの嘗ての上官だった人の紹介で招きました」
「……成る程」
「その上官の方が其方と同じ世界と言うことで、悠翔君と同じような立場の知り合いを呼んで貰いました」
 成る程、俺と同じような立場の人間か……。
 確かに考えてみれば考えてみるほどエクスは俺と同じような気配がする。
 剣士としての気配かまでは解らないが、その空気の質は此方側と同じだ。
 しかも、俺達と同じ世界の人間か……だったら、あの戦闘スタイルも納得だ。
「そうでしたか……。そう言うことでしたら納得しましょう。悠翔も不意討ちで動いたんだし、御相子ですしね」
「そう言って下さると助かります」
 一応は夏織さんも納得はしたらしい。
 だが、こう言ったことまで気付く夏織さんは凄いと思う。
 俺は彼が此方側に近いと言うことしか解らなかった。
 夏織さんは俺との戦闘を見て魔導師とは違うのに気付いたのだろう。
 俺は間近で戦っていたのに気付く余裕が無かった。
 相手を見極められなかったと言うのは俺の技量不足もあるのかもしれない。
「それで、今回のテストの結果は私も理解したけれど……悠翔はどうするつもりなの?」
「俺は……」
「確かに一臣のことがあるのは解るわ。それによって波紋を呼んでしまうのも」
「……解っています」
「私としてはあまり、関わらない方が良いと思うわ。もし、関わるのであれば……良く考えるべきね」
 夏織さんの意見は確かに一理ある。
 関わるとすれば俺の父、不破一臣との関係で複雑な立場に立たされる。
 しかし、関わらないと言うにしても俺も魔法のことを知ってしまっている。
 これは難しいところだと言えるだろう。
 そう言った意味では良く考える必要があると思う。
 今はまだ、急ぐ必要は無いとは思う。
 だが、このまま答えを出さないと言うわけにもいかない――――。
 さて、どうするべきか――――。



































 From FIN  2009/2/11



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