神速から薙旋へ――――。
薙旋から射抜へ――――。
射抜から雷徹へ――――。
こう言ったことが出来るようになったのも恭也さんのお陰だ。
今までは、変則的な薙旋の遣い方なんて思いつかなかったからな。
この修行が無ければ、エクスに対してこの結果に持っていくことは敵わなかっただろう。
「だが、ああ言った相手と戦えて良かった。左腕はまた、壊してしまったけど……それでも良かったと思う」
「悠翔……」
左腕はこうなってしまったが、それ以上にエクスとの戦いは得るものが多かったと思う。
ああ言った戦い方をする人間はそうはいない。
それに、俺と年齢も変わらないのにあれだけの力量を持っていると言うのも。
左腕の代償はあったが、彼と戦えたので帳消しだ。
まぁ……問題があるとすれば一つだけくらいだろうか。
軽く溜息を付きながら俺は左腕を動かしてみる。
しかし、俺の左腕は――――思うように動かない。
なんと言うか力が入らない。
流石に無理をさせ過ぎたか――――?
魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
「悠翔、少し左腕を見せてくれないか」
少し休んで落ち着いたのかエクスが俺の方へと近づいてくる。
「あ、ああ」
動かない左腕をなんとかエクスの方にゆだねる。
エクスは左腕を手に取って確かめるように触っていく。
「……ふむ。神経を銃弾が掠めてるな。後は極度の反動が溜まっていると言った感じか」
「解るのか?」
「……一応はこう言ったことは解ってる」
「……そうか」
「でも、流石に放置しておくわけにもいかないな。君の左腕はあまり、動かせないだろ?」
「……ああ」
「だったら、早いうちに対処したほうが良いな。診て貰うのであれば早い方が良い」
「いや、確かにな。……俺もそう思う。済まないな、心配かけて」
「気にしないでくれ。もとはと言えば僕のせいだから。左腕が悪くなったりしたら僕が責任を取るしか無いだろ」
「……そうかもな」
エクスの返答に苦笑する俺。
元々から左腕の方は悪いから別にそんなことでも無いのだが。
まぁ、向こうがそう思ってるなら此方も頷いておく。
とりあえず、腕を心配してくれたことには素直に感謝する。
多少なりとも含むところはあるかもしれないが、それは些細なことだろう。
「とりあえず、あまり無理はしないでくれ。これ以上悪化させるわけにもいかない」
「……解った。そうさせて貰う」
とりあえず、エクスの言葉に頷き、俺は左腕を楽な状態にする。
念のため、弾が掠めた際に出来た傷を止血しておく。
あちらこちらに傷が出来ているからな――――。
それにフェイトが今の会話を横で心配そうに聞いている。
これ以上フェイトを心配させるわけにもいかないだろう。
なんか、フェイトには心配をかけてばかりだな――――。
悠翔と彼の会話を聞いてぞっとする。
悠翔の左腕の神経に殺傷前提で銃弾が掠めていたなんて。
悠翔の左腕は元々から悪かったけど、これでもっと悪化してしまったんじゃないじゃって思う。
なんてことも無いように彼と話している悠翔だけど、実際はどのくらいの痛みなのか想像もつかない。
「……フェイト」
「悠翔」
心配そうにしているのに気付いたのか彼との話を切り上げて悠翔が私の方を見る。
「俺は大丈夫だから、そんな顔をしないでくれ」
「悠翔……」
「別に我慢をしているとかじゃない。こう言った傷は戦闘をしたのなら出来ても可笑しくはない傷だから」
「でも……悠翔。また、左腕を……」
「ああ、そうだな。確かにまた左腕、だな。でも、これは俺が無理矢理遣ったからこうなったって言うのもある」
悠翔はこう言うけど……。
だからこそ、私から見れば尚更、心配で。
「まぁ、これは普段から経験しているから大丈夫だ。流石に今回は不味かったかもしれないが」
「不味かったじゃ無いと思う。早く診て貰わないと……」
「……解ってる。流石に今回は魔法がどうとか言ってはいられない。……診て貰うことにする」
悠翔も流石に今回ばかりは魔法がどうとかは言わない。
それに少しだけ安心する。
だけど、悠翔の場合は何度も左腕を痛めているみたいで。
魔法なら多分、治せるとは思うけど……悠翔はきっとそれを望まない。
もし、治して貰うにしても悠翔の場合は神経に掠めた分を治して貰うだけに止めるんじゃないかって思う。
悠翔は魔法で完治させるって言うことを望んではいないから。
だから、私もこれ以上は言わない。
本当は魔法で完治させてほしいと思うけど……それは悠翔が自分で決めることだし。
悠翔がそう決めたのなら私はそれを見守るだけ。
だって、悠翔が望んでいないのに私がどうこうするのは駄目だと思うから――――。
フェイトの言葉に従って俺はシャマルさんから左腕の治療をして貰っている。
シャマルさんはついでに左腕以外に受けた傷も治すと言っていたが、それは丁重に断った。
まぁ、結局は他の傷に関しては消毒をした後、当てものをしていると言った感じに、と言ったところで納得して貰った。
しかし、シャマルさんに治して貰うのは良いが、完全に治して貰うと言うのは流石に不味い。
確かに治して貰うのが最善なんだろうけど、此方にはそうもいかない事情があるわけで。
「悠翔君。左腕の神経に関しては治しておきましたけど……他はどうしますか?」
「いや、他はいらないです」
「だけど、私の見立てでも、悠翔君の腕はこのままじゃ……」
「……解っています。ですが、ここで完全に治してしまったら都合が悪いんです。俺にとっても貴方にとっても」
「どういうことですか?」
俺の返答に疑問を浮かべるシャマルさん。
俺にとってもシャマルさんにとっても都合が悪いと言うのに疑問を持ったんだろう。
「シャマルさんはフィリス先生に会ったことはありますか?」
「ええ、ありますけど……」
「俺の左腕はフィリス先生に診て貰っているんです。それに、手術の話も上がっています。その状態からいきなり腕が治ったなんて言ったら……」
「成る程、可笑しいと思われるわけですね?」
「……ええ、そうです。もし……治してしまった場合、フィリス先生には魔法のことを隠すことは出来ないです」
「え……?」
「フィリス先生はそう言ったことを見抜くことが出来るんです。多分、隠しても無意味だと思います」
「……成る程。私もフィリス先生には少しだけ会ったことがありますが……。考えてみれば、悠翔君の通りかもしれませんね」
なんとなく、俺の言いたいことを理解してくれたシャマルさん。
シャマルさんもフィリス先生のことには何か感じるものがあるらしい。
フィリス先生には魔法のことを話しているのかは解らない。
もしかしたら、恭也さんが話している可能性もあると思うが、無闇に言うわけにもいかないだろう。
それに、フィリス先生の場合は知っていたとしても黙認しているって言う可能性も考えられる。
とにかく、このままシャマルさんに治して貰うと言うわけにはいかない。
とりあえず、痛みと痺れを無くして貰うだけにした方が良い。
「と言うことですので、治療はここまででお願いします。シャマルさん、有り難うございました」
「いえ、気にしないで下さい。どうしても、治らなかったら私のところへ来て下さいね?」
「……解りました」
これで、シャマルさんからも通告を受けたも同然だ。
シャマルさんも医師であるため、その言葉を無下にすることは出来ない。
俺の左腕の心配をしてくれているからこそ言ってくれた言葉だからだ。
それに、シャマルさんの言うとおり左腕を治さないと言うわけにはいかない。
シャマルさんに頭を下げて、俺はフェイトの傍に戻っていく。
治療して貰った左腕からはもう、痛みは完全に無くなっていた――――。
From FIN 2009/2/6
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