(余程、慣れていると思えるな。一筋縄ではいかないか)
 俺の方も相手の動きを見極め、次の一手を組み立てていく。
 このまま、一刀のみで相手をしていても決着はつけられない。
 なら――――二刀目を遣うまでだ。
 二刀目の飛鳳を引き抜いた俺は相手に向かってギリギリの距離での突きを放つ。
 これなら、流石に対処は出来ないだろう、と俺もそう思っていた。
 だが――――相手のとった行動は俺の予想外のことだった。
 二刀目の飛鳳が金属音と共に受け止められる。
(まさか、この状態から――――)
 一瞬、何が起こったのか俺にも理解が出来なかった。
 相手がいったい、何をしたのかが。
 冷静になって視線を向けてみると二刀目の飛鳳の先には一つの西洋剣が。
 まさか、それで受け止めたのか。
 相手の対処に気付いてすぐさま、次の行動に移ろうとした俺だったが――――。
「遅い……!」
 エクス=マクガーレンの行動は俺の反応よりも先に動いていた。
 俺に向かって銃口が向けられている。
(しまった――――)
 俺がそう思う間もなく――――。






















 ――――この場に数発の銃声が響いた。























魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 放たれた銃弾が俺を掠めていく。
 右腕、左腕、右足、左足、頬――――。
 ギリギリのところで完全に命中することは避けたが、膝を付いてしまう。
 掠めた部分をそっと拭ってみると血が流れ始めていた。
 それでも、弾が完全に通り過ぎて行ったのは救いだと言えた。
 しかし、左腕に銃弾を受けたのは厳しかった。
 古傷の部分を掠めていたからだ。
(っ……!? 不味いかっ!?)
 流石に今の交錯での受け方が悪かった。
 掠めただけに止めたものの、左腕に受けた個所からは痺れが走る。
(いや、まだ動くか――――)
 だが、左腕はまだ動いてくれる。
 ならば、まだ二刀を扱うことが出来る。
 それであれば、此方にもまだ、勝機はある――――。
(だったら、此方も出し惜しみをするわけにはいかない――――)
 俺は飛鳳を納刀し、意識を集中する。





 ――――小太刀二刀御神流、奥義之歩法・神速





 自らの世界から光が失われていき、俺は神速の領域に入った。
 神速の領域の中を走り抜け、俺は相手の側面に回り込む。
 相手の動きが神速の領域の中では止まっているかのように見える。
 俺の動作に気付き、咄嗟に反応をしているらしいが……それも無意味なことだ。
 神速の領域の中では速さと言う概念は関係無い――――。
 俺はそのまま相手に向かって奥義を放つ。





 ――――小太刀二刀御神流、奥義之陸・薙旋





 抜刀からの高速の4連続の斬り。
 今の段階では最も見切られる可能性が低い奥義だ。





 ――――一刀目。





 神速の領域のまま、俺は抜刀からの斬撃を放つ。
 抜き放った飛鳳が相手の服を斬り裂く。
 咄嗟に身を捩ったか、入りが浅い。
 だが、俺はそれに構うことなく、二刀目に入る。





 ――――二刀目。





 二刀目の小太刀を抜き放ち、そのまま相手に斬撃を見舞う。
 今度は避ける間もなく飛鳳の刃が相手の肉を捉える。
「ぐっ――――」
 相手が短く呻き声を漏らす。
 しかし、まだ此方の行動は終わっていない――――。





 ――――三刀目。





 俺は神速の領域と薙旋を継続したまま、更に奥義の構えを取る。
 この状態からでも撃てる奥義の一つ――――。





 ――――小太刀二刀御神流、奥義之参・射抜





 超高速の突き技であり、突いた先からでも変化させることの出来る奥義。
 それが相手に向けられる。
 相手を吹き飛ばすかのような要領で飛鳳で相手の胴を突き抜く――――。
 流石に射抜を防ぐことは出来なかったらしく、相手から鮮血が舞う。
 だが、此方の手はまだ、もう一つ残っている――――。





 ――――四刀目。





 俺は神速の領域を継続したまま、最後の動きに入る。
 痛みの走る左腕を無理矢理動かすかのように俺は奥義を放つ。





 ――――小太刀二刀御神流、奥義之肆・雷徹





 俺が最も遣い込んでいる技にして、最大級の威力を御神流の奥義。
 それが相手にむけられる。
 雷徹の反動で左腕から痛みが走るが、構うことなく俺は雷徹を相手の身体に叩き込む。
 そして、雷徹を叩き込んだ直後、俺の世界に色が戻る――――。
















「ぐっ……」
 咳き込みながらもまだ動こうとする相手、エクス=マクガーレン。
 俺の方も既に左腕は動かない。
 無理矢理にでも雷徹を放ったと言うのが最大の要因だ。
 だが、此方もまだ動くことは出来る。
 まだ右腕が残っているし、神速もまだ遣うことが出来る。
 この状態であれば充分に戦えるが……これ以上続けるのは流石に厳しい。
 身体の方が悲鳴をあげてしまう。
 最早、戦闘にもならないだろう。
「……僕の負けだ」
 流石に薙旋と雷徹を一度に受けてまで立ってはいられなかったらしい。
 その場に崩れ落ちるように座り込んだ。
 なんとか、勝ちに持っていけたらしい。
 だが、総合的に見れば痛み分けだろう。
 寧ろ、受けた傷においては俺の方が多い。
「いや……痛み分け、と言ったところだろう。俺の方もこれ以上は続けられない」
「……そうか」
「だが、良い戦いだった。君のような人と戦えて良かった」
「……僕もだ」
 歩けない彼に対して、俺のほうからゆっくりと歩みより、手を差し出す。
 此方が何をしたいのかを理解した彼も手を差し出し、俺と握手を交わす。
「……不破悠翔」
「……なんだ? エクス=マクガーレン。何かあるのか?」
「いや、何かあるってわけでは無いが……態々、フルネームで呼ばなくても、エクスで良い。君はもう、僕の好敵手だ」
「だったら、俺の方も悠翔で構わない。君だけフルネームなのは不公平だろう?」
「そうだな。……解った、そうさせて貰う。悠翔」
 互いの呼び方を確認する俺とエクス。
 流石にフルネームで呼び合うのはなんと言うか面倒くさい。
 それに――――俺もエクスも互いのことを自分の好敵手だと認めた。
 そんな無粋な呼び方をする必要なんて無いだろう。
 エクスの方もそれを解っているらしく、俺の目を見て軽く頷いた。
 これで、今回の戦闘も決着、だな。
















「悠翔っ!」
 漸く、今回の戦闘が終わって一息ついたところでフェイトがパタパタと俺の所へ走ってくる。
「悠翔っ……大丈夫?」
「……なんとか、大丈夫。とは言ってもこっちはもう、動かせないが」
 心配するフェイトに痺れの走る左腕を見せる。
 銃弾を受けたのと、最後に雷徹を無理矢理遣ったのが決め手になってしまったらしい。
 また、左腕を壊してしまったようだ。
 流石に兆候が出ていたのに行使したと言うのは不味かった。
 折角、調子が良くなっていたのにこれでは逆戻りだ。
「悠翔……その傷は殺傷設定の」
「……ああ。今の戦闘中に受けた傷だ」
 今の戦闘は魔導師と戦っていると言うことではなく、拳銃を持った一流の戦士との戦いだった。
 エクスの方も気配を消す術、気配を読む術の両方を持っている。
 それに銃だけではなく、西洋剣も扱えるらしい。
 どちらがメインかまでは解らなかったが……かなりの力量の持ち主だと言うことが解る。
 唯、どこかで今の戦闘スタイルは見たことがあるような気がする。
 もしかしたら、気のせいかもしれないが。
「でも、悠翔にここまで傷を負わせるなんて。彼はそんなに強かったんだね?」
「そうだな。彼、エクス=マクガーレンは本当に強かった。正直、痛み分けに持っていけたのが信じられないくらいだ」
 本当に痛み分けに持っていけたのはギリギリだった。
 多分、恭也さんから薙旋の遣い方を教わっていなければ、俺の方が確実に負けていただろう。
 神速から薙旋へ――――。
 薙旋から射抜へ――――。
 射抜から雷徹へ――――。
 こう言ったことが出来るようになったのも恭也さんのお陰だ。
 今までは、変則的な薙旋の遣い方なんて思いつかなかったからな。
 この修行が無ければ、エクスに対してこの結果に持っていくことは敵わなかっただろう。
「だが、ああ言った相手と戦えて良かった。左腕はまた、壊してしまったけど……それでも良かったと思う」
「悠翔……」
 左腕はこうなってしまったが、それ以上にエクスとの戦いは得るものが多かったと思う。
 ああ言った戦い方をする人間はそうはいない。
 それに、俺と年齢も変わらないのにあれだけの力量を持っていると言うのも。
 左腕の代償はあったが、彼と戦えたので帳消しだ。
 まぁ……問題があるとすれば一つだけくらいだろうか。
 軽く溜息を付きながら俺は左腕を動かしてみる。
 しかし、俺の左腕は――――思うように動かない。
 なんと言うか力が入らない。

 流石に無理をさせ過ぎたか――――?



































 From FIN  2009/2/4



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