「フィリス先生はそう言ったことを見抜くことが出来るんです。多分、隠しても無意味だと思います」
「……成る程。私もフィリス先生には少しだけ会ったことがありますが……。考えてみれば、悠翔君の通りかもしれませんね」
なんとなく、俺の言いたいことを理解してくれたシャマルさん。
シャマルさんもフィリス先生のことには何か感じるものがあるらしい。
フィリス先生には魔法のことを話しているのかは解らない。
もしかしたら、恭也さんが話している可能性もあると思うが、無闇に言うわけにもいかないだろう。
それに、フィリス先生の場合は知っていたとしても黙認しているって言う可能性も考えられる。
とにかく、このままシャマルさんに治して貰うと言うわけにはいかない。
とりあえず、痛みと痺れを無くして貰うだけにした方が良い。
「と言うことですので、治療はここまででお願いします。シャマルさん、有り難うございました」
「いえ、気にしないで下さい。どうしても、治らなかったら私のところへ来て下さいね?」
「……解りました」
これで、シャマルさんからも通告を受けたも同然だ。
シャマルさんも医師であるため、その言葉を無下にすることは出来ない。
俺の左腕の心配をしてくれているからこそ言ってくれた言葉だからだ。
それに、シャマルさんの言うとおり左腕を治さないと言うわけにはいかない。
シャマルさんに頭を下げて、俺はフェイトの傍に戻っていく。
治療して貰った左腕からはもう、痛みは完全に無くなっていた――――。
魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
「悠翔、左腕はもう良いの?」
フェイトが俺の左腕の様子を見ながら尋ねてくる。
「ああ、大丈夫だ。完全に治して貰ったわけじゃないけど、ここに来る前よりも腕の調子は良い」
「そう、良かった……」
俺の左腕の状態を聞いて安堵の溜息をもらすフェイト。
シャマルさんの魔法で治して貰った影響か、左腕の調子は何時もよりもずっと良い。
寧ろ、ベストの状態だとはっきり言えるほどだ。
魔法でどのくらいまで治せるかと言うのは気になっていたが……軽く治して貰っただけでここまでとは吃驚する。
多分、あれだけで治せるのはシャマルさんの腕が良いからだと思う。
もう一度、フェイトの前で軽く左腕を動かしてみる。
やはり、何時もより調子は良い。
ここまで調子が良いのは何時ぶりくらいだろうか。
「でも、無理はしないでね? また、酷くなったら心配だから」
フェイトが心配そうに上目遣いで俺の顔を覗き込む。
それも、鼻先が触れ合いそうなくらいの距離で。
「……解ってる」
頬が熱くなるのを感じながらも俺はなんとかフェイトに返答する。
なんとなくだが、フェイトはどんどん積極的になってきているような気がする。
意識してやっているのか、無意識でやっているのかは解らないが……。
流石に何度もこうやっていると此方の意識も不味い。
いや、此方も割とやってるから御相子ではあるのだけど。
少しだけフェイトと見つめあって目線を元に戻す。
まだ、頬が熱い気がする。
フェイトのような女の子にあんな距離で見つめられたらやっぱりこうなってしまうと思う。
なのはさんもはやてもアリサもすずかも可愛いとは思うが、こんな風に思うのはフェイトだけだと思う。
多分、フェイトの方は無自覚に近い感じなんだろうな――――。
そう思ってフェイトの方を見つめてみる。
俺の視線に気づいたフェイトがきょとんとした表情で首を傾げる。
……うん、やっぱり解って無い気がする。
悠翔の左腕が無事に治せて貰えてちょっとだけ安心する。
また、左腕を怪我したって聞いた時は心配だったけど……。
本当に大丈夫で良かった――――。
私が安心して一息ついていると――――。
「ったく、またアンタはそんなことをして」
「アリサ!?」
アリサが起こった様子で悠翔のところまで歩いてくる。
「まぁまぁ、アリサちゃん、落ち着いて」
「フェイトとすずかは黙ってなさい。私は悠翔に話してるんだから」
すずかがアリサをなんとかなだめようとするけど、アリサは聞く耳を持ってくれない。
こう言ったやり取りは多いけど……今回はどうなんだろう?
「悠翔! アンタ、また無茶したわね!」
「い、いや……無茶ってほどじゃ……」
「それのどこが無茶じゃないって言うのよ! 銃弾受けて、怪我をして、それに……アンタが銃弾を受けた箇所は古傷じゃない!」
「……っ!?」
アリサの言葉に愕然とする私。
悠翔が銃弾を左腕に銃弾を受けた箇所が古傷のある箇所だなんて。
だったら、悠翔は……また、傷口が開いたままって言う状態で戦ってたってこと――――?
「アンタはそうやって無茶ばかりして……誰も心配しないと思ってるの? アンタの左腕……もう、これ以上壊したら――――」
「……すまない」
「謝るくらいだったら、アンタはもっと自覚するべきよ。私でもこうだったんだから……フェイトがどれだけ心配したと思ってるの!」
悠翔の胸倉を攫むような勢いで詰め寄るアリサ。
確かにアリサが言うことは本当かもしれない。
私は悠翔が無事だったからそこで良かったと思ったけど……。
本当は凄く見ていて怖くて。
互いに殺傷前提で戦っていて、傷ついて。
悠翔のことは信じてる。
だけど……もし、無事じゃ無かったらどうしようって思って……。
「アンタの場合は死んでも治らないだろうからこれ以上は何も言わないけど、傍で見ている人がどれだけ心配してるかだけは自覚しなさい。もう、アンタは前とは違うんだから」
「……ああ、そうだな。アリサの言うとおりだ」
真剣な表情でアリサの言葉に頷く悠翔。
アリサの忠告を悠翔は受け止めているんだと思う。
でも、これは私も悪いんだと思う……。
私が悠翔がこうなるって言う覚悟をしていなかったから。
それが表に出てしまったのも理由だと思う。
確かに怖かったけど……悠翔を信じること。
それが、私に出来ることだから。
アリサの言葉は嬉しかったけど……私もこれで考えが決まった。
悠翔のことを信じる――――それが、私に出来ることだから。
アリサの言った言葉は尤もだ。
以前の俺とは状況が違う。
今まではこうやって心配してくれるような人は傍にはいなかった。
夏織さんも美沙斗さんもそう言った意味では違うのだから。
だが、今はそう言った人達が傍にいる。
アリサもすずかも以前から俺のことを気にかけてくれていた。
それに今となってはなのはさんもはやても……それにフェイトも気にかけてくれている。
自分が大事だと思う人達にそんな顔をさせるのはいけないことだ。
そもそも、護るための剣はそう言った顔をさせるためのものなんかじゃない。
その人がその人でいられるように剣を振るっているのだから。
だから、俺は今までのようにやってフェイトを悲しませるわけにはいかない。
それはアリサの言うとおりだった。
「アンタのやり方が間違っているとは言わないけど、私の言いたいことはそれだけよ。悠翔もよく考えることね」
「……解った。ありがとう」
アリサの忠告に感謝をする。
アリサがそうだったのなら他の皆もそうだったのだろう。
古傷が開いたのに無理矢理にでも動かして戦った――――。
それが、フェイトにそんな顔をさせてしまったのだと思う。
「すまない、フェイト。君にそんな顔をさせてしまって」
「……ううん、これは……きっと私が悪いの。悠翔のことは信じてるけど……。私がああ言ったことの覚悟が足りてなかったから」
「フェイト……?」
「心配したのは本当だけど……私は悠翔が無事でいてくれるって信じてるから。だから、大丈夫」
アリサの話を聞いて何か思うところがあったのかはっきりと自分の考えを伝えるフェイト。
「それに……私、悠翔のこと何があっても信じるって――――決めてるから」
「フェイト!?」
「だから、悠翔は迷わないで。アリサの言ってくれた言葉も本当だけど……それ以上に私は悠翔のことを信じてる」
参った――――フェイトがそこまで思ってくれているとは――――。
フェイトの目を見つめると、はっきりとした意志の光が見える。
……本当に本気らしい。
アリサの言うことも本当に大事にしないといけない。
だが、フェイトが信じているというのも大事なことだと思う。
無理をするのが良いんじゃない。
信じてくれる人を護りとおすのが大切なのだから。
フェイトとアリサの言葉――――意見は違うけど、どちらも大切だ。
唯、無理をして護るんじゃない――――護り抜くんだ
フェイトとアリサの言葉を聞いてそう思う。
全く、2人には敵わないな――――。
From FIN 2009/2/7
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