魔導師側がどう動くかは解らないが――――。





 ――――全員、斬って、捨てる。





 これが、俺の今回の行動方針だ。
 悪いが、そのくらいの気持ちでいかせて貰う。
 流石に命を取るまではしないつもりだが、腕の一本や二本は貰っていく――――。
 例え、覚悟が出来ていないとしても、それだけの覚悟はして貰う――――。
 俺が取った行動が理解出来ないのであれば、相手には覚悟が足りないと言うことだ。
 此方の考えているのを余所に魔導師達は未だに構えを取っていない。
 その様子を認めた俺は、相手の魔導師が構えを取る前に飛鳳の裡口を切る――――。
 そして、そのまま距離を零にし――――相手の背後に回り込む。
 悪いが容赦をする気は全く無い――――。
 恨むのならそう言った覚悟をしていない自分自身を恨むことだ――――。
 如いて言えば、俺に言えることは唯、一つ――――。
 そんな覚悟でいるのならば――――。
















 その心を――――折って、砕く。























魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















(遅い……!)
 1人目の魔導師の背後に回った悠翔が飛鳳を一閃させる。
 その瞬間、魔導師から鮮血が飛び散る。
 斬られた魔導師は何がおこったのか解らない。
 開始の合図も何もないのに、いきなり背中から斬られたのだ。
 しかも、今まではこのようなことをされたことはない。
 殺傷を前提とした攻撃なんて殆ど受けたことが無かったからだ。
 悠翔は魔導師の様子に構うことなく、飛鳳を太腿の辺りに突き立てた。
 そして、そのまま飛鳳で相手の太腿の部分の筋を捻り斬るようにしながら飛鳳を引き抜いた。
 魔導師が悲鳴を上げながら崩れ落ちる。
 悠翔はその姿を認めた後、すぐに次の行動に移る。
 狙いは2人目の魔導師。
 今度は接近戦を前提とした騎士と言ったところだ。
 相手が驚きながらもデバイスを構える。
 しかし、その行動は既に遅過ぎた。
 悠翔は袖口から飛針を取り出し、相手の手元に向かって投げつける。
「ぐわっ……!?」
 手元に飛針が刺さり、怯んだ僅かな隙を見逃さず、悠翔は間合いを零にする。





 ――――小太刀二刀御神流、基礎乃参法・徹





 騎士の身体に衝撃を直接叩き込む。
 相手の骨が折れるような音が聞こえたが、そんなことには構わず、悠翔は相手の腕を狙って飛鳳を一閃させる。
 飛鳳が一筋の閃きを描いた瞬間、騎士からは斬られた腕と鮮血が舞った。
「あ……あ……?」
 斬られた騎士が声にもならない呻き声を出す。
 悠翔はその様子の騎士を後目に次の行動へと移っていく。
 3人目の魔導師――――。
 今度は遠距離戦を前提とした砲撃魔導師。
 相性としては、距離さえ詰めてしまえば全く問題の無い相手。
 悠翔は距離を詰めながら鋼糸の3番を投げつけ魔導師を絡めとる。
 鋼糸に絡めとられた魔導師は何がおきているのか理解していない。
 悠翔はそのまま、鋼糸を引っ張り抜く。
 鋼糸が相手の食い込みながら皮膚を斬り裂いていく。
 悠翔の選んだ鋼糸は3番の物――――。
 ある程度の物は斬ることが出来る、3番の鋼糸。
 その斬ることの対象には人間も含まれている――――。
 鋼糸に斬り裂かれた魔導師が小さく悲鳴を上げる。
 悠翔はその姿に構うことなく、飛鳳で魔導師を斬り捨てた。
 今の一連の動きで斬り捨てた魔導師は3人――――。
 この出来事は全て、開始の合図の前の一瞬の出来事――――。
 しかし、今の俺がこの行動を取った理由は人を斬るだけにあらず――――。
 その覚悟のほどを見るためだった――――。
















「え……?」
 私は今の光景を見て唖然とするしかなかった。
 まだ、開始の合図も何もないのに、悠翔が動きだして……僅かな間に3人を一気に斬り捨てた。
 魔導師を僅かな間に3人も斬り捨てるなんて――――。
『悠翔君!? いったい、どう言うつもり? まだ、開始もしていないのに、殺傷前提で戦い始めるなんて』
 悠翔の行動に義母さんが講義をする。
 私は悠翔の言葉を聞いていたからまだ、違和感が無かったけど……。
 それでも、今のはぞくっとするものがある。
 私のところじゃよくは見えないけど……斬られた魔導師の中には腕を斬り落とされた人までいるみたいで。
 でも、悠翔の小太刀じゃあんなに簡単に斬り捨てるなんてことは出来なかったような気がする。
 シグナムの時でさえ、奥義を遣って漸く、甲冑を斬ることが出来たくらいだし……。
 今の悠翔は簡単に魔導師を斬り捨てると言う真似が出来ていた。
 これもやっぱり、飛鳳とか言う小太刀のせい?
「戦闘に開始の合図なんてものはありませんよ。一々、待っていてはいられません。それに……戦闘で非殺傷というものは存在しない」
『っ……!?』
「だから、俺は今のような行動を取らせて貰った。魔導師の流儀では非殺傷でしょうが、此方は剣士です。その流儀に従ったまで」
『くっ……だからと言って、このような行動が認められると思っているのですか!』
「――――認められるとは思っていません。ですが、これが覚悟の違いです。俺は斬ることも斬られることも既に覚悟している」
 講義を続ける義母さんを畳みかけるように自分の覚悟を伝える悠翔。
「それは、魔導師にも必要なことです。護ると言うことはそう言った覚悟もしなくてはならない――――。違いますか?」
『……違いません』
「だから、俺はこう言った真似をさせて貰いました。戦闘では何が起きるか解らないから」
 悠翔はやっぱり考えて行動を取っていたみたいで。
 覚悟のほどを試していたと言うのがやっぱり本音で。
 かなり、無茶をしたような感じらしいけど悠翔らしいと思う。
「唯、覚悟が出来ないと言うなら、この場にいる魔導師全員を折って、砕く。俺はそのつもりです」
『……解りました』
 悠翔の言葉を聞いた義母さんが一旦、中止の命令を出し、すぐさま回復魔法を遣える人に手当てをさせる。
 だけど、悠翔の言葉……覚悟が出来ないと言うなら、折って、砕く――――。
 これは私達にも向けられた言葉でもあるのかもしれない。
 私達は悠翔とは違った形で覚悟はしていると思う。
 だけど、私達には悠翔のような覚悟は出来ない。
 でも、それは剣士としての覚悟であり、魔導師としての覚悟じゃ無い。
 私達は魔導師としての覚悟が出来ている。
 それに、悠翔の話を聞いて、そう言った覚悟があることを知った。
 悠翔は魔導師の常識だけでは駄目だと言うことを言っている。
 悠翔の意見が絶対だとは思わないけど――――少なくとも私は悠翔の意見は正しいと、そう思う。
















 リンディさんの命令で慌ただしく周囲が動いて行く。
 流石に賢明な判断だと思う。
 俺が斬り捨てた3人はすぐに手当てを施さなければ手遅れになっていただろう。
 特に腕を斬り落とされた魔導師は重症だと言える。
 しかし、俺もここまであっさりと腕を斬り落とすことが出来るとは思わなかった。
 俺がシグナムを斬り捨てた時はこうも簡単にはいかなかったはずだが?
 相手の魔導師の耐久力が劣っていたのか、それとも飛鳳を遣っていたから故の結果なのか。
 答えは多分、後者だろう。
 飛鳳であればこのくらいの芸当をやったとしても別に非常識ではない。
 寧ろ、技量がある程度あれば出来ても可笑しくはない。
 俺が考えているのを余所にシャマルさんが魔導師達の手当てをしている。
 流石に手当てを受けている人間を斬るほど俺も落ちぶれてはいない。
 俺の方も一旦、刃を納めることにする。
 残りの魔導師達は俺の方をおびえた様子で見つめている。
 流石に一瞬であそこまでされたらそうなるか。
 しかし、中途半端な覚悟で来られても無闇に命を落とすだけだ――――。
 俺は剣を納め、魔導師達に対して再度、剣気をぶつける。
 剣気に当てられた魔導師達がびくっとなり、やがてガタガタと震えはじめた。
 今のは殺気を込めた剣気にしておいたが……やはり、この世界の人間には辛いものがあるか。
 剣気は魔力とは全く違うものだから、得体のしれない力として感じられたんだろう。
 殺気だけであればまだ、普通に感じることはあるだろうから気にはしないだろうが、剣気は別物だ。
 今の魔導師の反応はそう言った事情からだろう。
(まぁ、仕方が無いことか――――)
 俺は軽く溜息をつく。
 仕方が無いと解っているとは言え、残念だと思う気持ちもあるからだ。
 しかし、俺が殺気をぶつけた人間の中に唯、一人だけ俺を睨みつけているのがいる。
 そして、その魔導師は良く見ると何かを構えている様子だ。
(まさか――――)
 俺が一つの可能性を考慮すると案の定、そうらしい。
 此方を見つめていた人間の取った行動は――――。
















 攻撃を放つことだった――――。



































 From FIN  2009/1/31



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