(そうか、飛鳳もそう感じてるのか)
 久しぶりに握る愛刀は遣われることを待ち望んでいたらしい。
 だったら、持ち主である俺もそれに応えていくだけだ。
「悠翔、じゃあ……私も離れて見させて貰うね?」
「解った。危ないかもしれないから、それだけは気を付けてくれ」
「うんっ」
 フェイトが一言、俺に声をかけてその場を離れていく。
 フェイト達はフィールドから少し離れた場所で見学するらしい。
 なのはさんやはやてもそこにいる。
 その様子を確かめた俺は夏織さんと一瞬だけ目を合わせる。
 夏織さんも存分にやれと言っているようだ。
 俺も今回は存分に立ち回ろうと思う。
 構えは何時でも抜刀出来る形で、俺は飛鳳を鞘に仕舞っている状態のままで精神を統一する。
 集中力を高め、この場の空気を感じ取る。
 相手側の魔導師は俺が魔力を持っていないと言うことに油断をしているらしい。
 雰囲気にいま一つ覇気が感じられない。
 流石に魔力で読み取っているだけあって俺の実力に関しては低く見ているらしい。
(それでも、相手の力量を理解しているつもりか)
 少しだけそんなことを感じながらも俺は意識を切り替えて再度、集中力を高める。
 そのまま、ギリギリまで自らの意識を集中し――――。
 俺は今まで解放していなかった剣気を解き放った――――。























魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















「きゃっ……!?」
 悠翔から感じた空気に小さく私は悲鳴をあげる。
 なんて言ったら良いんだろう。
 空気が底冷えするような――――。
 空気が震えるような――――。
 そんな感覚を感じる。
 悠翔に魔力なんてものは無いけど、確かにそう感じた。
「ふむ……」
「ほう……」
「へぇ……」
 悠翔の様子を見ていた恭也さん、士郎さん、夏織さんが感心したような反応をする。
「えっと、悠翔が何をしたか解るんですか?」
「ええ、解るわよ? う〜ん……なんて言ったら良いかしらね。フェイトちゃんは剣気って解るかしら?」
「剣気、ですか?」
 剣気……私にはあまり聞き覚えのない言葉。
 言葉から察すると気配とかそれに関係しているみたいだけど……。
「剣気は……そうね、剣士が持っているものとでも言ったら良いかしら? 解り易く考えるなら魔力に置き換えて考えてみると解るかもね」
「えっと……」
 夏織さんの説明に少しだけ考え込んでみる。
 魔力に置き換えてみる……?
 確かに魔力が大きいとその相手からプレッシャーみたいなものは感じたりするけど……?
 あ、もしかしてそう言う意味なのかな?
 多少は違うとは思うけど、魔力に置き換えて考えてみるとそんな感じだと思う。
「まぁ、悠翔は意図的に抑えていた剣気を意図的に開放した、とそんな感じかしら」
「そうですか……」
 夏織さんの解説になんとなく納得する私。
 悠翔から感じた空気が底冷えするような感覚は剣気によるもの。
 一瞬だけ空気が震えたような感じがしたのはその影響なんだと思う。
 それにしても……今の悠翔は何処かが違う気がする。
 シグナムと戦った時も凄いな、と思っていたけどそれとは全く違う。
 いったい、どうしてそう感じるのかな?
















「これは、凄いな。感じる威圧感と言うものが私と戦った時とは段違いだ」
「解るんですか、シグナム?」
 悠翔の様子を見ながら感心したようにシグナムが呟く。
「ああ。私と戦った時も殺すつもりでかかってきただけあって、威圧感は強かったが……今の悠翔は私の時よりもそれが強い」
「あ、確かにそうかも……」
 シグナムの言うとおりかもしれない。
 今の悠翔はシグナムと戦っていた時よりも強い威圧感みたいなものを感じる。
 でも、シグナムと戦ってからまだ、数日しか経っていないからそんなに変わるはずは無いと思うんだけど……。
「何故、ここまで変わったのかが気になる。私の時も悠翔は手を抜いていなかったはずだからな」
「それは確かに……。悠翔は手を抜いたとは一言も言ってなかった。寧ろ、本気で相手をしたからああ言う結果になったって」
「だが、今の悠翔はあの時以上だ。いったい、何があったのか……」
 悠翔の様子を見ながら考え込むシグナム。
 私も考えてみるけどいま一つピンと来ない。
「悠翔がああなったのは飛鳳のせいだろう」
 考え込んでいる私達に黙って様子を見ていた恭也さんが口を開く。
「一度、説明したと思うが、前回の悠翔は自分の得物を遣っていない。だが、今回は本来の得物を遣っている」
「それが、原因だって言うんですか?」
「……ああ。それが原因なのは間違いないだろう。悠翔の持っている小太刀はそれだけ意識を変えるのには充分なものだ」
 恭也さんが私達に説明をしていく。
 でも、小太刀が変わるだけでそこまで変わるとは思わなかった。
「飛鳳を持った悠翔は御神不破の剣士だからな。今回は初めからそのつもりでいくんだろう」
「御神……?」
 そう言えば、シグナムと戦った時も悠翔が「御神の剣士として相手になる」と言った瞬間から雰囲気が変わっていたような気がする。
 悠翔もそう言った瞬間から動きが変わった感じだったし。
「だが……今の悠翔の前に立ったのを後悔させられるかもしれない、な」
「恭也さん?」
 恭也さんがぽつりと意味深な言葉を呟く。
 今の悠翔の前に立ったのを後悔させられる……どう言う意味なんだろう?
「いや、此方の話だ。とにかく、飛鳳を持ったと言うことは悠翔は今までとは違う。それだけは覚えておいてくれ」
「あ、はい」
 私の疑問には答えることなく、恭也さんは再び悠翔の様子を見始める。
 小太刀が変わっただけなのにそこまで変わるものなんて……本当に解らないことばかり。
 でも、よくよく考えてみれば私が普通のインテリジェントデバイスを遣うのとバルディッシュを遣うのと同じような理由な気がする。
 だとしたら……恭也さんが言っている意味も解るような気がする。
 そう言った意味では悠翔が今まで違うと言うのも納得出来る
 だから、”今の”悠翔が本来の姿なんだ……。
















 一気に開放した俺の剣気にあてられて怯んだ様子の魔導師達。
 先程までの馬鹿にした様子から一気に威圧感を感じた時の様子になっている。
 流石に剣気と言うものを感じたことは無いらしい。
 幾ら、魔力を感じられるとしても剣気は全くの別物だ。
 感じられない感覚に、底知れない威圧感みたいなものとして刻み込まれたんだろう。
 そう考えるのは無理も無いだろう。
 俺も魔力に関しては違和感としてしか感じられないから御相子だろう。
 しかし、相手の魔導師達がどう感じたとしても俺には関係ない。
 飛鳳を持った以上、俺は御神不破の剣士として相手になるだけだ。
 魔導師の道理に付き合うつもりはない。
 相手が非殺傷設定でこようが、俺は殺傷前提でいく。
 相手が開始の合図を待っているのであれば、俺はそれを無視する。
 戦闘に合図があるということは在り得ない。
 魔法を詠唱中だとしても関係ない。
 此方のとる手段は唯、斬り捨てるのみだ。
 魔導師側がどう動くかは解らないが――――。





 ――――全員、斬って、捨てる。





 これが、俺の今回の行動方針だ。
 悪いが、そのくらいの気持ちでいかせて貰う。
 流石に命を取るまではしないつもりだが、腕の一本や二本は貰っていく――――。
 例え、覚悟が出来ていないとしても、それだけの覚悟はして貰う――――。
 俺が取った行動が理解出来ないのであれば、相手には覚悟が足りないと言うことだ。
 此方の考えているのを余所に魔導師達は未だに構えを取っていない。
 その様子を認めた俺は、相手の魔導師が構えを取る前に飛鳳の裡口を切る――――。
 そして、そのまま距離を零にし――――相手の背後に回り込む。
 悪いが容赦をする気は全く無い――――。
 恨むのならそう言った覚悟をしていない自分自身を恨むことだ――――。
 如いて言えば、俺に言えることは唯、一つ――――。
 そんな覚悟でいるのならば――――。
















 その心を――――折って、砕く。



































 From FIN  2009/1/29



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