「まぁ……悠翔も良くやったわね。自分の小太刀じゃなくてもここまで遣れたのだから」
「言い過ぎですよ、夏織さん。折角、小太刀を借りたのにここまで痛めてしまったのですから」
「それでもよ。基礎乃参法を遣っても、奥義を遣ってもこうなったんだから。普通なら折れているわよ?」
「……そうかもしれないですね」
「ま、過ぎたことだからとやかくは言わないけどね」
 俺の返事に苦笑する夏織さん。
 夏織さんから見ても、こうなっては仕方が無いと言った感じらしい。
「さて……と長話もこのくらいにして、そろそろ本題に入りましょうか」
「本題、ですか?」 
「ええ、悠翔にこれを渡そうと思ってね」
 そう言って自分の荷物から二振りの小太刀を取り出す。
 それは俺が最も親しみ、愛用している紅と黒の意匠をした、二刀小太刀――――。
 その名は――――。






















 ――――飛鳳。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 久し振りに受け取った愛刀の重み……。
 今までの小太刀とは違った重みを感じる。
 この小太刀は俺が父である不破一臣から受け継いだ物。
 不破家の後継者が代々遣ってきた小太刀――――それが飛鳳だ。
 現在、高町美由希さんが遣っている御神家の後継者が遣ってきた小太刀である龍鱗とは対を成す物だ。
  「どうかしら? 久し振りに受け取った飛鳳の感触は」
「……ええ。良い感じです」
 飛鳳の感触はやっぱり俺の手に馴染む。
 まだ、遣い始めて数年しか経っていないが、何故か飛鳳は俺の手に良く馴染んでくれている。
 飛鳳を握ったのは結構、久し振りだがやっぱりこれが自分の愛刀だと実感出来る。
 ゆっくりと飛鳳を引き抜き、軽く振るってみる。
 やはり、借りていた小太刀とは全く違う感触だ。
 刀は持ち主を選ぶと言うが――――飛鳳は俺を選んでくれているのだろうか。
 俺は父さんには全く及ばないし、飛鳳との付き合いもまだまだ、数年程度だ。
 少しずつ前進しているとは思っているが……それでも飛鳳の持ち主としてはまだ、認められているわけではないと思う。
「今回はかなり、念入りに撃ち直して貰ったのよ?」
「ええ、解ります、今までとはなんとなくですが、感覚が違う。なんと言うか……良い感じです」
「ふふっ、そうでしょう?」
 俺の返事に満足そうな夏織さん。
 今回の手入れはかなり自身があったらしい。
 もしかしたら、今回はいつも見て貰う所とは違う所だったのかもしれない。
「だって、久し振りに刀匠に直々に手入れして貰っているからね」
 それは流石に凄いと思う。
 刀にはそれを打った刀匠がいるものだが……。
 今回は直々に打って貰ったと言うのが凄い。
 でも、飛鳳を打った刀匠は古い時代の人間だから本人ってわけじゃない。
 と言うことはその一派に打って貰ったてことか。
 じゃあ……夏織さんはもしかして?
「ええ、そうよ。実は悠翔と殆ど同じタイミングで来てたのよ? まぁ、飛鳳はもっと前に預けていたんだけど」
「ああ、成る程。どうりで俺が海鳴に行く時に夏織さんと会わなかったわけですね」
「ま、そうなるかしらね」
 なんてこともないように言う夏織さんだが……その行動力は流石だと思う。
 だが――――ちょっとやり過ぎか?
















 悠翔と夏織さんの様子をぼんやりと見つめる。
 夏織さんから悠翔が受け取った小太刀――――。
 いったい、なんだろう――――。
 色合いのイメージからしてなんとなく、ぞっとする気がする。
 紅と黒のイメージをした小太刀。
 悠翔の小太刀がこんな物だなんて思わなかった。
 なんと言うか……血の紅に近いような気がする。
 だから、悠翔の小太刀がぞっとするような感じがするのかもしれない。
 悠翔が小太刀を振るたびに一瞬だけ紅い閃光が見える気がする。
 その紅い閃光は私には怖いものに見えて――――。
 私がそう思って辺りを見回すと、義母さん達の表情が凍りついていた。
(義母さん!?)
 咄嗟に義母さんに念話を飛ばす。
(え、ああ……。ごめんなさい、フェイト)
(どうしたの、義母さん?)
(……ちょっとね。悠翔君の持っている物が私の記憶している物に似ていた気がして)
(え? それっていったい……)
 義母さんの辛辣な表情を見て、更に疑問の湧く私。
 悠翔の小太刀を義母さんが記憶してる?
 いったい、どう言う意味なんだろう。
(……魔導殺し)
(え!?)
(悠翔君が受け取った小太刀は――――魔導殺しが持っていた物と全く同じなの)
(そんなっ――――!?)
 悠翔の小太刀がまさか、そんな物だったなんて――――。
 義母さんの隣で見ていたレティ提督も驚いた表情をしている。
 義母さんだけではなく、レティ提督まで悠翔の小太刀を見てそんな表情をしているなんて……。
 悠翔の小太刀が本当に魔導殺しの物だと実感してしまう。
 だけど……こうやって見ている限りだと悠翔の小太刀はそこまでは特別なものではないみたい――――?
 でも、どうして――――悠翔がそんな小太刀を?
















 暫く、飛鳳を振るって感覚を確かめた俺は飛鳳を鞘に仕舞う。
 こうして、持っていると俺にはやっぱり、これがしっくりくると改めて感じる。
 俺の小太刀を見て、フェイト達が驚いた表情をしていたが、あまり気にするほどでもないだろう。
 飛鳳は何も特別な力を持っているわけではない。
 唯、俺が父さんから受け継いだ、不破家の小太刀だと言うことでしか無い。
 それは説明する必要なんてないだろう。
 だが……フェイト達が驚いた表情をしている理由が別にあるとしたら――――。
「夏織さん。一つ、確認しておきたいことがあります」
「何かしら?」
「俺の父さんが過去に遭遇した事件のことですが……やはり、その時の事件も飛鳳を遣っていたんですか?」
「ええ、そうよ。あの時の事件も一臣は飛鳳を遣っていたわ」
「……と言うことは、もしかして?」
「そうなるわね。悠翔が考えていることと一致するかは解らないけど、飛鳳はその事件でも大きく関わっているわよ」
「成る程、夏織さんが言った意味とはそう言う意味ですか」
 これで、夏織さんが関われない理由があると言った理由が理解出来た。
 確かにそう言った事情があるなら関われないに決まっている――――。
 フェイトから聞いた話と夏織さんから聞いた話を合わせると一人の人物が導き出される。
 そして、飛鳳がそれに大きく関わっていると言うことは――――。
 その人物は俺の父、不破一臣しか在り得ない。
 まさか、こんな形で関わっていたなんて。
 飛鳳はある意味では因縁のある物だったと言うことか。
 父さんは事件に関わった魔導師を全員、斬り捨てている――――。
 その時の小太刀は当然、飛鳳だ。
 そして、父さんが魔導殺しと呼ばれるのは魔導師を全員、斬り捨てたことに由来するはずだ――――。
 なら、飛鳳は――――魔導殺しの小太刀と言うことになる。
(なんてことだ――――)
 こう言った事情があるからこそ夏織さんは関われないと言っていた。
 これで、俺が不破一臣の息子であり、後継者であると解れば報復してくる人間もいるかもしれない。
 夏織さんはそれを懸念していたのだと思う。
 しかし――――俺がこの場で飛鳳を手にし、そして持ち主だと自分から証明してしまった。
 最早、賽は投げられてしまったと言うことか――――。



































 From FIN  2009/1/25



 前へ  次へ  戻る