私は悠翔が何をしても嫌いになったりはしないけど……他の人は本気の悠翔を見たらどうなるんだろう。
 本気になった時の悠翔はシグナムとの戦いの時に見てはいるけど……。
 凄く容赦が無かったと思う。
 あの時は本当に魔導師や騎士とは考え方が違うということを実感させてくれた気がする。
 だけど、今度はそれを義母さん達の目の前でやるって言ってる。
 悠翔がそう決めたのなら私には止める権利はないけど……。
 管理局から見たら、悠翔の遣り方はどう映るのかな……?
 少なくとも良い目では見られないと思う。
 管理局の場合は悠翔達の基準から見ると何処か甘いところがあるみたいで。
 悠翔の場合は人を斬る場合も躊躇しないって言ってたと思う。
 だけど、管理局だと非殺傷と言うのが当たり前。
 ここは大きく違うところだと思う。
 だって……悠翔は殺傷を常に前提としているから。
 それが管理局との一番、大きな差の一つ。
 後は、悠翔の言うとおり覚悟の問題……それも大きく違ってくると思う。
 殺す覚悟と殺される覚悟……悠翔の言っていた覚悟の問題。
 管理局の場合はそれを要求してくることは無くて。
 やっぱり、違うんだなって思う。
 私は悠翔が何をしたって怖がったりしない。
 悠翔がどれだけの覚悟をしているかって解っているつもりだから。
 だから、悠翔が全員斬り捨てるつもりでいくって言っているってことを否定しない。
 だけど……義母さん達にはどんなふうに映るんだろう……?
 やっぱり、危険な人みたいに映るのかな……?






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 私が心配しているのを余所に悠翔は軽くウォーミングアップを始める。
 軽くストレッチをしているみたい。
 しきりに足を伸ばしたり、腕を伸ばしたり……。
 特に左腕のストレッチは念入りにやっているみたいで。
 悠翔が負担をかけていた左腕を気にかけるのは当然だと思うけど。
「よし、こんなものか」
「終わったの、悠翔?」
「ああ。後は小太刀を受け取るだけかな」
「小太刀? でも、悠翔は自分で小太刀を持ってたよね?」
「あれは借り物なんだ。俺の元々の小太刀は別にある」
 そう言えば……そんなことも言ってたかな?
 確か、恭也さんが悠翔の小太刀は別にあるって言ってたと思う。
 シグナムのレヴァンテインを斬り落した時も悠翔の元々の小太刀だったら容易く斬れたとか言ってたかな?
 と言うことは今回の悠翔の遣う小太刀は愛用のもの……。
「今、俺の持っている小太刀は限界だからな。もう殆ど、遣えないんだ」
「限界?」
「いや、シグナムとファリンと連戦だったからな。流石にああ言った相手と戦ったのが大きい」
 悠翔がシグナムとファリンさんと戦った時は普通に無茶に見えた気がする。
 そういえば、悠翔は何度もシグナムの甲冑を斬り付けたりしていたっけ……。
 それも、シグナムが倒れるまで。
 だから、悠翔の持っている小太刀が傷んでしまったのかもしれない。
「俺の方でもちょっとした技法を遣ってはいたんだけど、流石にそれでも埋められなかったな」
「そうなんだ……」
 悠翔も魔法との差を埋めるために色々とやっていたみたいで。
 それでも、差が埋まらなかったってことは……どれだけ凄いことをしていたんだろうと思う。
 生身一つで魔法に対抗することはそれだけ難しいんだと思う。
「まぁ、俺の愛用している小太刀でも魔法相手にどこまで通じるかは解らないな。少なくとも今まで遣っていた小太刀よりは良いと思うけど」
 そう言いながら何処からともなく悠翔は身に付けていた小太刀を外す。
 まるでタイミングを見計らったように、後ろから夏織さんが悠翔に近付いてくる。
 多分、悠翔に小太刀を渡しに来たんだと思う。
 悠翔もそれが解っているから今まで持っていた小太刀を外したみたいで。
 でも、悠翔の愛用している小太刀って普通とは違うのかな?
 恭也さんが言っていた感じだと普通の小太刀よりも良く斬れるみたいだけど……?
















 夏織さんが頃合いを見計らって俺とフェイトに近づいてくる。
 俺がウォーミングアップを終わらせるのをずっと待っていたのだろう。
「悠翔、準備は良いわね?」
「ええ、俺の方は大体、良いですよ」
「そう……。じゃあ、ちょっとだけ左腕を見せて貰える?」
「あ、はい」
 夏織さんが俺の左腕を手に取る。
 軽く揉んでみたり、強く握ってみたりしながら左腕の状態チェックをしていく夏織さん。
 暫く、それを繰り返して、納得したように頷く夏織さん。
「うん、向こうにいた時よりも調子が良くなっているみたい。海鳴で良い医者に診て貰えたのね?」
「はい」
「でも、完治はしてるってわけじゃ無いから油断は禁物ね。左腕は遣い過ぎると痛むでしょ?」
「そうですね。前よりは左腕を遣っても平気ですが、遣い過ぎるとやっぱり、駄目ですね」
「成る程ね。でも、ここまでやって貰えたなら近いうちに左腕はきっちりと治すべきね」
「……はい」
 夏織さんの言葉に頷く俺。
 やはり、左腕はきっちりと治すべきだと思う。
 漸く、治せるような医者に出会えたのだから、是非ともそうして貰うべきだ。
 利き腕が悪いままでここまでやってきたのは完治させる見込みが薄かったからだ。
 しかし、海鳴でフィリス先生に診てもらってからはそれが変わろうとしている。
 なんとしても、治すべきだと俺も思う。
「ま、それは今後に話すとして……。悠翔、渡しておいた小太刀を返してくれる?」
「どうぞ」
 俺から小太刀を受け取り、状態を検分する夏織さん。
 小太刀を抜いて見て、少しだけ驚いた表情をする。
「これは、思ったよりも酷いわね。短期間でここまで痛むとは思いもしなかったわよ?」
「そうですね、俺もこれは予想外でした」
「とりあえず、刃毀れはあまりないのが唯一の救いかしら。とりあえず、直して貰うには大丈夫だと思うわ」
「……それは良かったです」
「でも、ここまで痛むなんて……。悠翔は斬も徹もきっちりと遣っていたのよね?」
「はい」
「それでも、こうなるってことは……確かに尋常じゃないってことか」
 少しだけ考え込む仕草をしながら、受け取った小太刀を仕舞う夏織さん。
 夏織さんも改めて俺が対峙してきた相手が尋常じゃないってことを実感したらしい。
 もしかしたら、魔導師がどれだけ驚異なのかを考えてもいるのかもしれない。
 なんにせよ、夏織さんから見ても魔法は尋常じゃ無いってことか……。
















「さて……念のために聞いておくけど、悠翔が戦ったのは魔導師で間違いないのね」
 小太刀の痛みの具合を確かめた夏織さんが確認の意味を込めて尋ねてくる。
「はい。まぁ……俺が戦ったのは騎士と呼ばれている側ですけど」
「騎士? 説明ではベルカとかなんとか言っていた方だったかしら?」
「ええ、そうです」
「成る程ね。確か、相手はシグナムとか言ってたわね。彼女は悠翔からも見ても優れた実力者だったのよね」
「はい、シグナムほどの力量の持ち主はそうはいないと思います」
「そう……」
 もう一度、考え込むような仕草をする夏織さん。
 俺が立ち合った相手であるシグナムの力量をなんとなく思い浮かべているのだろう。
 それで、ある程度の基準を測ろうしているんだと思う。
「悠翔がそう言っているってことは……余程、その魔導師や騎士っていうのは凄いってことね。私達の常識じゃ考えられないくらいってことか……」
「そうですね。少なくとも、俺達の常識では考えられません。あれだけ斬っても倒れなかったのですから」
「……確かにね。小太刀があんなに痛むまでだと普通じゃないわね」
 受け取った小太刀を自分の荷物に入れながら苦笑する夏織さん。
 つくづく、魔法と言うものが尋常じゃ無いと夏織さんも思っているんだろう。
「まぁ……悠翔も良くやったわね。自分の小太刀じゃなくてもここまで遣れたのだから」
「言い過ぎですよ、夏織さん。折角、小太刀を借りたのにここまで痛めてしまったのですから」
「それでもよ。基礎乃参法を遣っても、奥義を遣ってもこうなったんだから。普通なら折れているわよ?」
「……そうかもしれないですね」
「ま、過ぎたことだからとやかくは言わないけどね」
 俺の返事に苦笑する夏織さん。
 夏織さんから見ても、こうなっては仕方が無いと言った感じらしい。
「さて……と長話もこのくらいにして、そろそろ本題に入りましょうか」
「本題、ですか?」 
「ええ、悠翔にこれを渡そうと思ってね」
 そう言って自分の荷物から二振りの小太刀を取り出す。
 それは俺が最も親しみ、愛用している紅と黒の意匠をした、二刀小太刀――――。
 その名は――――。






















 ――――飛鳳。



































 From FIN  2009/1/23



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