唯、”不破一臣の物”と言うのが鍵だとするのなら……。
一つ、心当たりがある。
夏織さん自身も言っていたし、フェイトも言っていたこと。
唯、確証があるわけじゃない。
だが、その可能性は充分に考えられる。
「どちらにしろ、その答えを導き出すのは悠翔自身だから。私から言っても意味が無いわ」
「……はい」
夏織さんの言うとおりだ。
その答えは俺自身が導き出さなくてはいけない。
他の人から聞いた答えでは納得出来るものとは言えないだろう。
確かに夏織さんの言っていたことにも真実の一端があるのかもしれない。
フェイトが言っていたことにも真実の一端があるのかもしれない。
だが、それは俺の導き出した答えではない。
あくまで他者の言っている言葉なのだから。
だからこそ、自分の目で物事を見て、そして、判断しろ……そう言うことなのだと思う。
だったら、その真実にぶつかっていくまでだ――――。
魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
リンディさんの案内で、転送ポートと言うものに乗せて貰う。
普通に高町家の庭からでも乗れるとは思わなかった。
とりあえず、原理については全く解らないので追及はしないが。
しかし、なんて言えば良いのか全く解らない。
こう言うのはアニメとか漫画とかの世界しか無いと思っていたが……。
その認識は改めなければならないのかもしれない。
現実に見てしまうと……そうとしか言えない。
「ここは……?」
「ここが、私達管理局の本部よ」
「成る程、ここがですか……」
あまりにも大きい規模の施設に納得する。
理解は出来ないがこれが異常な技術のものだと言うのは見ただけでも明らかだ。
改めて管理局が自分の見てきたものとは違うものだと実感する。
「……聞いた通りね」
「夏織さん?」
「いえ、こっちの話よ。気にしないで」
周囲を見渡しながらぽつりと呟く夏織さん。
何かを考え込むような仕草をしている。
気にはなるが……多分、俺には解らないことなんだろう。
考えを振り払い、リンディさんの案内で管理局を見て回っていく。
リンディさんの説明からしてどう判断するべきかというのは悩むが……。
管理局と言うのは司法の部分も司っている側面があるように見える。
まず、時空を管理すると言うのが名目上であり、存在の意義。
ここまでは割合普通に存在するような組織だと思う。
まぁ、世界全体を適正に管理していくのが目的だと言った感じか。
それに、他の世界に影響を及ぼすような事故や事件が起きない限りは、不可侵というのが法律で決められているとも言う。
こう見てる限り考えられるのは……所謂、正義の味方のようなものだと言うことなのだろう。
だが、この話から考えると海鳴では既に大きな事件が二つ起きている。
それも、他の世界にも影響を及ぼすような事件だ。
既にこう言った事情からしても多少なりとも管理の対象には入っているはずだ。
だが、この世界は未だに管理の段階にまでは至っていないと言う。
確かに時空を移動するなんて手段は存在しないから関われないと言うのもあるかもしれないが……。
それでも、これだけの出来事があってしまっているのなら対象になっても可笑しくはない。
そこに大きな疑問を感じえない。
夏織さんは何故か、魔法のことを知っていて、管理局のことも少しだけ知っているみたいだが……?
俺の疑問とは全く関係なく、リンディさんの説明は進んでいく。
管理局のこと、魔法のこと、事件のこと。
それから、この世界のことも説明して貰った。
魔法の最も発達した世界……ミッドチルダ。
聖王協会を中心とした世界……ベルカ。
他にも様々な世界が存在すると言うことらしい。
海鳴のある世界もこう言った感じで別れている世界のカテゴリーに含まれているのだとか。
様々な世界からの人材を中心に適正な管理を行うのが時空管理局。
所謂、この管理局は複数の世界での連合組織みたいなものだということになる。
そう言うことであればなんとなくだが、納得出来る部分もある。
悪意の満ちている組織と言うわけでは無いと思う。
だが、矛盾点も幾つか見受けられる。
まずは、就業の年齢に関してだ。
例えば、なのはさんとはやては9歳の時に初めて魔法に関わっている。
その時から嘱託と言う形で管理局に所属しているんだとか。
因みにフェイトも嘱託と言う形で9歳の頃から管理局に関わっている。
これだけでもかなり異常なことだと言える。
俺も今の年齢で剣を振るってはいるが……就業しているとは言い難い。
唯でさえ、自分の状況でも異常なくらいだと言えるのだから。
確かに俺くらいの年齢のエージェントがいないとは言わないが……管理局の場合はそれが法律的に認められていると言うのが可笑しい。
そもそも、俺がこうやって剣を振るっているのは非合法ギリギリの部分で許可を取って貰っているのが現状だ。
それが、管理局の場合では認められると言う。
普通に子供に対してそれが法律的に認められていると言うのは信じられない。
いや、信じられるどころの問題じゃない。
……これは、はっきり言って認めるわけにはいかない。
問題が多過ぎるとしか言いようが無いからだ。
だが、世界の常識と言うものは違うのが当然であり、これを真っ向から否定すると言う意見は此方には無い。
そもそも、この世界……ミッドチルダは此方の世界とは違うのだから。
「大体、説明は以上です。何か質問はありますか?」
「いえ、俺からはありません」
リンディさんが質問を投げかけてくるが、俺には答えようもない。
納得出来ない部分は多々あるが、世界観での常識の違いと言うことであれば指摘する問題ではない。
そもそも、なのはさんもフェイトもはやても信念を持って取り組んでいるのだから。
それを知っている俺が真っ向から否定することは出来ない。
俺も似たようなものだからだ。
だが、夏織さんから見ればこれはどう映っているんだ――――?
「成る程、大体は理解出来ました。ですが、何点か疑問も残るところです」
「なんでしょうか?」
「まず、就業年齢について……法律で許可が下りているということならば問題は無いのでしょうけどもこれはどう言うつもりです?」
やはり、何かしら疑問を持っていたらしい夏織さんがリンディさんに質問をする。
「確かに幼い頃から学んでいると言うのが珍しいことじゃないとしても……問題点はあるかと思うのですが」
「問題点とは?」
「……覚悟の問題です。経験などに関しては場数を踏めばどうにでもなりますが、覚悟についてはそうはいきません」
「覚悟とはどう言う意味です?」
「……殺す覚悟と死ぬ覚悟です。貴方達、魔導師は非殺傷と言うもので戦っているそうですが、相手によってはそうもいかないでしょう」
俺が考えていたものと同じ、夏織さんの指摘。
夏織さんのこの意見は的を得ていると俺も思う。
「確かに貴方の言う通りですが……。私達は子供達にそんな真似は……」
「絶対にさせないと言いきれて? 私はそのことに関しては理想論でしか無いと思うわ」
夏織さんの指摘は続いていく。
この指摘は管理局にとってはあまりにも厳しい指摘だと言えた。
「ま、そこは貴方達のやり方次第なんだろうから、これ以上は何も言えないですけどね」
夏織さんは苦笑するように溜息をつく。
いや、そこまで言い切らなくても良いとは思うが……夏織さんはこう言う人だしな。
リンディさんの方も夏織さんになんて言えば良いのか解らないのだろう。
返答に困っている様子だ。
「さて、そろそろ本題に入って貰いましょうか。……悠翔の剣を見たいんですよね?」
「はい」
「では、今回はどのようにするつもりですか?」
「今回は一対多数でと言う方向性で考えています。宜しいですか?」
「ええ、それで良いと思います」
「では、残りの準備もありますので、この話はここまでと言うことで」
そう言って席を離れるリンディさん。
とりあえず、俺がどう立ち回るかは決まったらしい。
一対多数……暫くはやっていなかったから望むところだ。
しかし、最近は多数を同時に相手にしたりはしていない。
相手によっては手加減する必要もあるのだが……果たしてそんな余裕が俺にあるだろうか?
かと言って皆の前でそんなことをするわけにもいかない。
だったら、俺は剣士として全力で剣を振るうのみだ。
それが、此方の意志を見せるのにも最良の選択だろう――――と俺は思う。
From FIN 2009/1/18
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